第40話「男の美学」

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 やはりレオ編はストレートな面白さに溢れていますね!

 今回は、猪突猛進、勇猛果敢といった形容を少し脇に置いて、少年との交流でその男気の粋を見せるという、レオというキャラクターの集大成となっていました。登場人物が懐かしめなビジュアルで攻めてくるため、ややコミカルさが横溢する作風でしたが、レオの熱さが凝縮された物語になっていて好感が持てます。

キルメンチ

 要はメンチを切るという分かり易いネーミングなわけでして、丁度メインターゲットのお父さん世代くらいが想起する「ヤンキー」がモチーフ。

 その言動もステレオタイプな懐かしヤンキーになっていて、「ボンタン狩り」などという能力は現在の子供にとっては「???」でしょうね。ちなみに私が中学生の頃はボンタン全盛期(「ビー・バップ・ハイスクール」がヒットしていた頃)で、ちょっと粋がっているヤツが穿いてきては叱られるという、愚か者の代名詞でした。言い回しに悪意があるのは、嫌いな人種だったからです(笑)。私は至って真面目な服装で学校に行ってましたよ。

 デザインも正しくそのままでありつつ、どこか「仮面ライダーキバ」のファンガイアの要素が入ったような、やや派手目な装飾も印象的。このキルメンチは分かり易さでドラマとの融和を重視した典型だと思いますね。

 興味深いことに、今回のゲストキャラクターである少年・ジュンは、キルメンチの起こす事件の被害を直接受けていません。キルメンチと戦うレオの姿が、ジュンに真の強さを理解させるという流れになっており、正に「黙って背中で語る(?)」レオの格好良さを引き立てる役回りでした。

ジュン

 前述のとおり、キルメンチとは直接関係なく、レオがたまたまカツアゲの被害にあっているこの少年に出会い、世話を焼くという流れになっています。

 この辺の割り切りの良さは、キルメンチの強烈なキャラクターよりもジュンを際立たせることに成功しており、さらにはジュンとレオの交流をキルメンチの事件と並行させることで、クバルの企みが入り込む余地を設け、最終的にジュンに危機をもたらされたレオがキルメンチとの戦いに単身挑むことになるという、実にアクロバティックかつロジカルな筋運び。驚嘆すべしといったところです。

 単にレオに喧嘩の仕方を学ぶとか、そういった話でも充分なところを、このように凝ったプロットを以て描き上げる丁寧さが、レオのキャラクター性をより素晴らしいものにしていました。

 なお、このジュン、クバルによって作られたカツアゲ集団のリーダーに、妙なグローブを渡されても疑わないあたり、やはり純粋なんだなあ、と思わされますね。悪魔にささやかれてヒーローを危機に陥れる少年というプロットは、特に子役ゲストに恵まれる戦隊シリーズにはよく登場します。中でも、「バトルフィーバー」のヘンショク怪人の話では、レギュラー陣のみで同様の流れを実現しており、そのキャラクターの自由度を物語っていました。そしてその話でも、バトルケニアこと曙四郎が提唱する野生の強さを、マサル少年が学ぶといった展開になっており、奇しくも今回のテーマと近似するものでした。

レオ

 「男の美学」という言葉を聞くと、ある年代から上の層は恐らく「ルパン三世」を想起するものと勝手に思っていますが、あちらはいわゆるスノビズムの美的解釈。今回レオが体現しているのは、かの「月光仮面」から長い時を経て培われた日本的ヒロイズムの極致であり、それは80年代におよそ完成されて90年代以降に解体されていったものです。

 私の個人的解釈では、この日本的ヒロイズムは「宇宙刑事」でピークを迎えたのではないかと思います。というのも、「シャリバン」にて今回とほぼ同様の展開を持つ回が用意され、そしてそれが傑作として語り継がれているからです。

 その回には、悪のボクサーに仕立て上げられつつある青年のパンチを、生身のシャリバンが何発か受けて見せた後、逆に一発の凄まじい当て身を喰らわし、「君は強くない、強くなんかないんだ!」と言い放つ印象的なシーンがあります。今回、レオがジュンに対して「お前は強くない」と言い放つシーンは、正にシャリバン同様「強さを勘違いしている者」に対する戒めであり、「強さ」の解釈の近似を見ます。後世に「シャリバン NEXT GENERATION」でも「握った拳は誰かの幸せを守るために使う」というのがテーマになっていて、それはエンディングテーマの歌詞なわけですが、今回はそれがほぼそのまま引用されていたような気すらしましたね。

 ガジェット氾濫の現代において、「強さ」はガジェットの強さとして表現されることも多いですが(実際に今シーズンでも大和がそれなりに体現しています)、このように道徳的な強さの論理が登場してくるあたり、まだまだ特撮ヒーロー番組も捨てたものではないですね。そしてこの論理を、直情的で単純で常に声高なレオが示す...というのが良い! 彼が言うと全く説教臭くないので、爽やかな後味すら残るわけです。恐らくは、大和であってもここまでの清涼感はなかったでしょう。

 一方でレオは、単純なパワーとしての強さも充分体現して、視聴者に真の強者たるを見せています。例えば、頭突きをかましたり、高速でパンチを叩き込んだりといった、喧嘩殺法をより華麗に見せる画面作りなどがそうですね。レオ役・南羽さんの身体能力の高さも巧く活かせていました。

クバルとナリア

 クバルがバングレイの右手を使って何かをしようとしている...。それに気付いたナリアは、ジニスに危険が及ぶと考えて先手を打ちに出ます。表で繰り広げられている熱いドラマの影で、このような冷たい感触を持つ内輪揉めが人知れず行われている不気味さは、インパクト大。

 まあ、こんな重要な展開をオマケのようにしてしまったのは少々残念ではありますが、あくまでデスガリアン側の内部抗争は「ジュウオウジャー」におけるスパイス程度と割り切られているのかも知れませんね。今シーズンは、とりわけヒーロー側に多くの謎や重厚なドラマが盛り込まれているので、情報過多にならないためには敵側をドライに描くのもやむなしといったところでしょうか。

 クバルの攻撃を一切寄せ付けない、ナリアの実力派ぶりが格好良い一方で、クバルが狡猾な罠によってナリアを倒すあたり、実に巧いところ。それだけに、もっと二人の対決が見たかったところではあります。

次回

 勿論、前段のクバル VS ナリアは次回への引き。いよいよジニスが動き始めます。さて、どこまでクバルの企みを把握しているのか、そして、何をしようとしているのか、興味は尽きませんね。