第35話「ジュウオウジャー最後の日」

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 遂にバングレイとの決着編。最後までデスガリアンを引っ掻き回す役回りとは成り得ず、途中退場となりました。その辺は予定どおりなのでしょうけれど。

 前回からの直接の後編として位置づけられており、痛めつけられる大和を配しての危機感の高まりは素晴らしいものがありました。常に消化不良の印象が付きまとっていたバングレイ絡みのエピソードですが、クバルの行動も相俟ってようやく腑に落ちたというのが、正直な感想です。

 一応、バングレイの「遺産」もいくつか継承されるよう配慮され、後続エピソードへの仕掛けを残しているのも興味深いところです。

バングレイ

 今回のバングレイは、二兎を追い、そして失敗しています。

 まず、一つ目の「兎」は、ずっと狙っていたキューブホエールの捕獲。こちらは大和を人質に取ることで成し遂げようとしています。勿論、このような作戦には常々失敗が待っているものですが、作劇的にギリギリまで逆転劇をひた隠すことで、もしかすると...と思わせるスリルが見事。前回の「見え見えの芝居」から各段に進歩したジュウオウジャーたちの「芝居」。まんまと騙されたバングレイには悲劇が訪れることになります。

 結局、キューブホエールに叩きのめされることこそあれ、バングレイはキューブホエールを一度も手玉に取っていません。今回、アムに手渡された際に一度は手中に収めているものの、キューブホエール自体は虎視眈々と逆転の瞬間を狙っていたわけで、バングレイの思惑通りには全くなっていない。キューブホエールは登場からしばらく経過していますが、ここまで「無敵」とされたものは、近年では珍しいと思います。

 もう一つの「兎」は、大和に絶望を味わわせるというもの。これまでも、執拗に大和の「繋がり」を壊そうと悪逆非道な策を繰り出してきたバングレイ。今回は、大和を助けに来たジュウオウジャーを高空から狙い撃ちし、大和の目前で全滅させるという「最高のショー」で大和の精神(ポリシー)を破壊するという作戦に出ます。

 こちらは、セラたちの頭脳プレーで回避したものの、それは「敵を欺くにはまず味方から」に則った行動だったため、一度は大和も絶望感に忘我し、ある意味一時はバングレイの思惑通りになったわけです。つまり、キューブホエールを手中に収めたのも、大和の絶望を喚起したのも、双方共に彼のピークであり、一瞬の出来事。この辺りの凄味がバングレイ退場へのはなむけとして効いています。

 そして、「味方」の存在も一時的。利害の一致といった対等な関係ではなく「手駒」としてしか見ていなかったクバルに、文字通り「手」を取られ、一気に形勢が悪化するバングレイ。そこに大和の言う「繋がり」への向き合い方の違いをテーマとして込めているのが実に良い感じで、ジュウオウジャーの見事なコンビネーションのの前に敗れ、巨大化してまたワイルドトウサイドデカキングという「全部繋がりの具現化」に敗れる姿が、繋がりを軽視した極悪キャラクターの相応しい最期として華々しく描かれていました。

 神奈延年さんの与えた豪傑のイメージが、その神奈さんによって崩されていくプロセスも凄かったですね。クバルに手を奪われた瞬間から、焦りが隠せなくなっている辺りの快演振りに、バングレイというキャラクターにおける白眉を見ました。「再生怪人製造工場」、「巨獣ハンターの割に小さい事に執着している」といった具合に、良い印象を抱きづらいキャラクターではありましたが、最期は幹部候補らしい散り様だったと思います。

クバル

 この人物もここしばらく、バングレイへの協力の仕方などで、あまり良い印象のないキャラクターでしたが、今回で見事に溜飲を下げてくれたように思います。一応、デスガリアンの中では「策士」のポジションに居ると思いますが、なかなかその策士振りを見せることはなく、単にアザルドよりは頭が良いという程度の印象しかありませんでした。

 今回、ジュウオウジャーに対して劣勢のバングレイを前に好機と見て、自分の弱みを握っている(とクバルが思っている)唯一の者を滅ぼしにかかりました。利害関係云々ではなく、一方的に弱みを握られていたことが今回の様子からも明確になりました。しかも、自ら手を下すのではなく(恐らくはバングレイを自ら始末すること自体が、ジニスの機嫌を損ねると考えたのでは)、特殊能力の源である右手を切り落として手中にし、ジュウオウジャーに始末させる狡猾さ。これぞ策士たる行動だと思います。いわゆる「着ぐるみショー」の様相を呈しつつも、仮面劇に肉薄する両者の演技合戦は鬼気迫るものがありました。

 バングレイ編は最後の最後で、やっとその「見方」、「捉え方」を示してくれたように思います。

 それにしてもあの右手、クバルはどう使うのでしょうか。記憶の実体化能力が、バングレイの能力というよりバングレイの右手の能力だったことには、驚くと共にちょっと笑ってしまいましたが...。

追い詰められた五人

 セラ、レオ、タスク、アム、そして操。この五人がキューブホエールを渡すことなく大和を助けられるか否か。それが今回のメインストリームです。つまり、こちらも二兎を追っているというわけです。

 何故、互いに二兎を追う者たちの明暗が別れたのか。それは、唯我独尊の自信家と、知恵と勇気を寄せ合って立ち向かう「群れ」の違いとして示されました。このテーマ性の明確さ。単なる「仲間」や「関係性」といった言葉ではなく、動物戦隊らしく「群れ」と表現する切れ味の良さ。まだ最終話は随分先ですが、今シーズンのテーマを一旦は語り尽くした感があり、その意味で一度クライマックスを迎えたと言っても過言ではありませんね。

 大和を助けるために、大和を欺いてバングレイの隙を突く。これが今回、セラたちが採用した作戦です。前回もバングレイを欺く作戦を採りましたが、そちらはバングレイの方が上を行く形で終わりました。今回は、バングレイが自分たちを騙し討ちするであろうことを予定しておき、バングレイが何をするかについて読みを巡らせ、大和を執拗につけ狙ったかつての出来事を分析し、自分たちに何が起こりうるかを予見しました。実際にはその警戒自体はかなりギリギリのところで奏功した形になり、盤石の体勢でなかったところにスリルが生じています。

 私が個人的に感心したのは、アムがキューブホエールを手渡す際の表情と、バングレイに殴り飛ばされて崖から落ちるというアクションです。

 キューブホエールを手渡す際の表情は、これが苦渋の選択であることを真に迫って顕わしていて、素晴らしいです。これがバングレイを欺くための芝居だった可能性もありますが、ここはかなり緊迫した状況でもあり、半分自信がなかったのではないかとも思えます。この辺りの微妙な演技がシチュエーションの迫真度を高めていますよね。

 そして、崖落ちのアムは当然スタンドインですが、殴り飛ばされた時の飛び方が凄くて本当に痛々しく、転げ落ちていく様子にも妙に長い尺が取られるなど、主人公側の危機感を煽る映像として高い完成度を誇ります。

 かくして、高空からの狙撃を察知した五人はキューブモグラで地中に脱し、事なきを得ました。今度こそバングレイを出し抜いてやったわけです。

大和

 今回の凄いところは、大和が一旦絶望しているという点です。五人が無事な姿を見せても、しばらく状況を理解できないほどに、精神を引き裂かれてしまっていた大和の痛々しさといったらないです。

 その後、我に返った大和は嬉しさのあまり、無事な五人に泣いて飛びつく(まず飛びついた相手がレオであるところがミソ)という行動を見せます。その行動理念に利他的な優しさを掲げつつも、割と冷静に状況を判断しつつ行動する大和が、別の意味で忘我の状態になってしまったわけで、彼の感情の振り幅を垣間見る事になりました。

 救助される前には、いわゆる拷問シーンもあって、その痛々しさが久々に「痛み」の表現を復活させていました。前述のアムと相俟って、痛みを乗り越えたヒーローたちの団結が蘇る構図には、熱くなりますね。

ワイルドトウサイドデカキング

 合体シークエンスが、キューブをとにかく積んでいくという感じになっていて、実に面白かったです。全部合体は、色々なメカがバラバラになって再合体するというパターンが殆どですが、今回の場合は塊がドン!ドン!と次々に積み上がっていくので、その説得力の高さが売りになっていると思います。

 必殺技は毎年似たようなものになるのは仕方なく、今年も同様でしたが、「群れ」というキーワードがドラマとして効いていて、何となく胸が熱くなりましたね(笑)。一気に陳腐化しないよう、出し惜しみをして欲しいところではあります。

次回

 またまたコスプレ編ですが、とうとう日本でもハロウィンが定着してしまいましたね。日本人らしく表層のお祭り騒ぎを取り入れたものになりましたが(笑)。さて、そろそろ伏線回収しはじめて欲しいですが、果たして...。