第18話「きざまれた恐怖」

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 トランパスが前回に引き続いて登場することもあって、前後編の後編といった趣もある本エピソードですが、ザワールド登場編・起承転結で言う処の「承」にあたるのは明白。「転」の片鱗を見せて終わる辺りも心憎い構成です。

 1クール目では、各種キューブが矢継ぎ早に繰り出されてインパクトを与えたこともあって、ここのところの展開はやや緩慢にも見え、ザワールド登場編にしてもその印象は継続しています。ただし、その分心象描写も丁寧で、今回は「奇跡」などに一切頼らず、知力体力の限りを尽くす流れが非常に丁寧に描写されていました。正に、新章突入といった処ですね。

続投、トランパス

 ザワールドの乱入でまんまと逃げ延びたトランパス。今回は、巨大なカードケースの中に人間を閉じ込めるというゲームを遂行します。カードケースの表面に設えられたカードを一枚選び、それがハートならば閉じ込められた人間は解放されますが、そうでなければ選んだ人物が爆発に巻き込まれるという仕掛け。この爆発の被害描写が真に迫っていて、痛みを明確に描く方針がちゃんと生きていました。

 実はどのカードを引いてもハートはなく、ハートはトランパス自身が持っているというオチも鬼畜そのものですが、その為にトランパスを倒せばそれでゲームが終了するというルールが明確となりました。「敵を倒せば呪いが解ける」という、最初の「仮面ライダー」から連綿と受け継がれるセオリーにエクスキューズが付く可笑しさを、その辺りに感じてしまったり。

 今回は、ザワールドの前面フィーチュアが容易に予想出来ましたから、トランパスに関してはモブキャラに近い脇役扱いを危惧していたものの、意外や意外、前回と同様トランパスこそがストーリーのメインで、ザワールドはエクストラプレイヤーに徹していました。この辺りのポジショニングは本当に見事ですよね。

ザワールドへの恐怖

 今回は、戦隊シリーズとしては一歩踏み込んだ心理描写になっていたのではないかと思います。大抵は、強敵が出現した際も「負けてはいられない」と自らを鼓舞する流れになり、今回のように一旦の沈黙を描くことは稀です。

 勿論、やがて自らを鼓舞する展開が待ってはいるのですが、それは闘志を燃え上がらせて奇跡的な力を発揮させるといった精神主義ではなく、もっとロジカルな「作戦」を見せるところに本作ならではの理性があります。

 さて、その恐怖に関する描写ですが、苛ついて対立するセラとレオ、沈黙するタスクとアム、そして思考をかき乱される大和といった具合に、各キャラクターに応じた混乱を明瞭に描き出しています。セラとレオについては、恐怖を隠蔽する「強がり」が巧く表現されており、突出した魅力を放っていました。

 トランパスがハッタリとしてザワールドの名を呼ぶ度に、恐れと共に周囲を警戒し始めるという描写に関しては、ヒロイズムの否定との形容が相応しい衝撃のシーン。人間であろうとジューマンであろうと、恐ろしいものは恐ろしいと感じる、正に種を超越した感覚の共有でした。凄いのは、本編の最後までその恐怖を克服したわけではなく、単に恐怖しているという事実を受け入れたに過ぎないというところ。ジューマンの4人はまだしも、大和は二種のジューマンパワーを使用出来るというわずかなアドバンテージを手に、恐怖の中ザワールドと対峙するに至るのですから、その壮絶さは筆舌に尽くしがたいものでした。

名アシストの真理夫さん

 今回の真理夫さんは、沈んでいる五人を元気づける為に、動物になりきって「乱入」するという行動をとります。よりによってサイの扮装をしたことで、一旦は五人を更なる恐怖に陥れることになってしまいますが(特にタスクはジューマン態に戻ってしまうビビりっぷりが可笑しい)、結局は場が和みました。

 終始張り詰め気味な本エピソードにおいて、こういうシーンは貴重だし重要です。真理夫さんは独特な後見人キャラのポジションを獲得しつつあるようですね。それにしても寺島さん、同日の「真田丸」では破滅への道をささやくような役回りでしたから、ギャップの凄さには笑ってしまいます。

大作戦!

 トランパスを追い詰めても、ザワールドが現れて形勢逆転を許してしまう。そこでザワールドの攻略ではなく、トランパスを確実に倒すには...という方向に視点を変えたのがまずもって凄いところ。その為に知略を巡らせ(その作戦会議は敢えて描写しないのも巧い)、それを大胆に、確実に実行する大和達の格好良さは特筆モノです。

 まず、イーグルの能力でザワールドをトランパスの戦場から分断する大和。これが巧く行くかどうか、ハラハラしながら見守ることになります。空中を縦横無尽に舞うイーグルと、一時的に翻弄されるザワールドのシーンは、極上の映像美!

 巨大戦に至るまで、ジューマン四人で奮闘するトランパス戦。こちらは通常の戦力を有する怪人相手のシチュエーションですが、大和の頑張りに応えて死力を尽くすといった、燃えるアクション描写が熱いものとなっていました。そしてこちらも結構手に汗握らされるんですよね。

 そして、勝利を期待出来ない、いわば「時間稼ぎ」の戦いを展開する大和の凄味よ...。ゴリラによるパワー戦でギリギリの防衛に終始しつつも、その「戦士」としての一日の長が、所々に勝機を見せるという、アクションの中のドラマが鮮烈でした。

 結局のところ、圧倒的に大和は決め手に欠け、変身解除にまで追い込まれることとなりますが、ここで勝ってしまわないのは妥当な処でしょう。ある意味予定調和的に、ザワールドは人間態に戻ってしまうというアクシデントが発生し、大和は命を失わずに済むという結末を迎えます。

ザワールド

 大和は、二人のジューマンにジューマンパワーを与えられることでジュウオウジャーになりましたが、ザワールドはどうやら人間とジューマン三体が融合しているらしく、大和がファンタジー系戦隊の出自となっているのに対し、ザワールドはマッドサイエンティスであるジニスの手によって、いわばサイエンス系戦隊(どちらかというと「暗黒科学」ですけど)の出自を以て誕生しています。

 この対比は「シンケンジャー」等でも見られるもので、追加戦士をユニークなポジションに置く有効な手段でもあります。この「違い」が後々ドラマを生み出すであろうことに期待したいですね。

次回

 大和とジューマンの関わりで紡がれてきた物語に一石を投じるであろう、大和と「人間」の関わり。はっきり申し上げて、ザワールドが仲間になる気配は有り過ぎて困ってしまうのですが(笑)、果たして大和はザワールドを救うことが出来るのか!?