第44駅「昴ヶ浜へ」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 いよいよクライマックス。今回を入れて残り後4週。前回がややバラエティ編寄りでしたから、今回より「最終4部作」という事になるかと思います。

 幕開けに相応しく、サブタイトルもセンセーショナル。シャドーラインの本拠が昴ヶ浜だったという衝撃は、既に昨年中に提供されていた為、今回は「舞台に関する種明かしのインパクト」よりもキャラクターの動き方で衝撃度を高めていく構造を採用しています。さらに、飛び込んだ処がたまたま昴ヶ浜だったクリスマス編とは異なり、今回は自ら昴ヶ浜であるキャッスルターミナルへと飛び込んでいくという、最終決戦の常套句を応用した展開が見られ、そのスリリングな雰囲気に圧倒される事となりました。

 まず、今回のテーマの一つ、ライトとゼットの関係。

 両者は完全なる敵対者でありながら、どこか互いに気になる関係として描写されて来ました。そして、ゼットは登場当初より「キラキラ」を求め、ライトは先頃より時折その身体から闇を浸出させるようになりました。

 今回はそれらの原因となった出来事を紹介しています。それは、昴ヶ浜が闇に飲まれた際、ライト達五人は互いに手を繋いでいた...筈が、実はライトだけが離脱して闇の発生源に向かって行ったというもの。ライトが向かったその先にはゼットが居て、闇の奔流を阻止しようと駆け寄ってくるライトの想いが「キラキラ」に見えたようです。一方ライトは、「キラキラ」の方に伸ばしたゼットの手を、闇の中から迫り来る巨大な手として視認していました。つまり、両者は互いに顔こそ突き合わせていなかったものの、昴ヶ浜が沈む時点でほぼ「会っていた」という事になります。

 この出来事は、これまでゼットがキラキラ星を口ずさんでいたりといったヒントが散りばめられていた為、ある程度は容易に想像し得るものでした。あまり詳しくは描かれませんでしたが、恐らく、描写以上の出来事はなく、描かれたものが全てだったのではないかと思われます。ゼットの正体が闇に堕ちたライトの兄弟とか、そんな突拍子もない衝撃設定よりは、かなり理性的で粛々としていますが、やはり衝撃度という点では薄いと言わざるを得ません。

 ところが、設定上の衝撃を追わず、展開の衝撃を採用する方針がとられていて、なるほど...と納得した次第。

 というのは、他のキャラクターを状況によって追いやった上でいよいよ直接対決かという折、ライトから闇の奔流が発生して、黒いトッキュウ1号に変身するという展開が待っていたからです。

 やはり、というかさすが、というか。レッドの立場が危うくなるパターンを繰り出してくる小林戦隊。

 今回は何と、レッドという存在(色)そのものを消してしまいました。

 この黒いトッキュウ1号の登場シーンは、ハイビジョン制作の恩恵を感じられる映像でした。黒い背景に黒いキャラクターを配置するという大胆な色設計でありながら、キャラクターの輪郭は明瞭。スーツは黒一色ではなく、闇の中に点在する光の如く、黒にラメ状の粒子が散りばめられます。この粒子の細かいキラキラを視認出来るか否かで、このキャラクターのポジションに関する認識が変わってきます。ライトがシャドーラインの戦士と化したわけではないと思わせる効果が、このスーツにはありました。ただ、そのダークヒーロー然とした出で立ちは、明らかにライトにとって危険な兆候である事も匂わせます。丁度、「仮面ライダークウガ」でアルティメットフォームが登場した時のようなキケンな衝撃が、ここにはあります。

 恐らく、姿がどうなろうと、ライトはライトなのでしょう。残る話数でどのようにレッドを取り戻していくか、そこに注目したいですね。

 さて、今回はもう一人、グリッタというキーパーソンが登場。

 シュバルツのクライナーでキャッスルターミナルに突入出来るという、お膳立ての見事さもさることながら、グリッタの目的が復讐等ではなく、誰も消滅しない結果を以て事態を解決する...というのが秀逸です。グリッタのキャラクター変遷は、この「結論」を見るに周到に計算されたものなのかと思わされますが、(あくまで推測ですが)恐らくそうではなく、グリッタがキャラクター変遷と共に放ってきた稀に見る魅力が、このような展開に帰結させたと見て良いのではないかと。キャラの転がり具合が、作品のパワーになってこのような展開を生んだのだと思います。

 この辺り、やはりTVシリーズは生き物だと形容出来ますね。特に東映制作のものはその傾向が強く、時に散りばめられたピースがガッチリとハマる場合もあれば、「迷走」のレッテルを貼られる場合もあります。

 例えば「宇宙刑事シャリバン」では、初回から登場する謎の人物が、実は敵ボスの分身だったという展開を最終編で描きますが、この謎の人物はパイロットを担当した小林義明監督の単なる思いつき。画面作りにおける雰囲気重視で配されたキャラクターでした。制作者の誰もが土壇場まで正体を決めていなかったというこの件は、特異中の特異な例だと思いますが、こういう「奇跡」もあるんですよね。

 多分、とりあえず出しておこうという感覚のキャラクターは多数存在すると思います。そもそも「仮面ライダー」の滝和也なんかも、藤岡さん不在の尺を補うキャラクターに過ぎませんでしたが、いつしか「もう一人の主役」になってしまいましたからね。

 とにかく、グリッタは当初敵内部のラブコメを担う存在でしたが、ここまで物語を左右する存在になるとは思ってもいませんでした。勿論、闇連中の中にあって一人だけ光に関するネーミングを施されたという事に、「仕掛けておこう」という魂胆があるのは明らかですが、そういった仕掛けは、流れによっては捨てられる事もあります。グリッタの人気が出なかった場合を考えると、ゼットの中で生かしておく必要も見出せませんし(乱暴な言い方をすれば、ゼットは、ライトの「キラキラ」さえ追っていれば話を成立させてしまう)、今回の件にしても、シュバルツを生かしておけばクライナーでの突入は出来るわけですから。

 話が大分逸れてしまいました(笑)。

 最後にライトと他のメンバーの関係性について言及しておきます。

 今回は、ライトの独断専行がかなり目立っていて、他のメンバーの事など意に介さない彼のネガティヴな部分がクローズアップされたような触感でしたが、昴ヶ浜が沈んだ際に一人だけ手を離した瞬間からこれまで、その独断振りは継続しているという事ですね。トカッチ達は多少手荒な手段でライトをレインボーターミナルに残そうとし、「たまには言う事を聞いてよ」と、ライトの特異性を改めて見つめ直す瞬間を視聴者に提供しました。

 シリーズ年間を通して、突出するレッドは他のメンバーに懐柔されていくパターンが多い中、ライトはついぞライトのままだったという衝撃。他人の介在をものともしない猛進振りには、戦慄すら覚えました。今回の黒いトッキュウ1号のビジュアルショックもさることながら、こちらの方にも強い衝撃を受けましたね。

 頭脳と体力の限りを尽くして(「スパイ大作戦」みたいですが)グリッタをキャッスルターミナルに届けようとするトカッチ達を、ピョンと飛び越えてゼットの元へ行ってしまったライト。この「自分勝手さ」が最終話までにどう作用するのか、興味は尽きません。

 次回はいよいよ昴ヶ浜の復活。少なくとも次回は絶対にハッピーではない展開が待っていると思われるので、色々と心の準備をしてから見ましょう(笑)。