第37駅「理不尽クイズ」

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 サブタイトルから受ける印象や、脚本担当である大和屋さんの名前から、壮絶ギャグ編なのだろうと思いきや、意外にもこれからのストーリーの根幹を一部担うであろう要素を披露する事となった一編。

 トカッチ編は全体的に名編が多く、今回もそれに該当する仕上がり。当初レギュラーの中では最も個性的なキャラクターであるトカッチと、追加戦士である明を絡ませる事で、妙に大人っぽい雰囲気を放つ結果ともなりました。今回ばかりは「子供」というテーマを外して見られるドラマでしたね。

 今回の大まかな感想は、冒頭に述べた一文で殆ど語り尽くしてしまいますが、それでは記事にする意味がないので(笑)。

 まずは、明とシュバルツの密約について見ていきます。

 明にシュバルツが要求したのは、「時が来れば軍門に降れ」というものでした。大方の予想通りで順当な内容でしたが、やはり画面上で明確に言及されると衝撃的ではあります。

 この「約束」には、明の愚直なまでの正直さがよく現れていると思います。というのも、元々ドリルレッシャーは、シュバルツが明を含めたトッキュウジャーの面々を欺いて「奪取」したものであり、それを明が返して貰うにあたって何ら対価は発生しない筈だからです。明は実力の拮抗したシュバルツから「再奪取」する事が出来ないと悟るや、交換条件を持ち出して「返却を依頼」、つまりトッキュウジャーの利益の為に自らの正当性主張を放棄したわけで、ここに自己犠牲を見出す事が出来ます。さらに、シュバルツの意のままに動くようになるという、明にとっては屈辱的、ひいてはトッキュウジャーにとっては敵対勢力に身をやつすやもしれぬ状況に陥ったとしても、「約束」は「約束」だとして譲らない辺り、彼の頭の固さ、融通の効かない様子が見られます。

 シュバルツの仕掛けた発端を考えれば、仮にもし明が狡猾に裏切りを働いたとしても、結果論として両者の行為は相殺される為、明のこの「約束」は、ある意味「不平等条約」と形容出来るでしょう。そこを、敢えて「約束」と捉える明、明(=ザラム)ならば裏切る事はないと踏んでドリルレッシャーを簡単に渡してしまうシュバルツ...この両者の関係には、ライト達にはないある種の深みを感じ取る事が出来ますね。

 そんな明は、「約束」繋がりという事なのか、トカッチに「どんなに厳しい選択でも必ず決断しろ」と約束させます。

 それは自らが下した厳しい決断を、少しでも誰かと共有したいという気持ちの表れなのかも知れませんが、ドラマの表面上は、トカッチの優柔不断さを見た明が、やがて来るであろう岐路(=自分がシュバルツと共にトッキュウジャーの前に立ちはだかるかも知れない時)の為に、覚悟を促しておきたいというものでした。明の心情を考えるとグッと胸に迫るものがあります。また今回は、変身不能となるシャドータウンでの戦闘という事で、ザラムの姿もかなりの尺を割いて描かれていますので、その「約束」の周囲に漂う影の深さがより強調されていて切ない感じを受けました。

 一方、トカッチは優柔不断なキャラクターとして、明の真逆にポジショニングされました。とはいえ、これまでの話の中では、それほど優柔不断さを強調されてはおらず、むしろはっきり物事を発言出来ないという印象があった為、今回の描写はやや唐突に見えるきらいも。「はっきりしない」という言葉上では同じですが、「優柔不断」と「はっきり言わない」では差があると思ったので...。まぁ、それでもトカッチが優柔不断であっても特に違和感はないのでよしとしましょう(笑)。

 冒頭の、弁当を迷うシーンから結構芝居が飛ばし気味で楽しいのですが、戦闘中にまで決断出来ないキャラが波及するとは思いませんでした。思慮を巡らせる際に挿入されるペシミスティックなイメージシーンが実に可笑しく、この辺りの巧さはさすがギャグ編担当の大和屋さんではないかと思います。勿論、笑いの部分は現場処理による描写がかなりの割合を占めている筈ですが、やはりイメージソースとなる脚本が大事ですからね。

 シャドータウンを管理しているナイトのキャラクター性を含めて、この辺りでコメディ色を振りまきつつも、トカッチと明の絡みになると、ググッとシリアス度を増してくるのが今回の見所であり驚きでしょう。トカッチは今回、「目的の為に何かを犠牲にするような道は選ばない」とのポリシーを示して明に加勢する「決断」を下しましたが、その決断は、明が示す厳しい選択に際しても、トカッチなりの(明が期待する答えではない)何かを提示してくれるだろうとの期待を抱かせてくれます。私は、トカッチの迷いこそが最良の答えを出す土壌だと思いました。

 そんなわけで、視聴者としてあんまり褒められた見方ではないですが、メインライターではない作家さんが、トカッチというキャラクターがこれから持って行くテーマ性にガッツリ関わるような文脈を書く! という意外性も相俟って、今回は実に衝撃度の高い一編だったわけです。

 さて、その中でコメディ色の大部分を担っていたのは、先に触れたナイト。

 声は、ギャグ作品でもその力量を遺憾なく発揮している阪口大助さんが担当。ちょっと高めの特徴的なトーンで愛馬・ジャスタウェイを駆る(?)姿は颯爽としていながらも笑える要素満載。シャドータウン内とはいえ、そのスピードで強者振りを発揮していて、どうやってトッキュウジャーが勝利するのか読ませない辺りが素晴らしいですね。ゲスト怪人とのバトルは、割と予定調和的に処理される事が多い中、今回はアクションの組み立てや流れに凝った工夫が盛り込まれていて、満足度が非常に高かったと思います。

 そのナイト、トッキュウジャー達の「進路妨害」に「審議」を連呼し、ジャスタウェイはザラムに抱き寄せられて「牧場に帰れ」と言われて地球の軌道上にまで放り上げられるという、妙な競馬ネタに彩られ始めた頃から敗色濃くなっていきます。この競馬ネタは、大和屋さんが競馬マニアである事から来ているらしく、大和屋さんの所有(!)する競走馬の名前が「ジャスタウェイ」なんだとか! しかも、成績が良かったらしいですねぇ(競馬に詳しくなくてスミマセン)。色々な処で「銀魂」のネタ(阪口さん含めて)ではないかという話が上がっていますが、私は「銀魂」を真面目に観ていなかったのでよく分かりませんでした(笑)。

 ちょっと残念なのは、サブタイトルがあんまりフィーチュアされなかった事ですかね。単純な「痛い系の究極選択」だったので、「デンジマン」のナゾラーみたいな不条理なシチュエーションを期待していたら、かなり肩すかしを食らわされると思います。

 エピローグは、明がライト達に謝るシーンが挿入されて、再びシリアスな雰囲気で締められましたが、その直前の巨大戦が完全にギャグ一辺倒だったので、またまたギャップに当てられてしまいました。とにかく今回は、あらゆるギャップを駆使してトカッチのシリアスな面を浮き彫りにする作風だったのかも知れませんね。それはそれで存分に成功していると思います。

 次回は、撮影風景のお話(?)。前述のナゾラーじゃないですが、「デンジマン」にはフィルムラーという傑作怪人が登場しているので、同様の不条理なギャグ編に期待してしまいます。