第30駅「誕生日のお祝いは」

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 これまでの「トッキュウジャー」の中では屈指のコメディ。

 ここで言うコメディとは、単なるナンセンスギャグ編等とは違い、色々と笑わせつつもホロリと泣かせる喜劇で、今回はそれが素晴らしいバランスで成立していたと思います。

 ウィッグシャドーの仕掛けはナンセンスギャグ寄りですが、エピローグにまで影響するオチもしっかりしていたし、またまた明をダシに使って笑わせる辺りも秀逸な作劇でした。

 今回のメインはカグラ。ミオの誕生日を夢の中で思い出すといった展開に、いよいよ彼等の記憶を取り戻す旅も大詰めといった感が。まだ3クール目の序盤ですけど(笑)。

 これまでカグラは庇護される立場でのメインアクトを務める事が多く、今回のように完全に自分の意志で突っ走るのは、キャラクターの強化という面で大きな効果を上げています。ハイパートッキュウ3号+5号(?)が登場するに当たって、その辺りの肉付けがちゃんと為されているのがいいですね。

 カグラはミオの誕生日を祝う為に、ケーキを作る事にしたわけですが、なりきりの天才であるカグラであっても、専門知識が伴うなりきりはうまく行かないらしい。ただし、やはりこれまでのなりきり振りから見るにセンス自体は良いようで、当初は「見た目は良いが味が悪い」ケーキを作って見せるのでした。そして、この「見た目は良いが...」の部分が、後半のテーマの裏返しになっているんですよね。

 カグラのなりきりを検証すると、思い込みによる精神面の強化によって、普段は休眠している体力や体術が目覚めるという傾向があるようです。ケーキの形や見た目に関しては、知識が介在しない体術の部類だと考えられる為、あのような結果になったと推測出来ます。

 巧いのは、カグラの思い込みの力が彼女をケーキ店へと走らせ、何のツテもないまま弟子入り志願させ、遂にはケーキを完成させるという流れ。他のキャラクターだとこんな具合には運ばない筈で、思い込んだら迷わないカグラならではの展開でした。カグラというキャラクターは、割とフワフワしている印象ですが、今回のように真面目な部分をフィーチュアする事で、彼女のイメージを少し上のステージに持ち上げています。

 その一直線振りは、戦いの場でも発揮される事となりました。

 基本的に戦い自体はあまり得意としていないカグラは、今回なりきりパワーをも封じられる等苦戦を強いられますが、基本的に攻めの展開を続けるという、これまでにない積極性を発揮。そのトリッキーなかつスピーディなアクションに、本来のポテンシャルの高さを伺わせます。言い方は悪いですが、始めてトッキュウ5号を格好良いと思った瞬間でした。

 話は前後しますが、ケーキ作りに没頭したいカグラをフォローする周囲の描写も良いです。

 トカッチの不自然過ぎる取り繕い振りには、ミオが疑義を投げかけても仕方ないと思わせる一方、シャドー怪人と対峙する際、なかなか現れないカグラに苛立ちつつ心配するミオに対し、ヒカリが「今は戦いに集中しよう」とさり気ないリードをする辺りがクール。前々回を踏まえた二人の描き分けの巧みさが素晴らしいです。ライトが相変わらずなのも嬉しい処(笑)。

 また、カグラが弟子入りを懇願したパティシエ・小倉あいり役の中原果南さんが実に素晴らしく、役作りのディテールを追求した演技に本物の職人の貫禄がありました。撮影には本職の方々が協力されたとの事ですが、中原さんの本物っぽさと相俟って料理番組を見ているような感覚にすら陥る完成度。今回は色々と見所がありましたけれど、カグラの衣装とのマッチングの高さもあって、当シーンが最も高い完成度を見せていたと思います。

 今回は展開にはっきりとした起承転結があって、転の部分はウィッグシャドーにケーキを壊されるくだりです。ここで重要なのは、カグラが意気消沈して戦意を喪失するのではなく、怒りに燃えて敵を追い詰めるという展開。ここに、カグラの確かな成長があります。

 怒りに任せて戦うのは、近年のヒーロー関連ではネガティヴに捉えられる事象だと思いますが、今回はウィッグシャドーの(お調子者風な)外道振りが際立つ上に、ギャグに彩られている為、勧善懲悪の枠内にギリギリ収まるように配慮された形跡があります。「絶対に許さない」という、ごく個人的な行動原理は、宇宙刑事シリーズでもお馴染みの「古典」であって、感情移入しやすい、キャラクターが薄くならない、カタルシスがある等、結構メリットが大きいのですが、最近は何故かモラルに照らして避けられる傾向があるんですよね。「ティガ」からの平成ウルトラマン、そして平成ライダーがそういう傾向を決定付けたのではないかと思いますが...。特に平成ライダーは、「許せないものと戦う」のではなく、「周囲の人々を守る為に戦う」というポリシーで一貫しており、私怨を抱いた人物は転落の道を選択するパターンが多いように思います。

 今回のカグラには容易に感情移入出来ましたし、大活躍のアクションでカタルシスを得る事にもなりました。感情移入が容易だった事で、ミオにケーキを振る舞う誕生日パーティのシーンにも一種のカタルシスがあり、ここで涙腺が緩むわけです。この辺りはコメディとしての完成度を高める上で重要だったのではないでしょうか。やっぱりこのテーゼは今後も大事にしていくべきだと思う処。正義感についての描写は様々ですが、画一化しないよう配慮が欲しい処ですね。

 さて前回、突然ハイパーになったヒカリには唐突な感覚を覚えたものの、一旦始まってしまえばもはや理屈等不必要といった処なのか、もう今回のカグラのハイパー化は違和感がありませんでした(笑)。

 全編に亘って珍妙なウィッグを付けられた5人が立ち回るビジュアルショックには及ばないものの、二人三脚型のハイパートッキュウジャーはなかなか鮮烈。女性戦士によるコンビネーション攻撃は、それこそ「バイオマン」から模索され続けて来たものですが、今回はその究極形だったのかも知れません。単なる体術だけではなく、特殊効果をも用いた「ありそうでない」アクション描写の素晴らしさは、素晴らしいの一言でした。ダイカイテンキャノンの販促時期なので仕方ないのですが、そのままの勢いで決着を付けて欲しかったですねぇ。

 それから今回のシャドーライン側の描写ですが、特に目新しいものはありません。ただし、幹部揃い踏みのカットで見られた各人の配置は、いかにも悪の組織といった感じでゾクっとしましたね。こういったセンスの良さは安定感を生んでいると思います。

 次回は、レインボーライン総裁が登場との事。どんな仕掛けが待っているのか楽しみですね。