人間キャラクターは殆ど登場せず、ラチェットの過去にスポットを当てたお話。
全編がほぼ夜のシーンで、ダークでクールな雰囲気は、さながらバットマンのゴッサム・シティのよう。浮ついた場面が皆無に近く、アドリブの入る余地があんまりなかったようで、一部、チョーさんが一人で吠えまくっていましたね(笑)。
ストーリーは、ラチェットと因縁のあるロックダウンを軸に展開します。過去と現在がラチェットを介して錯綜するので、かなり複雑に見えますが、現代編は至ってシンプルなので、それほど難解ではありません。
過去編の簡単な粗筋としては、かつての大戦争の折、オートボットの情報捜査員アーシーを救助することになったラチェットが、アーシー共々ロックダウンに襲われて囚われの身となるも、脱出すべく用いた電磁パルスが強力すぎた為に、アーシーの記憶を完全に消去してしまったというもの。これがラチェットにとってトラウマになっていて、個人的にロックダウンに対して抱いている恨みは深いものがあります。
現代編は実にストレートで、突如地球に現れたロックダウンのもたらす被害を食い止めるべく、オートボットが奮闘するというもの。ロックダウンはブリッツウィングに雇われており、メガトロンを倒した(と誤解されている)オプティマスを捕える仕事を担っています。
最終的に、ラチェットは電磁パルスのユニットをロックダウンより取り返しつつ、ロックダウンのスペースボートを破壊し、命乞いをするロックダウンを中に残して脱出するのですが、アーシーの悔恨を優先し、ドクターとしてロックダウンを救う道を選ばなかったラチェットの深い苦悩は、もはや子供向け番組の範疇を超えており、これぞアメリカTVドラマのテイスト。それなりの後味の悪さは一級品です。
では、気になるシーンをピックアップ。
冒頭は夜の街に繰り出すオートボット達のシーンから。バンブルビーに至っては、ショッピングまで楽しんでいるようで、色んな物を買っています。中でも、新調したクラクションがお気に入りの様子。
何と、クラクションの音は、旧アニメの主題歌の一節「More than meets the eye!」をなぞっています。こういうネタが嬉しいんですよねぇ、ファンは。
で、これがロックダウンのビークルモード。
いわゆる整備不良車の雰囲気なんですけど、どうもサイバトロン星の時代からこの姿だったようで(笑)。「夜露死苦ぅ!」とか言っちゃってますし、笑えますね。
ちなみに、声はまさかの大塚明夫さん。ガトー少佐からうんと離れたキャラクターで、楽しそうに演じてらっしゃいますな。
ロックダウンは賞金稼ぎということですが、旧アニメにも賞金稼ぎが出ており、トランスフォーマーでは割と普通の設定なのかも。ただし、旧アニメのデフコンは完全にオートボット寄りでしたが。
そして、若い頃のラチェットはこんな感じ。角が折れていないのと、顔に張りのある点が現在と異なります。また、身体はサイバトロンモードなので、現在とは微妙な差異があります。
ラチェットのトラウマになっているのが、このアーシー。
アーシーは旧アニメシリーズの「ザ・ムービー」と「2010」、「リバース」に登場する、トランスフォーマー初の女性型ロボットのレギュラーキャラ。今回登場するアーシーは、当時のアーシーによくデザインが似ており、アメリカ放映版では、何と声までオリジナルの声優さん(Susan Blu)とのこと。なお、当時の日本版では、勝生真沙子さんが勝気なアーシーを雰囲気たっぷりに演じてました。
余談ですが、アニメイテッドの凄い処(というかトランスフォーマーの凄い処)は、ゲストキャラ扱いのロックダウンやらアーシーやらが、ちゃんと商品化されてしまう処なんですよね。しかも、他のアイテムより開発陣の思い入れを感じてしまったりなのが凄い。
さて、今回のキーアイテムが、ラチェットの腕に付いている電磁パルスユニット。元々医療用のパラライザーであり、強弱使い分けることによって、単なる鎮痛から記憶の消去に至るまでの機能を発揮します。
ちなみに、このシーンでは、ラチェットが事細かに症状を説明したり、アーシーがラチェットを「ドクター」と呼ぶなど、スター・トレックのイメージも取り入れられていたり。
こんな四足ビークルも登場します。ラチェットのサイバトロン・モードですね。医療行為を円滑に行う為の悪路走破性能を感じさせてイイ感じです。
結局、ラチェットとアーシーはロックダウンによって囚われてしまいます。
そして、現代ではオプティマスも囚われの身に。
両者とも、様々な手を尽くして脱出を試みるあたりがアメリカンな感じ。こういう細かい描写はいかにもアメリカ的。これがキャラを転がすんですよね。
で、モニターにブリッツウィングが登場することで、ロックダウンの雇い主がブリッツウィングであることが分かります。
三面を有するブリッツウィングは、それぞれの顔によって喋り方が異なります。チョーさんが、ビーストを彷彿させるやや暴走気味のアドリブを披露してくれました。「おもちゃ買ってね」だって(笑)。チョーさんならではの素晴らしい演技です。
なお、ロックダウンは捉えたオートボットの武器を次々と自分のものとし、自らの戦力として用いるという事を繰り返して来ました。過去には、ラチェットの電磁パルスを奪い、また現代で、オプティマスの斧やアンカーを奪取するのです。
「オプティマスの斧だ。お前の物は俺の物。俺の物は俺の物だ」
(笑)なんてクォリティの高い大塚ジャイアン!
この後、オプティマス救出に奮闘するオートボットの活躍が描かれますが、中でもプロールが華麗な格闘技を披露。どことなくブルース・リーのイメージが投影されているような気がします。
ラチェットのフラッシュバックで過去編にスイッチ。
過去編では、ロックダウンの捕縛からラチェットが脱出する顛末を。
傍らに置いてあった電磁パルスをアーシーが軽くキックし、ラチェットがそれを受け取る。気付いたロックダウンに、最大出力の電磁パルスを浴びせて脱出するラチェット。しかし、その電磁パルスの影響でアーシーは…。
この矢継ぎ早の展開が圧巻。
素晴らしいテンポと圧倒的な情報量により、引き込まれます。また、はっきりとは示されませんが、この顛末でアーシーの記憶の中に存在していた筈の切り札的な情報は失われてしまい、結局ウルトラマグナスが立案したこの作戦は失敗してしまったわけです。
そして現代。ラチェットはマグネットパワーを駆使してロックダウンを追い詰め、電磁パルスユニットを奪回します。痛みに耐えかねたロックダウンに電磁パルスを浴びせることなく、マグネットパワーで更なる苦痛を与えつつ、宇宙船を破壊するのでした。
ここがラチェットの暗部を描き出していて、実に素晴らしい。オートボットとはいえ、聖人君子ではないというのは、旧アニメから繰り返し描かれてきた事なのです。アニメイテッドでは、旧アニメを踏襲しつつ、その辺りが更にブラッシュアップされているようですね。
最後は、オプティマスとの語らい。
思い出したくない過去だというオプティマスに対し、ラチェットの返した言葉が奮っています。
「むしろ思い出さんとなぁ。思い出せん者の為にも…」
電磁パルス並にシビれました。
この回は、トランスフォーマー アニメイテッド Vol.2 [DVD]に収録。
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