最終幕「侍戦隊永遠」

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 はい。総数86枚のキャプ画でお送りする最終幕解説。

 怒濤のバトルと静かなエピローグのコントラストを、なるべくプレーンなままお伝えする事を、心がけました。


 丈瑠の父親については謎のまま終わってしまいましたが、いわゆる「読後感」の中では、それが謎のままでも良かろうと。そんな素晴らしい最終回でした。

 血祭ドウコクとのパワーバランスも、最後の最後まで素晴らしく、矛盾ない完璧な構成だったと思います。


 では、どうぞ!

 幕開けた、血祭ドウコク達外道衆との最終決戦!


 いきなり、物凄い数のナナシ連中との斬り合いから、本エピソードは開始されます。ナナシ連中のスーツ数とアクター数は限られている筈ですから、見事な合成と巧みなカット割りにより、大人数を違和感なく表現しています。最終決戦という雰囲気作りにも素晴らしい効果をもたらしていますね。


 シンケンジャーとナナシ連中の激しい斬り合いを、六門船の上から眺めている血祭ドウコクと骨のシタリ。


「封印の文字が効かないと分かって仕掛けてくるとはねぇ。昔からシンケンジャーってのは、私達外道衆より命を大切にしない奴らだったよ」

「だから気に入らねぇ。人間なら人間らしく命乞いして、哭き喚けばいいもんを...が、今日上げさせてやろうじゃねぇか。命乞いじゃねぇ、早く殺してくれって悲鳴をな!」


 セリフのテンション、のっけから高過ぎ!

 外道衆より命を大切にしないシンケンジャー。それは、現当主である丈瑠の姿勢そのものでした。仲間達との関わりによって、その姿勢はやや緩くなったものの、根幹は変わっていません。要するに、丈瑠は出発点を影武者としながらも、歴代のシンケンジャーのポリシーを最も鮮烈に体現した存在だったということになります。こういう帰結点を、サラっと描いてみせる余裕が「シンケンジャー」にはあります。


 そしていよいよ、六門船を戦場に突っ込ませ、血祭ドウコクは自ら単独で降り立ちます。敵の移動可能な本拠が攻めてくるというシチュエーションは、古くは「ゴレンジャー」から多用されてきました。

六門船とシンケンレッド

血祭ドウコク

 最強最大の敵との、幾度目かの対面。緊張感はMAXに達します。ここでオープニングに突入。TVシリーズ最後のオープニングを堪能しましょう。薫のクレジットが「志葉薫」単独になっているのに注目。ダブルレッドによる最終決戦といった落とし処を探らなかったのは、丈瑠と5人の仲間達のドラマを描いてきた「シンケンジャー」にとって、最適な措置だったと思います。それでも、薫の存在価値が揺らぐことは全くなかったし、むしろこういったキャラクターにも充分な見せ場があったのは、凄いことです。


 最終幕 侍戦隊永遠に!

最終幕 侍戦隊永遠


 ここで、志葉家のモヂカラが破壊的であり、丈瑠自身への負担というより、秘伝ディスク自体がその使用に1回しか耐えられないであろうことが分かります。薫にディスクを託された際に、丈瑠がそう忠告されていたわけです。

志葉家のモヂカラのディスク

 丈瑠は、1回だけのチャンスに賭けることを余儀なくされていますが、元々血祭ドウコクとの戦いは一発勝負にほど近い性格であり、正に「Dead or Alive」。秘伝ディスクの耐用性は、そのあたりの緊張感を補完しているに過ぎません。


 丈瑠は、


「流ノ介」


と一言。すぐさま流ノ介が、


「はっ。茉子、ことは、殿の進路の確保を。源太は後ろを守れ!」


と指示します。具体的な指示がなくとも、臨機応変にフォーメーションを組み立てるのがカッコいい。流ノ介に参謀格の印象はありませんが、サブリーダー的存在であることは、最終幕に至るまで揺るがなかったということが分かります。


「千明は私と」


という流ノ介の言葉に、


「丈瑠の盾になるんだろ?」


と、すぐに状況判断して追随する千明も素敵。各人が丈瑠中心に、自らのポジションを完全に把握しているあたり、前回までで既に彼等の葛藤を含めたドラマが終結していることを感じさせます。

 いわば、今回は血祭ドウコクとの決戦を、徹底してシミュレーション的に描いているわけです。その中で、それぞれのキャラクターの機微を浮き彫りにしています。


「狙うは血祭ドウコク!行くぞ!」

シンケンジャー

 フォーメーションを組んで、ナナシ連中による陣形に突っ込んでいくシンケンジャー。

外道衆 VS シンケンジャー

「この一撃...絶対に!」


 丈瑠は、この怒濤の突入に際しても、冷静さを欠いていませんでした。それは、仲間達のフォローに全幅の信頼を寄せているからに他なりません。それを示すように、ノサカマタによる後方からの砲撃にも、源太がダイゴヨウのディスク射出で適切に対処します。


「来い...絶望ってのを、教えてやる」


 低く静かに呟く血祭ドウコク。その一撃を流ノ介と千明が身を呈して防ぎ、二人の間から丈瑠が飛び出していきます。

スーパーシンケンレッド

 流れるようなカットの繋ぎが、スピード感と重厚感を同時に実現しています。


「志葉家十九代目当主・志葉丈瑠、参る!」


 ここで丈瑠、雄々しい名乗りを披露!否が応にもテンションを上げてきます。志葉家当主を名乗ることにより、自らを鼓舞しているようにも見えます。

 一気に突っ込んだ丈瑠は、血祭ドウコクの左胸に、シンケンマルの切っ先を突き刺します。

血祭ドウコク

 ところが...。


「なるほど...ちったぁ考えてきたらしいな。が、こんな程度じゃ俺は倒せねぇぜ」


 シンケンマルの刃を素手で握り、自らの左胸より引き抜いた血祭ドウコク。そのまま丈瑠を、片手で投げ飛ばしてしまいます。


「所詮、手前ぇは偽物ってことだ」


 いわゆる血統的に本物の志葉の当主であった薫を退けた余裕か、丈瑠にこんな皮肉を投げかける血祭ドウコクでしたが、既に丈瑠にとって、偽者だの本物だのといった事は、丈瑠の志葉の当主としての存在を揺るがす事にはならないのでした。なので、志葉のモヂカラを込めた秘伝ディスクが破損しても、丈瑠に敗北感は微塵も感じられません。

割れる秘伝ディスク

 ただし、危機感は高まります。


「さぁて、手前ぇらが哭き叫ぶまでどれぐらいかかるか」


 余裕を見せる血祭ドウコクは、シンケンジャーを弄ぶかのように、凄まじい一撃を放ちます。その衝撃はシンケンジャー達に襲い掛かり、ダイゴヨウも傷付いてしまいます。

ダイゴヨウ

 そして、シンケンジャー達は変身解除。

変身解除

 今回は、主役陣の見せ場を豊富に作る為、変身解除シーンが多いのですが、それが逆に危機感を煽るのは、スーパー戦隊シリーズ恒例ですね。毎年のように書いているような気がしますが、主役陣が最終局面でスーツに入り始めたのは、「ダイナマン」あたりから。最終決戦の巨大戦を素面で行ったのは、「ジェットマン」が最初。素面名乗りを取り入れたのは、「ダイレンジャー」が最初です。特に「ダイレンジャー」は衝撃的だった覚えがあります。


 丈瑠達は、血祭ドウコクの一撃で多大なダメージを負い、苦悶の表情を浮かべていますが、戦う意志は潰えることなく、また苦悶に大きな声を上げることもありません。外道衆で最も深い苛立ちを抱えた血祭ドウコクは、そんな丈瑠達の態度に、


「は?聞こえねぇな。命乞いならもっとでけぇ声で言え!」


と苛立ちを露にしてきます。その言葉に鼓舞されるかの如く、立ち上がる丈瑠達!

丈瑠

 丈瑠の目からは、枯れない闘士が感じられます。


「それだ...その目!どうして哭き喚かねぇ!助けてくれと言わねぇ!さっさと絶望してみせろ!」


 苛立ちが頂点に達した血祭ドウコクは、さらなる莫大な衝撃波を見舞います。ただし、その衝撃は丈瑠達を直撃するわけではなく、巧みに彼等を苦しめる方向に作用します。


「シンケンジャー、すぐには殺さねぇぞ。手前ぇらの目の前に、志葉の小娘の首を置いてやろうじゃねぇか。せいぜい楽しみに待ってることだな」

血祭ドウコク

 血祭ドウコクの狙いは、丈瑠達シンケンジャーをさっさと倒してしまうことではなく、あくまでシンケンジャーの口から降伏の言葉を聞く事なのです。永きに渡って、志葉家率いるシンケンジャーに煮え湯を飲まされて来た血祭ドウコクは、自らが人の世に君臨するより先に、シンケンジャーを屈服させたかったのでしょう。それが血祭ドウコクの底なしの苛立ちを、幾分か軽減させるかどうかは、判然としませんが、ここではどうでも良い事のようです。


 血祭ドウコクが去ったのを見届け、昏倒してしまうシンケンジャー達。

丈瑠

 この戦いの様子は、すぐに黒子を通じて志葉家の屋敷にもたらされたものと思われます。


 その志葉家の屋敷では、薫がもう一枚ディスクを作ろうとしていました。歳三は、怪我で動くこともままならない身に、それ以上の負担はかけられないと制止します。

薫と歳三

 歳三によれば、一枚目を作る際も相当な負担があったらしく、出陣こそしませんが、薫もまた丈瑠達と同様に命懸けで最終決戦に臨んでいた事が分かって、熱いのです。


「無茶でございます。それに影...いや、ご当主達はドウコクに敗れ、もう...」


 丈瑠達の苦戦の報告を受けて、歳三は薫を心配するあまり諦め気味。しかし、薫は、


「生きているならもう一度立つ!」


と、丈瑠達が決して諦めない事を信じていました。このシーンは、歳三の心境が変化する契機になっており、非常に重要なシーンかつ、熱い感動を呼び起こします。


「いや、それは...」


と、歳三は絶望的な状況を冷静に受け止めているようですが、


「立つ!丈瑠は、絶対に戦いを止めない!丈瑠が影と知っても、傍を離れなかった侍達も同じだ!私はそう見込んだから、彼等に託した。だから私も、今出来る事を!」

「しかし、姫は志葉家の...」

「丹波、何故分からぬ!志葉家だけが残っても意味はないのだ。この世を、守らなければ。その思いは皆同じ筈。皆の力を合わせれば、きっと!」

薫と歳三

 薫もまた、丈瑠達に出会って変わったのかも知れません。当初は、志葉家の代表として、志葉家に伝わる封印のモヂカラを切り札的に行使すべく、表舞台に現れたのですが、丈瑠と出会い、1人の力ではこの世を守る事が出来ないと学び、そして、前述のセリフにあるような結論に至ったのです。

 歳三にとっては、薫を守ることが第一義であり、この世を守るという根幹的な処まで考えが回っていない。しかし歳三も、薫の訴えに遂に心を動かされるのです。

歳三


 一方、血祭ドウコクは去ったものの、未だ昏倒する丈瑠達の周囲には、ナナシ連中が押し寄せてきます。


 その時、彦馬が参上!ナナシ連中を華麗な槍捌きでなぎ倒していきます!

彦馬 VS ナナシ連中

 殺陣の安定感と、腰の入った重厚感は、さすが時代劇のベテラン。伊吹さんならではの見せ場です。ちょっと短いのが残念。

彦馬

 彦馬の呼び掛けで気が付いた丈瑠は、


「お前達...立てるよな!」


と、一同に声を掛けます。


千明「当然でしょ」

源太「ちょっと休んでただけだ」

ことは「うちも」

茉子「この程度で倒れてたら、この世も人も守れない」

流ノ介「我々全員、この一年でいやと言う程...」

千明「ああ」

ことは「絶対に、外道衆を!」


 それぞれのキャラクター性にあった応じ方が秀逸です。こういったブレのなさが、一年間のシリーズの安定感を支えていた事は、もはや議論の余地のない処でしょう。

 ナナシ連中を鮮やかに片付けた彦馬は、同様にシンケンマルを振るって、周囲のナナシ連中を一掃した丈瑠達の元に駆け寄ってきます。


「殿!皆も、大丈夫か」


 常に丈瑠だけでなく、若き侍達を見守ってきた彦馬。このような場面でも、しっかりキャラクター性が存続しています。何と理知的な作劇なのでしょうか。

 丈瑠は、


「ああ。すぐにドウコクを追う」


と答え、流ノ介も家臣を代表して、


「大丈夫です」


と答えます。

彦馬、流ノ介

 続いてことはも、


「きっと勝ちます」


と誓いを見せます。千明は、


「ジイさん、全部終わったら、美味いもん食わせてくれよな」


と、彼らしく答えます。彦馬は、


「分かった。お前達の好きなもの、全部用意しておく」


と笑顔で応じ、これから壮絶な決戦に臨む侍達を激励。重鎮が画面を締めるとは、正にこのような局面を言うのでしょう。見事に場面のメリハリがついてしまいました。

ことは、千明、彦馬

茉子、丈瑠、ことは、千明

 茉子は千明の提案と彦馬の言葉を受け、


「楽しみにしてます」


と笑顔を見せます。ここでは、茉子らしいクールな言い草はなく、純粋な気持ちを見ることが出来て、ちょっと可憐なのです。

 源太は、彦馬に傷付いたダイゴヨウを託します。


「こいつ頼む。ダイゴヨウ、帰ったら直してやるからな」

「親分...」

源太とダイゴヨウ、彦馬

 皆が一様に「勝って帰還する事」を宣言していて、悲壮感が完全に払拭されています。これはスーパー戦隊のブランドが持つ、非常に明るい面を如実に反映してきているのではないでしょうか。爽快という二文字がピッタリです。しかし、上滑りしないよう、ある程度の悲壮感は彦馬が担います。搾り出すように丈瑠達の武運を祈る彦馬の、


「どうか...」


という力強い呟きは、スーパー戦隊シリーズにおける最終決戦時に、じっと待っている後見人達の姿に重なります。

彦馬とダイゴヨウ

 異色作たる「シンケンジャー」もまた、やはり正統なスーパー戦隊シリーズなのです。


 Bパートが開始されると、そこには、我々の予想を超える、素晴らしいシーンが待っていました。


 瓦礫と化した街の中で、丈瑠の到着をひざまずきながら待っていたのは、何と歳三でした。


「これを...姫が渾身のディスク」


 丈瑠に志葉家のモヂカラのディスクを手渡す歳三。その表情は、正に丈瑠を志葉家当主と認めたものになっています。

歳三

 そして、これだけならまだ歳三の真意をはかりかねる処があるのですが、ダメ押し的な一発が用意されていました。


「それからこれは、不肖、丹波が得意とする、モヂカラ」


 何と、丈瑠に自らの「双」のモヂカラを込めた、秘伝ディスクを手渡すのです。

双ディスク

「御武運を」


と短く激励する歳三の姿には、思わず目頭を熱くさせられます。

歳三

 そう、歳三も含めて、志葉家に関わるあまねく全ての者の意志が一つになった瞬間です。勿論、歳三も志葉家に強固なポリシーを持って仕えるキャラクターですが、あくまで薫中心でした。ここで丈瑠を頂点とした、完璧無比な意志のオブジェクトが形成されたことによって、シンケンジャーは血祭ドウコクに対抗出来得る力を手にしたと考えていいでしょう。

 志葉家のモヂカラディスクを二枚使ったからだとか、奇襲作戦に近しいフォーメーションが奏功したとか、そういったことではなく(もちろん、そういったタクティカルな面があるから説得力も増すのですが)、志葉家に関わる全ての人間が、覚悟を持って渾身の力を注ぐことにより、やっと血祭ドウコクに比肩する力を得たと考えるべきでしょう。それが今回のドラマツルギーであり、前回までに完成した若き侍達の絆の物語に、歳三という最後のピースがはまることで、永代に存続する志葉家の絆の物語が完成したのです。

 歳三に松澤さんという名バイプレイヤーがキャスティングされた意義を、はっきり感じ取れた瞬間でした。


 いよいよ、本当の最終決戦です。


 街を襲う血祭ドウコク達の前に、颯爽と現れる素顔のシンケンジャー達!

シンケンジャー

「手前ぇら、待ってろと言った筈だぜ」


と、未だ余裕の血祭ドウコク。すかさず源太が、


「悪ぃな。俺達はせっかちでよ」


と源太流のジョークで牽制します。この時の低い姿勢をとる源太が反則的なカッコ良さ。丈瑠は実直に、


「その先へは行かせないお前を倒し、必ずこの世を守る!」


と血祭ドウコクへの宣戦布告を果たします。

 そしていよいよ、素面での名乗りを披露!


「シンケンレッド・志葉丈瑠!」

シンケンレッド・志葉丈瑠

「同じくブルー・池波流ノ介!」

同じくブルー・池波流ノ介

「同じくピンク・白石茉子!」

同じくピンク・白石茉子

「同じくグリーン・谷千明!」

同じくグリーン・谷千明

「同じくイエロー・花織ことは!」

同じくイエロー・花織ことは

「同じくゴールド・梅盛源太!」

同じくゴールド・梅盛源太

「天下御免の侍戦隊」

天下御免の侍戦隊

「シンケンジャー、参る!」

シンケンジャー、参る!


 拍手の嵐、真打登場!


 元々、それ程複雑なポーズではないものの、時代劇のタメが要求されるポーズは、実は意外に難しい。キャスト陣は多忙な中スーツアクター諸氏に教示を受けたとのこと。その完成度は、手放しで満点とは言えないまでも、説得力は抜群だったように思います。

 丈瑠はシンケンレッドそのもの、流ノ介はパワーよりもキレを重んじた爽やかなもの、茉子は大和撫子よりもキマり具合の良さを感じさせています。千明もシンケングリーンそのままな感じ、ことははより可憐で可愛らしく決めていました。源太はサカナマルを用い、回転アクションを織り交ぜたおなじみのポーズを、完璧に披露。源太のポーズが最も難易度が高く、よくぞやってくれたと拍手喝采なのです!


 名乗りに続いて、お待ちかね、素面のアクションに突入。ナナシ連中を華麗に切り倒していく面々を、一人一人キメのカットを織り交ぜつつ描きます。皆、ちゃんと腰が入っていて、一年間の成長振りを垣間見ることが出来ます。こういうシーンを見ると、年季の入った戦隊ファンは感動してしまうのです。


「諦めろ!手前ぇらは俺に勝てねぇ!」

血祭ドウコク

 快進撃を見せる侍達に、血祭ドウコクは得意の衝撃波を投げ付けて来ます。が、丈瑠達はその衝撃を巧みにかわし、瞬時に変身を果たします。

一筆奏上!一貫献上!

 素晴らしいテンポ。矢継ぎ早という形容が相応しいです。ここで流れは止まらず。続いて、各々が文字の一部を書き、それが血祭ドウコクに纏わり付いて「縛」のモヂカラを形成。血祭ドウコクの動きを封じます。

ヽ、十、田

糸、寸

 さらには、歳三より託された「双」のディスクで、丈瑠が烈火大斬刀の二刀流!一部のカットはCGによる合成ですが、実際にあの重量級のプロップを二つ携えているカットもあり、凄いの一言です。

シンケンレッド VS 血祭ドウコク

 この二刀流による一撃は、血祭ドウコクの身体を刺し貫くのですが、なおも血祭ドウコクは丈瑠に衝撃波を食らわし、跳ね飛ばします。しかし、ここでも流れは止まりません。丈瑠の一声で、茉子、千明、ことは、源太が一斉に血祭ドウコクに近付き、力任せに切りかかります。

シンケンジャー VS 血祭ドウコク

 最後、志葉家のモヂカラのディスクを使うのは、何と流ノ介!

 これは意外でした。丈瑠を先鋒とし、流ノ介を大将としたのです。先の戦いでは、この逆でしたが、やはり丈瑠はシリーズ当初から、先陣を切るタイプだったわけで、自分の戦闘スタイルに則した戦い方を組み立てたことになります。流ノ介にトリを任せる等、信頼性をも表現されているのが素晴らしいです。

 この流ノ介の一撃は、確実に血祭ドウコクの体内へ、志葉家のモヂカラを注ぎ込むことに成功したのですが...。

シンケンブルー

 血祭ドウコクの底なしの苛立ちから来る叫びは、凄まじい衝撃波となり、丈瑠達はまたも変身解除に追い込まれます。

またも変身解除

 これは、巨大戦を素面で展開する為の措置ですが、素面の名乗りからずっと連続させるのではなく、敢えてスーツアクションを間に挟んだことにより、メリハリを付けています。勿論、スーツアクションのシーンが、非常に激しい水準を要求されていたという事もあります。


 志葉家のモヂカラは徐々に浸透し、遂に血祭ドウコクの一の目撃破と相成ります。

血祭ドウコク


 安堵したのも束の間、血祭ドウコクも、アヤカシ共と同様に二の目を持っており、そのまま巨大戦へと突入していきます。源太の、


「こっからが、本当の力ずくか」


という言葉に、丈瑠も力強く、


「ああ!」


と答え、インロウマルを使ってサムライハオーを出します。

丈瑠

 そして、いわゆるコクピットには、素面で乗り込みます。実に絵になる!!

茉子、千明、源太、丈瑠、流ノ介、ことは

「無駄にでけぇナリしやがって!手前ぇらに勝ちはねぇんだ!」


 西さんのアドリブじゃなかろうかと思える血祭ドウコクのセリフに続き、凄まじい一撃が放たれ、サムライハオーに大ダメージを与えます。

血祭ドウコク VS サムライハオー

 内部にもダメージが及んでいるのが確認できるのが凄い。それぞれが長丁場の苦闘を覚悟し始め、源太がモヂカラを込めようとすると、


「待て!モヂカラを使うな!」


と丈瑠が制止します。意外に思う面々でしたが、


「小出しにするな。残ったモヂカラ全部、一撃に集中する!」


という言葉に納得します。

茉子、千明、源太、丈瑠、流ノ介、ことは

千明「一撃?...外れたら終わりか」

丈瑠「だから絶対外さない至近距離まで突っ込む。どんなに攻撃されても、バラバラになっても、たとえ折神一体になっても突っ込む!」

流ノ介「なるほど、分かりました!」

茉子「覚悟は出来てる」


 源太は黙って頷き、千明の、


「行けるって。ジイさん達に飯、約束したしな!」


という言葉に、ことはも頷きます。


「行くぞ!全員モヂカラを集中しろ!」


 シンケンオーを始めて完成させた時を思わせる、丈瑠の強い号令を受け、サムライハオーは進撃を続けます。

 その間も、血祭ドウコクは攻撃の手を緩めることなく、弩級のサムライハオーを吹っ飛ばす攻撃を連発。次の瞬間、大ダメージを負ったサムライハオーより、牛折神や烏賊折神が離脱、テンクウシンケンオーに。

テンクウシンケンオー

 全合体の妙味を見事に活用した好例!正確にはサムライハオーからテンクウシンケンオーになるには、複雑な合体プロセスを経る必要がありますが、ここは雰囲気だけで充分です。テンクウシンケンオーは、なおも歩みを緩めず、血祭ドウコクに向かって突き進んで行きます。

 内部もかなりのダメージを被っています。

茉子、千明、源太、丈瑠、流ノ介、ことは

 さらなる攻撃を受け、遂に虎折神も離脱、シンケンオーになります。最後の最後で、当初の1号ロボになるという展開には、燃えるものがあります。


「このっ...なんで手前ぇらは諦めるってことを知らねぇ!」


 少々の焦りを感じ始めた血祭ドウコクに、正に「肉を斬らせて骨を断つ」戦法で近付くシンケンオー。

 ここで丈瑠は突如、


「今のうちに言っておく。お前達と、一緒に戦えて良かった。感謝してる」


と仲間達に最大の謝辞を送ります。

丈瑠

 丈瑠は死を覚悟したのではなく、勝利への確信があったと思います。きっと、丈瑠がこのタイミングで感謝の気持ちを表したのは、仲間と繰り出す最後の一太刀に、皆で同じ思いを込めたかったからではないでしょうか。

茉子、千明、源太、丈瑠

千明「何だよいきなり。」

流ノ介「殿、私の方こそ」

ことは「うちもです」

茉子「六人一緒だから、戦ってこれたんだし」

源太「タケちゃん。巻き込んでくれてありがとな」


 それぞれの反応は、勿論温かいものでした。双方向の感謝というテーマは、ここでもチラッと振り返られているのでした。千明の、


「よっしゃ!行こうぜ!最後の一発だ!」


の掛け声により、一気に集中力を高める一同。血祭ドウコクの剣がシンケンオーの腹部に刺さりつつも、最後の一太刀を振り下ろします!

血祭ドウコク VS シンケンオー

 別アングルで三度繰り返す、インパクトある演出が素晴らしいです。必殺技の名を叫ぶわけでもなく、ただ一太刀を振り下ろす。「シンケンジャー」ならではの、最高の決め技だったように思います。スーパー戦隊黎明期では、突如最終回用の新必殺技が登場して大ボスを倒したりしてましたからね(笑)。


「シンケンジャー...!俺がいなくなっても、いつか手前ぇらも哭く時が来る!...三途の川の隙間は、開いてるぜ...」


 シンケンオーの兜を掴み、呪いの言葉を吐く血祭ドウコク。そう、三途の川自体が無くなることはないのです。

血祭ドウコク VS シンケンオー

 遂に、最強の巨敵、血祭ドウコクを打ち破りました!

大爆発!

 血祭ドウコクが敗れたことにより、その底なしの苛立ちによって溢れかえっていた三途の川も、一気に引いて行きます。六門船も急激にスキマへと吸い込まれて行き、中に居た骨のシタリにも被害が及びます。


「ドウコク、太夫...悪いがアタシゃ生きるよ!...三途の川だって、泥ん中だって、生きることがアタシの、外道さねぇぇぇっ!」

骨のシタリ

 骨のシタリは、六門船と共に三途の川に沈んで行きました。即ち、生死不明となったわけです。骨のシタリの「生きること」への執着は、それとなく匂わされていましたが、この土壇場ではっきりと述べられることになりました。骨のシタリは、人の世に乗り出す事よりも、三途の川の水が枯れないよう、コンスタントに人の苦しみを得て、穏便に暮らしたかっただけなのかも知れません。その執着は、果たして死によって潰えたのでしょうか。それはまだ、分かりません。

 なお、敵の本拠は最終回において盛大に破壊されることになっていますが、六門船は破壊されていません。ただ、骨のシタリが三途の川の水の奔流に飲み込まれるシーンに、カタルシスを感じることが出来ます。


 辛く苦しい戦いが終わり...。


 侍達を出迎える彦馬。

彦馬

 約束通り、彦馬の元に若き侍達は帰ってきました。

千明

茉子

ことは

源太

流ノ介

丈瑠

 抱き合って勝利の喜びを分かち合うシーンは、正に感涙必至です。

侍達

 公式サイトによれば、このシーンが彦馬役・伊吹さんのラストカットだったそうで。長丁場での若い俳優達の奮闘振りを、称えているかのようでした。


 ここから数日のときを経て、いよいよ別れの時がやって来ます。


「丈瑠、志葉家を頼む。ドウコクを倒したとは言え、三途の川がある以上、志葉の当主は必要」

「姫は、この丹波がしっかりと育てます故、十九代は頼みますぞ。ご当主」

歳三

「ああ」

丈瑠

薫

 志葉家の本流は丈瑠が担うものの、薫は薫で分家としての仕事が待っています。勿論、薫も外道衆が現れた時には戦いに身を投じるでしょう。歳三も、しばらくは薫の事だけ心配していれば良い生活に戻ることになります。

 薫付きの黒子と丈瑠付きの黒子が別れを惜しんでいる姿も見られて、微笑ましいです。

別れ

 そして、歳三は、早くも薫の世話を焼き始めます。


「姫、お見合いでもと考えておるのですが、ちょっと顔は長いんですがな...」


 ハリセンで一発!

薫と歳三

「気が早い」


 薫と歳三の関係は、相変わらずのようです。薫の和装が、非常に良く似合っていて、いいですねぇ。とても中学生だとは思えない色気があります。


 さて、辛く長い戦いを共に駆け抜けてきた仲間達とも、しばしの別れの時が訪れます。しかし、それぞれが侍でなくなるわけではないので、あくまで一時的な別れという感じになっているのが爽やかです。何となく、部活を卒業していくような...そんな爽やかさがあります。


 茉子は、ハワイで両親としばらく暮らし、また戻ってくる予定。改めて、母親との絆を醸成する事が、戦いを終えた茉子にとって必要なことなのかも知れません。

 千明は、大学受験のしなおし。振り返れば、千明は卒業式に出席出来ないまま、戦いに身を投じることになったのでした。いわば浪人生になったわけですが、戦いの中で著しく成長した千明の事ですから、きっと成功するでしょう。流ノ介の公演の招待状なんか要らないと毒づくあたりは、やっぱり千明ですが。

 ことはは、姉の待つ京都に帰ります。何事にも不器用だったことはもまた、著しい成長を果たし、誰の代わりでもないシンケンイエローとなりました。故郷での本業でも、きっと辣腕を振るうことでしょう。流ノ介の京都公演があれば、姉と一緒に見に行くという約束も、ことはらしい可愛らしいものでした。

 源太は、さらなる飛躍を目指して、何とパリで屋台を曳く事を決心していました。

千明、流ノ介、ことは、源太、茉子、ダイゴヨウ

 しかし、シェフ帽に付けた模様は、イタリアの国旗の色に...。相変わらず本業については詰めの甘い源太ですが、持ち前のガッツと努力家の一面を以ってすれば、パリジャン、パリジェンヌの舌を満足させられることでしょう。最後の最後に笑いを忘れないところも眩しいです。


 そして、流ノ介は本業の歌舞伎の世界に戻って行きます。一度は、侍としての本文を全うする為に捨てた世界。しかし、晴れて流ノ介は歌舞伎の世界へと還って行くのです。戦いの中での精神の研鑽を経て、流ノ介の舞にも磨きがかかっている筈。


「お別れの舞をひとさし...」


と舞を献上する流ノ介の姿には、今度は歌舞伎の世界に全力を尽くす覚悟が見えます。

流ノ介

 流ノ介が舞う中、丈瑠と別れの挨拶。それぞれ、涙ぐんだり、爽やかな笑顔を浮かべていたりと、印象的な表情を浮かべています。

茉子

千明

ことは

源太

流ノ介


「タケちゃん、おフランスの土産、楽しみにしてろよ」

源太


「殿様、ホンマに、ホンマに有難うございました」

ことは


「ま、追い越すのは、次に会った時だ。忘れんなよ」

千明


「外道衆が現れたら、いつでも飛んで来るし。あ、でも人見知りは直した方がいいかも」

茉子


 流ノ介は、舞い終わると黙って一礼して去って行きます。

流ノ介


 去り際は後を引かず。侍達の心意気でした。しかし、彼等が去った後は、間が妙に広々と...。


「行ってしまいましたな。...ここがこんなに広いとは」


と彦馬。

丈瑠と彦馬

「何だ。ジイも孫の処に行くんじゃないのか?」


 丈瑠は少々の寂しさに浸りつつも、悟られまいと、こんな強がりを見せます。


「何の。孫にはいつでも。それよりジイはこれから、殿に侍以外の生活も体験して頂こうと思いまして。まずはカルチャー教室などいかがで。パンフレットもこの通り。料理、英会話、カラオケ。お、ちなみにジイは、これを。どうです?殿も」


 ギターを手に取り、丈瑠に勧める彦馬。エンディングで披露していた彦馬のギターが、ここに登場するとは!

彦馬と丈瑠

「いい。一人でやってろ」

「試しに持ってみるだけでも。ほら、殿!」


 彦馬と丈瑠もまた、薫と歳三のように、当初の関係に戻って行ったのでした。

丈瑠と彦馬



 侍戦隊シンケンジャー、これにて、一件落着!



 次は、天装戦隊ゴセイジャー!

ゴセイジャーにバトンタッチ



 さて、「シンケンジャー」、皆様はどのような感想をお持ちになったでしょうか。


 私は、近来稀に見る大傑作シリーズだったと思います。現代の侍というモチーフを用い、シリアスな展開で惹き付けられる画面作り、魅力的なキャスト、理知的なシリーズ構成。どれをとっても異色作という呼称を超えた、正にスーパー戦隊シリーズ、ひいては特撮TVドラマにおける傑作たりえたと評価出来るのではないでしょうか。


 今シリーズのブログは、百科事典的なサイトから脱却する意味も込めて、かなりまったりと運営していこうと考えた上でのスタートだったのですが、いざ蓋を開けてみると「適当に書き連ねる」事が出来なくなるようなパワーが作品に溢れており、文字通り「真剣」に向き合わざるを得なくなりました。

 そんなこんなで、毎回結構なボリュームになってしまいましたが、それだけ「シンケンジャー」は面白かったということです。はっきり言って、粗探しなどする余裕もありませんでした。完全に「シンケンジャー」の熱に当てられてしまったのです。


 本ブログの記事を書くにあたっては、録画が不可欠だったのですが、今シリーズは一度もアクシデントがなかったという、運に恵まれました。毎年、何らかの障害があるのですが、これ程障害がなかったシリーズは、「シンケンジャー」が初めてです。何となく、運命めいたものを感じましたね。

 プライベートで時間がなくなったりといった局面はあったものの、モチベーションも衰えることなく、一年間続けて来れたのは、温かいコメントやメッセージを下さった皆様のおかげだと思っています。コメントにレスを付けなくて申し訳ございませんが、この場を借りてお礼申し上げます。


 なお、数年前から百科事典的なサイトを、ごく最近は「見たか?」シリーズを sirmiles.com で展開してきましたが、「シンケンジャー」で完全に燃え尽きてしまったので、「ゴセイジャー」は「SirMilesのマニアックな日々」の方の1カテゴリとして、今度こそ本当にまったりと適当に書き連ねるつもりです。


 一年間、駄文にお付き合い頂いて、ありがとうございました。

 今後とも、SirMilesを宜しくお願いいたします。



 最後に、お知らせ。


 「帰ってきた侍戦隊シンケンジャー 特別幕」が、2010年6月21日発売予定です!


 VSシリーズではない、単独OVは異例中の異例!まだまだ「シンケンジャー」は続きます!