筋柄アクマロ最終編。源太メイン編として、そして十臓メイン編としても機能しており、重層的な構造によって見応えを増しています。
筋柄アクマロは予想通り年内退場となり、年明けからはラストに向けて突っ走るようです。ここで筋柄アクマロを退場させることによって、当初からの対決構造、つまり志葉家対血祭ドウコクを再び強固なものとする為の段取りが垣間見えます。が、それでも筋柄アクマロがただ退場させられるのではなく、シリーズに色々と重要な要素を残して行きました。
源太には、改めて生粋の侍でないが故の苦悩と克服を、十臓には、はぐれ外道という名前に相応しくない、徹底した外道振りを。これらの要素は、シリーズのクライマックスに向かって、軸がブレないよう考えられた配慮ではないでしょうか。予告編では、丈瑠に衝撃的な展開が待っていることを予感させているので、他のキャラクターのポジションをしっかり固めておいて、丈瑠の物語に干渉しないようにしているものと思われます。
源太と十臓に関しては、本編の方で詳しく触れてみようと思います。
では、十臓を中心にキャプ画が通常の三割増しになった本編の方をご覧下さい。
前回からの続き。筋柄アクマロの仕掛けた「裏見がんどう返し」の衝撃により、昏倒したシンケンジャーが、ようやく意識を取り戻す処から開始です。
クローズアップされるのは、源太。源太は同様に昏倒している十臓を見遣り、
「今なら、倒せる!」
と立ち上がって歩み寄ります。源太は、倒れている十臓を前に、スシチェンジャーを握りしめますが...。
源太には迷いがありました。
確かに十臓を倒せば、地獄がこの世に出て来ることはない上に、丈瑠が命を賭けて戦う必要もなくなるのです。しかし、「裏正が十臓の家族によって作られた」ということが、源太の心の中に引っ掛かり、なかなか手を出せないで居るのでした。
結局、源太は十臓の元から走り去ってしまいます。
これは源太の「優しさ」だったのでしょうか。
私はそうは言い切れないと考えます。結果的に、この源太の行動は十臓に対して何の影響も与えることなく、むしろ完全に「無駄」なものだったように描かれており(シンケンジャー側には、改めて源太の心意気を認識させる効果があった)、その突き放し方を見るに付け、この源太の行動は「甘さ」の強調に他ならなかったように思われるのです。シンケンジャーは誰しも家族に特別な感情を抱いている節があるので、源太も例外ではありません。家族というキーワードへの同情と、侍としての使命感との間に、一線を引くことが出来なかったのが、今回の源太でしょう。
さて、彦馬の調査によると、「裏見がんどう返し」の6つの地点からは、正体不明のエネルギーの噴出が止まらず、かなりの被害が出ている模様。丈瑠は、十臓が裏正を使わなければ済む話だと結論付けています。まぁ、このまま十臓が裏正を使わないでいさえすれば、いずれ噴出が止まるなどということの根拠はないわけですが。
一同は裏正の成り立ち、つまり裏正が十臓の家族によって作られたということが引っ掛かっていました。多かれ少なかれ、源太と同様の感じ方ではあるわけです。この会話を少し距離をおいて聞いていた源太は、突如、十臓をわざと見逃したと告白し、詫び始めます。
「怪我してるみてぇだったし、俺一人で何とか出来たかも知れねぇんだ。なのに、あいつの家族とか考えてたら...でも、その所為で沢山の人が危険に晒されたまんまだ」
自分は甘いと自戒する源太は、
「生まれついての侍じゃねぇってのは、こういうところかも知れねぇな...」
と呟くのでした。それを受けて、流ノ介は「確かに甘すぎた」と詰ります。千明はそんな流ノ介を非難するのですが、カメラワークからして突き放した感じになっており、不毛な議論という印象を与えています。茉子は、
「私も、薄皮太夫の時に迷ったから分かる...でも」
と、源太の心情を慮りましたが、源太は、
「戦わなきゃなんねぇんだよな。ホントに悪かった」
と言い捨てて、一人屋敷を出て行くのでした。しかしながら、私が思うに、十臓は人間の姿をしているので、他の面々でもそう簡単にはトドメを刺せなかったのではないかと...。
なお、源太の苦悩は、侍と認められなかったり、寿司嫌いになったりと、割とコミカルに描かれる場面が多かったので、今回のようなシリアスな苦悩は、最終編突入前夜といった雰囲気を感じさせます。
ここで、十臓の過去が回想シーンによって語られます。回想シーンによると、裏正は十臓を止めたいと願う妻の命で作られたことになっているようです。つまり、「家族」とは妻のこと。十臓が妻帯者だったというのは、多分初耳。
出て行く十臓を止めようとして叫喚する妻の元に現れる筋柄アクマロが実に恐ろしい。
そして、十臓は妻の命から作られた裏正を手にします。
裏正の鳴動は、妻の嘆きや悲しみの声。後で、十臓は裏正の正体に初めから気付いていたと明かしますが、この鳴動の中に妻の感情を見たのかも知れません。
それにしても、この回想シーンを見るまで、十臓が不治の病に侵されていたということを忘れてました(笑)。
処替わって、未だ苦悩のさなかにある源太。
「侍がクリスマスじゃねぇよ!やっぱり俺は寿司屋か!」
と、調達したクリスマスツリーをパッと叩くような仕草をします。
そういえば、時期的にクリスマスネタも絡んでいましたね。実に多くの要素が散りばめられていることが分かります。
その頃、流ノ介と千明は、それぞれ源太の処へ行こうと考えていました。
強く詰問した者と、それを庇う者。それぞれ接し方は異なるものの、源太が大切な仲間であり、その心情に理解を示しているのも同様なのでした。そんな二人を見て、微笑ましく笑う女性陣が実にイイ。
テロップ邪魔(笑)!
そこに突如ダイゴヨウが飛び込んで来ます。
「親分が、十臓の責任とるって、一人で!」
そしてさらに、筋柄アクマロの襲来を知らせるスキマセンサーの反応が。
源太の危難を予感した丈瑠は、流ノ介と千明に源太と十臓を任せ、茉子、ことはと共に筋柄アクマロを迎撃すべく出陣していきます。
テンゲン寺で、十臓に出会う源太。十臓がテンゲン寺に居たということで、十臓が妻に対する何らかの思慕を抱いているのではないかと思わせる演出が巧み。この後の源太の行動にある種の説得力を持たせています。残念ながら、少なくとも今回に限って言えば、思慕などとっくの昔に霧消していたわけですが。
「寿司屋、何しに来た?」
「行くのか?筋柄アクマロの言う通り、裏正で地獄を...」
「止めたいのか?ならば、何故あの時止めなかった?」
「俺が、寿司屋だから」
「面白いと思っていたが、本当に面白いな」
センテンスこそ少ないですが、深みのある会話だと思います。十臓はあくまで源太を侍ではなく「寿司屋」として認識しており、源太自身も、自分が侍とは違うという認識から、自ら「寿司屋」だと答えています。絶妙です。
一方、丈瑠達はナナシ連中との斬り合いに投入していました。
では、源太はどのように落とし前をつけようとしていたのかというと...。
サカナマルを置き、突如ひざまずくという驚愕の行動に。
「俺はやっぱり、侍になりきれねぇ。外道衆は許せねぇけど、家族の魂救いてぇって奴は、どうしても剣で止められない...だから、だから頼むしかねぇ。裏正を、諦めてくれ。この通りだ!」
この源太の「土下座」を、冷ややかに見下ろす十臓。
「そうだな。たしかにお前は侍には向いていない。寿司を握ってる方が似合いだ」
寿司を握っている方が似合いだ等と言いつつ、蛮刀を振り下ろす十臓!
今回の十臓は、人間らしい感情が露程も感じられない仕様になっており、その徹底した冷徹さが、驚愕のクライマックスの安定感を高めていると言えそうです。
斬られるのを覚悟する源太。しかし、駆けつけた千明と流ノ介がそれを阻止します。
千明の、
「うちの六人目が何だって?」
というセリフ、流ノ介の、
「我々はこの男程、人が良くない。遠慮なく力ずくで行くぞ!」
というセリフが、気が利いていて良いですね。そして、そのまま十臓との激しい立ち回りに突入!
素面でのアクション、非常に充実しています。2対1という構図なので、殺陣の段取りも複雑になっています。ひとしきりの打ち合いを経て、十臓は、
「下らん!」
と吐き捨てて筋柄アクマロの元へ向かいます。
「情けねぇ...考えた挙句に、俺はこんなに甘い」
自らの行動に悔恨の念を隠せない源太。そんな彼を、流ノ介と千明がフォローします。
「それでこそ、源ちゃんだろ。カッコ良かったよ」
「私にはとても出来ない。源太、多分お前のような侍が、私達には必要なんだ。殿達もきっとそう思ってる」
「行こうぜ!地獄なんか、この世に出してたまるかよ」
流ノ介も千明も、源太の存在意義を最大限に認めています。感動的ですね~。
その頃丈瑠は、ナナシ連中を一掃し、スーパーシンケンレッドとなって筋柄アクマロに立ち向かっていました。あらゆる要素を凝縮した為か、テンポの速さが尋常ではありません。
そこに十臓が出現。遂に、筋柄アクマロに手渡された裏正を手にします。
裏正の音が鳴り響き、十臓も満足げな様子で裏正を眺めています。
「おお...ご家族も喜んでる様子。さぁ、早く!魂の解放を、そして、我には地獄を」
筋柄アクマロの地獄への執念は、丈瑠の放つスーパーモウギュウバズーカの弾丸をも跳ね返します。
跳ね返されたスーパーモウギュウバズーカの弾丸に、丈瑠達は変身解除の憂き目に遭います。
その間、筋柄アクマロは十臓に最後の仕上げとして、岩を斬るよう促します。十臓は暫く裏正を眺めていましたが、遂に動き出します。裏正を上段に構え、静止。
ところが、十臓はおもむろに身を翻し、筋柄アクマロを切り捨てるのです!
過度なスローモーションを導入し、その身の翻しの唐突さを強調しています。これは凄い。
「裏正の正体など、初めて見た時から気付いていた」
「では、家族と知りながら二百年も裏正で人を...」
「外道に堕ちるとは、そういうことだろう。もはやこいつも、一蓮托生」
顔に掛かっていた髪が風になびき、真の外道たる瞳を見せる十臓!
十臓関連の演出は鬼気迫るものがあり、非常に迫力があります。
そして、トドメとばかりに筋柄アクマロを貫く十臓!
「元の切れ味だ。礼を言っておこう」
と毒付き、ニヤリと笑います。
以前、裏正の正体を知らぬまま、十臓が人斬りを繰り返し、筋柄アクマロの思惑通りに事が進んでいたと解釈しましたが、見事そのあたりを外されたわけで、非常に気分がいいです。こういった予測不可能な展開は好きですねぇ。にしても、この十臓の悪辣振りは、源太の寿司を気に入ったと言っていた頃とは、随分異なる印象であることも確か。まぁ、寿司の味がどうこう言うことに関しては、人の情は不要なので、筋は通っていますが。
さすがの丈瑠も、十臓の様子には戦慄に似た感情を覚えたようです。
源太も困惑し、
「何なんだよ、あいつ...何なんだ?」
と、自らがとった行動の空疎加減を思い知らされることになりました。この時の源太の受けたショックは、計り知れないものがあったでしょう。
薄皮太夫が現れ、筋柄アクマロを嘲笑します。
「アクマロ、人でないお前が、人の情を頼みにしたのが失敗だったな」
目論見の外れた筋柄アクマロは、
「十臓さん、あんたさんこそ本当の外道でござります」
と精一杯の皮肉を投げかけます。
十臓は、
「だとすれば、俺にやらせても無駄だったというわけだ」
と裏正を構え、「裏見がんどう返し」の最終ポイントである岩の前に再び立ちます。そして、一刀両断!
これが、サブタイトルの「最後の一太刀」でしょうか。見事、岩は砕け散りましたが、何と、「裏見がんどう返し」は岩のあった地点を起点に、次々と消滅していくのでした。この「裏見がんどう返し」は人でも外道でもない者によって達成されるものでしたが、十臓は真性の外道へと成り果ててしまった者であった為、達成されることはなかったのです。
この状況が、さらに源太の「同情」を空疎なものへと追い込んでいきます。十臓が裏正を再び手にすべく、筋柄アクマロの言う通りに岩を両断したとしても、結局「裏見がんどう返し」は達成されることはなかったわけで、今回、例えばシンケンジャーが一切手出ししなかったとしても、結果としては変わらなかったということになります。源太の行動、そしてそんな源太を取り巻くシンケンジャーの面々の行動は、この「裏見がんどう返し」の件に関しては、まるっきり無駄になってしまいました。
万策尽きた筋柄アクマロは、衝撃波を乱射して暴れまくります。十臓の一太刀で事切れれば、凄まじい迫力と余韻を残すエピソードになったのですが、そうはいかないのが年末商戦という要求(笑)。ここからは、各種アイテムを連発して要求に応えていきます。
再び変身したシンケンジャーには、源太が烈火大斬刀・大筒モードを構え、丈瑠がスーパーモウギュウバズーカを構えるという、源太との信頼関係を思わせる構図が用意されます。
初登場の「烏賊五輪弾」と、「外道覆滅」が炸裂!筋柄アクマロの一の目撃破と相成ります。
筋柄アクマロの二の目は、切神の助力を得ての大乱戦。シンケンオー、モウギュウダイオー、ダイカイオーミナミ、ダイゴヨウで迎撃です。単体ロボの総登場が泣かせます。
モウギュウダイオーとダイゴヨウとで、筋柄アクマロを迎え撃ち、シンケンオーとダイカイオーで切神に対処します。
登場体数が多いにも関わらず、うまく処理されています。
ダイカイオーヒガシにチェンジし、シンケンオーの「ダイシンケン侍斬り」と共に「海老バサミ本手返し」を放つ源太。これにより切神を撃破します。ちょこっとイカシンケンオーで丈瑠を援護するカットをはさみ、いよいよサムライハオーで筋柄アクマロとの対戦になります。
筋柄アクマロは「モヂカラ大弾円」を弾き返し、その強さをアピール。
「シンケンジャー、あんたさん達だけでも、地獄へ!」
既に目的を失って、言動が支離滅裂になっている筋柄アクマロ。その様子が却って恐ろしさを感じさせます。ここで、源太は恐竜折神を使うことを思いつきます。サムライハオーに恐竜折神を装備し、遂に全折神の集合体の完成です。
そして、「十二折神大侍斬り」が炸裂!
「この痛み、見えた...これが、これが!」
満足げにせせら笑いつつ散る筋柄アクマロ...。
この真っ二つ、怖い~!最後の最後で、地獄を見ることが出来たのでしょうか。
源太には釈然としない何かが残り、一本締めも行われませんでした。
帰路、源太はふと、
「外道衆...か」
と呟きます。丈瑠は、
「倒さなきゃいけないんだ。俺達が」
と応えます。
「ああ」
源太は丈瑠の言葉に頷き、改めて外道衆との戦いを決意するのでした。が、冷徹なまでに外道衆を追い詰めるという覚悟は、かつて茉子が彦馬に戒められたもの。人の情が侍と外道衆を隔てるものであることも、また確かなわけです。
しかし、クリスマスという時期が彼らの心に潤いをもたらします。この展開は実に巧いところ。
屋敷に戻ると、ダイゴヨウの口添えで、彦馬がクリスマスツリーを持ち込んでいました。
「親分!今時、侍だってクリスマスぐらいしやすぜ!」
とダイゴヨウ。源太も笑顔を取り戻し、早速、皆で飾り付けを始めます。
茉子とことはに促される丈瑠が、これまた微笑ましいですね。
ところが予告編には、今回の余韻を完全に霧散させる程のインパクトが...。新春第一弾、期待して待ちましょう!
それでは皆様、よいお年を。
匿名
『裏見がんどう返し』は外道と人の隙間に居る者、はぐれ外道で成功できる。
なら、この世のものでもあの世のものでない通りすがりの仮面ライダーさんでも良かったわけですね(黙