前回までで巧くまとまってきたシンケンジャー。最終決戦への段取りとしては順調そのものといった雰囲気でしたが...ここに来て、丈瑠の本当の意味での段取りがお膳立てされることに。
巻き戻しとか蒸し返しとか、そういった言葉も脳裏に浮かんだものの、考えてみれば十臓はまだ虎視眈々と丈瑠との再戦を狙っているわけだし、例え丈瑠が彦馬に対する深い優しさを見せたとしても、丈瑠の根源が変化したわけではないということを、きちんと見せておきたい意図もよく分かります。これは、直線的で安心感のある展開を見せた前作「ゴーオンジャー」とは対照的で、テーマ性の確認を重層的に、かつ反復的に行う方向性を示唆しており、実に重厚です。かといって、戦隊シリーズに不可欠な、明朗快活な爽快感が失われているわけでもなく、そのあたりのバランス感覚は素晴らしいものがあります。
今回を見終わると、十臓は丈瑠の一面を映し出す鏡になっていることが分かります。十臓は丈瑠の中にある「強さ至上主義」をえぐり出す存在であり、その「強さ至上主義」が丈瑠の中で薄くなることにより、逆に十臓の存在が脅かされるわけです。十臓の「つまらん」という一言が、それを端的に表現しているように思います。
丈瑠の苦悩を表現する為に、茉子が配置されているのも巧いところで、少なくとも丈瑠と対等の(というより、丈瑠よりやや上の)精神性を有する茉子でなければ、丈瑠を含めた周囲を客観視出来ないでしょう。さらには、悩める者の気持ちに寄り添うことの出来る茉子ですらも、丈瑠の真意をはかりかねているという展開を持ち込むことで、より丈瑠の苦悩を強調しているのも巧みです。
では、重い展開ながらもバトルシーンが数多く配された、今回の見所をまとめてみましたので、どうぞ。
冒頭からいきなり怪しげな雰囲気です。筋殻アクマロは、「旗上島」という島で、何やら祈祷を行っています。
呪文を唱え、札を焚くという、真言っぽい雰囲気が実にミステリアスです。筋殻アクマロのモチーフは「公家」あたりからだと思われるので、この陰陽師っぽい雰囲気には納得がいくというものです。
筋殻アクマロが焚いた札は黒い灰と化し、その灰が島に降り注ぎます。私を含め、(田舎で)焚き火等で紙を大量に燃やしたことのある方なら経験があるでしょうが、この灰の舞い上がり方といい降り方といい、結構リアルで思わず笑ってしまいました。
この灰が島の住民に付着することで、人それぞれが争いを始めます。
この札を焚く炎を燃やし続けるよう、誰かに指示する筋殻アクマロ。その視線の先には、十臓と薄皮太夫が。
筋殻アクマロが、単純に十臓と薄皮太夫に炎の番をしろと言うわけがありません。その依頼の真の内容は、いずれシンケンジャー達も気付いてやって来るだろうから、炎を宿す祭壇を襲撃される前に阻止してくれということです。
当然の如く、この島の動きはシンケンジャーにキャッチされていました。
彦馬によれば、島民と連絡がとれなくなったという報告があり、様子を見に島に入った人は居るものの、島の者達が襲い掛かってくるというのです。「まるでホラーのようだ」という感想を持つ千明。ただし、ホラーで多用される閉鎖空間の恐ろしさが、本編に活かされているわけではありません。
早速、旗上島にやって来た丈瑠達。
島の風景はのどかなもので、大した異変は感じられませんが、早くも嫌な気配があると気付く茉子が秀逸です。とりあえず、3チームに分かれて捜査を開始。丈瑠と茉子、流ノ介とことは、千明と源太という順当なチーム編成が目を引きます。
島の中は、鉄条網等が張られたり、住民が隠れるように家の中へ入るなど、やけに警戒厳重です。ここで、筋殻アクマロの仕掛けた術が、互いを争わせるのではなく、互いに疑念を持つという、より精神的なものであったことを明確にします。
ここからはそれぞれのチームが遭遇する現象を追っています。
千明と源太は島民から石を投げられ、更に軽トラに追いかけられるという、大変な目に遭います。
流ノ介とことはは、彼等を見て逃げる少年を見つけ、追いかけていました。二人は、この少年を捕まえ、落ち着かせると、この島で何があったかを聞き出そうとします。
丈瑠と茉子は、カップルに襲われます。このカップルは、事件の初端でいきなりいがみ合い始めたカップルであり、互いが互いに疑念を持ち、敵視していることを示しています。面白いのは、このカップルが互いに互いに仇を為す為に、丈瑠と茉子を呼んだのだと解釈しているところです。
ここでの丈瑠と茉子のアクションが工夫されていて、あくまで一般の人々であるという意識の元、ほぼ護身に徹しています。これにはなかなか感心しました。
なお、今回はほぼ丈瑠と茉子がメインになりますが、事件の手掛かりを得るのが流ノ介とことはのチームとなっており、メインを張るチームばかりにスポットを当てないバランス感覚の良さを見ることが出来ます。
さて、流ノ介が少年から聞き出したところ、不思議な黒い灰が降った直後に異変が起こったことが分かり、その旨を丈瑠に報告します。
「灰を浴びた途端、家族も友人も関係なく、全て自分の敵だと思い込んで戦ったり逃げたり...」
という報告により、この島で起こっていることがより明確になります。他人との繋がり、双方向性をテーマとしている「シンケンジャー」において、この「周囲が全て敵」という構図は、際立って分かりやすいアンチテーゼになります。
なお流ノ介の報告によると、その灰は、島の中心に位置する山から噴き出しているらしく、丈瑠は、すぐさまその山への集合をかけます。
今更ですが、ショドウフォンには同時に複数の相手と通話出来る機能があるようで、これはこれまでも少しばかり描かれていましたが、ここまではっきりと複数人による通話が示されたのは初めてではないでしょうか。この複数人同時通話機能は、戦隊シリーズ黎明期から、もっと言えば「ウルトラマン」の時代からある、高性能通信機のイメージを投影していると言えるでしょう。
そして、3チームに分かれたことにより、敵の襲撃もダイナミックに描くことに成功しています。
流ノ介とことはの前には薄皮太夫が、千明と源太の前には筋殻アクマロが、そして、丈瑠と茉子の前には十臓が現れます。丈瑠に十臓は順当としても、茉子と薄皮太夫の因縁はどうなったのかという疑問が浮かびます。しかし、それは後半できちんとフォローされており、決して構成力に難があるわけではなく、抜かりなしです。
十臓は、
「相変わらずの雇われ仕事でな。...が、少しはまともに戦わねば、飢える」
と丈瑠に呟きます。丈瑠は当然、
「今そんな暇はない」
と突っぱねますが...。
一方、筋殻アクマロと対峙する千明と源太は、
「やっぱり外道衆の仕業か。島の人達に何をした!?」
「人が人との繋がりを無くし、ただ争うのみの、人として最下層な世界。これこそ三途の川の水を呼び込むのに相応しい」
という問答を展開。私はこの島が閉鎖空間であることを利用して、シンケンジャーに周到な罠を仕掛けたのだと思っていました。確かにその一面はあるものの、真の目的は「三途の川の水の呼び込み」にあったのです。この辺り、割と愉快犯的な骨のシタリの作戦より、一貫性があると言えます。
ここで、千明と源太はは筋殻アクマロによって例の灰を浴びせられてしまいます。見事、筋殻アクマロの術中にはまってしまった千明と源太は、哀れ、島民と同じ状態に陥ります。
「源太...お前、アクマロと組んでんだろ」
「お前こそ、最初っから俺を狙ってたんだろ」
千明と源太は生身のままシンケンマルとサカナマルを構え、そのまま斬り合いを始めてしまいます。先のセリフ、普段「源ちゃん」と呼んでいる千明が「源太」と呼んでいる等、その豹変振りがハッキリ示されていて良いです。
一方、薄皮太夫の追撃に遭遇した流ノ介とことはは、保護した少年を守りつつ、戦っていました。
少年を守るという不利な状況ということもあってか、早速変身して戦ったにもかかわらず、薄皮太夫の猛追に敗れ、川へと転落してしまいました。
一方で、丈瑠と茉子も変身して十臓との戦いに突入。ここでのアクションは、かなり明確な味付けがなされています。その味付けとは、シンケンピンクを庇う仕草が多く盛り込まれているのと、シンケンレッド自身、やや受動的な動きを多用しているといったものです。それは、直後の十臓の指摘への秀逸な誘導になっています。
「シンケンレッド...お前、何故弱くなった?」
「何?」
「お前は自分を惜しむようになった」
「...」
明らかな動揺が生まれ、十臓に斬り倒されて変身が解ける丈瑠。かなりの衝撃度です。
「つまらん...」
この十臓の表情が凄い。以前は丈瑠と顔をあわせるや否や、ニヤリと口の端を上げて見せていたのに、今回は正に「弱い者を蔑む」といった目線であり、唐橋さんの豊かな表現力を垣間見られます。
十臓は去り、丈瑠はそのまま昏倒...。茉子が丈瑠の名を呼び続けるという、凄惨な光景に。
同じ頃、千明と源太は警戒心を異常に強めており、完全に島民と同じ状態に陥っていました。これにより、丈瑠と茉子以外は連絡が取れなくなってしまいます。流ノ介とことはは、川岸に泳ぎ着いたところで気を失ってしまっており、彦馬からのコールが虚しく響いています。
最近は新アイテム攻勢が目白押しでしたから、このような静かなる危機描写には、突破口のない、ある種の恐ろしさすら漂っています。
なお、茉子は丈瑠の応急処置を終え、彦馬と連絡を取っていましたが、丈瑠は十臓の言葉が気にかかり、一点を見つめたまま沈黙していました。
ここでシーンは六門船へ。
「またぞろ、お前さんの地獄ごっこかい。よく飽きないねぇ、感心するよ」
「ありがとうございます」
「褒めてないよ...」
今更言及するまでもありませんが、やはり骨のシタリと筋殻アクマロの方向性は完全に異なっているようです。骨のシタリにしても失敗ばかりなので、今回の筋殻アクマロの手際の良さに、皮肉の一つでも言いたくなる気持ちは分かります。
血祭ドウコクは、ススコダマの唄う太夫の三味線の音を聞きつつ、酒を飲んでいます。血祭ドウコクの心中に渦巻くは、薄皮太夫への思慕なのか、それとも?
その薄皮太夫、十臓に皮肉を投げかけていました。
「お前、シンケンレッドにとどめも刺さずに来たようだね」
これに十臓は、
「あれはもう、面白くない。裏正が戻って来たところで、あのまさに骨の髄までバラバラになる程の戦い、望むべくもないとはな...」
と、明らかに失望した様子を見せます。丈瑠は十臓の言葉にショックを受け、他方、十臓は丈瑠の変貌振りに失望しているという...。この二人、志はまるで異なる方向を向いていますが、かなりの面で似ていると言えるでしょう。かつての十臓の「似ている」発言も、むべなるかなといったところです。
茉子は、沈黙する丈瑠を気にかけています。
「気になってるの?十臓が言ったこと。前の戦いで勝ったのは、丈瑠の方じゃない。弱くなったとも思わないし」
「腕じゃない。十臓が言ってた通りだ」
十臓の「お前は自分を惜しむようになった」というセリフに、丈瑠は最も過敏に反応していたのでした。
「悪い事とは思えないけど」
「少なくとも、独りで戦ってた時とは違う」
「確かに。最初の頃の丈瑠とは違うよね。特に最近は。どんどん、何て言うか」
「お前達と戦うのが普通になってる」
「ていうか、皆と一緒に居るのが普通って感じかな」
「...」
「あたしもそんな感じかな。流ノ介達も、そうだと思う。それっていいことじゃない?昔の殿様と家臣とは違うかも知れないけど、あたし達は、これが」
「違う!」
「え?丈瑠?」
「俺は...違う!」
こうして会話を字面で並べてみると、まるで二人の会話が噛み合っていないことが、より明確になります。茉子の主張は、丈瑠が侍という名の呪縛から解き放たれ、仲間との絆を深めているのは、とても良い事だというもの。一方、丈瑠の方は、自分の求めていた強さの方向性が、茉子の言う「強固な絆」ではなく、十臓の言う「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」的なものであると、気付いて(あるいは思い出して)しまったが故のもどかしさです。
丈瑠は、
「いつまでも島の人達を放っておけないだろ!」
と言って、怪我を押して出掛けて行きます。制止する茉子を突き飛ばし...。
思わず放心する茉子と、突き飛ばしてしまったことに対する丈瑠の後悔の表情が、素晴らし過ぎます。こういったシーンは、「戦い」と「悲壮感」という要素のあるドラマでないと、お目にかかれませんね。
道中、丈瑠と茉子のモノローグが挿入されます。
「俺はいつから...いや、分かってて目を逸らしたんだ。よりによって、あいつに...見透かされた!俺に許される筈なかった...もっと...強く!」
丈瑠のこのモノローグ(途中、「見透かされた」だけは思わず口に出してしまうのが秀逸!)は、自分の求めていた「強さ=暗部」を仲間との交流によって隠蔽してきた自分と、それに心底納得していない自分とを、同時に看破されてしまったことへの悔しさが見て取れます。
「丈瑠、どうしたの?何を言おうとして...」
さすがの茉子にも、今回の丈瑠の心情を完全には理解出来なかったようです。「茉子が理解出来ない」という点が、今回の秀逸な仕掛けであり、これにより、丈瑠の問題の深さが印象付けられています。
苦悩しつつも、戦いに身を投じることで迷いを払拭しようと考えたのか、丈瑠は通常より厳しい表情を浮かべつつ、島の中心にやって来ました。丈瑠の姿を目にした薄皮太夫は、
「面倒な...十臓、お前が斬らぬなら、わちきがやるぞ。いいな!」
と十臓に問いますが、十臓はいっこうに答えようとしません。十臓は丈瑠への興味を失っているのです。薄皮太夫は、素早く丈瑠に斬りかかっていきます。そこへ飛び込んで来たのは茉子。丈瑠を庇い、腕を負傷しつつも、シンケンマルを構えます。
このシーン、十臓の無関心振りにやや丈瑠が動揺していたと解釈してもいいでしょう。さもなくば、丈瑠の隙の大きさは、十臓の言う「弱くなった」という発言の確証に転じてしまうでしょう。
「茉子...馬鹿!俺の事はいいから...」
「忘れたの?約束でしょ?命を預けるし、命を預かるって。その約束が丈瑠を弱くするとは思わない。一緒に居て、一緒に戦って、この世を守る!丈瑠、あたしが今言えるのはそれぐらい...」
茉子と薄皮太夫の、激しい斬り合いが始まります。
「茉子...今は、この世を、守る為に!」
丈瑠は迷いを払拭し、変身します。
スーパーシンケンレッドになり、モウギュウバズーカを構える丈瑠。ナナシを蹴散らし、アクマロの祭壇に歩み寄ります。
スローモーションが効果的で、迫力あるアクションに引き込まれていくのですが、どこか退廃的な匂いを漂わせているのが見事。それもその筈、丈瑠は茉子の言葉に目覚めたような反応を示しつつも、自分が冷徹な程の強さを身に付けなければ、この世を守ることは出来ないという結論に達したものと想像されるからです。
一方で、茉子と薄皮太夫もイデオロギーの戦いに及んでいます。
「この世を守るか...。それ程の価値があるとも思えんが」
と薄皮太夫。外道に堕ちた発端が、恋人の完全なる裏切りであったが故の発言です。対する茉子は、
「それは、価値を自分で手放したからでしょ!?」
と反論。
なるほど、外道に堕ちた薄皮太夫に一度は同情心まで覚えた茉子ですが、現在はこのような結論に至っているんですね。薄雪には外道に堕ちない道があった筈だと、茉子は考えているのです。理性的な茉子ならではの見解だと納得出来ますね。
進撃を続ける丈瑠は、いよいよ祭壇の前まで来ます。祭壇の前に立ちはだかる十臓!
「撃っていいぞ。もうやり合ってもつまらん」
雇われの身と言いつつ、裏正の存在価値を見失った十臓は、最早筋殻アクマロに何の義理もありません。これは、明らかに自殺行為であり、勿論祭壇を守るという意図も一切ありません。
丈瑠は、何の迷いも見せず、「最終奥儀ディスク」を用いてスーパーモウギュウバズーカをぶっ放します。
火炎弾は、十臓の傍を通り抜けて祭壇を爆破。丈瑠の表情は一切伺えませんが、それが逆に素晴らしい効果を発揮しています。仮面劇ならではの無表情の魅力を、遺憾なく発揮したシーンですね。
祭壇が燃え尽きたことにより、島の人々は元に戻ります。
「わずかだが残っているらしい。俺の肌を粟立たせるものが」
少しばかり嬉しそうな表情を浮かべる十臓。ただし、丈瑠の行為が「俺の肌を粟立たせる」ものだったかどうか、画面だけでは分かり難いのが惜しいところ。
インロウマルにモウギュウバズーカ、これらは確かに丈瑠の戦力を飛躍的に高めているものの、それが十臓の言う「強さ」に直結するものであるとは言えません。インロウマルもモウギュウバズーカも、丈瑠と他の人間との絆がもたらしたもの。十臓程「強さ」に対する感覚が鋭敏な者ならば、このバックグラウンドに気付かぬ筈はありません。
では、十臓の肌を粟立たせるものとは何か。それは、丈瑠の冷徹な「強さ」への希求でしょう。それが、茉子が望んでいるものとは真逆にあるものであることは、想像に難くありません。丸腰の十臓を万が一でも被弾させる可能性があったのですから、「優しい丈瑠」なら「退け」とでも言ったでしょう。そこを、何も言わず、躊躇せずに発射したのですから、十臓はその丈瑠の中に残るある種の冷酷さに反応したのです。
ならば、と十臓は蛮刀を構えます。ところが突如、筋殻アクマロが両者の間に入り、
「そこまで」
と十臓を制止するのでした。
あからさまに動揺する十臓がいい感じです。
「術が破れた以上、無駄な戦いをお二方にさせられませぬ故」
筋殻アクマロは、切神とノサカマタを残して、十臓達と共に去って行きました。「無駄な戦い」云々といったゴタクは、十臓そのものを慮った発言ではないでしょう。まだ十臓を手元に置いて、利用したいという意図を透かし見ることが出来ます。
術が解けた千明と源太、回復なった流ノ介とことはが合流し、切神とノサカマタをダイカイシンケンオーで迎撃するシンケンジャー。たちまちノサカマタを「二天一流乱れ斬り」で撃破します。
いつもの調子で千明が、
「後は切神だけだ!」
と言い、流ノ介が、
「殿、イカテンクウバスターで...」
と進言しようとしたのも束の間、丈瑠は単独で、
「全侍合体!」
と号令。流ノ介は、
「え?、あ、はい」
と、いつもと違う丈瑠の態度に困惑します。
サムライハオーには切神の一切の攻撃が通用することなく、切神は「モヂカラ大弾円」で瞬殺されてしまいます。
この圧倒的な威圧感は、切神に同情すら覚えさせる構図であり、丈瑠の豹変振りを端的に現すビジュアルだと言って良いでしょう。
「これにて、一件落着」
と丈瑠。
「おい、一本締めなしかよ!」
と慌てる源太。
「殿様?」
と不思議がることは。
丈瑠はさっさと戦場を後にします。源太の登場以来、明るい雰囲気で締めくくられ続けた巨大戦も、今回は丈瑠の一存で妙に悪い後味を残す結果となりました。パターン破りを心情描写に当てるという手法が光る、秀逸なシーンです。
エピローグも非常に重苦しい雰囲気。初期の頑なな丈瑠の様子が思い出されます。いつものようにはしゃぐ流ノ介、千明、源太でしたが、丈瑠は一人思いつめて去っていくという構図です。茉子の、
「何が...」
という短い疑問のセリフが、その閉塞感を高めます。
「茉子ちゃん、殿様、何かあったん?」
ことはの質問に、はっきりとした答えを出さない茉子。要するに、茉子は丈瑠が何を考え、思いつめているかを理解していない為、あえてはぐらかしたわけです。
何ともやるせないエンディング。次回以降のカタルシスが期待出来そうですね。
一方、
「太夫...!」
と血祭ドウコクがススコダマを握りつぶします。このススコダマは、薄皮太夫の三味線を真似て歌っていたヤツです。
どうも、血祭ドウコク、薄皮太夫との因縁浅からぬようであり、筋殻アクマロや十臓と行動を共にしている状況に、我慢ならなくなってきたようです...って勝手に想像してますが。次回はいよいよこの血祭ドウコクが出陣するようなので、丈瑠の様子と併せて堪能したいところです。
竜門 剛
クライマックスの丈瑠と十臓の件ですが、私の解釈としては、あの場面、世のためと言うのなら丈瑠は十臓ごと祭壇を撃つべきだったのだと思います。多少卑怯に見えるかもしれませんが、大義のためならば、許される行為だと思います。
しかし、それをしなかったのは、本文中でも書かれていますが、丈瑠の強さへのこだわり、十臓ともう一度戦ってみたい、ちゃんと決着を着けたいという、侍というか剣士としてのプライドみたいなものがあったのではないでしょうか?
大義よりプライドを取るというのは、将としては問題があるわけで、そこがある種の歪みなのでは・・・?