流ノ介と千明が両手を繋がれ、強制的に行動を共にしなければならなくなるという、シチュエーション重視のエピソード。こういった非現実的なシチュエーションを、楽しい雰囲気たっぷりに描くことが出来るのは、やはり戦隊シリーズならでは。その上、流ノ介と千明という、「シンケンジャー」における対極を為すキャラクターを配するという、面白くならないわけがない展開設計が、実に楽しいです。
もし、このエピソードが「シンケンジャー」のシリーズ前半に配されていたら、一体どうなっていたか...。千明の腕が上がり、互いを分かり合いつつある現在だからこそ、今回のような展開が可能であったのは、もはや説明するまでもありません。戦いのない状況に至っても、流ノ介と千明の息がピッタリだという描写こそ、やや唐突に映りはするものの、これまでのエピソードの積み重ねの中、確実に両者の距離は縮んでおり、それを改めて認識させるにはうってつけだったと言えるでしょう。
特に、両手を繋がれてしばらくは、互いが全く歩み寄らないのに対し、クライマックス直前では、互いの長所を認め合って息を合わせていくというくだりは、正にシリーズの縮図であり、二人の関係を端的に表現するに充分だったのではないでしょうか。その辺りは、本文の方で振り返ってみたいと思います。また、シチュエーションをアクションに生かすという、JAEならではの素晴らしい技を見ることが出来るのも、今回の楽しみの一つです。両手を繋がれたまま、アクロバティックなアクションを繰り広げる様子は、正にアクションで空間を演出するというJAEの伝統美。これには思わず主題歌どおり「拍手の嵐」ですね。
では、本編の方をご覧下さい。
冒頭は何気ない志葉家の風景から。千明が、ショドウフォンでゲームを楽しんでいる様子が描かれます。モヂカラの発動、通話、メールといった基本機能に加え、彦馬が披露したワンセグ機能、そして、今回判明したゲーム機能のあることが分かり、結構多機能であることが示されました。変身アイテムの現実感を描出するという方針は、なかなか面白いものがあります。
そこへ、二人の黒子が古いタンスを大事そうに抱えてきます。が、一人の黒子が足を滑らせ、タンスは落下!しかし間一髪、流ノ介と千明が受け止めるのでした。
その後、流ノ介と千明はタンスを目的の位置まで運んでいきます。その際の二人の息は、まさにピッタリ。これには、彦馬や丈瑠達も思わず頬を緩めます。
最初期の二人の対立振り(というより、あまりにもポジションが離れすぎていて、接点がなかった)を振り返れば、いかにシンケンジャーの結束が固まっているかが分かります。息がピッタリというのは、前述の通り、やや唐突ではありますが、これまでの経緯を踏まえれば、決して不自然ではないでしょう。
さて、談笑も束の間、スキマセンサーに反応があります。今回のアヤカシは、モチベトリ。全身を白い餅のような物体に覆われている、少々コミカルな味付けのアヤカシです。
声を演じた「りーち」なる人物は、そのクレジットにおける(チョーさんに匹敵する)インパクトから、一体何者なのかと興味が沸きますが、どうもアヤカシや十臓のスーツアクターである清家利一さんということらしいです。JAEの方々は芸達者ですねぇ。私は高木渉さんに声が似ていると思いました。
即時、モチベトリの迎撃に現れるシンケンジャー。まずは流ノ介と千明が先陣を切ります。ところが、モチベトリの発射するモチツブテにより、流ノ介と千明が両手を繋がれてしまいます。
慌てふためく二人に、自分を倒さなければ一生そのままだと笑うモチベトリ。これが、今回の事件の主幹になります。
源太が合流し、ダイゴヨウを駆使して一気に倒そうとしますが...。
善戦も打倒までには至らず、逃走を許してしまいます。
この源太の善戦振りからは、このモチベトリが戦力的にそれ程優れていないことが分かります。しかも、愉快犯的であまり危険な匂いがしない。つまり、モチベトリは筋殻アクマロ配下じゃないというわけです。
それをはっきり示すのが次のシーン。
すごすごと逃げ帰って来たモチツブテを叱責するのは、骨のシタリでした。ここでモチベトリをかばうのは、何と筋殻アクマロ。シンケンジャーに大きな痛手を与えたとして、モチベトリを評価するのです。本音かどうかは分かりませんが。
「青いのと、緑の奴をワイの技でくっ付けてやったんや」
とその手柄をアピールするモチベトリ。血祭ドウコクは、
「なかなか面白いことするじゃねぇか」
と寛容な態度を示します。骨のシタリは、モチベトリのモチツブテを把握していなかったようで、そんな技が使えるのなら、初めから人間達をくっ付けまくってやれば良かったのではないか、とやや呆れた様子です。この会話が、後半のモチベトリの行動へと繋がっていきます。
一方、志葉家では流ノ介と千明の両手を繋ぎ止めているモチツブテを、何とか切り離そうと、丈瑠がシンケンマルを構えていました。恐怖に耐えつつ丈瑠の一太刀を待つ二人でしたが、残念ながら丈瑠の腕を以ってしても、モチツブテの弾力性の阻まれ、切断には至りませんでした。
流ノ介と千明は、その苛立ちからか、冒頭で見せたようなコンビネーションを全く見せることもなく、喧嘩ばかり。当然日常生活もままなりません。竹刀を手に取り、茉子相手に稽古をしようにも、何も出来ずに茉子にあっさりと面をとられ、モヂカラの稽古をしようにも、互いの動きが全く合わず、文字はメチャクチャ。
いわば、両手を繋がれた事による、非日常的な面白さをここで強調しているわけです。この一連のシーンは実に愉快ですね。
丈瑠は、次の戦いには4人だけで出ると言います。源太は、
「何でこんなに息が合わねぇかね...」
とため息。丈瑠は、
「息が合わないんじゃない。息を合わせようとしないだけだ」
と指摘しますが、
「息どころか、顔も会わせたくねぇよ!こんな奴!」
と反発する千明。冒頭の素晴らしいコンビネーションが無意識的である故に、意識して卓抜したコンビネーションを図ることが、いかに難しいかを強調しています。茉子は、
「休んでた方がいいみたいね」
とクールに言い放ち、ことはも同意見でした。
流ノ介のあがきは、これで収まったわけではありません。流ノ介は、自分達がただの役立たずに堕してしまうことに、我慢がならないのです。
千明はもどかしく思いつつも、休んでいられることを、ちょっとした非日常と捉えているようです。細かいことですが、ここで既に流ノ介の頭の固さと千明の自由な発想の差が見られるのです。
戦いが無理ならば...という流ノ介の焦りは、彼を黒子のお遣いを代行するという行為に向かわせます。千明は当然不満気ですが、流ノ介は、
「少しでも役に立つ為だ!」
とごり押し。両手を繋がれたままの珍妙な二人のお使い道中は、勿論市民に笑われてしまいます。違和感を払拭すべく思案した流ノ介は、突如千明の両手を握り、
「どこからどう見ても、ダンスを練習しているただの通行人にしか見えない!実に自然だ!」
とダンスを踊るように道中を急ぎ始めました。流ノ介のズレた感覚では、通行中にダンスの練習をするという行為が、自然に映ると解釈されるようです。流ノ介のコメディリリーフ振りが際立つと同時に、流ノ介の発想の狭さをも物語っているのです(逆に、充分自由な発想だと映らなくもないですが...)。
と、流ノ介は突如立ち止り、
「一大事だ!来てくれ!早く!」
と千明を強引に引っ張っていきます。何か緊急事態でも起こったかと思いきや、流ノ介の目指す先はトイレでした。
ドラマの構成上、目をつぶっておいても良い要素というものがあると思いますが、トイレは正にそれに当てはまるでしょう。しかし、こうした細かい部分が描かれることにより、事件にリアリティが出てきます。このシーンはその好例でしょう。
丈瑠達は、ダイゴヨウの秘伝ディスク乱射を、シンケンマルとサカナマルで弾き返すという稽古をしています。その目的意識は明確ではありませんが、文脈からしてモチツブテ対策の稽古だったと言っても、強ち外れてはいないでしょう。
稽古の合間、ことはは、
「流さんも千明も、何で息合わへんのやろ。あん時は巧く行ったのにな...」
と冒頭のタンス運びのシーンをふと思い出します。ここで流ノ介と千明が本来持っているコンビネーションを振り返ることで、これから先の展開を補強しています。今回のシーン構成は、特に巧いと感じます。
トイレの後、流ノ介に手を拭いてもらいつつ、千明は、
「何なんだよ...超サイテーだ...」
とぶつけようのない不満を呟きます。流ノ介は仕方ないと開き直っていますが、千明は既にウンザリしており、帰ると言い出します。
「最後まで責任を果たさなきゃ!」
という流ノ介のあまりのしつこさに、遂に千明は折れ、お使いの続行を決心します。その時、千明はふと台車を見つけます。千明は一計を案じ、台車に乗って流ノ介に押してもらうのでした。
両手を繋がれているので、最も移動に適した手段ではありますが、まぁやっぱりそれなりの違和感はありますな。とりあえず、ダンスの練習に見えるよりはマシといったところでしょう。
「千明、お前に言いたい事が一つだけある!」
「ああ、替わって欲しいってんなら、お断わりだからな」
「そうじゃない。お前に感心しているんだ」
「え?」
「まさか手押し車を、こんな風に使うなんて。私には考えもつかなかったからな」
「流ノ介...?」
怒りっぽい流ノ介のこと、「何で私が押す役なのだ!」とか何とか言うかと思いきや、こんな千明評を述べるのでした。これは意外性を見せると同時に、流ノ介と千明の元来のコンビネーションの基盤が、こういった互いの歩み寄りによって成立しているということを示しています。
その頃、モチベトリ出現の報を受けた丈瑠は、仲間と共に直ちに出陣します。流ノ介と千明は、スムーズに済ませたと思しき買い物からの帰りに、現場に向かう丈瑠達を目撃します。
モチベトリは、人々にモチツブテを次々と放ち、建造物に張り付けるという蛮行を繰り返しています。颯爽と登場したシンケンジャーに、モチベトリは妙な余裕を見せます。そして、モチベトリを追いかける丈瑠達は、まんまとモチベトリの罠にかかってしまうのでした。
モチツブテが階段の最上段に仕掛けられており、モチベトリはわざとシンケンジャーを煽り、シンケンジャーの足元を掬ったのです。さらにモチツブテを投げ付けられ、丈瑠達は完全に身動きが取れなくなってしまいました。
「茉子ちゃん、重いって...!」
「何よそれ、失礼じゃない!」
という源太と茉子の会話が最高。絶対的危機じゃない様子を、細かいギャグで表現しています。
「あんさんら、そこで、人間共の苦しむ所、じっくりと見ときなはれ」
というセリフも、シンケンジャーにとっての絶対的危機ではないことを示します。が、人々にとっては絶対的危難。身動きできない丈瑠達を見て、自分達が行くしかないと覚悟する流ノ介と千明の姿がそこにありました。
千明は、丈瑠の「息が合わないんじゃない。息を合わせようとしないだけだ」という言葉を思い出し、流ノ介にある提案をします。
「流ノ介。俺に合わせてくれないか」
「千明...」
「俺の腕じゃ、お前の動きに付いていけないんだ。だから、お前が、俺のレベルに合わせてくれ。頼む、流ノ介」
頭を下げる千明。
「分かった。だがな千明、指示はお前が出してくれ」
「え?」
「私はお前のように自由な発想は出来ない。今一番必要なのは、その自由な発想だ。こちらこそ頼む!お前に全てを委ねる」
流ノ介も頭を下げます。
「流ノ介...行こうぜ」
「ああ」
この歩み寄り、そして双方向性こそが、「シンケンジャー」の重要なテーマであることを、私は常々指摘してきましたが、最近は割とテーマに対してドライなエピソードが多かったこともあり、今回の明確なテーマ性の発露は、やや新鮮に映りました。
流ノ介と千明という、対極にあるキャラクターが互いのポジションを意識する様子は、これまた最終クールに向けての静かな段取りのようにも思えます。
繋がれたまま、変身を果たす流ノ介と千明。特殊な舞のようで、優美ですらあります。
両手を繋がれたままでの名乗りも完璧。この「優美さ」こそが、両者のコンビネーションの発露を如実に示していると言えます。
「この勝負、もろたわ」
と余裕のモチベトリですが...。
千明の的確な指示の元、息の合った攻撃を見せる流ノ介と千明。
この限られた条件下で見せるアクロバティックなアクションが、JAEアクションの真骨頂!
千明を流ノ介が振り回すという、荒業も披露します。実はシンケンジャーには明確な力持ちキャラが設定されていないのですが、実は流ノ介こそが該当キャラクターなのかも知れません。
華麗にコンビ技が決まり、千明のテンションも、
「どうやら俺達の場合、1+1=2じゃねぇみてぇだな!」
といった具合にアガってきます。
こんな具合に、アクションのテンションと、キャラクターの心情描写におけるテンションがシンクロすると、視聴者側のテンションもアガってきます。演出の緻密さも光ります。
勢いに乗った流ノ介と千明は、ウッドスピアとウォーターアローの連続攻撃で、モチベトリの一の目を撃破します。
当然、続いては二の目となるところですが、二人の両手を繋ぎ止めていたモチツブテも解け、ちょっと一段落といった雰囲気がホッとさせてくれます。二の目で巨大化したモチベトリが現れると、間髪入れず丈瑠と源太が牛折神と海老折神を繰り出してきます。モウギュウダイオー、イカダイカイオー、ダイゴヨウのトリプル体勢でモチベトリに臨む丈瑠と源太。こういった組み合わせもアリですね。柔軟性の高さが変化を付けてくれます。
モチツブテを「猛牛砲」で一つ残らず撃ち落とし、「槍烏賊突貫」、「ダイゴヨウ大回転」、「猛牛大回転砲」が次々と決まり、モチベトリは何も出来ぬまま撃破されます。
「一件落着」の頃には、すっかり夕焼け空に。
特撮の夕焼けは、いつの時代もいいものですね...。
エピローグは、流ノ介と千明の復活記念で、源太が寿司を振舞うという楽しいシーンで。
流ノ介と千明の寿司の食べ方がシンクロしていて、丈瑠達はそれが可笑しくて仕方がない様子。それぞれの笑顔がいい感じです。まとめてどうぞ。
想定外の事態に遭遇すると、そのコンビネーションに影が差す流ノ介と千明でしたが、寿司を同時におかわりするシンクロ振りを見るにつけ、そのコンビネーションは鉄壁になったのではないか...と思わせるのがいいですね。コミカルな中にも力強い結束が感じ取れます。
コメント