新たな折神の一大登場編。主役陣の中の特定の人物をメインに据えることなく、榊原家という外部のキャラクターを置くことで、単純なパワーアップ譚ではないエピソードに仕上げています。
オーソドックスな線で行けば、強力な外道衆の登場に合わせて、シンケンジャーがパワーアップする為に必要となる新折神を登場させるという感じになるかと思いますが、今回は、その「強力な外道衆」を筋殻アクマロに当てることは出来るものの、基本的な「危機」を牛折神そのもの由来とすることで、大きな変化をつけています。オーソドックスな線自身は、既に海老折神あたりで用いられているので、この措置は至極妥当であると言えるでしょう。
その牛折神、折神の元祖という設定になっており、牛車をモチーフにすることで、シンケンジャーの基本的なモチーフである江戸時代の、さらに前の時代を思わせるところが見事です。ただし、巨大メカ系の元祖という設定は、前作「ゴーオンジャー」でもキョウレツオーに用いられており、やや二番煎じ的な匂いは否定し難いところ。しかしながら、その辺りは緻密に構成されたストーリーでカバーされているので、些細な指摘事項としてスルー出来るでしょう。
今回、最も強烈な印象を残すのは、榊原藤次なるキャラクター。
志葉家縁の者としては、最も志葉家当主に敬意を払わない人物として描かれており、これまで割と志葉家を頂点とする世界を自然に描いてきた「シンケンジャー」における、一つのカンフル剤として評価出来ると思います。超頑固という性格も素晴らしく、しかも頑固であることの根拠は至極真っ当であるという、正に「鉄板な大人」。言い方に配慮しないならば、久々に骨太な「頑固ジジイ」を見た気がします。これは実に嬉しい。
では、後半の長い尺を、殆ど牛折神大暴れに費やすという、特撮的にも見所たっぷりの今回をご覧下さい。
物語は、丈瑠達が朝起きてみると、全員の折神が居なくなっていたというシチュエーションから。まず、千明とことはの折神が居なくなったことを示しておき、実は他の面々も...という展開にしているところが巧く、千明とことはならば、うっかり折神を見失ってもおかしくないと思わせておいて、後で丈瑠達の折神も居なくなったことを明かすことにより、事の重大さを強調しています。しかし、これ自体は大した事件ではないという二重のフェイクになっていて、冒頭から物語へ引き込む仕掛けになっています。
その時、彦馬が見つけたのは、志葉家に侵入して寝ている少年。
居なくなった折神達が少年の周囲に居り、少年が只者ではないことを示しています。流ノ介が起こすと、
「俺、志葉の殿様に会いに来たんだけど」
と言う少年。少年は榊原ヒロと名乗り、「角笛の山」から来たことを告げます。
ここで彦間は榊原という姓、そして角笛の山というキーワードに反応し、
「角笛の山?では、あの牛折神の」
とヒロに問いかけます。丈瑠は、
「牛折神?」
と、初めて聞く折神の名に興味を示します。
その頃、筋殻アクマロと配下のアヤカシ・ハッポウズは、件の角笛の山を訪れていました。
「シンケンジャー縁の禁断の力、この辺りにあるのは、間違いない。何としても手に入れたいもの...」
という筋殻アクマロ。
この言葉から、「禁断の力」というキーワードが、牛折神を表現しているであろうことを想像出来るようになっています。
ハッポウズの声は、稲田徹さん。「デカレンジャー」のドギーと言えば、戦隊ファンはすぐに反応出来るのではないでしょうか。渋みのある低音ボイスが、ハッポウズにクールな印象を与えています。ハッポウズのデザイン自体は、藤壺やサンゴといった海洋生物をモチーフとした、かなり気味の悪いデザインでまとめられている為、稲田さんの声質とのミスマッチが、キャラクターの特殊性をより際立たせています。
筋殻アクマロは、ハッポウズに「封印を解く一族」の家紋を示し、
「手頃なのが一人、山を離れた様子。ハッポウズ、後は分かるな」
と指示。「手頃な一人」というのは、ヒロのことだということが後で判明しますが、この時点でも十分結びつけることが出来ます。そして、
「腕の立つアヤカシながら、何と言うても禁断の力。まだまだ心許ない。もう少し手駒があれば...」
と呟く筋殻アクマロ。彼の思惑の彼方にあるのは、折れた裏正...!
丈瑠の捨て身の戦法で敗れて以来、十臓は生死不明で行方知れずでしたが、ようやくまた出番が巡ってくることになりそうです。
再び場面は志葉家の屋敷へ。
ヒロは家を出て来たものの、道中で財布を落としてしまっており、腹をすかせていたらしく、出された食事を懸命にかき込んでいました。家出した上に財布を落としたという状況を「ありがちだ」などと笑う千明でしたが、ことはは、家の人が心配していると諭します。こんな細かい部分でのキャラクターの描き分けは、いつもながら感心しますね。
そこに、彦馬が牛折神の資料を見つけ出して来ます。
古きよき時代の特撮TVドラマでは、この辺りが「万能コンピュータの出した回答」で処理されていました。それはそれで味があるのですが、「シンケンジャー」のように古い記録から引っ張り出してくるという手法も、味があるのは勿論のこと、妙なリアリティを醸し出します。私はこちらの方が好きですね。ちなみに私の好きな「仮面ライダー響鬼」でもこのような手法が頻繁に用いられていました。
「300年より更に昔、モヂカラ発祥の地と言われる、角笛の山の者によってつくられた...とのことでございます」
という、彦馬による牛折神の説明はさらに続きがあり、一気に志葉家の由来に言及していくスピード感が凄いです。牛折神が折神の元祖であるらしいということ、志葉家も元をたどれば角笛の山の出だとされていること、牛折神は偶然のような形で出来た折神であり、制御不能であった為封印され、角笛の山で祭られていることが語られます。さらに、牛折神の封印を守る一族の姓は、代々榊原だというのです。
つまり、榊原姓を持つヒロこそが、牛折神の封印を守る一族の子なのでした。しかも、ヒロの家出は、志葉家の殿に、自分が作った牛折神制御用のディスクを渡す為でした。ここで普通のヒーローならば、少年の言う事を信じて早速出掛けて行くわけですが、丈瑠の場合は違います。
「何故暴れないって分かる?」
と、まずは軽く牽制。
「それは...分かるから分かる」
と、やや動揺を見せるヒロ。丈瑠はさらに、
「そんな程度じゃ、使うわけにはいかないな。封印を解いてダメだったでは遅すぎる」
といった具合に畳み掛けます。ヒロは、
「絶対大丈夫だって!信用してよ!」
と食い下がりますが、ここで丈瑠は「分かった。お前の目に嘘はない」などと甘いことは言いません。
「家出して、人の家に忍び込んできた奴をか?」
と、至極真っ当な「大人の意見」を述べるのです。私はここに非常に感心しました。
いわゆるヒーローならば、子供の言う事は無思慮に信用するものですが、そこに敢えてアンチテーゼを呈する姿勢には、感じ入ります。ここで注意すべきは、ヒロが嘘をついているわけでも、悪意があるわけでもなく、真面目に牛折神を制御してみせようと考えていることです。つまり、丈瑠はその姿勢を評価するよりも、手続きのマズさを指摘したわけで、侍のしきたりといった部分にある種の否定的感情を抱いている丈瑠であっても、侍としての礼儀を根底的なポリシーとして抱いていることが、ここで暴かれています。したがって、後で藤次に向かって「礼儀など問題でない」といった趣旨の発言をしたところで、藤次には殆ど響かなかったことも頷けます。
「...何だよ。ウチのじいちゃんと同じだな。昔の言い伝えばっかり信じて怖がってる。シンケンジャーもダメだな」
ヒロは志葉家の屋敷を飛び出して行ってしまいました。この時、丈瑠達はヒロが外道衆に狙われている等とは、露ほども思っていませんでした。
街では、ハッポウズが中学生を拉致しようとしていました。ハッポウズがこの中学生を狙った根拠は、筋殻アクマロによって示された家紋と同じものをあしらった財布を、この中学生が拾って持っていたからです。
そこに変身した丈瑠達シンケンジャーが到着。シンケンジャーとナナシ連中の大立ち回りが繰り広げられます。アクロバティックなチャンバラを展開していて、魅力的です。
やがてシンケンジャーは、ハッポウズの放つ無数の弾丸で危機に陥ります。筋殻アクマロが、ハッポウズを「腕の立つアヤカシ」と評していましたが、それを示す戦い振りです。
そこに源太が合流し、源太がサカナマルを高速で振り回して弾丸を防ぎ、丈瑠が斬り込むという戦法を披露。ハッポウズを一時退散させます。
今回は、丈瑠と源太の巧みな連携がところどころで光っていますが、まずはこの戦闘シーンで端緒を示します。
中学生が拾った財布は、ヒロのものでした。つまり、ハッポウズが狙っていたのはヒロだったというわけです。ここでようやく筋殻アクマロの企みとヒロの存在が線で繋がって来ます。ただし、物語が必要以上に複雑化しないよう、当初から繋がりを要所要所で示唆しており、話自体は非常に分かりやすくなっています。劇中の人物にとっては、ここで線が繋がるのですが、視聴者としてはいわゆる神の視点で物語を楽しむことが出来るのです。
丈瑠達に保護されたヒロは、ゴールド寿司の屋台に招かれます。新しいモヂカラの使い手である源太と、牛折神を復活させ制御しようとするヒロは、互いに意気投合。ダイゴヨウも交えて話が弾んでいます。
この間にも、丈瑠達は作戦会議。ヒロを屋敷にかくまおうと提案することはでしたが、丈瑠は、
「いや、どうせなら家に帰ってもらおう。牛折神についてちょっと興味が出て来たしな」
という結論を出します。ヒロにちょっと距離を置いた姿勢がクールです。丈瑠達は、とりあえず嫌がるヒロを強引に角笛の山に連れ帰ることにしました。
角笛の山。榊原家にやって来た丈瑠達。そこには、ヒロの祖父である藤次が居ました。のっけから気難しそうな雰囲気を漂わせている辺り、演ずる森下哲夫さん、さすがです。ちなみに、森下さんは「メガレンジャー」で敵ボスのDr.ヒネラーを演じていました。悲哀と憎悪が渦巻く人物像を見事に表現したキャラクターとして、Dr.ヒネラーは現在でも高い評価を受けています。
藤次は、流ノ介の後ろに隠れていたヒロに気付き、姿を見せるよう言います。牛折神の封印を解いて制御して見せるというヒロに、藤次は頑としてダメだと言い放つのでした。
藤次の言うには、
「牛折神が暴れたら、街の一つや二つ、簡単に蹴散らされちまうんだぞ!」
とのこと。これにはさすがの丈瑠達も驚きを隠せません。牛折神の暴走は大量破壊兵器に匹敵するようですから、無理もありません。
「でも、俺のディスクは絶対...!」
「絶対などあるか!二度と牛折神に関わるな!いいな」
ヒロは藤次に怒鳴られ、再び飛び出して行きます。ここで丈瑠は、源太にヒロを追わせます。この静かな指示が異様なカッコ良さを醸し出しています。
ここで私は、藤次がヒロの身を案じて、牛折神に関わらないよう言っているのかと思いましたが、それも勿論無くはないものの、第一義として、藤次の榊原家としての使命感が優先していたのではないかと、次の会話から読み取れます。
「志葉家当主とか言ったな、あんたが今の...。悪いが、榊原家は侍ってわけじゃないんでな。殿様への礼儀なんてものは知らん」
「俺もそんなことはどうでもいいです。牛折神について、話を聞きたいんですが」
「話すことなんかない」
榊原家は、志葉家と同様にモヂカラや折神に関わる一族ではあるものの、志葉家に仕える家系というわけではなく、牛折神の封印を守るという役割だけを、代々担ってきたのです。ここで丈瑠と藤次は、キャラクターとしてヒロの対極に置かれ、丈瑠は志葉家のポリシーで動き、藤次は榊原家のポリシーで動いているということが明確化されます。両者とも、ヒロの考えや行動を受け入れません。ただし、丈瑠はヒロをきっかけに牛折神の存在を明らかにしたいと感じ、藤次はヒロによって牛折神の存在が露呈するのを恐れています。ヒロへの関わり方の違いは、この姿勢の違いに端を発しています。
その頃、林の中を歩くヒロを、密かに尾行するハッポウズの姿が...というシーンが挿入され、再び榊原家に場所を戻します。
ヒロが作ったディスクを使えば、牛折神は暴走しないのかとの質問に、
「そんな口車に乗って、ノコノコやって来たんだとしたら、とんだバカ殿様だな」
と答える藤次。怒り心頭の流ノ介と、プッと噴出す千明の対比が鮮やかです。
それ程危険な牛折神に、ヒロは何故こだわるのかという質問にも、藤次は、
「知らん」
の一言。茉子は、
「そう簡単に話してくれる相手じゃないみたいね」
と、やや溜息混じりです。
ここで、藤次の頑固さの理由が、榊原家の使命とは別の場所にあるのではないかという示唆が、突如挿入されます。先程の解釈が揺らぐような小道具、それは、ヒロの両親つまり藤次の息子夫婦と思しき遺影でした。
どうも、藤次は複合的な理由によって、ヒロの牛折神への興味をきつく戒めているようです。
処変わって、封印の場所までやって来たヒロ。好機と見たハッポウズが姿を見せ、「ディスクを使ってみればいい」とヒロを煽ります。
このハッポウズの煽り口上については詳しく記しませんが、非常に悪辣かつクールであり、ハッポウズの高い能力を如実に示しています。敵側が頭脳派で知能犯だと、物語に起伏が生まれますね。
ヒロは、意を決して封印のほこらへと向かって行きます。
「牛折神は、暴走なんかさせない。俺が作ったディスクで、じいちゃん達に見せてやる!」
ここでおもむろに筆を取り出し、ヒロは何とモヂカラを使って見せます。「門」のモヂカラを使い、ほこらに刻まれた「开」と共に「開」の字を完成させて、封印を解くヒロ。
丈瑠達侍以外の者がモヂカラを使うシーンはかつてありませんでしたから、印象はかなり強烈でした。
時を同じくして、牛折神復活の際のものと思われる揺れを感じた藤次は、慌てて外へ出ます。
「やっぱりか...封印が...牛折神の封印が、解かれた!」
藤次の危惧どおり、その巨躯を現す牛折神!
ヒロは早速、ディスクをほこらにはめ込んで制御しようとします。
ところが、牛折神はヒロの思惑をよそに暴走を始めてしまいました。丈瑠達と源太は、それぞれシンケンオーとダイカイオーで牛折神を止めようと出撃していきます。
一方で、ハッポウズは大ナナシ連中に拿捕させようと試みますが、大ナナシ連中は、牛折神の凄まじいパワーに蹴散らされてしまいます。
無数の速射砲が炸裂する様は、まさに大量破壊兵器の趣であり、牛折神の危険性をビジュアルで納得させています。また、突進力の凄まじさも迫力たっぷりに表現されています。
シンケンオーとダイカイオーを以ってしても、牛折神の暴走を止めることは容易ではありません。ダイカイオーは跳ね飛ばされ、シンケンオーは牛折神のパワーに手こずります。
巧いカットがあったので紹介。牛折神はミニチュアで表現されていますが、シンケンオーのスーツとスケールを合わせて作られているわけではないので、合成と遠近を巧く利用して牛折神のミニチュアとシンケンオーのスーツのバランスをとっています。
牛折神の上に乗り、その角をつかむシンケンオー。丈瑠は、
「ヒロ、ヒロ!」
と牛折神の中に居るヒロに、必死に呼びかけますが、ヒロは、
「殿様...」
と呟くことしか出来ません。
牛折神に跳ね飛ばされるシンケンオー。更に暴れまくる牛折神の中で、ヒロは気を失ってしまいます。
いやはや、今回の巨大戦は凄い迫力で、しかも尺が長い!年末商戦ターゲットと思しき牛折神のアピールには、充分過ぎるボリュームではないでしょうか。
ここで次回に続く...となります。ラストシーンは、静かに折れた裏正を映し、そこに現れた薄皮太夫が折れた裏正を手にして...という意味深長なカットで締め括られます。
一時退場していたキャラクターがまた動き出し、単なるパワーアップイベントに留まらない、底知れぬ迫力を感じさせてくれます。次回も非常に楽しみです。
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