第二十六幕「決戦大一番」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 ユメバクラ以外、非常にシリアスな雰囲気で進行し、凄まじい緊張感を漂わせる2クール最終編の後編。

 殆ど全ての登場人物がピリピリしたムードを持ち、まさかの丈瑠と流ノ介の一触即発や、茉子の半ば捨て鉢的に悲壮な決意、薄皮太夫の凄絶な「外道としての決意」など、子供向け番組であることを逆手に取って(つまり、現実世界にあり得ないシチュエーションで)、子供向け番組を逸脱した凄味を見せました。


 勿論、今回最大の見所は丈瑠と十臓の決闘。静と動が織り交ぜられたテンションの高い殺陣に魅せられ、見た目にも存分以上に満足できる決着で締め括られました。


 一方で茉子が割を食ってしまったのは残念。丈瑠の決意に水を差さないという、ここ一番での役回りはしっかり押さえられていましたが、料理というトピックが若干弱くなってしまったのは否定出来ません。

 ただ、論理的な思考を持つ茉子が、非論理的な(=死に急ぐ)丈瑠に同調するあたり、茉子の精神の脆さの一端が垣間見られるという展開は素晴らしいものがありました。


 では、見所満載の本編を何とかまとめてみましたので、ご覧下さい。

 前回、フラフラな丈瑠と源太の前に現れた十臓。十臓は満を持して丈瑠の勝負を挑みます。

十臓

「寿司屋、どけ」

「どくわけねぇだろ!お前、決闘したいんじゃないのかよ!丈ちゃんがこんなんで決闘になんのか!」

「次に会った時と言ったのはそいつだ」


 当然、丈瑠に決闘する体力など残っていません。十臓は、いつもタイミングが悪く、十臓自身もそれが如何ともし難い勝負運の悪さだと気付いているのです。しかも、そこにナナシ連中が大挙して出現。これは骨のシタリによる派遣だと考えられます。

 十臓は、


「何故こうも邪魔が入るのかなぁ」


と変身して、ナナシ連中を斬り倒していきます。まるで自らの勝負運の悪さを呪い、その苛立ちを解消するかのように。源太もその様子に戦慄を覚えます。

十臓 VS ナナシ連中

「寿司屋、お前に免じて一日待とう。寿司が食えなくなるのは惜しい。明日だ。場所はカンナ岬。俺もこいつも飢えてきている。お前が来なければ、適当に人を斬らねばならん。十人や二十人で足りるかどうか...」


 十臓は不敵に笑います。源太は卑怯な脅しだと揶揄しますが、丈瑠との斬り合いしか頭にない十臓にとってはどこ吹く風。半ば十臓の要求は通ったも同然となってしまいました。


 一方、ことはに傷を負わせた薄皮太夫は、新左への思いを抱いたまま去って行きます。傷付いたことはを支えつつ退散する茉子。

 そして、流ノ介と千明はなおもユメバクラと戦っていましたが、ユメバクラは水切れで退散します。


 これで、シンケンジャー達に束の間の休息が訪れます。このシンクロ振りが緩急のコントラストに大きく貢献していますね。


 六門船では、今回の出来事について会話がなされていました。骨のシタリは、


「このままほっとくのかい、太夫を」


と血祭ドウコクに問いかけます。


「さぁ、どうだかな」


とかわす血祭ドウコク。薄皮太夫に対する「憂慮」など微塵も感じさせない血祭ドウコクの余裕が、逆に恐ろしさを感じさせています。しかしながら、若干の苛立ちも感じているようで、夢の中で人間を喰らうという遠回りなやり方を続けるユメバクラに、人間を直接食えと指示するのでした。


「いいかも知(ち)れないな」


とユメバクラは人間界へ繰り出す準備を始めます。


 志葉家の屋敷では、茉子が料理の本を捨てるという光景が。彦馬が驚きを以って茉子にその行動の意味を問いかけると、

彦馬と茉子

「これぐらいしないと、甘さが抜けないから...」


と答えるのでした。普通のお嫁さんに憧れる茉子。憧れというより、それが最大の夢であると語る茉子にとって、料理が上手になるという道を捨て去る事は、正に断腸の思いであると換言出来るわけで、その深刻さは見た目以上なのです。

 茉子は、薄皮太夫との戦いを迷った事で、ことはが傷ついてしまったと考えており、


「あたし、夢の中で彼女の心の傍に居て。だから、外道に堕ちるなんて、理解できないと思ってたのに...でも、迷ってたら守れるものも守れない。だから、もう一度侍として、きっちり覚悟決めないと」

茉子

 その半ば捨て鉢的な悲愴感溢れる覚悟は、彦馬にも充分伝わったようで、彦馬はうなずきつつも何か釈然としないものを感じるのでした。


 その後、流ノ介の提案だったのか、丈瑠と十臓の決闘について会議めいたものが開かれます。流ノ介は、明日の十臓との決闘に、丈瑠を絶対に行かせないと言い、


「殿、我々の使命はこの世を守ること。意味のない戦いは、するべきではありません」


と確固たる思いをぶつけます。

流ノ介

 その上、いざとなれば腕づくでも、と楯突く流ノ介。丈瑠は思わず流ノ介を睨み付け、そもそも対立関係など生じなかった二人の間に、一触即発の空気が漂い始めます。その空気を打ち破ったのは、


「丈瑠しか戦えないんなら、行くべきだと思う」


と呟く茉子でした。その茉子の言葉に意外性を感じ、思わず言葉を失う一同。話が途切れたのを機に、丈瑠は、


「この話は終わりだ」


と言って自分の部屋へと帰って行ってしまいました。源太はどっちつかずの態度で調子良く振舞っていましたが、腕組みをしたまま熱を出して卒倒してしまいます。源太のダメージが想像以上だったことを思わせるシーンですが、コミカルな味付けが張り詰めた空気を和ませてくれました。


 その頃、薄皮太夫は三味線から漏れ聞こえる新左の嘆きを聞き、


「そんなに離れたいのか、わちきから...それもいいかも知れんな。数百年振りに気持ちも晴れる」


と、こちらも半ば投げやりな結論を導き出そうとしていました。

薄皮太夫

 そこに通りかかる十臓。


「ほぅ、それはまた」

「十臓!」

「外道に堕ちる程の未練、たかが数百年で晴れるのか」

「何を!?お前も望んでいることだろう。聞いたぞ、バラバラになって消えてしまいたいと」


 薄皮太夫の揶揄を聞き、嘲笑する十臓。


「それは俺の欲望だ。そこまで斬り合って、ようやく満たされるかどうかの。誰が綺麗に消えたいものか」

薄皮太夫と十臓

 ハッとする薄皮太夫。「骨までバラバラ」という言葉の捉え方が、両者で大きく異なっていたことを示す、格好のやり取りです。十臓の場合は言葉通り、それぐらいの斬り合いでないと満たされない、剣に取りつかれた男の欲望。薄皮太夫の場合も言葉通り、身を焦がす以上の嫉妬と怨恨、そして恋慕。薄皮太夫は、様々に渦巻く感情の中で消えていくことにより、自らの未練が霧散していくものと想像していたようですが、十臓の斬り合いの果てに残るは、無数の肉片と血飛沫であり、本人の言うように決して綺麗なものではないのです。

 薄皮太夫が完全に沈黙してしまったのを見て、十臓は、


「案外と、素直だな」


と言って去ってしまいました。要するに、十臓殺しを命ぜられたにも関わらず、一切刃を向けることも出来ず、その上十臓に外道としての道を諭されたのですから、その感想も当然というものです。


「未練...そうだったな。永遠にお前達の魂を結ばせない。手放してなるか!消えてなるものかぁぁっ!はぐれ外道と蔑まされようと、このまま、永遠に苦しめ!新左!」


 薄皮太夫の凄絶な叫びを伴う「決意」により、再び薄皮太夫の執念は確固たるものに転じたのでした。


 場面は替わり、一人黙々と木刀を振る丈瑠を、流ノ介がジッと見ているという光景。

流ノ介と丈瑠

 丈瑠は自分の決定事項に異を唱える流ノ介を、正直疎ましく感じており、遂に、


「お前もくどいな、流ノ介。どうしてだ!危険な戦いなら今までもあった!」


と流ノ介を詰ります。


「その危険に、簡単に飛び込み過ぎなんです。殿は」

「別に簡単じゃないだろ!」

「簡単です!お守りしようとしているのに、肝心の殿がご自分の命に無頓着では、正直頭に来ます!」


 流ノ介の怒りは至極真っ当なもので、丈瑠に最も従順な(しかし、自分なりのポジションは持っている)流ノ介の内部にくすぶっていた感情があぶり出されました。なおかつ、シンケンジャーのリーダーである丈瑠が抱える、守られる者であり、そして先頭に立って戦う者という矛盾が、ここで暴露されたのです。


「十臓と戦えるのは俺だけだ。それに、志葉家当主じゃなくて、ただの侍としての俺が、戦いたいと思ってる...」


 この吐露は、丈瑠が抱えた「いびつさ」を自ら自覚した瞬間だと言えるでしょう。丈瑠は当主として守られる者ではなく、あくまで侍として戦いの最前線で斬り込んで行きたいタイプの戦士なのです。丈瑠が殿らしく振舞っていることに、どこか無理を感じさせるのは、こういう建前と本音との軋轢が常にあるからです。言うなれば、たまに丈瑠が洩らす「足手まとい」という言葉は、殿としての優しさ以上に、彼の侍としてのエゴイズムの発露だとも解釈出来るわけで、その意味で丈瑠というキャラクターの深淵は決して白くはないという、凄いものだと言えるでしょう。


 流ノ介以外の他の面々は、もう丈瑠がやるしかないと考えています。そんな雰囲気の中でも、千明は、茉子が反対しなかったことを意外に思うのですが、


「倒さなきゃいけないんだから、迷う必要ないでしょ」


と茉子はあまりにも簡単な返答で話を区切ってしまうのでした。彦馬は、やや心配そうな眼差しで茉子を見ています。

 「シンケンジャー」において、沈着冷静な姉貴的存在感を見せつける茉子が、このようなクールな態度を見せることに関して、本来は違和感を感じない筈なのですが、ここで突出した違和感を感じさせるのは何故なのか。それは、茉子が常に持っている優しさが垣間見られないからです。薄皮太夫の一件が無ければ、ここで茉子は丈瑠の身を迷いつつも最大限に案じていたものと考えられます。


 そして翌朝。丈瑠の出陣です。決意の表情で送り出す一同。流ノ介が行く手を阻むように丈瑠の前に現れ、ひざまずきます。

丈瑠の出陣

「殿、一晩考えたのですが、やはりここはお止めするしか」

「流ノ介!」

「いやしかし!家臣としてではなく、私もただの侍の一人としてなら、無理矢理納得出来ないことはなくもないこともないかと...」


 しどろもどろになる様子に、本当は止めたくも、止められない丈瑠の性を理解した流ノ介の心情が垣間見られます。そんな流ノ介を見て、


「お前らしいな」


と微笑む丈瑠。一気に空気が和む感覚が秀逸過ぎます。演出も素晴らしいですね。

 そこにスキマセンサーの反応が。ユメバクラが直接人間を食べるべく出現したのでした。流ノ介はこの状況に際して、


「殿、決めたことです。アヤカシの方は私達にお任せを。ただの侍としての私が、腕が鳴ると。殿、必ずお帰り下さい」


と丈瑠に告げます。この流ノ介の「ただの侍」という発言は、私はフェイクだと思います。殿の背中を押すことも、家臣の一人として必要なことではないか、そう流ノ介は結論付けたものと思われ、その為に、拙いながらも丈瑠の言葉を借りたのだと思います。


「ああ。お前達もな」


 丈瑠は流ノ介にインロウマルを手渡し、互いが必ず買って帰って来ることを約束します。

流ノ介と丈瑠

 丈瑠は、もしかすると十臓には勝てないかも知れないと考えていた節があります。流ノ介は率直かつ純粋ですから、ここで必ず勝って帰る決意を固めたのではないでしょうか。丈瑠も流ノ介の態度に触れ、自分も必ず勝って帰る決意をしたものと思われます。つまり今回、流ノ介の存在がなければ、十臓に勝つことは出来なかったかも知れないのです。真偽はともかく、そう思わせる構成が巧みです。


 そして流ノ介達は、人々を襲い始めたユメバクラの前に立ちはだかります。

一筆奏上!

一貫献上!

シンケンジャー、参る!

 レッドのいないビジュアルが鮮烈です。

 今回のアクションは、ナナシ連中との斬り合いに重々しさをプラスしたものとなっており、決意の重さをアクションに盛り込もうという姿勢が感じられます。


 一方、丈瑠は十臓の元にやって来ました。


「いくつか借りがある。これで一つ返した」


と丈瑠。「決闘に応じる」ことで借りの一つを返したとの意味です。


「充分だ」


と微笑み、変身する十臓。

十臓

 そして、丈瑠も変身します。

丈瑠、一筆奏上!

 今回、流ノ介も見せていましたが、ショドウフォンをクルクルっと回す動作が初めて見られ、非常にカッコいいアクションになっています。


 いよいよ決闘が始まります。十臓は、初めから逆刃で挑み、その本気度の高さを見せています。その一連の殺陣は、真剣勝負然としたものして組み立てられており、丁々発止の剣さばきが実に素晴らしいものとなっています。

シンケンレッド VS 十臓

 基本的に戦隊アクションの剣劇は、斬られる事でスーツに火花を走らせ、迫力をアップさせるという定石を擁しているのですが、「シンケンジャー」に関しては「斬られること」がそのまま時代劇よろしく敗北に繋がっていくので、非常に緊張感があります。


 所変わって、ユメバクラ戦。


「殿、お借りします!」


 流ノ介はインロウマルでスーパーシンケンブルーにパワーアップ。

スーパーシンケンブルー

 一太刀ごとに水飛沫が飛び散るという描写が秀逸で、勝負は短時間で決します。

スーパーシンケンブルー VS ユメバクラ

 まるでシンケンマルが水を纏っているかのような合成が、実に美麗ですね。


 流ノ介は単独でユメバクラの一の目を撃破。ユメバクラは二の目で巨大化を果たします。インロウマルの、メンバーが揃わなくても全折神を召喚出来るという特性を利用し、ダイカイシンケンオーで迎撃するシンケンジャー。しかし、ダイカイシンケンオーの巨体を逆手に取ったか、ユメバクラは飛び跳ねまくって翻弄します。

ダイカイシンケンオー VS ユメバクラ

 これにはシンケンジャーも手出しが出来ません。


 シーンは丈瑠と十臓の決闘に切り替わり、


「思った通り面白い!戦う程に手応えが増す!」


と斬り合いで悦に入る十臓は、優勢に立っていました。並行する戦闘で、それぞれが苦戦に陥っていく様が緊張感を煽ります。

 しかし、先に奮起したのは流ノ介でした。一同が策を見出せずに困惑する中、


「勝って帰る!殿との約束だ」


という流ノ介の一言。冷静さを取り戻した一同は、ユメバクラの攻撃を受け流し、イカテンクウバスターで止めを刺すことが出来ました。

ユメバクラ VS ダイカイシンケンオー


 そして、なおも続く丈瑠と十臓の決闘。流ノ介の勝利の声が伝わったか、丈瑠は静かに必勝の策への決意を固めます。


「そろそろ終わりにしようか」


と余裕の十臓。断崖に追いやられた丈瑠は、遂に十臓の一突きを喰らってしまいます!

シンケンレッド VS 十臓

 右手に握るシンケンマルを落としてしまう丈瑠。しかし、油断した十臓の懐に飛び込んだ丈瑠は、落ちてくるシンケンマルを左手で受け取り、そのまま十臓を斬り捨てます!

十臓 VS シンケンレッド

 裏正をも折る一太刀!この大迫力に言葉を失ってしまいますね。

十臓 VS シンケンレッド

「懐に入る為に、わざと斬られたか...シンケンレッド、見事だ。これ程の快楽、他には、ない...」


 断崖から落ちていく十臓。正に「肉を切らせて骨を断つ」の字義通りの勝利でした。自ら死に急ぐ傾向を見せていた丈瑠は、ここで我が身を傷付けることによって勝利をもぎ取る術を知ったのか。


「勝った...」


 丈瑠は満足気な笑みを浮かべていました。

丈瑠

 この微笑みは、流ノ介達との約束を果たした安堵と、その裏にある斬り合いへの満足感によるものでしょう。丈瑠の勝利は痛みを伴うものであったが故、危険な匂いがする反面、無痛の勝利という「快楽」に陥らないという意味合いもあったのではないでしょうか。


 戦いの後の休息。インロウマルを丈瑠に返す流ノ介。両者に言葉は要りませんでした。

丈瑠と流ノ介

 そこに源太が「ミシュラン寿司」を名乗って参上。豪華な盛り付け寿司を持って来ます。

ミシュラン寿司

 場の空気を一気に陽性にするのが源太の役目であり、このシーンは正に彼の面目躍如でしょう。一同が騒ぎ始める中、少し影のある微笑みを見せる茉子。そんな茉子に、彦馬は彼女が捨てた筈の料理の本を差し出します。

茉子

「覚悟をするのはいい。しかしな、少しぐらい余裕がなければ、外道衆と一緒だ」


という彦馬。厳しく叱咤するだけではない、若き侍達を老練なる視点で優しく見守るキャラクターが活写されていて、嬉しい限りです。なお、この彦馬の言葉は、侍と外道衆が紙一重の存在だということも暗示しています。茉子も、丈瑠も、今回はそのボーダーラインを踏み越えてしまう危険性があったのです。

 しかし、思わず料理の本を抱きしめる茉子の可愛らしい表情からは、その危険性が消えていました。

茉子


 いやはや、まるで最終回のような盛り上がりっぷりでしたが、後半戦をどう見せてくれるのか、否が応にも期待が高まりますね。