第二十二幕「殿執事」

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 「仮面ライダーディケイド」とのコラボレーションというお祭りの余韻も冷めやらぬまま(とはいえ、「シンケンジャー」側ではチラ見せ程度でしたが)、迎えた今回。「祭りの後」状態に陥ることもなく、非常に充実度の高いエピソードとして登場しました。

 タイトルは「殿執事」ですから、丈瑠メインのエピソードかと思いきや、スポットが当てられたのは、ことは。丈瑠の執事振りと、ことはのお嬢様振りを普段とのギャップを前面に押し出してユーモラスに描くのかと想像させつつ、実はもっと重厚でメンタルなドラマを展開。これには見事にやられました。


 前回が、千明のポジションを再確認するという位置付けがなされていたのに対応してか、今回は、ことはに対して同様の趣向が適用されているように感じられます。

 ことはは、侍としての能力はかなり完成されている設定なのですが、とかく丈瑠を絶対的な存在として見ている節があり、その点では流ノ介も同様だという理解を、私を含め、視聴者はしていたものと思われます。しかし今回、流ノ介とことはの違いを丈瑠の発言によって明確化。流ノ介が丈瑠を絶対的な存在だとしつつも、たまに自ら丈瑠を追い抜いてしまう思考・行動力を見せるのに対し、ことはは丈瑠の思考のままに動く感覚で捉えられます。

 結局、それは丈瑠の杞憂であり、ことははことはなりの考えや行動責任を有していたわけですが、そういった面を活写する事こそ、キャラクター掘り下げの巧い手法だと言えるでしょう。そこに淡い恋心といった、ちょっとくすぐったいシチュエーションを持ち込むことで、ことはの微妙な心理を描写しているのも素晴らしいものがあります。

 義久というキャラクターの使い方も実に良く、こういった「お坊ちゃま」はとかく絵空事になりがちなのですが、義久役・永嶋柊吾さんの好演もあって、実在感のある雰囲気を醸し出しています。


 さらに特筆すべきは、ここにイカダイカイオー登場を絡ませるというサービス振りでしょう。ただ、これまでのパワーアップ譚が割とストーリーに密接に関わっているのに対し、今回はかなりドライな扱いであり、実際、ことはとイカダイカイオーにリレーションが全くありません。それでも、「ディケイド」の海東から烏賊折神を取り返したことで、イカダイカイオーの完成に繋がったとしていることや、大空ナナシ連中を巧く利用して、テンクウシンケンオーの出番をそちらに固定するなど、手際の良さは安心レベルに達しています。


 では、本編の方に移りましょう。

 シンケンジャーの世界を描いた「ディケイド」を経て、無事、海東大樹から烏賊折神を取り戻した源太。

源太

「これで、この間考えたアレ、いつでも出来るな。外道衆もビックリだぞ!」


と、何かを企んでいる様子。勿論これは、イカダイカイオーへの侍武装に関する「引き」です。

 烏賊折神の騒動に関しては、一応「シンケンジャー」単体でもちゃんと解決するように描かれていますね。段取りの良さが光ります。


 源太の屋台に、今回のメインゲストである松宮義久が現れます。

義久と源太

「頼みがある」


と言う義久。義久は源太の屋台の初めての常連さんであり、源太にとっては上得意様という以上に、大切な友達といった印象になっています。


 一方その頃、丈瑠は、ことはに稽古のメニューを考えるよう指示していました。

丈瑠とことは

 日頃から、丈瑠の考えに従うことが当たり前になっていることはは、自分の好きなようにメニューを考えるという行為がピンと来ず、難色を示します。後の展開で良く分かりますが、丈瑠は自分の考えに無思慮に従うことはに、自ら考える訓練をさせようとしたわけです。

 当初からしばらく、ことはは自らを馬鹿で不器用であると自認していましたが、最近では、その純粋さがより強調されるようになってきました。要は、ことははそれ程馬鹿でも不器用でもなくなったということです。従って、今回のメニュー作成を遠慮することはの姿は、「考える事が出来ない」のではなく、「丈瑠の思考の影響下から離れ辛い」と十分に受け取ることが出来ます。


 そこに源太が乱入してきて、色々なドレスをことはに合わせようとします。源太の突然の行為に困惑する丈瑠とことは。源太は、「義久の婚約者になって欲しい」と、これまた至極唐突なことを言い始めます。


 ここでオープニング。そしてCMの後は、三途の川のシーンに。骨のシタリがぼやいています。


「夏は難しいよ。ドウコクの力を増えるままに放っておけば、そりゃ、とてつもないものになるだろうけどねぇ。しまいにゃ加減が効かなくなって、この世もあの世も、あたし達諸共潰しちゃうかもしれない。といって寝かせておけば...」


 どうやら、最近血祭ドウコクが姿を現さないのは、眠っているかららしい。しかし、血祭ドウコクの目を覚まさせていれば、この夏という季節に合わせて力が増大し、一巻の終わりになってしまうかも知れない。

 骨のシタリとしては、ドウコクに寝ていてもらった方が良いのでしょうが、寝ていれば寝ていたで...。


 ここでウラワダチが登場。

ウラワダチ、薄皮太夫、骨のシタリ

 ウラワダチが人間界で活動しても、大して三途の川は増水しないとのことで、はっきり言って骨のシタリにとってはどうでもいいヤツなのですが、ウラワダチはとにかく「早く人の甘い命をすすりたい」といいます。


 そうなのです。血祭ドウコクが寝ている間は彼の「縛り」がなく、アヤカシ達は皆好き勝手に行動し始めるのです。

 ちなみに前々回、十臓が「ドウコクの縛りが解けた」と呟いていましたが、どうやら血祭ドウコクの眠りと関係があったようです。


 また、薄皮太夫が十臓を助けたのを、血祭ドウコクは一度だけ見て見ぬふりをしていたらしく、次に十臓に関わった時は、薄皮太夫もただでは済まないようです。血祭ドウコクと薄皮太夫の微妙な関係も気になりますが、ドウコクその人の度量の深さもなかなかのものですね。


 さて、「ことはの婚約」に関する報告を聞いた彦馬は、「松宮家は名門中の名門」の財閥家だと知っていました。まぁ、名門中の名門なら有名で当然ではありますが。義久は、婚約者候補の売り込みの激しさに辟易し、ことはを使ってニセの婚約発表をすることを思いつき、それが今回の騒動の原因になっているのです。

彦馬、千明、流ノ介

 彦馬は、


「何故、ことはなんだ?」


と、素朴な疑問を口にします。確かに、名門ならばそれなりに人脈はあるだろうし、源太の紹介ということに限定しても、ことはより茉子という感覚も、無きにしも非ずです。

 千明は、


「ああ、前に源ちゃんの屋台で会ったことあるんだってさ。もしかして、マジだったり...はないよな。いや、ないない...」


と答えます。実は千明、殆どこの騒動のきっかけを言い当てています。凄い洞察力。さすが、ことはと年齢が最も近いだけのことはあります。

 流ノ介は、


「問題は、いくらことはをご令嬢に見せるためとはいえ、殿がお付きをなさっているということだ」


と情報を付加。流ノ介らしい危惧です。彦馬は当然のごとく、


「何ぃ!?殿がお付き!?」


と声を裏返します。こういった会話はやはり楽しいですね。


 いよいよ、婚約発表を予定しているパーティが催されます。

 義久が登場すると、たちまち義久との結婚を狙うご令嬢が大勢やってきて、義久を囲みます。

囲まれる義久

 義久はこういった状況にこそ辟易しており、殆ど無視したまま、会場へと入って行きます。義久のばあやは、


「坊ちゃま、少しはちゃんとご挨拶なさらないと」


と釘を刺しますが、義久は、


「いいよ。あんな上辺ばっかの奴ら」


と一言。振り返れば、先程まで黄色い声を上げていた女性の一人が、ドレスのデザインの重複に不満を抱き、お付きの者にわがままを言っている姿が。ややステロタイプですが、状況説明にはもってこいです。


 そして、パーティドレスも麗しいことはが登場。源太は、ことはの緊張を解くべく、調子良く話しかけます。義久の親友ということで、ゴールド寿司の屋台もパーティの料理の一つとして招かれていました。

ことは、源太、丈瑠

 源太は、執事役なのに偉そうな態度の丈瑠を注意。


「丈ちゃん!お前の方が偉そうで、どうすんだよ!」


と言って、食べ物を運んでくるよう指示します。


「そんなんいいです!やめて下さい!」


とことは。源太は徹底して、というより、かなり楽しんで雰囲気作りに腐心しており、


「ことはちゃん、敬語は、ダメっ!」


と釘を刺します。


源太「どうぞ、お嬢様...だぞ」

丈瑠「分かってる。どうぞ、お嬢様」


 もうこの時点で思わず笑ってしまいます。あまり困惑せず、意外にノッている丈瑠が実に可笑しいのです。困り顔のことはも可愛過ぎます。

 ここで、義久の口から、ことはとの婚約が発表されます。スポットライトを浴びて戸惑い気味にお辞儀を繰り返すことは。格好が非常にエレガントなのは、森田さんがグラビア等で衣装慣れしているということなのでしょうが、仕草に野暮ったさを込めている所は、演技者としてさすがと評せるでしょう。


 その頃、街にはウラワダチが登場。スキマセンサーの反応を得て、流ノ介達が出動すると同時に丈瑠達にも連絡が入ります。丈瑠とことは、そして源太は、パーティを抜け出し、すぐに駆けつけます。

 変身してウラワダチと対峙する丈瑠。

ウラワダチ VS シンケンレッド

 ところが、ウラワダチはナナシ連中を差し向け、さっさと退散してしまいました。凄まじくアップテンポな殺陣でナナシ連中を斬り倒していくシーンは、もはや時代劇における安定感を感じさせます。

 ナナシ連中を片づけると、丈瑠は、


「もう一度動くまで、待つしかないか」


と一言。企みは不明ですが、ナナシ連中を差し向けて退散するようなアヤカシですから、静観を決め込むのも一つの手段だと判断出来ます。しかし、ウラワダチは静かに、そして密かに企んでいました。義久を見て、


「あった!すすりたくなる甘い命!誰かを好きになったばっかりに...」


と嬉しそうに呟きます。

 そうとは知らず、現場まで追いかけてきた義久は、ことはを食事に誘います。この時点でシンケンジャーは変身を解除していますから、ウラワダチは好機と見たか、義久の服にとりつき、「甘い命」を吸い始めます。

ウラワダチ

 普通のヒーローものならば、そのことに全く気付かないまま事件が進んでいくパターンですが、シンケンジャーは一味違います。何と、全員がその気配を敏感に察知するのです。実にカッコいい演出です。

 義久を見張る為、ことはと丈瑠は食事の誘いに乗ります。あくまでアヤカシ対策の一環として、食事の場に赴くというのが自然。このあたりの構成はやはり見事です。


 そして、食事のシーンへ。ここからは、丈瑠の執事っ振りが存分に見られます。

 まず、何の気なくことはの隣に座ろうとする丈瑠を、義久のばあやが


「あなた!お付きが一緒に座るなんて、何考えてるんです!」


と制止します。ばあやはどうも、ことはが本物の令嬢であり、丈瑠を本物の執事だと勘違いしているようです。このばあやも、抑えた演技が心地良く、妙なリアル感を醸し出しています。


「やめて下さい。あの、皆一緒に...」


と困惑することはでしたが、丈瑠は首を振ってことはを止めます。


「ことはさんは優しいんだね。お付きの人にも」

「いえ、そんなんとちゃうくて...あ、じゃない...ええと...」

「気にしなくていいよ。そういう言葉、聞いてて落ち着くし」


 義久とことははいい雰囲気。ここで、義久の本意が少しばかり垣間見えるところがいいのです。そんな二人をよそに、ばあやは、


「今日は、お勉強させて差し上げます。あたしをよく見て真似なさい。よろしいですね!」

「え...」

「お返事は!?」

「はい」


 困惑しつつ、少々不満気な丈瑠。

丈瑠

 ところが、気持ちを切り替えたのか、ばあやの所作を的確に真似、執事としてエレガントにふるまう丈瑠の姿が。元々スタイルの良さが奏功して、執事の姿も様になる丈瑠、サーブも堂に入っています。

 しかし、ことははそれを見て我慢できなくなり、突如席を立ってしまいます。ことはは、丈瑠に執事の真似事をさせることに耐えられなくなり、気分が悪くなってしまったのです。ことはらしい反応が、実に可愛らしいですね。

丈瑠とことは

 丈瑠はことはを座らせ、自分も隣に座ります。


「あのなぁ、あんまり俺を絶対だと思うな」

「え?」

「俺が居ても、お前はお前の立ち位置を持ってろ...自分の中に。あの流ノ介だってそうしてる。分かるか?」

「うち、あんまり...」

「そうか...」

「だって、殿様は殿様やし」


 微笑んでことはの頭をなでる丈瑠でしたが、この会話、実は齟齬を発しています。

 丈瑠の本意は、ことはに「遠慮せずにお嬢様に成りきっていろ」と言いたいのだと考えられますが、それは結局、丈瑠の意思にことはを従わせることと殆ど変わりません。一方、ことはの方は、完全に「丈瑠に世話をさせることへの遠慮」が爆発した状態。

 流ノ介を引き合いに出したのは、後への繋がりとして的確ですが、ここでことはが席を立ってしまったのは、ことはが自分の立ち位置を無意識に自覚していたからであり、その自覚が、丈瑠への遠慮という形で表出したのです。つまり、ことはが丈瑠にただ従い流されるだけの人間ならば、丈瑠の本意を汲み取って令嬢を演じ続けたことでしょう。


 この微妙な齟齬が、後に丈瑠すら思いつかなかった、ことはの「解決策」に結実していくのは、見ていて爽快です。


 ここで、食事が終わったのか、屋外でのシーンに。

 義久は、ことはだけが、自分の地位や財産に関係なく、優しく接してくれたと吐露。以前、源太の屋台で烏賊折神に驚いて椅子から落ちた時、「大丈夫ですか」と声を掛けてくれたのが、ことはでした。

ことはと義久

「すごく優しくて、それに純粋で。ほかの女の子とは全然違ってて...。ごめん、婚約発表は半分口実なんだ。本当は、ことはさんと...」

ことはと義久

 義久とことは、二人の魅力が炸裂しています。これは本当に甘~い感じですね。そしてその雰囲気そのままに、義久の命が最高の甘さになったところで、ウラワダチが命をより強く吸い始めます。思わず倒れこんでしまう義久。いよいよ動き出したウラワダチに対抗すべく、ウラワダチの取り付いた服を剥がそうとする丈瑠でしたが、


「俺はお前の、あの女を好きな気持ちに張り付いてるんだから!」


とウラワダチは一向に離れる気配がありません。ウラワダチの言葉を聞き、驚くことは。


「好きになればなるほど、それが新しいほど、命は甘くなる。お前の命、今がすすり時だ。甘い!」


 このウラワダチの言葉を耳にして、ことはは咄嗟にある策を思いつきます。モヂカラでの対処を思いついた丈瑠をよそに、突如ベンチの上に立つことは。いきなり傍に寄って来た丈瑠の頬を張ります!

ことはと丈瑠

「何してんの!早くあいつ助けて!折角、お金持ちの嫁さんなれるとこやったのに。台無しや!アホ!アホ、アホ!」


と丈瑠を叩き続けることは。やや困惑しつつ、懸命に芝居をすることはが、もう可愛くてしょうがない(笑)。ことはファンにとって至福の時ではなかろうか。


「ことはさん...そんな...ことはさんも結局...そんな」


 義久は茫然となってしまいました。途端に、命の味がなくなってしまい、ウラワダチは思わず義久の服から抜け出してしまいます。


「お前!わざとこいつの好きな気持ちを消したな!」


とウラワダチ。アヤカシの言で、義久もことはの芝居にようやく気付いた様子です。しかし、義久に再びとり付く暇を与えることなく、源太らが駆けつけてウラワダチを迎撃します。

ウラワダチ VS シンケンジャー

 戦いは始まりましたが、ことはは止むを得なかったとはいえ、丈瑠を叩くなどという芝居をしてしまったことに、後悔の念を抱いています。

ことは

「しっかりしろ」

「うち...うち、殿様を...」

「ああ、良くやった。良く思いついたな」


 丈瑠は、自分の心配が杞憂だったことに安堵し、同時にことはの策の的確さも賞賛します。丈瑠はメンタルに訴える作戦を思いつくことが出来ず、モヂカラで解決しようとしていたのですから、ことはの対処は丈瑠の心にかなり響いたようです。

ことはと丈瑠

「殿様...」

「安心した。お前はお前でちゃんと立ってる」


 ここで、丈瑠とことはの関係は、一歩前進したのではないでしょうか。


 変身する丈瑠とことは!

一筆奏上!

 源太達に合流し、ウラワダチとの戦いを展開します。途中、攻撃に怯んだことはの肩を抱いて庇う丈瑠がカッコ良過ぎます。守り守られる者の双方向性をアクションでも示しているのです。

シンケンイエロー VS ウラワダチ

 ことはは、今回のメインキャラらしく、「シンケンマル・猿回し」でウラワダチを翻弄。そして、丈瑠とことは二人が構える「虎五輪弾」で一の目を撃破します。

ウラワダチ VS シンケンジャー

 テンポの良さは完璧ですね。


 例によって二の目で巨大化するウラワダチ。大空ナナシ連中も大挙登場します。テンクウシンケンオーで大空ナナシ連中を迎撃するシンケンジャー。これにより、ウラワダチへの対抗戦力は、源太の操る折神ということになります。

 早速、海老折神でウラワダチを迎撃する源太でしたが、ウラワダチに海老固めを決められます。

海老折神 VS ウラワダチ

 海老が海老固めを決められるという、珍妙なビジュアルが笑わせてくれます。こういったユーモアのセンスからは、演出陣の余裕すら感じらせます。合成の違和感も一切なし。


「練習の成果を見せる時だぜ!」


 威勢のいい源太の宣言により、烏賊折神がダイカイオーに「侍武装」。フェイスチェンジは「北」を示し、


「キタキタキタキター!」


と音声が鳴り響きます。


「イカダイカイオー天下無双!」


 源太の名乗りも決まり、ウラワダチとの決戦が開始されます。「ダイカイオーキタ」はないのだろうか、という疑問もあることはありますが(笑)、ここではそれを吹き飛ばすような、大迫力のオープン撮影によるシーンが登場。ダイカイオー関連のシーンは、こういった巨大感を煽る演出が効いています。

ウラワダチ VS イカダイカイオー

 一方、大空ナナシ連中とテンクウシンケンオーのシーンは、バンクながら編集の的確さで既視感を抑えています。スーツのシーンは新撮かな?

大空ナナシ連中 VS テンクウシンケンオー

 イカダイカイオーの必殺技、「槍烏賊突貫」が炸裂し、いつものように、勝利の一本締めに続いて一件落着の口上が披露されます。

イカダイカイオー


 エピローグは、やや切ない雰囲気に。


 義久は、自分を助ける為に不本意な芝居をしてくれたことはに、礼を言います。そして、ことはにとっての丈瑠の存在が、いかに大きいものかを告げるのです。

義久、ことは、ばあや

「すぐ気付けなかったのが情けないよ。君の...気持ちにも」

「え?」

「あの人の事大事にしてるの、目の前で見てたのに。悔しいけど、ことはさんが好きになるんだから、きっと凄い人なんだろうな」

「え?大事っていうのは、そういう意味とちゃうくて」

「でも、嫌いになって終わるよりよっぽど良かった」


 こうして、義久は少しばかりほろ苦い思い出を抱いて去っていきます。源太の屋台の常連をやめたわけではありませんから、また会うこともあるでしょう。そんな、爽やかな別れです。

 図らずも、義久に丈瑠への思いを指摘されたことはは、やや茫然とした感じで突っ立っていますが、さすがの茉子も、


「ことは、どうしたの?何かヘンな顔して」


と、ことはの深層心理には気付けない様子。ここで鋭敏な感覚を持つ茉子を引っ張り出してくるところに、職人芸的な構成力を感じます。


「ううん...殿様は殿様やし」


 ことはは、丈瑠への憧憬を抱きつつも、自分の立ち位置をしっかりわきまえて、侍として「殿様」に仕えることを由とするのでした。ことはらしい強さを感じさせる、爽やかな幕切れでしたね。


 多分、今後も丈瑠とことはの関係が、恋愛関係といったカテゴリーの関係へ発展することはないと思います。ことはの感情については、ここはあくまでスパイスとして捉えておく方が的確でしょう。そのスパイスが実に効果的であるという事は、今回のエピローグが如実に示しています。