第十一幕「三巴大騒動」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 何話かにわたって爽やかな成長物語を描いてきましたが、ここにきて突如重苦しい雰囲気のエピソードが登場。

 丈瑠の秘密を明かし、それに対する敵味方各々の反応をつまびらかに描き、それが折り重なっていくことで壮絶な戦いが生まれるという様子を重厚に描いていきます。


 一応メインを張るのは丈瑠。しかし、丈瑠の心情描写に関するセリフやモノローグといったものは一切なく、その心情は丈瑠の表情や行動から読み取るしかありません。

 メインに据えながら、視聴者との距離を一旦離して見せることにより、丈瑠の「殿」という特殊な存在としての苦悩や葛藤といったものを、より強調しています。これは巧い。


 また、今回は、重要な「志葉家の秘密」が明らかになり、先代シンケンジャーの戦いも少しだけ回想という形で描写されます。

 これが実に悲壮で悲惨。「シンケンジャー」のバックボーンは非常に重いドラマになっていますが、今回はそれがこれまでで最も活写されたと見ていいでしょう。


 後半は、丈瑠を狙うウシロブシと十臓を交え、サブタイトルどおり「三つ巴戦」に。

 この三つ巴アクションが本当に凄まじく、JAEアクションの新しい可能性を垣間見せた歴史的瞬間だと断言出来ます。勿論、アクションの内容自体は熟達したオーソドックスなアクションテクニックの組み合わせになっていますが、その組み合わせ方の巧さ、完璧に計算された三者の動きなど、見た目で戦いの意味を納得させるパワーが凄いのです。

 この三つ巴戦を見るだけでも、価値があります。


 では、見所満載の今回を整理してみましたので、どうぞ。

 珍しく、まずは六門船から開始。

 古き良き時代のヒーローものにある、悪の組織の会議から始まるパターンなのですが、当然、そんな簡単な話ではありません。

 血祭ドウコクは、骨のシタリが突き止めた「志葉家の秘密」に怒り心頭。何とこの冒頭のシーン、血祭ドウコクがひとしきり荒れまくるだけなのです。

血祭ドウコク

 ところが、その機嫌の悪さが強いドライブとなって、本編に影響します。

 血祭ドウコクの雄叫びにより、大量のナナシ連中、大ナナシ連中が湧き、街を襲撃し始めるのです。


 茉子とことはがナナシ連中を迎撃。

シンケンピンク&シンケンイエロー VS ナナシ連中

 丈瑠、流ノ介、千明がダイテンクウで、大ナナシ連中を迎撃します。これは今回の巨大戦の代替になっています。

ダイテンクウ

 ナナシ連中が大挙登場するシーンは、「シンケンジャー」においてかなり素晴らしいシーンに仕上がっていることが多いのですが、今回も例外ではありません。

 大ナナシ連中を片づけた丈瑠達が、茉子とことはに合流してナナシ連中相手に大立ち回り。まさにチャンバラを標榜する「シンケンジャー」ならではのアクションが見られます。

 それぞれの得意技でナナシ連中を次々倒すも、続々とナナシ連中が湧いて出て来ます。この「キリのなさ」は、追い詰められるヒーローの図式に換言することが出来、開始早々に危機感に包まれていきます。


 そのうち、ナナシ連中は丈瑠一人を狙い始めました。


「シンケンレッド、志葉の当主...」


というドウコクの不気味な呻きが、隙間から聞こえてきます。

 丈瑠は、ことはのシンケンマルを借り、二刀流で「火炎雷電之舞」を放ち、ナナシ連中を一掃!

火炎雷電之舞

 ここで単純に丈瑠の圧倒的な強さを強調しておくことで、後半において丈瑠が精彩を欠いていく様子が強調されます。さらに、ここで二刀流を登場させ、後半三つ巴戦における二刀流の伏線としています。


 気味の悪さを感じる一同に、丈瑠は血祭ドウコクの声だろうと告げます。

シンケンジャー

 この時の5人の立ち位置が、微妙に今回の立場を象徴しているようで興味深いですね。


 一方、血祭ドウコクは、ひとしきり暴れて酔い潰れてしまいます。機嫌が悪くなるとたらふく酒を飲んで眠ってしまう。血祭ドウコクは本当にそれだけの存在なのですが、後に出てくる回想シーンでは、しっかり「アヤカシの総大将」しています。このギャップがなかなか意味深。


 そして、これはまぁ蛇足的なシーンなのですが、「ススコダマ」が六門船に出ます。

ススコダマ

 大量にぶら下がって来て、何となく可愛らしいのですが、よく見ると結構凶悪な顔つきをしています。


 さて、志葉家の屋敷。

 外道衆が丈瑠一人にこだわりだしたことを、一同は彦馬に報告します。


「殿、血祭ドウコク。どうやら気付いたと見て間違いありますまい」


と彦馬。この「志葉家の秘密」は、秘中の秘。つまり極秘事項であり、流ノ介達にすら伝わっていません。しかも、親からも教えられていないとのことなので、志葉家の血統と側近以外には口外されていないようなのです。

 その「志葉家の秘密」が何なのか。彦馬が流ノ介達に説明するという形で、視聴者にも分かり易く説明されます。


「実は志葉家には代々、ある文字が伝わっている。志葉の人間にしか使えぬ文字だが、この文字こそ、外道衆、血祭ドウコクを封印出来る唯一の文字。先代の殿は、その文字でドウコクを封印された」


 この言葉と共に、先代シンケンジャー達の凄絶な最期が描かれます。彼等が全滅しかけた時、先代のシンケンレッドはその「封印の文字」を命掛けで使いましたが、それが先代殿の最期になってしまいました。

封印

 ここから現代のシーンへの繋ぎは非常にスムーズで、かつ丈瑠の内面に秘められた悲しみ、それに気付いて思わず立ち上がってしまうことはといった、感情の機微の描き方も絶妙なのですが、あえてここは一旦脱線します。

 ここで考察するのは、気になる、先代シンケンジャーの扱いです。


 先代殿であるシンケンレッドは、血祭ドウコクを封印した際に絶命しています。

 シリーズ開始当初、矢が刺さったまま幼少の丈瑠に獅子折神を託した父。血祭ドウコクを封印したのは、この矢をどうにか処理(治癒系モヂカラ?)し、正に瀕死の状態でのことだと想像できます。


 では、他のメンバーはどうか。

 判断材料があまりに乏しいので、この辺りは何とも言えないのですが、この先代シンケンジャーの4人は、本当は死んでいないのではないでしょうか、というのが第1案です。


 志葉家には「代々仕える家臣の家」があるという設定です。その家臣の家系が10家とかあって、ローテーションを組んでいるんだったら別ですが、多分4家しかないと思われます。

 ということは、先代の4人はやはり流ノ介達の「先代」であると考えられるわけです。


 流ノ介の父親は生きていました。他の面々についても、親が亡くなっているという描写はありません。即ち、先代の4人のシンケンジャーは、例の戦いで一命を取り留めたのです。

 この先代殿の死により、忠義心を燃え上がらせて息子に叩き込んだのは、流ノ介の父。

 逆に、子供にそんな思いはさせたくないという考えと、血祭ドウコクが封印されたことによる安堵感から来る楽観から、息子を侍から遠ざけたのが、千明の父。

 こんな風に考えられるのではないでしょうか。


 第2案は、志葉家に仕える家が4家しかないという前提は崩さず、先代シンケンジャーの4人は、あの時殿と運命を共にしたのではないかというもの。

 こちらはもっとドライな考察で、何も家臣の心得は一子相伝ではないということです。

 つまり、流ノ介の父はあの戦いに参加しておらず、シンケンブルーが池波家に属する誰かだという話。ことはが姉の代わりにシンケンイエローになったことは周知のとおり。ですから、「○○家」であれば、誰がシンケンジャーになってもおかしくないわけです。


 果たして、どちらなのか。

 あるいは、全く異なる話なのか。

 いずれは明かされるものと思われますが...。


 さて、脱線はこのくらいにして、本編に戻ります。


 封印の文字にはとてつもないモヂカラが必要とされており、今の丈瑠に、その文字を使う程のモヂカラはありません。先代の殿ですら不完全だったため、血祭ドウコクは復活できたわけです。

 骨のシタリは、他のアヤカシ共に恐れられている、最も物騒な「ウシロブシ」を遣わし、今のうちに丈瑠を潰しておくことに。


 そのウシロブシが行動開始するのと時を同じくして、シンケンジャーも稽古に励んでいました。


千明「先代もその前もマスター出来なかったんだろ?厳しいよな」

ことは「きっと、使えるようにならはるわ。殿様やったらきっと」

流ノ介「そうだ。それまで何としても、殿をお守りするんだ。我々が何故家臣として育てられてきたか。その意味がようやく分かった。殿をお守りすることが、即ちこの世を守ること。我々が殿の楯となって!」


 この会話を物陰から聞いている丈瑠。

丈瑠

 丈瑠は、


「そんな必要はない。自分のことは自分で守る」


と一喝。さらに丈瑠自身の「切り札」としての重要性を掲げて食い下がる流ノ介を、


「却って足手まといだ」


とはねつけてしまいます。

 彦馬は一人静かに、


「ドウコクが気付いたここからが正念場。命を賭けたこの一策...どうか最後まで見守って...」


と志葉家に伝わる鎧に向かって加護を祈っていました。

 このあたりから悲愴感が漂い始めます。

 前回までで、丈瑠と他の4人の関係がかなり滑らかになってきたにも関わらず、ここで再び丈瑠が孤立してみせたわけですが、それにより、丈瑠の特殊性が浮き彫りになります。

 ここでの丈瑠の内心は、恐らく「自分に封印の文字を使えるだけのモヂカラがあれば、4人を戦いにいざなわずに済んだ」という類のものでしょう。また、丈瑠の本心は「守られるのではなく、守る」方に大きく傾いている(つまり、丈瑠は殿と家臣の関係に反発している)ようでもあります。この時点では、流ノ介が最もこの世界の侍の理念に近いというのも興味深いです。

 丈瑠の深い苦悩がここから始まり、丈瑠の強さに陰りをもたらします。


 そこにスキマセンサーの反応が。

 5人が現場に駆け付けてみると、そこには、スキマセンサーの「端末」を持ったウシロブシが立っていました。つまりは、おびき寄せられたのです。

ウシロブシ

 このウシロブシ、マッシブな鎧武者を思わせるスタイルで、その強さを端的に表現するデザインです。これまでのアヤカシにある妖怪っぽさもやや希薄で、斬り合いというシチュエーションに合わせたものとも思われます。

 ウシロブシは丈瑠を名指しし、


「お前にはここで死んでもらう」


と宣言。対する丈瑠は、


「出来るなら、やってみろ!」


と激昂し、ウシロブシに向かっていきます。

シンケンレッド VS ウシロブシ

 茉子は、


「何か変...いつもと様子が違う...」


と呟きますが、さすがは茉子、その通りなのです。

 丈瑠はこの時、ウシロブシの挑発にまんまと乗ってしまっており、丈瑠の持ち味であり、強さの秘密である冷静さを欠いています。確かにウシロブシとは互角の戦いを展開していますが、それは丈瑠の「腕」が立つというフィジカルな面によるものであり、精神的な面では自信に満ちたウシロブシの方が優位に立っています。


 4人は丈瑠の援護の為に変身。大勢のナナシ連中との大立ち回りを展開します。

一筆奏上!

 一進一退の攻防の末、ウシロブシの「鬼刀二段斬」に丈瑠は敗れてしまいます。

シンケンレッド

 とどめを刺すべく、丈瑠に一太刀を浴びせようとするウシロブシ。そこに流ノ介とことはが飛び込み、丈瑠を庇うのですが、「鬼刀二段斬」をまともに喰らって倒れてしまいます。

シンケンレッド、流ノ介、ことは

 さらに、丈瑠を襲うウシロブシ。流ノ介とことはに覆いかぶさって2人を守ろうとする丈瑠の眼前に、茉子と千明が飛び込みます。

 丈瑠を庇おうとする茉子と千明ですが、今度はそこに十臓が出現。茉子と千明の変身を(多分峰打ち的な技で)解除し、ウシロブシと丈瑠の間に入ります。

シンケンレッド、十臓、ウシロブシ

 十臓はウシロブシに手を引くよう言いますが、応じないウシロブシ、そして丈瑠と、激しい三つ巴戦が開始されます。

シンケンレッド VS 十臓 VS ウシロブシ

 あまりの激しい戦いに際し、茉子と千明は呆然と眺めるしかありません。

シンケンレッド

 この立ち回りにはかなり長い尺が割かれているのですが、三つ巴という非常に難しいシチュエーションを的確に表現する凄い殺陣です。

 三者とも他者に隙を見せず、他者の行動を利用したり、機を見て太刀を浴びせたりと、あまりの秀逸さに声も出ない状態でした。ある意味、この凄さは本家の時代劇を超えていると言っても過言ではないでしょう。

 一度ウシロブシの技を喰らい、なおかつ十臓によって一旦の弛緩の瞬間を与えられた為か、やや冷静さを取り戻した丈瑠の強さも存分に描かれており、二刀流の伏線も完璧に活用されています。


 三つ巴の戦いの結果は、シンケンマルが十臓の喉元をとらえ、十臓の裏正がウシロブシの喉元をとらえ、そしてウシロブシの剣を丈瑠が防いでいる構図に。

十臓

ウシロブシ

シンケンレッド

 この構図からすると、丈瑠がやや優勢か?

 しかし、ウシロブシの刀が再びシンケンマルに噛み付いたら、丈瑠が優勢とは言えなくなります。結局、三すくみの構図なわけですね。


 最初に緊張を解いたのはウシロブシ。ウシロブシは水切れを理由に、


「十臓、ドウコクが怒るぞ」


と言い残し去っていきます。

 丈瑠は、


「お前、どうして俺を...」


と十臓に問いますが、十臓は


「腕のある者と戦うことのみが望みだ。俺も、この、裏正も」


と返すのみ。そもそも、十臓にこの理由以外の行動理由はないのでしょう。

 今度は丈瑠と十臓が斬り合いになります。しかし、三つ巴戦を経て極度の緊張状態から解放された丈瑠は、集中力をやや低下させてしまったのか、精彩を欠くのでした。

シンケンレッド VS 十臓

「やはり、お前いつもと違うな。俺が望んでいた戦いはこんなものではない」


と、十臓は裏正の持ち手を返し、岩を断って見せます。


「この裏正、逆刃こそが本性でな。次はこの切れ味を味わってもらう」


 カッコいい!

 私は裏正を持ち替えた時、てっきり峰打ちにでもして、丈瑠に屈辱を味わわせるのかと思いました。しかし、刀の背の方が切れ味鋭いとは!やられました。完全に。ちょっと十臓カッコよすぎじゃないですか?


「シンケンレッド、この貸しは大きい。いずれ、俺の満足する果たし合いをしてもらう」


と告げる十臓。

十臓

 岩場の上に飛び乗り、かなり丈瑠達とは距離が離れていますが、かなりブツブツ言ってる感じでも、ちゃんと聴こえているのはご愛敬(笑)。

 茉子と千明は十臓の人間態を見て、「あの時」の男だと気づきます。丈瑠と流ノ介が戦う様を解説してみせた、「あの時」です。顔見せがここに来て効いてきました。


 千明は、


「お前何なんだよ、外道衆なのか!?」


と十臓に問いますが、十臓は、


「俺は、腑破十臓。それだけだ」


としか答えません。「あの時」の解説の饒舌振りは、丈瑠を目の当たりにして相当嬉しかったからなのでしょうかね。十臓本来の姿は「言葉少な」だと思います。独り言は多いですが(笑)。


 その夜、丈瑠は傷の手当ても終わらぬまま、ただ一人屋敷を出て行きます。

丈瑠

 単なる「家出」でないことは明らかですが、果たして胸中に去来するものは何か。初めてアヤカシも倒されずに引っ張りましたし、ナレーションも「つづく」を明言しています。次回が非常に待ち遠しいですね。