シンケンジャーで最も実力に後れを取っているという設定の千明。故に千明編は順当な成長物語として制作される為、その熱さや爽やかさも一際です。
今回は、千明だけではなく彦馬にもスポットが当てられており、千明と彦馬の関係がクローズアップされてきます。
物語も10話を数えてきた故か、既に千明の実力は相当なレベルへと達しており、決して一歩遅れているというわけではないことも描かれます。その陰に隠れた千明の努力にも触れられており、彼のキャラクターに大きな強さが備わり始めています。
そんな千明のブレイクスルーに至る過程を、ダイテンクウと絡めて描くことで、人間ドラマと新メカのプロモーションを巧く融合させており、これまた完成度の高い一編に仕上がりました。
今回の千明と彦馬の物語は、かなりスポ根モノの展開を踏襲しているように思います。
とにかく根性根性のコーチと、なかなかスランプを抜け出せない選手。こんな感じの、スポ根モノの構図に当てはまるのです。この場合、スランプを抜け出す為にさらなる練習を積むパターンと、視点を変えることでスランプを突破するパターンとがあるわけですが、今回の千明は後者に該当すると言えます。
視点を変えるというのは、例えばクサいところで言えば木の葉が舞い落ちる様子を見てヒントを得るとか、そんな感じなのですが、今回その役割は、丈瑠が担っています。といっても、実際には丈瑠の態度によって考えを変えてみた彦馬が、千明にヒントを与えるという展開です。この重層感が非常に良いのです。
一方で、ダイテンクウの存在は冒頭から丈瑠の口より語られ、ダイテンクウを到達点とすることが明言されます。つまり今回は、紆余曲折ありつつもダイテンクウへの道が初めから厳然と通されており、文字通り一本筋の通った物語を形成しているわけです。
当エピソードの完成度の高さは、そんな強固な物語構造からも伺えます。
千明ファンのみならず、彦馬ファンも大満足の今回。
千明と彦馬の見所を中心に振り返ってみました。
兜、舵木、虎の三枚の秘伝ディスクが揃ったことで、いよいよ新たな侍合体である「ダイテンクウ」が完成するという丈瑠。
いきなり、合体できることをバラしてしまうという展開ですから、その後の展開の盛り上がりを期待しないわけにはいきません。なかなか思い切った構成なのです。
ダイテンクウ合体の為には、それぞれの折神に搭乗してモヂカラを使う必要があるようで、丈瑠は、一体ずつ乗り手を決めておくと言います。
乗り手に関しては、既に丈瑠と彦馬が相談して決めており、虎折神には丈瑠、舵木折神には流ノ介という順当な選抜。そして注目の兜折神の乗り手に選ばれたのは、何と茉子でした。
モヂカラを操るセンスは茉子が一番だからだという丈瑠。
茉子がモヂカラのセンスに秀でているという印象は、あまり強くはなく、シリーズ開始当初のモヂカラ稽古で一人だけ失敗がなかったという程度の描写しかありません。しかし、茉子、千明、ことはをそれぞれ比較した時、千明はこの時点で論外扱いとして、ことははモヂカラより剣術というイメージがあるので、ここでは茉子が選ばれて順当だということになります。
千明は、選考に漏れたことを悔しがっており、ことははそんな千明の表情に気付いています。
その後、食事の時間になっても、千明は食事もせず稽古に励んでいました。
流ノ介が舵木を捕まえた後も、夜密かに、一人でモヂカラの稽古をしていたと証言することは。千明の目に見えない所での頑張りは、皆の認めるところです。
彦馬は、日頃の説教が無駄ではなかったと満足気。
彦馬の千明に対する説教は、話数を重ねる毎に過激化していましたが、実は今回に繋がる巧妙な伏線だったことになります。これは凄い。
一方の千明は、がむしゃらに刀を振り続けて稽古を重ねるも突破口を見出せず、
「昔はともかく、ここに来てからは、俺だってかなり...」
と呟くのでした。
さて、今回のアヤカシはオカクラゲ。
唐傘のような姿をしていて愛嬌がありますが、言葉遣いが丁寧で、しかも卑怯な戦法を使うというキャラクター。
オカクラゲはいきなり雨を降らせ、雨に濡れた街の人々を悲観的な性格に変えてしまいます。
悲嘆にくれる人々の前に駆けつけるシンケンジャー。ここでのそれぞれの反応が面白い。
丈瑠「何だこれは?」
千明「皆、流ノ介になってるよ」
流ノ介「何?」
茉子「ヤバい...ギュッてしてあげなきゃ、ギュッて」
ことは「茉子ちゃん待って」
千明の「流ノ介になってるよ」のセリフは秀逸。勿論、このセリフはギャグとして発せられているわけですが、流ノ介の短所であるペシミスティックな部分を、千明はよく理解して茶化していると言えるでしょう。
そして、茉子のセリフ。茉子の性質をステロタイプに表現したものですが、これまでの描写の積み重ねがある為、納得できる部分の方が大きく、単純にニヤリとさせるくだりになっています。
オカクラゲは、
「私の雨に当たった人間は、幸せです。極上の嘆きを味わえるんですからね」
と嘯きます。こういったエセ紳士なキャラクターは味がありますね。
丈瑠達は変身し、迎撃を開始します。
ところが、いきなり爆弾の不意打ちを食らわせるオカクラゲ。卑怯な戦法が効果的に描かれます。
流ノ介が舵木ディスクを取り出すと同時に、兜ディスクを取り出した茉子ですが、オカクラゲの更なる爆撃によって、空中へと弾かれてしまいます。
それを千明がキャッチ。千明は兜ディスクを茉子に返さず、勝手に使おうとします。
しかし、ウッドスピアに取り付けた兜ディスクの力は発動せず、オカクラゲの逃走を許してしまいます。
技が未熟な為、一切武器が機能しないという展開はよくあるものですが、シンケンジャーにはモヂカラという要素がある為、説得力を増しています。
志葉家の屋敷。
彦馬は激怒し、千明を叱責。謹慎を言い渡します。
「こんなことを言わねばならんとは、全く情けない。お前は、侍になるのは早すぎたのかも知れんな!」
これを聞いた千明もキレてしまい、こともあろうにショドウフォンで彦馬の顔にバッテンを書き、もみ合いに。
どさくさで、ことはや茉子、流ノ介にも千明のショドウフォンの墨が...。殺伐としたシーンですが、ギャグテイストなので緩和されています。この辺のバランス感覚は美点。
茉子は、流ノ介、ことはと共に墨を落としつつ、
「全く、千明も彦馬さんも子供みたいなんだから」
と2人を評します。このセリフが言えるのは茉子しか居ません。視聴者が思っている事を誰に言わせるか。この重要なポイントをよく押さえていると思います。
続いて茉子は、
「でも、千明のモヂカラなら、もう兜のディスクも使えると思うんだけどな」
と一言。この優れた観察眼が茉子の真骨頂。千明もそれなりに努力して成長を遂げており、モヂカラ自体も増していることを示しているわけですが、モヂカラというものはビジュアルでパワーの善し悪しを示し難い概念なので、こうしてセリフで語らせるのが、最も適した描写だということになるかと思います。
「え?そうなんや。そしたら何で?」
とことは。茉子は、
「う~ん、ちょっとしたきっかけかなって気がする」
とこれまた鋭い発言。実はこの一言こそが、今回のテーマになっています。
先に解説しておくと、千明も彦馬も、丈瑠を基準に侍の何たるかを追及していた為、突破口が見えなくなっており、モヂカラの個性に気付くという「ちょっとしたきっかけ」によって、千明はブレイクスルーを果たすわけです。
この「ちょっとしたきっかけ」のきっかけを、丈瑠が担うあたりも秀逸。この辺りは後述します。
さて、千明の言動に少々イライラ気味の彦馬は、「更に厳しく鍛えなければならない」と主張します。
丈瑠のように、一人前の侍に育てるのが自分の役割だと熱弁する彦馬ですが、丈瑠はもっと肩の力が抜けており、
「分かるけどな、千明は俺じゃないぞ」
と口を挟みます。このシーンで獅子折神と戯れる丈瑠が実に可愛らしい。しっかり丈瑠の動きと獅子折神のCGがシンクロしており、非常に完成度の高い「特撮シーン」になっています。こういったさり気ない部分に力を注ぐことで、作品の完成度が上がっているのだと思います。
彦馬の中では「強く言いすぎたか」という思いと、「あの程度ならばそれほどでは」という思いが交錯しますが、丈瑠は「さぁ?」とはぐらかしてしまいます。
この丈瑠の態度がクール。丈瑠と彦馬の立場は非常に微妙なバランスで成立しているのですが、それを端的に現した名シーンだと言えるでしょう。
彦馬の言うことも正しいが、そこに丈瑠が真っ向から反対意見を述べても、彦馬は苦悩するだけです。また、丈瑠は千明がどのように変わるべきか気付いていますが、丈瑠が直接千明に言ったのでは、彦馬の感情は解決しない。そこで、丈瑠はわざとはぐらかすことで、彦馬の考えを巧く誘導し、いがみ合う(?)千明と彦馬を向き合わせ、解決に導いたわけです。
個性を文字に例えるという流れも、モヂカラ等の設定を巧くとらえた好例だと思います。
丈瑠が「殿」であることは、こうやって巧く主張されているのです。
一方、千明はゲーセンで有耶無耶を発散しようとしますが、ゲームでも負けてしまい、
「俺、カッコ悪ぃ...」
と更に落ち込んでしまいます。
さて、今度は六門船。
六門船にオカクラゲがやって来ます。血祭ドウコクは、機嫌が悪くて不貞寝をしているらしく、今回は登場しません。スケジュールの関係か?
とりあえず、後の骨のシタリのセリフを血祭ドウコクが聞くと具合が悪いので、登場しなくて正解でしょう。
「お前の湿気で三味線の音色が悪い」
と薄皮太夫。相変わらず皮肉屋ですが、私、薄皮太夫が弾いているのは、その音色から琵琶だと思ってました。今回、三味線だと明言しましたが、良く見たら形が琵琶とは全然違ってましたね(苦笑)。お恥ずかしい限りです。
一方で、十臓の言う志葉家の秘密とやらが気になる骨のシタリは、多数の資料をひっくり返して調べまくっていました。
骨のシタリのマニアック気質が楽しい一場面です。
件の十臓は一人、
「焦るな裏正。しかるべき時と場所で、骨の髄まで斬り合えるように...」
と呟いています。
今回の十臓の出番はこれだけですが、インパクトが強く、印象に残りますね。
裏正が斬り合いを求めるという、忍者モノあるいは辻斬りなテイストもいいですなぁ、実に(しみじみ)。
その頃、彦馬は何とハーレー(?)に乗って千明の前に現れます。
「じいさん、こんなの乗ってんだ」
「馬は腰に来る!」
「基準が馬かよ...」
このやり取りは絶品!彦馬の時代錯誤っ振りと、実は高級なバイクを愛用しているというギャップ。こんな感じのくすぐり系ギャグは気持ちがいいですね。
この大型バイク、モヂカラで出したものだったりして...。
彦馬は、千明を竹林に連れて来ると、千明の受け継いだ「木」という文字、そしてモヂカラについて語り始めます。
「文字の力とは、その文字が持つ意味そのものだ。使う者が意味を理解し、強く思うことで力を持つ。お前のモヂカラは、殿の火や流ノ介の水とは違う。当然茉子やことはとも違う。お前だけの文字だ」
「俺だけの、文字...」
千明は竹林に囲まれた巨木の前に佇み、何かに気付き始めます。
「お前の中にある、お前の木を見付けろ」
と言う彦馬。千明にショドウフォンを返し、
「言いすぎた面もある」
と謝るのでした。千明も、
「ごめん」
と謝ります。
ドロドロと引っ張るのではなく、潔く謝る姿勢に「侍」を感じられるようになっています。実に爽やかですし、千明と彦馬の内面の優しさといったものが、滲み出ているいいシーンです。
ロケーションも清涼感に溢れていて、いいですね。
そこに外道衆の報が。ここでの「はい~」という千明の返事が秀逸。
さて、後半のバトル開始です。
空中に浮かんで、上空から爆撃するオカクラゲには、さすがの丈瑠達も苦戦を強いられます。
そこに駆け付けたのは千明。すぐさま変身してオカクラゲに立ち向かいます。
「俺のモヂカラ、でかくて、強くて、それで、すげぇ広がってる自由な感じ!」
千明は自分のモヂカラの個性を理解し、そのイメージでウッドスピアにモヂカラを込めます。
そして、千明が採った戦術は、何と棒高跳び!
モヂカラで伸びたウッドスピアを使い、オカクラゲに迫る千明。そして、シンケンマル・木の字斬りでオカクラゲを倒します。
今回は完全に千明一人だけで勝利していますから、彼の成長振りもバッチリ描かれたことになります。
いつものように二の目で巨大化するオカクラゲ。
シンケンジャーはシンケンオーで立ち向かいますが、等身大戦と同様、オカクラゲは空中から攻撃を行い、苦しい戦況へと陥っていきます。
「龍昇り脚は?」というツッコミは、ナシの方向で。大体、龍昇り脚は直線上昇しかできないわけで、自在に空中戦を展開できるオカクラゲには対抗できません。
丈瑠は、満を持してダイテンクウを出すと宣言。
茉子は兜ディスクを取り出し、
「千明が使いなよ」
と差し出します。
「今の力があれば、私よりうまく出来る」
「ネエさん!」
茉子のこのような冷静さは、ともすればキャラクターの面白味をスポイルしてしまいがちですが、千明の「ネエさん」であること、そして夢が「お嫁さん」というキャラクター作りにより、彼女の魅力は削がれることなく存在しています。
丈瑠が虎折神を、流ノ介が舵木折神を呼び出し、兜ディスクを受け取った千明が、兜折神を呼び出します。
それぞれのコクピットへと移動した3人は、すぐさま「侍合体」でダイテンクウへの合体プロセスを開始。鳥型メカの合体プロセスが丁寧に描かれるというのは、戦隊シリーズではかなり珍しいと言えるでしょう。
「ダイテンクウ天下統一!」
CGで大空中戦が繰り広げられます。荒唐無稽な者同士の空中戦ですから決してリアルではありませんが、実景との合成はなかなかリアルな雰囲気で、スピード感も抜群です。
ダイテンクウの追撃で隙を生じたオカクラゲ。両腕をエンブレムモードに変形させて、シンケンオーはビームを発射し援護します。
そして、「ダイテンクウ大激突」でトドメを刺す!
このダイテンクウ、戦隊シリーズの歴史上、非常に珍しい存在だと言えると思います。何しろ、ロボット型にならない合体メカですから。
ロボットの組み換えで飛行メカ等になるものは、以前にも散見されましたが、純粋に合体後がロボット型でないメカというのは、新鮮です。しかも、単独で必殺技を持っており、その存在はシンケンオーと対等扱いになっているのです。
並んだ構図も映えますね。
エピローグは、珍しくドタバタで。
彦馬がうたた寝をしている間に、千明によって顔面に悪戯書きをされ激怒という構図。
この落書きメイク、何と伊吹さん本人が考案されたとか。現場の楽しさの一端が伝わってきます。伊吹さんの役への取り組み方も見えて、いいですねぇ。
追いかけっこを始めてしまった2人に、丈瑠は呆れ顔。
こういう止め絵、昔の東映ヒーローモノにはよくある終わり方でしたが、最近はベタすぎるのか、あまり使われなくなってしまいました。久々にこの「定番」が見られて嬉しい限りです。
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