今回は誰がメインというわけでもなく、強いて言えば薄皮太夫がメインのお話。シンケンジャー5人が一致団結して事に当たるという、スパイチーム的趣向が目新しいですが、実はこれ、戦隊シリーズの原点を見つめなおしたかのような展開なのです。
シンケンジャー目線から薄皮太夫目線に視聴者をシフトさせていくといった、スパイ物の定番を織り込みつつ、薄皮太夫の内面を垣間見せるなど、練度の高い展開が秀逸。また、茉子の花嫁姿、流ノ介の花嫁姿(!)というファンサービス的ビジュアル、腑破十臓の本格登場など、内容はてんこ盛りになっており、充実度は非常に高いものになっています。
これまでのエピソードでは、割と重いテーマ性を各人の成長物語に絡めて描くという手法で展開されてきましたが、今回はさしたるテーマもなく、いわゆる娯楽編に徹しているのが「シンケンジャー」的には新鮮。アヤカシすら登場しない為、一種の異色編としても良いかと思います。
テーマ性がないからといって、完成度が低いかと言えば、それはまるで違うと断言できる出来の今回。これは確か市川森一さんが仰ったと記憶してますが、シチュエーションだけでも(=テーマがなくても)ドラマは作れるといった、一つの主張の具現化です。それは、一般に「娯楽作品」と呼ばれる映画なりドラマに用いられる手法だと、私は認識しているのですが、互いが相手を欺く為に知恵を絞るというシチュエーションだけで、ほぼ突っ走る今回はまさにそれだと言えるでしょう。
メンタルな部分を描かずとも、充分に成立させることが出来るという、「シンケンジャー」の懐の深さをも見せた今回は、ビジュアル的にも見せ場が沢山。
吟味に吟味を重ねて、見所を抽出してみました。
では、苦労の成果をどうぞ(笑)。
いきなり、丈瑠と茉子が結婚式を挙げているという衝撃場面から開始。
やや緊張気味で浮いた感じの丈瑠と、妙にウェディングドレスの似合う茉子のペアが秀逸です。
何となく偽装っぽい雰囲気が、BGMやその他の演出から伝わるようになっていて、状況説明がなくてもこれが作戦だと分からせる構成が見事です。
従って、千明を除いた他の面々(彦馬も)が、普通に感動しているのがギャグとして生きています。
千明「おいおい、ジイさん泣いちゃってるよ」
流ノ介「この神聖な空気...何かこう、来るものがあるな...」
ことは「茉子ちゃん、綺麗やわ...よう似合うてる」
千明「お前らなぁ...」
この緊張感のない一連のやり取りで、逆に丈瑠と茉子の緊迫感が強調されています。
やがて、ナナシ連中が人力車を曳いて現れ、結婚式を襲撃。
衣装を似せることで、新郎新婦が振り向く直前まで、これが丈瑠と茉子だと思わせています。今回は、このようなフェイクが多数用意され、ちょっとしたトリックドラマとして楽しむことができるようになっています。
ここで襲撃されたのは、全く別の会場で行われていた結婚式でした。
囮の結婚式作戦は失敗。これで、さらわれた花嫁は8名にのぼりました。
外道衆が動き出してから話が始まるのではなく、既に動いていて、その対処から始まる(しかも失敗する)という構成により、視聴者は一気に物語へと引き込まれていきます。
なお、囮の結婚式を提案したのは流ノ介でした。丈瑠が作戦を考案して指示したのではなく、流ノ介の提案があって、それに丈瑠が乗ったという流れになっており、流ノ介の資質の高さをさり気なく表現しています。
しかし、ここで注目すべきは流ノ介の予測した星型法則(襲撃された結婚式を地図上にプロットすると星型になる)を、わざと外して見せた外道衆の奸智の高さ。
占術的な意味合いの濃い星型に全く意味がないことを示し、外道衆の行動目的をもっと俗な方面に決定付けるのと同時に、このエピソードが知恵比べ的な側面を持っていることを、ここで示しているのです。
次なる作戦を練るシンケンジャー達。
彦馬によれば、生きた人間は三途の川に入れないらしい。従って、隙間経由でどこかに移動したのが自然と考えられます。
丈瑠は、もう一度仕掛けることを決断しますが、この一帯で行われる結婚式は無数にあります。
普通は「花嫁は無事じゃないだろう」と考えるのが自然なのにも関わらず、三途の川に生きた人間が入れないという設定が登場したのは、一見都合がいいように見えます。
しかし、外道衆にとって人間の命などどうでもいいということは高い頻度で描かれていますから、「花嫁」をわざわざさらうという行動の裏に何かあると読んだ上で、彦馬はこう発言したと考えられます。
さて、この事件の首謀者は薄皮太夫。
薄皮太夫の目的は、さらわれた花嫁を眉の中に閉じ込め、その絶望を漲らせた「花嫁の眉」で紡いだ絹糸により、自分に相応しい仕上がりの内掛けを完成させるというもの。
このシーンのみならず、薄皮太夫の異様なまでの色気は、スーツアクターさんの演技も勿論ですが、朴さん独特の中音域の声質に依る所も大きいように思われます。
内掛けに頬擦りするシーンなんかは、まさに鳥肌モノ。久々に素面でない女性幹部になった薄皮太夫ですが、これなら存在感、魅力ともに充分なレベルだと納得できます。
場面は変わって、六門船のシーン。
骨のシタリ「内掛けとは未練じゃないか。昔を忘れられないってことだろ」
血祭ドウコク「まぁ好きにさせてやれ。三途の川の足しにもなる」
骨のシタリ「お前さんも太夫には甘い」
血祭ドウコク「フッ...」
何か過去にありそうな薄皮太夫。
彼女の行動を「未練」と評する骨のシタリのセリフと、後の薄皮太夫自身のセリフからすれば、薄皮太夫は外道衆の高位の者と何か関係があり、もっと言えば、高位の者への嫁入りが予定されていたのではないかという推測が成り立ちます。
何らかのきっかけで、それが崩れたことにより、血祭ドウコクの元に身を寄せたのかも知れません。だとすれば、自らを、他の外道衆とは一線を画す存在だと考える薄皮太夫の言動は納得できますし、アヤカシ連中とソリが合わないのも頷けます。
骨のシタリ「ところで、この間隙間を覗いてたらね、アレがいたよ」
血祭ドウコク「アレ?」
骨のシタリ「あの、ハグレもんだよ」
血祭ドウコク「ほぉ」
「ハグレ者」とは、前回チラッと登場した「腑破十臓」。
背負った長刀「裏正」の輝きが、剣を合わせるに相応しい者を示すといいます。それはシンケンジャーの中に居り、腑破十臓は早急な手合わせを望んでいるようです。
腑破十臓の声は唐橋充さん。「仮面ライダー555」や「ウルトラギャラクシー大怪獣バトルNEO」等、特撮方面にも縁が深い俳優さんです。独特の個性的なキャラクター、更にはイラストレーターとしての側面も持ち、バラエティ番組等にも出演。今回の起用は勿論、素面での出演が前提です(←今回は登場しない為、ささやかなネタバレですが)。
ところで、シンケンジャー側は着々と作戦の地固めをしていました。花嫁誘拐の情報を大げさに結婚式場に流したことで、既に噂になっていたことも手伝い、結婚式は1組のみとなったのです。
志葉家の組織力という面を垣間見せた一幕。それにしても、志葉家近郊には教会や神社、結婚式場が多いんですねぇ。しかも、結婚式を土壇場で中止にするというのは、かなり大変なことですから、外道衆の恐ろしさの浸透振りが知れます。
茉子はもう一度囮の花嫁になることを決めますが、心配したことはは自分が代わると言い出します。
「ことはじゃ、まだ若過ぎだって。大丈夫。場所が分かったら、すぐ連絡するから」
と茉子。ことはが囮の花嫁として年齢的に不適格だという線を、ここでちゃんと押さえておいたのは、後の展開に繋がる重要なポイント。
「そうそう。それで俺達が駆け付けて、一件落着っと。楽勝でしょ」
とお気楽な千明を、彦馬は、
「調子に乗るな!お前が一番心配の元だ!」
と一喝。他愛のない場面ですが、各キャラクターの機微がきちんと描かれていて高感度は非常に高いです。
丈瑠は、
「この作戦が危険なのは間違いないんだ。外道衆もバカじゃないだろうしな。手は幾つか打っておいた方がいい」
と言い、外道衆の裏の裏をかくべく、さらなる一手を考案します。この知能戦テイストが実に刺激的です。
その頃、薄皮太夫の目論む内掛け完成までは、あと一押しであるらしく、
「ああ...これを着れば、昔のように...」
と陶酔しています。
とても内掛けが似合うような容姿ではないのですが(笑)、朴さんが色気たっぷりにこのセリフを言うと、何だか似合いそうな気がしてくるのが怖い。
そして、1件だけ残った結婚式とすり替わるシンケンジャー。
冒頭は教会式、中盤は神前式という風に、2度ある結婚式シーンが似通わないよう配慮されています。和装の丈瑠は、侍という設定だけに凛とした存在感。白無垢姿の茉子も素敵です。
案の定、外道衆は現れ、丈瑠はわざとすぐに倒れ、茉子も簡単に捕まります。
巧く乗ったと一旦安堵する丈瑠。しかし、ことはが表情を暗くしつつ、丈瑠に何かを報告します。ここからは、視聴者も騙される側。シンケンジャー視点での筋運びが、薄皮太夫視点の筋運びに転換されます。しかし、流れはごく自然である為に、全く違和感を感じません。
むしろ、シンケンジャー側の視点で話が進んでいるものと錯覚させることで、トリックをより強烈に描写することに成功しています。
まず、
「さて、どう歓迎して差し上げようか...なぁ、シンケンジャー。わちきを騙したつもりだろうが、そう甘くはない。お前達がコソコソしていること、気付かないと思ったか」
と薄皮太夫が軽くジャブ。ショドウフォンも奪われ、茉子大ピンチの構図になります。
しかもそこへ、「本物の花嫁」もさらわれて来ており、シンケンジャーの思惑は完全に読まれていたという展開になっていきます。
ここからは、薄皮太夫によって次々とシンケンジャー側が畳み掛けられていきます。このテンポと危機感の描写が非常に良く、後のどんでん返しが大きなインパクトを持つことになります。
仲間にウソの場所を告げるよう、茉子に指示する薄皮太夫。茉子は花嫁を人質に取られている為、仕方なく指示に従います。
茉子の指示通り、32番倉庫に入るシンケンジャー。しかし、大量の火薬が一気に爆発し、倉庫ごと木端微塵に!
初見の場合だと、ここに仕掛けがあるだろうことは薄々感じられても、その正体が一体何なのかまでは想像出来なかったのではないでしょうか。私もその一人です。
Bパート開始早々は、勝ち誇る薄皮太夫の唇が大写しに。シンケンマルのミラーに映る青い唇が不気味です。
茉子の処刑が迫る...という一大危機のシーンは、茉子の表情も手伝って緊迫感絶大。
しかし、そこに丈瑠、千明、ことはが登場!
驚いた薄皮太夫は、
「何故ここに居る!?」
と問います。すると茉子は、
「引っ掛かったのは、そっちってこと。私はただの囮。もう一人潜入してたのよ」
と返します。そういえば流ノ介の姿が見当たらない。まさか!と思わせたところで、
「その通り!念には念を入れたということだ」
と現れる、花嫁姿の流ノ介!美しい(笑)!
そして、倉庫に行って爆発に巻き込まれたのは、実はシンケンジャーの「影」だった!
戦隊の女装エピソードは恒例ですが、まさかこんな序盤で見られるとは思いませんでした。しかし、流ノ介の場合、歌舞伎の女形という素養がある為か、キャンプな感覚はあまり感じさせず、むしろ美しかったりして、これまでの戦隊女装エピソードとは、かなり路線が異なります。
また、「影」に関しては、モヂカラの利便性を遺憾なく発揮したものだと言えます。はっきり言って、モヂカラは便利すぎる要素なのですが、ギリギリまで「モヂカラで何とかしたんだろう」と思わせないテンポや演出こそが見事なのであって、「モヂカラ=ここ一番の時に繰り出すもの」という印象を強くしているのが秀逸です。
野望を挫かれた薄皮太夫。その前に現れるシンケンジャー。
「この家紋は...」
という薄皮太夫のセリフがいい。つまりは、先代かそれ以前の志葉家と戦闘なり接点なりがあったことが示されたわけです。家紋に効力があるという、時代劇のお約束を引用するあたり、雰囲気作りに大きく貢献しています。
今回の名乗りは、バンクを使用せず、色々な場所からそれぞれが現れて名乗るというパターン。「デンジマン」以降、名乗りはかなり様式化されましたが、それ以前の黎明期は、よくこういったパターン破りな名乗りがありました(要するに形式が固まっていなかったということ)。何となく懐かしい感じがします。
シンケンジャーと薄皮太夫の戦いが開始されます。
序盤における幹部級との戦いも、戦隊シリーズでは恒例ですが、どうやって退散させるかが腕の見せ所になります。
ヒーローの攻撃を受けてあっさり退散するようでは、幹部級キャラの弱体化を加速してしまいますし、気まぐれでの退散はご都合主義の極致に見られてしまいます。
薄皮太夫の場合、後者は絶対に似合いません。私は前者を予想しましたが、薄皮太夫の強いこと!カッコいい幹部は数あれど、ここまで「カッコいい」女性幹部は珍しいのではないでしょうか。ということで、これら2つのどちらでもない退散が用意されました。
薄皮太夫との直接対決の前に、まずナナシ連中相手にかなり正統派のチャンバラが繰り広げられます。
勿論、時代劇にはない火花のエフェクトなどはありますが、殺陣自体は切りかかってくるナナシ連中を切り捨てていくという様式美を重視していました。アヤカシが居ないとあって、このシーンにはかなりの尺が割かれていたように思います。
一方、薄皮太夫を迎え撃つは、流ノ介と茉子の「花嫁コンビ」。
ウォーターアローをいとも簡単に回避した薄皮太夫は、両手を広げて余裕を見せ、舞うようにシンケンジャーを翻弄し、確実にダメージを与える戦法で魅せてくれます。
薄皮太夫のスーツアクターは、ご存知JAEの筆頭女形・蜂須賀祐一さん。流麗かつ色気のある動きは、さすがです。やっぱり凄い。
琵琶の仕込み刀という小道具も秀逸で、流ノ介と茉子は苦戦に次ぐ苦戦。
駆けつけた丈瑠ですら、斬撃が当たらないという強力さを見せます。
千明とことはが合流し、チャンスを見出した流ノ介と茉子が、水流之舞と天空之舞のダブル攻撃を繰り出して、ようやく薄皮太夫を怯ませます。
そして、兜五輪弾を発射しますが、突如現れた腑破十臓に阻まれます。
「お前か、俺の裏正に見合う奴は」
と丈瑠を見る十臓。
唐橋さんの、「いかにも声優さんらしい台詞回し」ではない独特の言い回しが、かなり気味の悪いデザインの十臓を、クールなキャラクターに仕立て上げています。このミスマッチ感はとてもいいですね。
兜五輪弾を一刀両断するという描写で、実力の程も見せつけています。
なお、「裏正」は名刀「村正」から採られたネーミングだと思われます。
「十臓...何故?」
「ここは退いておけ」
「何!?」
「いずれ、その腕試させてもらう」
大ナナシ連中を呼び、薄皮太夫を連れて去る十臓。
十臓が退いた理由ははっきりしませんが、薄皮太夫との何かしらの因縁があるらしい(と思わせているだけかも)ことと、丈瑠との1対1での勝負を望んでいることとが絡んだものと思われます。
ということで、薄皮太夫退散は、十臓という第三者が関わることで実現されました。これは巧いです。
さて、巨大戦はカブトシンケンオーによる、大ナナシ連中と大立ち回り。こういう話では幹部自身が巨大化してしまうことも少なくないのですが、大ナナシ連中というキャラクターが巧く活かされ、非常に自然な流れになっています。
カブトシンケンオーは順調に大ナナシ連中を斬り捨てていくのですが、人数が多く、やがて身動きが取れなくなります。
そこで一旦、侍武装を解き(兜ディスクをシンケンマルから外すと兜折神が分離)、舵木折神を呼び出して撹乱する戦法を採用。「仮面ライダーカブト」のキャストオフのような効果があり、大ナナシ連中を吹っ飛ばす様子が楽しいです。
さらに今度はカジキシンケンオーに侍武装。バリエーション性の高い巨大戦には、いつも感心させられます。
舵木一刀両断で一気に大ナナシ連中を両断し、一件落着。
エピローグは、いつものように戦いが終わった後のシンケンジャー達の帰路。
千明「しっかし、さすが歌舞伎役者だよな。ホントに女に見えたぜ」
流ノ介「まだまだだ。女形は苦手だったからな。全然納得行かん」
流ノ介の向上心の高さに感心させられる一幕。今は歌舞伎の世界を捨てているとは言え、未練とは違う方向での歌舞伎との関わりがあったことで、流ノ介も内心喜んでいるのではないでしょうか。
一方、茉子は、
「結婚前に花嫁衣装着ると、ホントの結婚が遅れるって話、思い出した。二度も着ちゃったし、ヤバい」
と意気消沈。作戦中は結構ノッていたように見えたので、結婚願望の一部が満たされたと喜んでいるかと思いきや、意表を突かれた感じです。
「そんなん。アレは作戦やし、大丈夫やって」
「ハァ...」
「気にすることないって。ほら、ケーキ屋さん」
ことはは着実にムードメーカーへと成長を遂げているようです。
4人の様子を優しげな表情で見ていた丈瑠。しかし、内心では十臓のことが気になっていました。
ただし、今回の丈瑠は胸中穏やかでないながらも、作戦成功のお祝いにケーキ屋に行くことを咎めたり無視したりすることもなく、4人の雰囲気に飲まれて行きます。
いつの間にか、丈瑠がケーキを御馳走することになるというオチで終わりますが、当初の丈瑠から考えると、仲間の成長と共に着実に信頼感を深めている様子が伺われます。こういった細かい描写が本当に巧いんですよね。
ちなみに、エンディングテーマが二番に変更されていました。
このタイミングで二番になるということは、これから先も何らかの仕掛けが待っているのか、それとも、ランダムで一番と二番を使い分けるのか。もしかしたら、歌詞がテロップで表示されるので、こういった措置をとったのかも知れません。
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