第五幕「兜折神」

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 丈瑠の内面やキャラクター性が精緻に描写されることを重視するならば、5話目にして初の丈瑠メイン編。

 第一幕から第四幕は、丈瑠=殿という孤高の存在に対する、「家臣達」の反応や考え方の違い等を描いたものであり、いわば丈瑠は「前提となる存在」であったわけです。

 しかし今回、その丈瑠の内面等を描き出すことで、「殿」自身の苦悩やポリシーを浮き彫りにし、また彦馬との絆にも触れることで爽やかな丈瑠像を活写しています。

 そして、この試みは成功しているように見受けられます。

 何故なら、絶対的な強さの裏側には、家臣にすら知られない場での凄まじい努力があることや、彦馬にだけふと見せる笑顔の意味等が、しっかり丈瑠の魅力を倍加しているからです。


 完全無欠なレッドは無味乾燥になりがちなので、ユーモア等でキャラの幅を広げるといった手段が講じられていく傾向があるのですが、丈瑠の場合、「殿」として果たさなければならない使命に向かって、人知れず努力する姿を描写していくという手法により、「若さ」や「未熟さ」をも描き出すという方針のようです。

 これは新しいレッド像であり、ドラマに見応えを生むにあたって非常に有効であると言えるでしょう。


 今回のトピックは、あまりヒネりのないサブタイトルが示すとおり、新しい折神である「兜折神」の登場。

 また、併せて兜折神の秘伝ディスクも登場し、数多くの秘伝ディスクが失われていることも明らかになりました。

 兜折神にはエンブレムモードがなく、統一感という意味では曖昧になってしまいましたが、逆に武装系の折神は秘伝ディスクから登場するというルール付けにもなったかと思います。


 そして、烈火大斬刀のモードチェンジも披露。

 5人全員で放つ必殺大砲ではなく、あくまでレッド単体が放つ必殺武器というところが凄い。

 他の4人は秘伝ディスクこそ貸しますが、レッドの後ろで見守るだけという、掟破りというか衝撃のパターン崩しというか、本当にビックリの武器でした。


 では、今回も見所を中心に見ていきたいと思います。

 丈瑠は、4人に休暇を与えることに。

 各人が休暇の過ごし方をそれぞれ考える中、流ノ介は皆で一緒に出かけて親睦を深めようと言い出します。この空気の読めなさ加減が最高です。


 これまたそのあたりの空気を感じていないことはが、


「皆で遊園地に行きたい」


と言い、成り行きで遊園地行きが決定します。

 流ノ介は丈瑠も誘うのですが、


「俺は用がある。お前達で行って来ればいい」


と言って奥へ引っ込んでしまいます。

丈瑠

 茉子と千明はそんな丈瑠の態度を少々理解しかねる様子。

 その丈瑠は、仕舞い込まれていた秘伝ディスクを取り出し、真剣な表情を浮かべています。

兜ディスク

 この短いシーンで、丈瑠と他の4人の置かれた状況の違いが端的に示されます。巧いですね。


 さて、遊園地にやって来た4人。

ことは、茉子、流ノ介、千明

 千明は、丈瑠と普通に喋ったことすらないと不満を漏らします。

 あれ?前回、茉子の料理風景を前に色々談義していたのは、「普通」じゃなかったのかな?


 ここで丈瑠の「用」を察するのは、ことは。


「稽古かも」


と、一言だけですが、精進することに対して一点の曇りもない、ことはならではの発想だと言えるでしょう。

 実は今回、茉子とことはの扱いが非常に巧いのですが、ここでまず、ことはの扱いの巧さを披露。

 彼女ならではの言動に、しっかり注意が払われています。流ノ介でも茉子でも、まして千明でも、このセリフは言えません。


 一方、丈瑠は秘伝ディスクを使いこなす稽古を。

丈瑠

 遊園地を断ったのは、この稽古の為でした。

 劇中では、4人と行動を共にしないのは、この稽古の為だけであるかのように描かれていますが、実際の丈瑠の中には、馴れ合いになりたくないという心情があるものと思われます。

 やはり「殿」と「家臣」というヒエラルキーには、時代錯誤だと反感を持ちつつも、どこか伝統として縛られてしまう部分があるようです。なかなか深いですね。


 兜ディスクの使用を試みる丈瑠でしたが、この秘伝ディスクはかなり手強い模様。

 様子を見ていた彦馬が丈瑠の元へ。

彦馬

「足りませんな。この秘伝ディスクを使いこなすには、少なくとも今の倍のモヂカラが必要です。今の殿では、まだとても」

「そう言って仕舞い込んでたら、いつまでも使えないだろ。外道衆との戦いが、今のまま順調とは限らないし。新しい力を準備しておかないと」

「その為に一人残って稽古を。ご立派な心がけ。本当なら殿も遊園地に行きたかったでしょうに」

「な、別に俺は」

「いやいや、昔はよく遊園地に連れてけ連れて行けと。駄々をこねておられましたぞ」

「そうだっけ?」

丈瑠と彦馬

 この丈瑠の表情がいい!それこそ丈瑠が生まれた時からずっと一緒に居る彦馬の前だからこそ、見せる表情というのがいいのです。


「いやただ、殿は怖がりでしたからなぁ...」


と回想する彦馬。絶叫マシーン嫌いで、お化け屋敷に入ったらお漏らしまでしてしまった、幼い丈瑠を思い出して思わず笑ってしまいます。

 今はシンケンジャー随一の強さを誇る丈瑠も、幼い頃は弱虫だったという設定は、ありがちですが効果的です。

 しかも、その「弱さ」は少しだけ丈瑠に残っており、実際に兜ディスクを使う際の心情に、ちゃんとリンクしてくるあたりが実に巧いのです。

 丈瑠は自分の弱さを知っており、それをカバーする努力を惜しまないという、「真の強さ」を持つキャラクターという線を探っているようですね。


 一方、街にはヤナスダレが出現。居合わせた4人が迎撃します。「無駄無駄」が口癖の、何だかゴーオンジャーの蛮機獣風なキャラクター付けをされたアヤカシです。

ヤナスダレ

 千明の回でも偶然居合わせたというシチュエーションが出てきましたが、話の流れをスムーズにする効果は認めつつも、連発されると白けてしまうので、要注意ですね。


 なお、ヤナスダレは軟体を生かして剣撃を無力化する能力を持っています。これが今回の肝になります。

ヤナスダレの受け流し

 倒されてしまった4人に丈瑠が合流しますが、さすがの丈瑠の攻撃も、ヤナスダレには全く通用しません。

 しかし、ちゃんと格の違いを見せているのが秀逸。

 どこでそれが表現されているかというと、剣撃の有効性ではなく、相手の攻撃の避け方です。

 流ノ介達4人は、ヤナスダレの銃撃をまともに受けてしまいますが、丈瑠はヒラリとバック転をして回避、しかも同時にヤナスダレの銃を蹴り飛ばすことで、次の攻撃に転ずるチャンスを作っています。

 芸が細かく、しかも有効性の高い、アクション描写のお手本でした。


 5人はシンケンマル・五重の太刀で一旦攻撃の手を緩めることは出来たのですが...。

シンケンマル・五重の太刀

 ヤナスダレのダメージはそれほどでもなく、水切れでの退却により、シンケンジャーは一時的に危機回避という結果に。

 丈瑠は兜ディスクを使おうとするのですが、かなり躊躇していました。


 志葉家の屋敷に戻った5人。

 流ノ介達4人は、ヤナスダレに対する恐れを抱いてしまいます。


千明「力がなきゃ、勝てねぇし」

丈瑠「力ならある。あのアヤカシにモヂカラが通用しないというのは間違いだ。あの時、確かにヤツはダメージを受けていた」


 丈瑠はモヂカラが足りなかっただけだと言い、新たな秘伝ディスク、つまり兜ディスクを使うと宣言します。

 兜ディスクは、志葉家に代々伝わったもののうち、たった1つだけ残った物。他のディスクは外道衆との攻防戦の中、散逸してしまったらしい。

 兜ディスク使用には、少なくとも2倍以上のモヂカラが必要という説明がなされます。

 冒頭でも彦馬が説明しているので、視聴者にとっては2度目ですが、それだけ強調することの有効性は、劇中で十分に発揮されています。


丈瑠「俺がやる」

千明「おい、2倍だぞ2倍!出来んのかよ!」

丈瑠「出来るから言ってるんだ。秘伝ディスクは代々、志葉家当主が使ってきたんだからな。俺なら出来る」


 丈瑠は、この時点でまだ使いこなせないのを分かっています。

 強がって見せたのは、彼の根拠なきプライドによるものなどではなく、4人を安心させる為の虚勢だったことが、後に判明するのですが。

 いやはや、キャラクターの掘り下げが、初盤でありながら随分と丁寧なのには驚かされます。


 ここで、茉子の秀逸な扱われ方が登場。

 そう、茉子だけは、丈瑠が兜ディスクを使うのを、ためらっていたのに気付いていたのです。

茉子

 この茉子の呟きは、殿を最大限に尊敬して全幅の信頼を寄せていることはには発せられないもの。

 人の弱さを見抜けるキャラクターとして、茉子が描かれているわけです。前回からもちゃんと繋がっています。


 ここで一服。外道衆のシーンです。

 外道衆のシーンは、いつも圧倒的に少ないのですが、逆に印象深いやり取りが心がけられているようです。

 今回も、薄皮太夫とヤナスダレが口論に。


「どうもアヤカシ共とソリがあわねぇな」


と血祭ドウコク。薄皮太夫には、何か出生上の秘密とか、そういったものがありそうな予感です。

 まさか、アヤカシ由来ではなかったりして...。


 さて、丈瑠はさらなる稽古を積みます。

 4人の恐れを払拭するには、自分が微塵もない強さを身に付けるしかなく、丈瑠はそれを分かっているから、たった一人で猛然と稽古に励むのでした。

丈瑠

 モヂカラは大きくなればなるほど制御が困難になる。

 そう心の中で呟きつつ、彦馬は心配そうに見守りますが、決して手を差し伸べようとはしません。

 このシーンでの伊吹さんの表情が、本当に素晴らしいのです。

彦馬

 手を出さないというのは本当に難しいことで、ましてや、幼少の頃から自分の子供のように見てきた丈瑠がボロボロになっていく姿を、ただ我慢して見守るしかない彦馬の心情は、察するにあまりあります。

 このシーンがあることで、侍、そして殿の特殊性、彦馬のポジション、あらゆることが無説明で伝わってきます。


 さて、翌朝、ヤナスダレが再び現れます。

 丈瑠は姿を現さず、他の4人が迎撃。

ことは、茉子、千明、流ノ介

 ヤナスダレを恐れはしていたものの、丈瑠が来るまで何とか持ちこたえようという気概を感じさせる立ち回りです。


 一方、丈瑠は気を失っていました。


「これほどの傷で戦わねばならんのか。侍というだけで。殿と言うだけで」


と、丈瑠の運命をふと呪う彦馬。

 しかし、彦馬は烈火大斬刀を手放していない丈瑠を見て、丈瑠を叩き起こすのです。

 丈瑠の稽古シーンは何度も繰り返され、その度に、衝撃のあまり手を離してしまうという描写が必ず盛り込まれました。

 つまり、「手を離していない」という1カットだけで、「稽古はほぼ完成しているかも知れない」という予感を抱かせているのです。

 彦馬に「出来ている」とか全く言わせていないのも見事。非常に大人っぽい演出だと感じました。というより、普通の大人向けドラマでもここまで優れた演出はなかなか見られませんよね。


「後はぶっつけ本番だ。大丈夫だ。行ってくる」

丈瑠

 このセリフで、やや不安が残ることを暗示。達成感と不安がない交ぜになった、丈瑠の笑顔がいい感じです。


 ヤナスダレの元へ現れた丈瑠は、すぐにシンケンレッドへ変身。

 丈瑠は躊躇しつつも秘伝ディスクに手をかけ、使う決心を固めます。

 ここでも、茉子が丈瑠の様子に違和感を感じています。やっぱりいいですね、茉子の扱いが。


 そしていよいよ、兜ディスクの本領が発揮されます。

 烈火大斬刀・大筒モード。

シンケンレッド

 冒頭に述べたように、何と、必殺バズーカ系の武器は、レッドの個人武器に等しいという、パターン破り。

 5人の秘伝ディスクをセットし、それを一気に発射するのですが、発射に関わるのは丈瑠1人だけで、あとの4人はひざまずいて待機するという、凄い図が!

 その必殺技には「兜五輪弾」なる名称が与えられています。


「成敗!」


という掛け声が、侍らしくていいですね。

 ちなみに、「成敗」という言葉は、即ち裁くということです。

 「暴れん坊将軍」では、吉宗が「成敗!」と言うと、お庭番が素早く悪人のボスを刑に処すという、クライマックスにおける定番を飾っていました。


 ヤナスダレは二の目で巨大化。

 勿論、シンケンオーのダイシンケンも、受け流されてしまいます。


「兜ディスクの本当の力はここからだ!」


と言い、シンケンオーの外へ出る丈瑠は、シンケンマルに兜ディスクをセットし、兜折神を登場させます。

兜折神とシンケンオー

 兜折神の攻撃を受けたヤナスダレは、大ナナシ連中を呼びます。

 兜折神ですが、ヘラクレスオオカブトをモチーフにしており、肢の造形は正に「折紙」を想起させるディテール。

 秘伝ディスクによって頭部がドリル戦車的な動きを見せるあたり、なかなか充実したギミックを見せてくれます。


 そして、「侍武装」を披露。


「カブトシンケンオー、天下無双!」

カブトシンケンオー

 合体方式は至ってシンプル。

 シンケンオーの兜を脱ぎ、兜折神が変形した兜を被りなおすというパターンが、「オーレンジャー」のヘッドチェンジや「ゲキレンジャー」あたりの武装パターンを想起させます。

 また、両肩に肢の部分を接続することで、ややシルエットを変化させています。


 今回の武装の利点は、ダイシンケンがそのまま使える点で、これにより、カブトシンケンオーで一気に大ナナシ連中を撃退するというチャンバラ場面が描写可能に。

 しかも、光線系の武器もちゃんと使える仕様。これは「兜砲」と呼ばれます。

兜砲

 必殺技は、ダイシンケンによるものではなく、わざわざダイシンケンを鞘(実際は鞘はありませんが)に収める動作を行った後、立膝のポーズで放つ「兜大回転砲」。

兜大回転砲

 頭部の兜が兜折神の頭部そのものに変形し、激しく回転してビームを放つというものでした。

 刀の必殺技にこだわって欲しかったという面も否定できませんが、トイのターゲットである子供達の遊びを広げる意味では、こういう措置は正しいものと私は考えます。


「無駄死に...かぁ!」


とこれまたゴーオンジャーの蛮機獣っぽい捨て台詞を残して、ヤナスダレは爆発四散。ゴーオンジャーほどギャグ方面に振ってませんけど。


 戦いが終わり、4人は再び丈瑠を遊園地に誘いますが、丈瑠は先に帰ると言います。

茉子、ことは、千明、流ノ介

「何だかなぁ、やっぱとっつきにくいよな」

「ていうか、掴まれないようにしてるのかも、ね」

「は?」

「別に。何となくってだけ」


 ここでも茉子がフィーチュアされています。

 実はこの時点で一番丈瑠という人物を理解しているのは、4人の中だけで言えば茉子なのかも知れません。

 流ノ介とことはは、とにかく丈瑠を尊敬していますし、千明は丈瑠のことをとっつきにくい奴だととららえています。

 茉子は、その両極端の真ん中に位置する役柄ですが、そういう位置だからこその「気付き」がクローズアップされているようです。実は何かの伏線かも?


 で、丈瑠が何故4人と行動を共にしなかったかというと、疲労困憊していたからです。早く休養をとったほうが良いということと、その姿を見せたくないということだと思われます。

丈瑠と彦馬

 全編を通して見ると、丈瑠が4人と距離を置いている理由は、その状況によって、そうせざるを得ないからだ、と思わされる展開になっています。

 「ヒエラルキーには、時代錯誤だと反感を持ちつつも、どこか伝統として縛られてしまう」と冒頭の方に書きましたが、弱さを見せてはならないという考え方は、そういった呪縛あってのものでしょう。


「正直、かなりビビった。もし失敗したら、終わりだからな」

「お見事でした。お見事でしたぞ、殿!」


 彦馬にだけは本音を打ち明ける丈瑠。

 若き殿と壮年の家臣という構図は、「暴れん坊将軍」の人物配置からの拝借ですが、こと2人の絆の深さに関しては、圧倒的にこちらの方が上。

 また、戦力的に完全無欠のレッドではなく、表向きは完全無欠であろうとする、発展途上の努力家レッドというキャラクターが、非常に新鮮に映ります。

 これも、殿と家臣という特殊な設定の上だからこそ成立するものであり、改めて「シンケンジャー」の良さを思い知った次第です。