「究極」のテイストを受け継いだアルバムかと思いきや、よりコンパクトでハードな楽曲が並んだ傑作。「究極」で見られたような、キラキラしたものが奥行きを伴って迫り来るような感覚はなく、よりライヴ感を重視した音作りが成されている。
リバーブも控えめ(というより殆ど無いような印象)、いかにも「スタジオ録りです」といった感じは、ポストプロダクションにおける手間を省略したような印象を与えるが、その部分を減点するようでは、このアルバムの魅力を堪能することは出来ない。例えば、オープニングを飾る「輝く明日」~「歓喜」。ウェイクマンの派手なキーボード・ワークと骨太なリズム・セクションが目立つが、音像に奥行きを与えられなかった分、引き締まって聴こえる部分も多く、アンダーソンのヴォーカルまで含めて非常にタイトである。余計な装飾がないことで、イエスの骨格をビシビシと体感できる。
「輝く明日」~「歓喜」と同様の傾向は、他のナンバーにも見られる。ハウの泣きギター(?)で始まり、見事なコーラス・ワークと力強いヴォーカル、ウェイクマンの波打つようなシンセ・フレーズが印象的な「クジラに愛を」、複雑なコーラス・ワークで畳み掛ける「自由の解放」、シンセの電子音が特徴的な、楽しい題材をそのまま曲に仕上げた印象の「UFOの到来」、珍しく足元の軽いホワイトのドラミングと、インプロヴィゼイションのような各パートが意外性を喚起する「自由の翼」。
一方、叙情性と幻想性を追及した「マドリガル」、「天国のサーカス」、「オンワード」といったナンバーもあり、聴き手を飽きさせない構成は見事である。この作品の本質は、「メンバーが協力して楽しい作品を作った」ことにある。まとまったサウンドや寓意に満ちた詩、挙げられる魅力要素は数多く、それまでのイエス・ワールドに対する先入観を捨てて聴く事が出来れば、このアルバムの持つ緊張感と開放感の波を心地よく感じられるだろう。
- 原題
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Tormato
- 邦題
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トーマト
- パーソネル
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Jon Anderson - Vocals and Alvarez 10 string guitar
Steve Howe - Gibson Les Paul Custom, Gibson The Les Paul, Martin 00045,
Spanish guitar, Fender Broadcaster, Gibson Elec. & Ac. Mandolin, Gibson
175D and vocals
Chris Squire - Harmonised Rickenbacker bass, bass pedals, piano, Gibson
Thunderbird bass and vocals
Rick Wakeman - Birotron, Hammond Organ, Harpsichord, Piano, RMI and Polymoog
Alan White - Drums, Military Snare Drum, Glockenspiel, Cymbals, Bell Tree,
Drum Synthesiser, Gongs, Percussion and Crotales
※ 各トラックのクレジットを元に構成しました。
- 曲目
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- Future Times (輝く明日)
- Rejoice (歓喜)
- Don't Kill the Whale (クジラに愛を)
- Madrigal (マドリガル)
- Release, Release (自由の解放)
- Arriving UFO (UFOの到来)
- Circus of Heaven (天国のサーカス)
- Onward (オンワード)
- On the Silent Wings of Freedom (自由の翼)
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