「海洋地形学」発表後にリック・ウェイクマンが脱退し、その後任としてイエスに加入したのは、ウェイクマンとは全くことなるアプローチを見せるパトリック・モラーツ。そのモラーツ加入時唯一のアルバムが、この「リレイヤー」である。前作があまりにも壮大であったのに対し、この作品は割とコンパクトにまとめられている。ただし「危機」と同じ全3曲(A面に1曲、B面に2曲)という構成であり、「プログレッシヴ・ロック」としてのフォーマットは守られた形となった。
しかしながら前作より、ひいては「危機」の頃よりも随分とハードで派手な作風になっている。1曲目の「錯乱の扉」は前作のアプローチをよりハードな作風に発展させたような大曲。モラーツの音色はこれまでのイエスと比べて明らかに異質なものであり、ハウのギターにも少なからず影響を与えているようだ。また、細かいフレーズが繰り出されながらも全体的にテンポが早く、凄いナンバーだ。途中アンダーソンによって歌われる「スーン」の清涼感も素晴らしい。
「サウンド・チェイサー」では、モラーツの影響か、フュージョンっぽいエレピに導かれてスクワイアまでフュージョンっぽいベース・フレーズを弾いていたりする。そこをアンダーソン節が従来のイエスに引き戻すあたりが面白いところだ。「錯乱の扉」に比べてさらに展開は目まぐるしく、イエスが最もプログレ寄りの姿勢を見せたナンバーと言って良いだろう。
終わりを締めくくる「トゥ・ビー・オーヴァー」はゆったりした壮大なナンバーで、他の2曲とは全く違った印象。ただしアレンジメントは一筋縄ではいかず、ハウとモラーツがそこかしこに細かいフレーズを織り込んでいる。本作の美点は、こういった妥協のなさであろう。
- 原題
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Relayer
- 邦題
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リレイヤー
- パーソネル
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Jon Anderson - Vocals
Steve Howe - Guitars, Vocals
Chris Squire - Bass Guitars, Vocals
Patric Moraz - Keyboards, Lead, Brass etc.
Alan White - Drums, Vibe, Piano, Flute
※ ジャケットに記載されたクレジットが人名のみなので、ライナーなどから独自に再構成しました。
- 曲目
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- The Gates of Delirium (錯乱の扉)
- Sound Chaser (サウンド・チェイサー)
- To Be Over (トゥ・ビー・オーヴァー)
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