最終回。
全体的に気楽に飛ばしていくムードを持っていた「ニンニンジャー」でしたが、この最終回もそのムードを象徴するような構成で、テンポがすこぶる速く、実に爽快。一方で、色々な事象に決着を付けていく生真面目さも散見され、非常に満足度の高い最終話となりました。
十六夜九衛門の周辺に気を回し過ぎたのか、ラスボスたる牙鬼幻月の扱いに軽さが感じられはしましたが、元々牙鬼幻月は「恐れの収集」を理由付ける為のマクガフィンのような存在だったので、このような結末でも文句はないでしょう。
とにかく、語り尽くすだけ語り尽くそうという気概が画面に横溢しており、片時も目を離せない怒濤の最終回となった事は間違いないですからね。
忍タリティ!
ここしばらく「忍タリティ」というタームに重きが置かれなくなっていたのですが、今回は前面的にフィーチュアされる格好となりました。そして忍タリティ自体がかなり抽象的な概念であった事も、今回はっきりと示されたと言えるでしょう。
4クール目では、忍タリティに言及される機会が非常に少なくなっていました。それはストーリーを展開する上で出来るだけ語るべき要素を減らしておく手法による影響だったものと思われますが、劇中での扱いを解釈するならば、既に天晴達は忍タリティを語らずとも常に意識出来る状態にあったのではないかという事です。牙鬼軍団との戦いは勿論、仲間達との関わりや、世代間の考え方の相違などを経て、忍タリティという言葉を発する事なくそれを高められる環境(境地)にあったわけですね。
前回の最後、終わりの手裏剣の効果で忍者としての力を奪われた天晴達でしたが、もう彼等の中で「忍シュリケンに依存している」という意識はさらさらなく、自己の中で滅する事のない忍タリティを武器に、牙鬼軍団に立ち向かっていきます。その流れも熱いのですが、更に6人が集合する事で「不可能を可能にする」くだりが更なる熱さを生み、素面名乗りを経た大盛り上がりの変身シーンへ繋がっていきました。
ここでは、一人のラストニンジャが手にする「至高の忍タリティ」ではなく、仲間が一緒だからこそ手にできた「究極の忍タリティ」と言うべきものが示され、ちゃんと戦隊らしいテーゼが表出したのは喜ばしい処ですね。いわゆる「レッド偏重」が廃されたのはちょっとした驚きでもありました。
素面名乗り!
前述の通り、不可能な筈の変身を可能にした忍タリティ。その高まりを象徴するが如く、究極の素面名乗りを配して場を最高潮に導いています。
素面名乗りの嚆矢たる「ダイレンジャー」のように変身不可能なまま名乗りをするパターンよりも、最近では変身しながら名乗るというパターンの方が多いと思いますが、今回も後者のパターンを踏襲しました。代わりに以前の回で前者のパターンの名乗りをやっているので、最終話としては大正解の選択だったと言えるでしょう。
それにしても、全員がバク宙を決めるという高難度のカット、どうやって撮影しているのか全く分かりませんでした。画面を見る限り、本人達がやっているようにしか見えません。公式サイトで練習風景とか出ているかな...と思いましたが、それもなく。八雲はその前に素面アクションにて宙返りを披露しているので、本人がやっててもおかしくないですが...。
これ、もしトランポリンとかマットを介したとしても、かなり練習しないと難しいですからね。ワイヤーアクションだったとしても、あんなに綺麗に回るのは難しい。本当によくやったと思います。正に有終の美ですよね。
この名乗りの前では、各々の素面アクションが展開。こちらも集大成の趣がありました。凪と風花はロボのコクピットの中だったので、もしかしてアクションなし!? と心配しましたが、ちゃんと6人が合流する際に披露してくれて嬉しい限り。キレキレなアクションは見応え充分で、相当なトレーニングの結果だろうと思います。各々の表情も実に素晴らしかったですね。
十六夜九衛門
牙鬼久右衛門新月、その名は彼に似つかわしくない。今回は、伊賀崎好天の弟子・十六夜九衛門という名こそが真の名...そんな結末でした。
牙鬼幻月の息子という設定は当初の予定になかったという事でしたが、この結末を見る限り、確かにそれは必ずしも必要ではなかったかも知れません。ただ、「宿命」というタームを掲げる際、牙鬼幻月の息子である事によってその鮮烈さをより高めているのも事実なわけで、後付け要素が巧く機能した例として高く評価されるべき結末となりました。
好天は旋風と十六夜九衛門を弟子として同列に扱っていた(十六夜九衛門専用の忍シュリケンを最期に渡そうとしていた=弟子と認めていた)というのが真実であり、血脈で優劣を付けられていたという十六夜九衛門の誤解(ただし、この件は土壇場で判明したもの)が、今回解ける事になります。表層的には、その氷解による「憑物落ち」を、好天が迎えに来るというシーンを交えて感動的に描いていましたが、「宿命」という文字の働きにより、重要なテーマはそこから外れた処に置かれました。
それは、牙鬼幻月の息子という宿命から逃れられないという十六夜九衛門の諦念と、ラストニンジャが世に一人しか存在し得ないという宿命からのブレイクスルーを果たした天晴達の対比です。両者の決定的な違いは「宿命のとらえ方」そのものでした。その意味で、十六夜九衛門が最後の最後で宿命から逃れ、牙鬼幻月の体内でその力となる事を拒み、勝機をニンニンジャーに与えたのは実にシンボリックな出来事です。
結果的に、罪を重ねた者は滅び行く運命にあるわけですが、その最期、憧れ続けていたラストニンジャ=伊賀崎好天の弟子に返り咲くという帰結が描かれる事によって、その魂は救われました。
制作側に、十六夜九衛門のキャラクターはスーツ担当の蜂須賀さんと声を担当した潘めぐみさんに引っ張られたというコメントがありましたが、この救いのある結末は正にその結果と言えそうですよね。
牙鬼幻月
冒頭で述べたとおり、マクガフィン的な存在だった牙鬼幻月。ニンニンジャーに倒されるという役目に加え、十六夜九衛門の宿命を象徴する存在でした。
結局は「それだけ」なので、すぐに巨大化してすぐに倒されてしまいます。この展開を呆気ないと言ってしまえばそれまでですが、好天が命を賭して封印した程の強敵に、少しも臆する事なく立ち向かい早々に倒してしまった(勿論、十六夜九衛門の裏切りもあっての事ですが)のですから、現役忍者達の力強さを描き切ったという面で納得出来る展開だったのではないでしょうか。ラストニンジャとは異なる道へと進むきっかけとなったゲキアツダイオーでの決着というのも象徴的ですよね。
一方で、麦人さんの声の迫力は相当なもので、言ってしまえば存在感の薄いラスボスでありながら、その存在感を存分にアピール出来たのは、この方の声あっての事だろうと思いますね。
言うまでもないですが、家族を道具にする牙鬼幻月と、家族を得たかった十六夜九衛門、家族そして仲間と高めあって境地に到達したニンニンジャーの三者で、「家族」や「仲間」というタームを巡るそれぞれのスタンスを表現しており、それぞれの行く末が対比されて描かれるラストは重厚かつ爽快でした。登場話数はごく少なかったですが、その対比を印象付ける程の存在感はちゃんと確保していて見事でした。
それぞれの道
ラストニンジャという存在を決定付ける終わりの手裏剣は、天晴の提案によって消滅する事になりました。いわば、彼等の代でラストニンジャは自ずと終わりを告げる事となったわけです。
しかし、天晴達はそれぞれの道で己を鍛錬し、新しいステージに向かう事を約束して物語の幕を下ろします。示される「その後」はそれぞれのキャラクターに相応しいもので、任務を終えて市井に還っていくという戦隊のパターンを一歩推し進めたものになっていました。
霞や凪、キンジのように、元の生活へ戻りつつも次なるステージを模索する者があれば、天晴と八雲は導く側へ立ち、風花は違う生活へと身を投じていきます。それぞれコミカルかつ爽やかなシーンを配して幕切れとしていましたが、確実に一年間の積み重ねを感じさせる辺り、実に巧いですよね。読後感も清涼で素晴らしいです。
総括
「手裏剣戦隊ニンニンジャー」は、ビジュアルこそ当初は奇をてらったように見受けられましたが、実の処物凄くオーソドックスな「戦隊」だったのではないでしょうか。
終わってみれば、驚くほどレッド偏重を排除(勿論、一方で番組の顔として立てる事は忘れていません)していましたし、楽しい作風、仲間意識、後見人キャラクターや敵側のドラマ(特に有明の方と十六夜九衛門)の充実度といった要素を並べてみると、かなりシリーズ初期の戦隊を彷彿とさせるものがありました。毎年、どこかしらノれない時期があったりするのですが、私個人としてはあっという間に終わったという感が強く、それだけ今シーズンに活気と勢いがあったのだと思いますし、初期戦隊の作風(=原点回帰)を意識的に踏襲して来たのも、私にとって大きかったと思います。
設定や流れにツッコミ処が多く存在しており、それは硬派な特撮ファンにとっては今一つな感を残すものだったかも知れませんが、戦隊ってこうだよね! とはっきり言える部分がそれを凌駕しており、結果的に高い満足度を引き出したと見て間違いないです。「ゴレンジャー」に倣った日本語混じりのネーミングなんかは、それを象徴しているようで面白い処ですね。
そして、「ニンニンジャー」は例年通りVシネマやVSシリーズで復活する事になりそうです!
Vシネマの方は、今回登場した緑の忍シュリケンを驚きの手法で活かすようで。これは本当に驚きです。そして、天晴と風花の母親役は中山忍さん。絶対「忍」から当てたキャスティングですよね(笑)。お姉様の中山美穂さんは「セーラー服反逆同盟」で「スケバン刑事III」ではないので、残念ながら忍者とは関係なく...(←どうでもいい)。
ということで、お後が宜しいようで。
一年間ありがとうございました。引き続き「動物戦隊ジュウオウジャーを見たか?」の方もよろしくお願い致します。
竜門 剛
九衛門の結末には、しんみりしてしまいましたね・・・。登場時から実はラスボス?などと予想されていたのがウソのようでした。
以前、ニンニンジャーたちの師弟関係をスターウォーズに例えて解説されていましたが、偶然にも九衛門がアナキンに近い立場でしたね。今さら言うまでもなく、潘さんと蜂須賀さんの演技も最高でした。
私の思う総括としては、最初から最後まで天晴は良い意味で変わらなかった、というところでしょうか。近年のレッドたちの中でも珍しく悩まずに、まっすぐ成長し、他の五人はもちろん、ある意味では祖父・好天も引っ張られてしまったという強烈なキャラクターでした。一言で言えば、愛すべき大バカ野郎でした。
そして、二年後に再開というVシネへの強引な(笑)つなげ方。来年のVSなら一年後だけど何で?と思ったのですが、そういうつながりとは・・・。潘さんのミドニンジャーが楽しみです。
最後に。おでんの屋台を引いて「おでん忍者」となったキンジと、寿司の屋台を引いていた某「寿司侍」がかぶったのは私だけでしょうか?
一年間おつかれさまでした、今作も楽しませていただきました。でも、来週からはジュウオウジャーが・・・。良くも悪くも一区切りとか一休みができないシリーズですねぇ(汗)。
ともかく、次回も楽しみにしていますね。
天地人
意外と言っては失礼かも知れませんが、王道的展開な最終回でしたね。
心が汚れてしまってるせいか(苦笑)ひねった結末を予想してたんですけど、終わって見ればニンニンジャーらしい結末のつけ方で、更に2年後もVシネマで用意してあるという好天も真っ青の容易のよさ(おいっ)
ただ、ひとつ残念だったのは、ラストの天晴のシーンで弟子(?)の子供達の他に高坂キキョウも出して欲しかったって事でしょうか。
長いようで短かった1年ですが、毎回素晴らしい解説ありがとうございました。
大変だとは思いますが、来週から始まるジュウオウジャーもよろしくお願いします。
それではまた
SirMilesから竜門 剛さんへの返信
今シーズンもお付き合い下さってありがとうございました。
九衛門は確かにアナキンのようでした。師殺しの後、師の新しい弟子に改心を促されるという構図でしたね。
キンジと某寿司屋は外から宿命の一団に関わるという意味でも相似していました。やはり和風モチーフだと似てくる部分がありますよね。
次シーズンも何卒よろしくお願い致します。
SirMilesから天地人さんへの返信
今シーズンもお付き合い下さってありがとうございました。
王道的展開は私も予想していませんでしたので、結構な驚きでした。
また、仰るとおり、サブキャラが最後にあまりフォローされていなかったのが寂しい処でしたね。先輩忍者を含めて印象的なゲストが色々出て来たので、モブっぽい扱いでも良いので映って欲しかったという処はあります。
それでは、次シーズンも何卒よろしくお願い致します。