忍びの46「終わりの手裏剣、目覚める!」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 最終四部作、第三弾。

 近年はあまり見られなくなった、最終回での各人紹介。それを物凄く丁寧にやって見せたという印象でした。基本的には、牙鬼軍団総攻撃を阻止すべく、全員がそれぞれの戦いを繰り広げるバトル編なのですが、全体的に寂寥感が漂いスタティックな雰囲気に包まれた不思議な前哨戦となりました。恐らくは、精神的支柱でもあった好天との別れが色濃く影を落としているのでしょう。

 その一方で、現代のニンニンジャーが好天とは違うラストニンジャへの道を歩み始めたのは、実は「支柱」が好天ではなく天晴だったからというテーゼも見え、その筋運びの巧さが光ります。

牙鬼幻月 VS 伊賀崎流

 前回ラストで揃い踏みを果たした伊賀崎流忍軍。今回冒頭では、その活躍が存分に見られます。コンビネーションの見せ方の巧さは、正に「ニンニンジャー」の集大成といった感が漂っていました。

 意外なのは旋風の戦闘力の高さで、ブランクをものともしない様子は、さすが天才忍者と呼ばれただけの事はあります。一方で、少しドジな仕草を見せたりといった細かい芝居も入っていて、ちゃんと「らしさ」を表現している辺り見事ですね。アカニンジャーが三人も存在していながら、ちゃんとそれぞれに個性が反映されていて見応えがあります。

 私はこの時点で決着がつき、後を牙鬼久右衛門新月が引き継いでしまうものと思っていましたが、意外にも牙鬼幻月は余裕綽々としており、ちゃんとラスボスたる風格を体現していました。伊賀崎揃い踏みのカタルシスはややスポイルされた格好になったものの、現世代の戦いに収斂していくには必要なプロセスでしたし、何より敵の矮小化を招かなかった事は歓迎出来ると思います。

ラストニンジャ=好天、散華

 結果的には、概ね私の予想通りでした。曰く、好天は既に故人であったという事。

 結構分かり易いヒントは、劇中に何度か登場していました。シリーズ当初は故人扱いされていた事、終わりの手裏剣を直接手渡すシーンがない事、忍術を超えた超常能力を発揮する点、終盤において姿が消えかかる描写。ただ、意外な展開というのはままあるものなので、今回を迎えるまでは半信半疑といった処でした。

 私の本当の予想では、好天は終わりの手裏剣そのものの化身ではないかというものでしたが、それよりはもう少し理解しやすい仕掛けでしたね。それ故に、牙鬼久右衛門新月が好天を貫いて終わりの手裏剣を奪うシーンが成立し、それがより衝撃度を伴うものとなりました。消滅シーン自体は、終わりの手裏剣による奇跡のおかげで、いわゆる「死」を意識させないシーンになっています。光の粒子が散っていくという、割と定番化したファンタジー色の強い画ではありますが、その去り際に何も語らない処が実に素晴らしく、後の「遺言」が存分に活きてきます。

好天のメッセージ

 前回、旋風が狸の置物の中から見付けたのは、好天のメッセージが仕掛けられた「空の箱」でした。空っぽの箱が出て来た時は、その意味を霞か誰かが解釈するのかな...と思いましたが(ルパン三世が手に入れる「お宝」にもこんなのがありましたね)、ちゃんと好天が出て来てちょっと笑ってしまいました。

 好天らしいユーモラスな語り口を交えつつ、天晴達のその後の道を諭す「映像」は、笹野さんの存在感の大きさを雄弁に物語っていたように思います。劇中の設定としては、ニンニンジャーの精神的支柱が天晴(常に先頭を走り、他の面々がその背中を目指し追い抜く事を旨としている)になっていますが、制作的な視点では正に笹野さんが中心にあったのだと、如実に示されたわけですね。

 この「遺言」は、好天が自分のタイムリミットを自覚し始めた辺りで用意されたものと思われますが、飄々として突き放す態度が常だった好天の「本音」が見られるという点で、天晴達の喪失感を見事に払拭するものだったと思います。このメッセージを受けて、天晴達は何をすべきかに気付き、再度牙鬼軍団に立ち向かっていく事になるわけですが、この「気付き」は、少なくとも最終四部作の前後で既に天晴達の自覚する処だったと思います。好天を失った喪失感により一時的に目を逸らしてしまっている状態から、立ち直るプロセスだったと捉えるのが自然でしょう。

 一方、好天らしさに溢れるポイントとして、天晴達の目の前では、彼等一人一人に対するメッセージを開示しなかった事が挙げられます。シリーズ中、天晴達を手放しで評価する事はほぼありませんでしたから、それを最後まで守った事になります(笑)。「言い忘れておった」と言いつつ、多分旋風が一人になった時に流れるように仕掛けをしていたのだろうと、容易に想像出来る辺りが微笑ましい限り。

 孫、そして弟子それぞれに贈る言葉は、各人のキャラクター性を非常に的確に表現する簡潔なもの。なおかつ、彼等の往くべき道をも予見する言葉が添えられ、最終決戦を前にしての総括ととれる素晴らしい語り口でした。それらが各人のアクションとシンクロしてその個性をより際立たせているという、シーン設計の巧みさが光ります。言葉で直接伝えてないけれども、個々にはもう伝わっているというくだりが見事!

 そして、最後に息子である旋風に贈った言葉の素晴らしさよ。ある意味、ラストニンジャの「因習」に取り憑かれていた好天が、突き放してしまった息子=旋風。しかしながら、旋風がラストニンジャに不要とされた「優しさ」の体現者だったからこそ、孫達が新しい道を見付けられた事は疑いようもなく、好天も全てを悟って息子に後を託したわけです。このシーンでは、良い意味でもう孫と弟子は置いてけぼりで、中高年の重厚な芝居を物凄く丁寧に見せており、親世代を泣かせる為に用意されたとしか思えないですね(笑)。

決戦!

 今回のクライマックスバトルは、六人一丸となるスタイルではなく、天晴が本丸を目指し、八雲が蛾眉雷蔵と対峙、凪と風花は巨大戦担当、霞とキンジで有明の方を迎え撃つという、同時進行の目まぐるしいものとなりました。目まぐるしくも、前述の好天による「総括」とセットになっているので、シーンが巧みに整理されていて状況が非常に把握しやすいのは凄い処。

 まず、八雲が単独で蛾眉雷蔵を打ち破るくだりでは、かつて天晴が下した相手を改めて、しかも易々と破る事で、その実力の程を見せつけるという、天晴最大のライバルとしての存在感を発揮。蛾眉雷蔵の、最終決戦における存在価値はかなり「再生怪人」に近いものになってしまいましたが、そうしてでも表現したかったものが見えてきました。

 凪と風花は、巨大戦を担当。「アカイキュウビ」なるカラクリキュウビの後継機が登場し、多分キュベレイMk-IIを意識してるんだろうなあ...と、この期に及んでのネタ投入に苦笑しつつも、年少コンビの息の合った、しかもテンションの高い戦い振りは実に頼もしく、「新世代」の象徴であると改めて認識させられます。

 霞とキンジは、珍しい組み合わせ。異論はあると思いますが、キンジも割と理論派(頭でっかちな行動で色々失敗してきた)なので、このコンビも戦術重視でなかなかのハマりっぷりです。有明の方の牙鬼萬月への執着振りが物悲しく、後のない出陣な上にほぼ瞬殺に近い倒され方で、しかも最終的に牙鬼幻月に吸収されてしまうという最期を迎える事となりました。正室である筈の有明の方があのような扱いを受け、牙鬼幻月は血も涙もない人物である事が強調されました。

 天晴は、正にイケイケドンドンな猛進。彼らしい無類の強さを表現するアクションが爽快で、チャンバラの要素をも感じさせるテンションの高いシーンが続出でした。

終わりの手裏剣

 牙鬼久右衛門新月は終わりの手裏剣を入手し、未曾有の危機をもたらす事になります。

 ここで、天晴達は一斉に変身解除! ということは、つまりそういう事です。「戦隊版卒業式」と言わんばかりに素面アクション=一年間の成果が存分に披露される機会が、今年も訪れたという事ですね。

 これまでも折に触れて生身アクションは盛り込まれてきましたが、その集大成を見せてくれるものと期待しています。

 いよいよ、次回は最終回。年々、一年の経過が速くなっている気がして困ります(笑)。どのような結末を見せてくれるのか、楽しみですね。