忍びの16「父ツムジはスーパー忍者!?」

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 待望の(?)旋風メイン編。

 相変わらず謎めいていて、つかみどころのない好天に比べ、温厚な常識人といった佇まいで「ニンニンジャー」の良心を体現するキャラクターである旋風。浮き世離れした忍者の世界と、我々の日常世界とを繋ぐ重要な役回りを担っています。

 しかしながら、最近は意外と登場機会が少なく、ギャグ担当としての存在感すらも薄かった為、近年の傾向である「後見人キャラの重要性低下」を危惧したのですが、今回を見る限り大丈夫かも知れないなぁ...と安堵しました。

父の日

 今回は風花と天晴が旋風へのプレゼントを買いに行く描写があるように、はっきりと父の日を意識しているわけですが、実際の父の日は当エピソードの放映日ではなく、その次週になります。

 「ニンニンジャー」は放映開始にスケジュール調整が入る事態となり、1クール目には多少の混乱が見られましたが、2クール目ともなるとそれも充分調整され、安定した制作姿勢が感じられたので、今回は少々驚きましたね。

 これはあくまで推測ですけど、次週の「仮面ライダードライブ」が放送休止になっているので、その30分前開始の「ニンニンジャー」も放送休止を予測していたのではないでしょうか。ところが実際には「ニンニンジャー」は休止とはならなかったわけで、結局は本来のタイミングからややズレてしまったものと考えられます。ちなみに「ドライブ」の方も、父親の事件がメインになっている辺り、数奇なものを感じますね(そちらは父の日ピンポイントではなく、父の存在は大きなテーマですけど)。

 今回の父の日に関する描写は、前述の風花と天晴の買い物や、エピローグにおける風花のセリフくらいで、後は父=旋風をメインに据える作劇という点が「父の日」編たる所以となっています。

旋風の過去

 今回は旋風の意外な過去が明らかになりました。

 旋風はかつて忍術の才能に秀でる子供だったというのです。好天も相当な期待をかけていたのかも知れませんね。やがて、長ずるに従って忍術の才能は失われていったそうですが、これって妙にリアルな感覚だなぁ...と思いました。誰しも、子供の頃は得意だったものが大人になると全然出来なくなったという事があると思います。それは主に、夢中だったものをいつしかやめてしまった、つまりは「練習」の回数が減った事で能力を失っていく事に他ならないんですけど。私の場合だとスペランカーをクリアできなくなりましたね(笑)。

 旋風の場合、さすがに「家系」であるだけに鍛錬を怠ったわけではないと思いますが、これも感覚の変化なんでしょうね。

 子供の頃は忍術が遊びの延長で、その姿は正に「神童」と映ったでしょう。ところが成長するにつれ、それが義務感を伴う練習に変化していったのでは。

 印象的に旋風は理論派の面が強く、頭で考えるうちに体で覚えていた忍術をどんどん忘れていったのではないかと思われます。好天も天晴も、「考えるな、感じろ」で動くタイプに見えますから、そこが伊賀崎流における明暗を分けるポイントなのかも知れません。一方で、霞を代表する頭脳派でも卓越した忍術の才能を有していますから、理論自体も一面では有用な武器になるわけです。スポーツなんかは、一概には言えませんが、そういう面が強い場合もありますよね。

 やはり、旋風にとって好天は「父」ですから、二人は距離が近すぎたという事でしょう。偉大すぎる父がすぐ近くに居た事で、旋風はその才能をつぶされた(あるいは自らつぶれた)可能性があるわけです。「孫」は「祖父」との絶妙な距離感故に、意識の面で忍者として大成していく可能性があるという事ですね。

カサバケ

 旋風の落とした万年筆をモチーフとする傘の妖怪です。デザインの巧さはやはり素晴らしいですね。能力もカサバケのイメージと万年筆のイメージを見事に活用していて素晴らしいです。

 声は真殿光昭さん。戦隊の登板はほぼ定番化してますよね。コミカルさと悪辣さを巧みに同居させた芸風が完璧にマッチしています。

 今回は、天晴達を尾行して伊賀崎の拠点を探る作戦ですが、天晴達の尾行がことごとく失敗する様子は爽快かつ楽しく描写されています。故に、旋風が狙われた際の危機感が強くなっており、シーン設計の巧みさを感じます。敵のウイークポイント(つまりは旋風)を攻めるという作戦は、いかにも知将である晦正影らしいですよね。

 その旋風が狙われるというくだりでは、目玉の付いた傘を持つ旋風という画が実に不気味。いつも古い話で申し訳ないのですが、「バトルフィーバー」終盤で、ヘッダー怪人(=幹部の変身体)が目玉のみをバトルケニアに付着させ、基地に潜入を果たすという奇怪な作戦を採るんですけど、それを想起させるものでした。「ゴレンジャー」では、大幹部のゴールデン仮面大将軍が、自らを粉砕させ金粉と化し、やはりゴレンジャー達に付着する事で基地を突き止めるという作戦を採っていました。つまりは、こういう潜入譚というのは定番中の定番なんですね(「基地バレ」という点で、シリーズのクライマックスで採用される場合が多いのですが)。今回は、「基地」が突き止められないという点を利用して、コミカルな作戦へと印象を変化させているのが面白い処です。

旋風の忍術!

 作戦を知った天晴達は、旋風を忍術の使い手に仕立て上げる事で、カサバケを撃退しようと考えます。この作戦の前哨として、親子三代で忍者になりたかったという旋風の心情吐露があり、自分の親と自分の子という優秀な忍者に挟まれている旋風の悔恨は察するに余りあります。しかし、変なプライドや卑屈さの欠片もないのが旋風さんの良い処。いわゆる「忍術ごっこ」を、子供達が引くくらいにノリノリでこなして行く姿は好感度抜群でした。

 そして、このテの話では容易に想像のつく展開になっていくわけですが、盛り上げ方が物凄く巧いので、想像出来る展開になった瞬間に諸手を挙げて喜んでしまうんですね。術中にハマるわけです。

 息子達(風花の名前をいつも最初に呼んでいるので、「娘達」の方が適当か)の思いがけない危機に、遂に父としてのプライドを発揮する旋風。渾身、正に渾身という言葉がピッタリな大振りの構えから、竜巻の術を放つ!! このカタルシスは筆舌に尽くしがたいものがありました。劇中では家族への強い想いが起こした奇跡という説明がなされていますが、無我夢中で、考えもなく、本能の赴くままに放った事が発動のキーとなったのは想像に難くありません。他のシーンでは、頭で考えてるのが手に取るように分かる...この辺は、旋風役の矢柴さんの手腕でしょうね。練りに練られた演技プランが光っています。

キンジ

 キンジは今回も、「お命頂戴」シーンはギャグ程度で。というより、次週の展開を予見するに、結局はギャグ以外の描写がないまま終わったのではないかという(笑)。ただし、やはりキンジの心にある影の部分は今回も少しだけ描かれており、好天、旋風、天晴達と続く血縁に興味を示し、同時に羨望に似た感情を露わにするのです。

 しかしながら、陽気な妖怪ハンターとしてのキンジもちゃんと活写されています。むしろ陽性の面が強いので、影の部分に引き込まれるという事はないのかも知れません。キャラクターの厚みを担保する為に光と影を描いているのだとすれば、それは巧く機能していると思います。

次回

 鮮烈なサブタイトルに目を奪われますが、果たしてキンジことスターさんはどうなってしまうのか。弟子入りのタイムリミットだった事はもはや忘れかけていましたが(笑)、考えてみれば例年の追加戦士登場のタイミングはここらなわけで、キャラクターの関係構造について、何か大きな動きがありそうですね。実に楽しみです。