Episode 32 影 -アンノウンハンド-

 TLTに囚われた溝呂木は松永管理官によって尋問されていた。何も思い出せない溝呂木は何者かの声を聞くと、記憶を取り戻し突然脱走を図り、これを果たす。「俺にはまだ、やるべきことがある」と言う溝呂木は瑞生を人質にして逃走。それをキャッチした三沢は、何者かに襲撃される。

 事件に際して出動許可を求める和倉。全員は出せないと答える松永を前に、凪は孤門と共に溝呂木を追跡することを進言する。その頃、本来人質である筈の瑞生は、傷を負った溝呂木の介抱をする。溝呂木がそんな彼女に語ったのは、「理子という少女に謝りたい」ということだった。

 凪と孤門は溝呂木を発見。孤門は憎しみを抑えて銃を下ろす。溝呂木は投降しようとしたが、背後より衝撃弾を受ける。弾を放ったのは三沢だった。三沢は「そいつの役目は終わった」と言い放ち、孤門たちの眼前でダークメフィストへと変身する!

 憐はその気配を察知してウルトラマンに変身、メフィストとの戦いに臨む。メフィストは赤い眼光を灯し、ウルトラマンに猛攻を仕掛ける。「どのみち貴様の命はじき燃え尽きる。その光、俺が全て吸い取ってやる!」 ウルトラマンのピンチに、溝呂木は「光」の中でメフィストに変身! 赤い眼光のメフィストを捕らえ、もろともウルトラマンに撃たせる。

 「罪を償うなら生きて。もう一度人間として」という凪の言葉もむなしく、溝呂木は凪の腕の中で息絶えた…。

解説

 溝呂木眞也のドラマ完結編として、高い完成度を誇る今回。溝呂木の改心は、再登場時にある程度予想できたことだが、ここまで「燃える」シチュエーションに昇華させてくると、見ているこちらはただ圧倒されるのみだ。

 今回もシナリオの凝縮度が高く、憐のドラマが心なしか省略された印象がある。まずは登場がかなり突然だったことに加え、溝呂木メフィストごと撃破する際の躊躇のしかたに、バックグラウンドの浅さが感じられて少し違和感を覚えることなどが挙げられる。しかしながら溝呂木中心のドラマとして見れば、そのような些細な点は吹き飛ばされるほどの勢いが感じられる。

 ここに来て、各キャラクターの成長度合いの著しさがよく描写されている。孤門は憎しみに走ることなく溝呂木に投降を促す。凪も同様だが、溝呂木の最期に際して「人間として生きて罪を償って欲しい」という意味合いのセリフを言えるまでになり、彼女が姫矢との出会いを経て世界を大きく広げたことがわかって感慨深い。瑞生は冷静な判断力と人を見る目が兼ね備わるまでになっている。クライマックスに向け、近いうちに知れるアンノウンハンドの正体とその脅威に立ち向かっていくに相応しい力は、既に完成されてきたのだろう。

 今回の特筆は、何といっても三沢である。放映開始当初から、オープニングにフルクレジットされる割には影の薄いキャラクターであり、とても気になっていたのだが、今回、謎の人物によって姫矢や溝呂木、憐たちと列挙されるに至る人物であることが判明。しかし、メフィストに変身したのは今回限りという寂しい扱い。もしかしたら、4クール放映プランの中ではもっと強力なキャラだったのかも知れない…。ちなみに、「目覚めのときは近い」と呟く謎の人物による列挙は、姫矢、リコ、溝呂木、憐、三沢、孤門、凪となっており、これがデュナミスト候補者を現わすのか、はたまた闇の操り人形として都合のいい人物の一覧なのか、判然としない。

 そしてやはり、赤目のメフィスト(ツヴァイ)とウルトラマンの死闘! 今回の空中戦は、これまで以上に「板野サーカス」なスピード感が前面に出され、メフィスト・ツヴァイの強大な能力が存分にアピールされた。さらに闇の力に拠らない溝呂木の変身が「燃える」。画面で判断する限り、溝呂木は変身能力を身体に記憶しており、周囲から変身に必要なエネルギーを集めて確保した印象がある。溝呂木もデュナミストだったのかも知れない。メフィスト同士の死闘も鮮烈だが、「何をしている! それが光を得たお前の役目だ!」と言い放つ溝呂木メフィストのカッコ良さは反則スレスレだ。悪の寝返りパターンはえてして陳腐になりがちだが、今回は大成功の部類に入るのではないかと思う。