ストーリー
南太平洋のジョンスン島でゴモラの存在が確認された。ここ最近、日本以外で怪獣が出現した初めての事例である。謎の時空波に対する一層の警戒を呼びかけるサコミズ隊長。そこに、タケナカ最高総議長専用機の到着を告げる連絡が入った。最高責任者の到来に慌てふためくディレクションルーム。いよいよ姿を見せたタケナカ最高総議長を前にして、ミライ達は極度に緊張する。ところが、タケナカはサコミズ隊長に笑顔で「よぉ、サコっち」と呼びかける。唖然とする他の面々。タケナカとサコミズ隊長は、2人きりで特別応接室に入っていった。リュウ達は、中の様子が気になって仕方がない。
「昔のクセが抜けなくて、思わずサコっちと呼んでしまった」と語るタケナカ。「老けたな」と言うサコミズ隊長に、タケナカは「よしてくれ、同い年じゃないか」と返す。
40年前、科学特捜隊の1チームを任されていた「サコミズキャップ」は、地球外勤務を申し出た。光速に近い速度で航行する宇宙船の中では、時間が引き延ばされるという「ウラシマ効果」により、タケナカとサコミズは40歳近く年齢を隔てたようになってしまったのである。
サコミズは、地球に帰還すると突然アストロノーツを廃業したという。亜光速試験船・イザナミの4度目の試験航海の折に、冥王星軌道を越えようとしていた時、サコミズは搭載艇で母船を離れていた。サコミズの搭載艇は多数の侵略円盤による攻撃にさらされてしまう。サコミズはイザナミのクルーに対し、即座に地球への帰還命令を下した。地球が、外的から狙われ続けていることを伝達させる為である。サコミズ絶体絶命の時、立ちはだかったのはゾフィーであった。ゾフィーはM87光線を放ち、一瞬で侵略円盤の群れを撃退した。「人間よ、遂に自力でここまで来たな」ゾフィーはサコミズに語りかける。「やがて君たちも、我々と肩を並べ、星々の狭間を駆ける時が来るだろう。それまでは我々が、君たちの世界の盾となろう。次に会う時が、楽しみだ」サコミズにそう告げたゾフィーは、何処かへ飛び去った。
「俺たちの知らないうちに、俺たちの知らない場所で、俺たちの知らない敵から、俺たちは守られていた」というサコミズ隊長。彼の地球外任務は、それが最後となった。サコミズの携えてきた事件の記録と証言は、怪獣や宇宙人の脅威が無くなって久しい地球に、GUYSという防衛機構をもたらすきっかけとなったのである。「俺は彼らの心に応えたい」それが、サコミズの願いであり、決意であった。昔話を打ち切ったサコミズ隊長は、タケナカより何かのカードキーを受け取る。
その頃、謎の黒ずくめの男が、多々良島のレッドキングを地中より呼び起こし、ガディバを宿らせていた。CREW GUYSは直ちに出動し、レッドキングを攻撃する。テッペイは、レッドキングの能力が過去のデータを上回っていると指摘。タケナカは入隊1年に満たないCREW GUYS達の戦闘技術に感心するが、パワーアップしたレッドキングを前に、戦況は芳しくない。ミライはウルトラマンメビウスに変身する。メビウスはレッドキングを難なく打倒したが、黒ずくめの男が手をかざした瞬間、レッドキングは何とゴモラへと変化した。タケナカは、同化した怪獣の生体情報を複製し再現することの出来る宇宙生物に違いないと断定する。
ゴモラの猛攻に危機を迎えたメビウスを救うべく、メテオールを発動させたリュウ達は、メビウスに援護と声援を送る。バーニングブレイブとなったメビウスは、ガンフェニックストライカーとの同時攻撃で、ゴモラを粉砕した。
「彼らの心に応えたい。人知れず俺たちを守ってきてくれた、彼らの心に」サコミズ隊長は繰り返す。「ただ守られているだけじゃない。同じ場所に立って、同じ痛みを、苦しみを、同じ喜びを…。ここに居るクルー達となら、それが出来ると信じている」それが、ここに居る理由だと語るサコミズ隊長に、タケナカは「来た甲斐があったよ」と応えた。
一方、黒ずくめの男はガディバを回収していた。この男こそ、再びよみがえったヤプールであった…。
解説
サコミズ隊長の素性が明かされる重要回。同時に、「あの」タケナカ参謀がGUYS最高総議長という肩書きを擁して、ウルトラシリーズに帰って来るというサービスエピソードでもある。
まずは、タケナカ最高総議長について述べておきたい。タケナカは「ウルトラセブン」に度々登場した、厳格でありながら部下からの信望の厚い、指揮官の鑑のような地球防衛軍参謀であった。特に印象深いエピソードを挙げるとすれば、第34話「蒸発都市」での、防衛軍基地外での調査活動であろう。このエピソードに象徴されるように、時には前線に立つことも厭わない、極めて有能な上司として描かれていたのが、タケナカだ(ただし、タケナカに限らず、「ウルトラセブン」の防衛軍高官は、有能な者で占められている印象があるが)。
タケナカ役の佐原健二氏は、ウルトラQの主役キャラである万城目淳役。サコミズ隊長の「老けたな」というセリフがあるものの、佐原氏の風貌・雰囲気、そしてカッコ良さは、この万城目時代から殆ど変わっていない。サコミズ隊長は「ウラシマ効果」で地球時間を超越してきたが、佐原氏もまた、ウルトラシリーズという時空に乗って、時間を超越したかのような存在感で画面を引き締めた。この、俳優として大先輩の佐原氏に、同輩として接するサコミズ役・田中実氏の堂々たる演技も見モノだ。
もう一人、古きウルトラよりの再来者が存在する。それが、ヤプール人間体役の清水綋治氏だ。清水氏は、ウルトラマンA・第4話「3億年超獣出現!」にて、ヤプールに心の闇を利用される漫画家・久里虫太郎役として出演。数ある「ヤプール側の人間」の中でも、「ユニタングのお姉さん」「カウラの蟹江敬三氏」に並ぶインパクトで、ファンに強い印象を残している。清水氏を得たことで、どこかメビウスでは曖昧模糊としていたヤプール像に、かなりの説得力が加わった。扮装が「ブラック指令」なのもニヤリとさせられる。しばらく清水氏は続投のようなので、期待大だ。
さらにもう一つ、本エピソードには、ゾフィー登場というトピックがある。ゾフィーは、ウルトラ兄弟最強の長兄として、古くからその存在感を存分に発揮しているキャラクターである。しかしその「最強伝説」の多くは、雑誌による情報やコミカライズでの描写に拠るところが大きく、テレビシリーズでの戦歴は芳しくない。ざっと見ただけでも、実際に戦闘を行って勝利しているのは、ウルトラマンA・第5話「大蟻超獣対ウルトラ兄弟」くらいしかない(!)。あとは、救援の為に何かを届けたり、ウルトラ兄弟勢揃いの中の一人に過ぎなかったり、最悪の場合、完膚なきまでに叩きのめされるという損な役回りに甘んじてきた。それは、ゲストウルトラマンを扱いあぐね続けていた、華やかなりし第二期ウルトラの影の部分を象徴している。
今回のゾフィーは、そんなファンの忸怩たる思いを、M87光線一発で吹き飛ばすほどの、威厳と強さを見せた。M87光線がテレビシリーズでまともに放たれるのは、実は今回が初めてだ。ワイドショット風にL字に組んで発射するタイプは、「ウルトラマンT」での光線一斉発射の折に垣間見られたが、左腕を胸に水平に構え、右腕を正面に伸ばすタイプは、何と「ウルトラマンA」でエースキラーの放ったものが唯一(!)。「最強光線」の異名をとりながらも、何とも不遇な必殺光線であったが、今回ようやくその威力を目にすることが出来たわけだ。光線の長時間発射で円盤群を一掃する様は、正に「最強の長兄」たるに相応しい。ちなみに、「メビナビ」で「エムハチナナ光線」と紹介されたが、これはテレビ東京系で放映された朝の帯番組「ウルトラマンM715」で初めて登場した名称。かつてエースキラーが放った際、ヤプールからは「エムはちじゅうなな光線」と呼称されていた。「エムハチナナ光線」は、旧来ファンには多少違和感のある呼称であろう。
と、ここまで書いてきて、本エピソードは旧ウルトラの再来者ばかりだということに気付く。佐原氏、清水氏、レッドキング、ゴモラ、そしてゾフィー、流星マーク、宇宙ビートル。さらには初期ウルトラの効果音に至るまで…。様々なファンサービスを押し込んだものは、割と散漫な結果になってしまうことが多い。しかしながら、本エピソードは非常によくまとまっている。それは、やはりサコミズ隊長の数奇な経歴という部分で、ストーリーをシンプルかつ強力に牽引していったからであろう。ただし、サービス故の問題がないわけでもない。その問題の筆頭は、「時系列の分かりにくさ」である。
サコミズ隊長が「ウラシマ効果」と呼んだ特殊相対論は、亜光速で移動する物体の時間の流れが遅くなるというものであるが、これだけならば、SF作品の定番故さして難解ではない。問題は、ビートルや流星マークが登場することで、例のゾフィーとの遭遇シーンが、あたかも科学特捜隊からウルトラ警備隊に至る間の出来事だと錯覚してしまうことである。ビジュアルが時系列を狂わせているのだ。
「アストロノーツを廃業して、地球に戻ってきた」「4度目の試験航海」「冥王星軌道を超えようとしていた」「最後の地球外任務となった」「そしてお前(サコミズ)は戻ってきた。怪獣の出現が無くなって久しい、この地球へ」「(サコミズの)記録と証言がなかったら、今頃、GUYSは存在していない」このタームの羅列を見れば分かるとおり、サコミズが科学特捜隊の宇宙勤務をはじめた頃は30歳代後半。太陽系内(太陽系の半径はおよそ1光年)を4度亜光速試験船で飛び回っている間、サコミズの時間でおよそ5年程度。その間、地球の時間は35年程度経過していたと考えられる。4度目の試験航海に出発した頃には、怪獣頻出期は終焉を迎えており、それ故冥王星軌道付近での体験は、サコミズにアストロノーツを廃業させる程のものであった。つまり、ゾフィーと遭遇した例の体験は、多く見積もっても10年程前の出来事とするのが妥当なところであろう。
流星マーク、そしてビートルの意味を、ファンサービスを度外視して大真面目に考えるとすれば、「イザナミ」は試験船である為、40年前のモデルに少しずつオーバーホールや改良を重ねて、使い続けたというところが真相ではないだろうか。ビートルに関しても、ビートルを「搭載艇」と呼んでいるところから、「イザナミ」とセットで考えるのが自然だ。
データ
- 監督
- 佐野智樹
- 特技監督
- 鈴木健二
- 脚本
- 谷崎あきら