ストーリー
GUYSの食堂に勤務するサユリは、6人の子供を抱えるママでもある。そんなサユリがある日、車にはねられそうな子供を助けて死亡してしまった。病室に安置されたサユリに、サーペント星人が話しかける。サーペント星人はサユリの行動に感動したと言い、地球で活動するために身体を貸して欲しいと交渉してきた。サユリは家族のことが気になるあまり、サーペント星人の生命を得るべくその要求をのむことに。
退院したサユリはすぐに食堂に戻ってきたが、彼女の作る料理には一様に塩気がなかった。その日の夕方、帰宅したサユリを待っていたのは、にぎやかな家族による退院パーティ。食事のさなか、サユリは何故か水を大量に飲んでいた。さらにその夜、サーペント星人の意思が発露したと思しきサユリは、虚空から奇妙な器具を受け取った。
次の日、サユリの元に塩気のないランチに対するクレームが殺到。たじろいで休憩室に引っ込んだ彼女は、自分が自分ではないような感覚にとらわれていた。昨晩受け取った奇妙な器具がロッカーの中にあるのを見つけるサユリ。彼女がふと鏡を見ると、そこには別の意思を持った自分が映し出されていた。サーペント星人に身体を貸したこと、サーペント星人の真の目的がGUYS壊滅であること。それらをはっきりと関知したサユリは抵抗を試みるが、サーペント星人によって完全に意識を乗っ取られてしまう。
サユリは、フェニックスネストの動力室を破壊し、メインシステムのある一角にて例の器具を使い、サーペント星人の後続部隊を呼び出し始めた。直ちにメインシステムに向かうCREW GUYS。そこには、続々と空間転移してくるサーペント星人達の姿があった。ジョージが、空間転移装置である例の器具を破壊すると、サユリはサーペント星人の姿へと変わり、同化していることを盾にしつつ、仲間にメインシステムの破壊活動を命じた。
ところが、サユリを乗っ取ったサーペント星人は急に苦しみ始める。何とサユリは逆にサーペント星人を乗っ取ってしまったのだ。サユリの猛進撃によって一気に形勢を逆転されたサーペント星人は、流動体となってフェニックスネストの外へ。流動体は一つになり、巨大化を果たす。
ミライはウルトラマンメビウスに変身し、間一髪のところで攻撃を食い止めた。メビウスは善戦するが、硬い表皮と凄まじい回復能力によって苦戦に転ずる。ディレクションルームにやってきたサユリは、サーペント星人の弱点が塩であることを暴露。直ちに消火剤の塩化ナトリウム投下作戦が実行された。塩化ナトリウムを投下されたサーペント星人は硬化、メビウスによって粉砕された。
サユリには日常が戻ったが、しばらくの間サーペント星人の能力が残存するらしく、超人的なパワーとスピードで家事をこなしていた。車にはねられそうになった子供をまたも目撃したサユリは、今度はその超人的パワーで車を持ち上げて救助。「無敵のママ」は今日も元気だ。シュワッチ!
解説
第32話「怪獣使いの遺産」で物議を醸した、朱川湊人氏の手によるエピソード。非常にシンプルなプロットの中に、ユーモアとパワー、そしてキャラクターの的確な心情描写を散りばめた傑作だ。
敢えて一歩引いて考えてみると、本エピソードはウルトラシリーズらしい、宇宙人によるシチュエーションドラマとして成立している。しかしながら、メビウス色は希薄だ。過去のシリーズへの言及はパロディシーンを除いて皆無。GUYSが「食堂でガヤガヤやるタイプの防衛チーム」であるという点にスポットを当て、そこをメビウスらしさとして取り上げているに留まる。
今回の主役は最早GUYSであるとすら言い切れないほど、美保純氏演ずるサユリの大立ち回りがストーリーの骨子を担っている。美保氏の登板は、自身のブログ等によってかなり前から示唆されていたが、ありがちな「ちょっと出てみました」程度の予想も捨て切れなかった。ところが見てビックリ。「肝っ玉かぁちゃん」は、まぁ想定内だったとしても、素と宇宙人の鏡での演じ分けを1カットで見せるわ、宇宙人のスーツを着込み、顔だけ出してアクションを展開するわで、ウルトラマンすら完全に食ってしまった。
美保氏のネームバリューを差し引いたとしても、サユリのキャラクターの素晴らしさは何らスポイルされることはない。演技、演出、様々な要素が収束し、あの豪快かつ繊細なキャラクターが出来上がっているのだ。特に感心すべきは、前述した鏡のシーン。照明やアングルを工夫し、表情を変化させることで見事に別人格の描写を成す。鏡に映っているサユリと、そうでないサユリを交互に映し、鏡の中のサユリがサーペント星人であることを印象付けておいた上で、今度はサユリの背面から鏡を含めて移しこむ1カットで、演技のみの人格切り替えを描写する。この一連のシーンは単純でありながら非常によく考えられており、しつこいようだが、実に素晴らしい。
さて、サユリに関することは本編で感じていただくのが一番なので、このあたりで置いておくとする。ここからは、もう少し細かいシーン作りについて述べて行きたい。
まずは、冒頭。フェニックスネストの遠景が下町風の住宅地に連なるシーンがある。フェニックスネストをとらえるカットと言えば、いつもは周囲が広大な敷地になっており、生活感を感じさせない。だが、今回はたかだか5秒程度のカットに、(一瞬実景との合成かと思わせるほどの!)恐ろしく精緻な住宅街のミニチュアセットが組まれており、フェニックスネスト(つまりGUYS)と住宅街(つまり一般市民)が地続きになっていることを強調している。メビウスの中にあって珍しいシーンだけに見落としてしまいそうだが、その作りこみは正に溜息モノだ。
続いて、サユリとサーペント星人のファーストコンタクト。このシーンは、帰ってきたウルトラマン・第1話「怪獣総進撃」における、郷秀樹と帰マンのファーストコンタクトのパロディだ。サーペント星人のセリフは少々異なるものの、ニュアンスはほぼ同一。サーペント星人がサユリに憑依する際、倒れこむようにして同化する様は正にそのもの。サユリが看護師に声をかけ、看護師が悲鳴をあげるくだりも同じだ。シチュエーションもエピソードの類似性もまるで異なるが故に、このシーンは旧来のファンにとって非常に笑えるパロディシーンとして成立している。
サーペント星人の弱点が塩だと判明した後の、消化弾のくだりは、塩化ナトリウム云々のエクスキューズ含めなかなかスピーディ。惜しむらくは、巨大化したサーペント星人に対し、ZATの作戦よろしく本当に「塩そのもの」をかけて欲しかったが、さすがにGUYSに対してZATを期待するのは無理というものか。しかしながら、これだけ(いい意味で)ぶっ飛んだエピソードならば、「たまたま食塩を積んでいた」という強引さでも面白かったかも知れない。
いずれにせよ、細かいところから全体的な流れまで、隅々まで楽しく見られる名エピソードとして記憶しておきたい。
データ
- 監督
- 小中和哉
- 特技監督
- 小中和哉
- 脚本
- 朱川湊人