ストーリー
宇宙怪獣アリゲラが降下していた。戦闘機以上の飛行能力を持つアリゲラの降下地点は、全く予測できず、CREW GUYSは迎撃を試みるものの、その圧倒的な速度の前に成す術がなかった。ウルトラマンメビウスに変身したミライはアリゲラを追跡するが、アリゲラの翼による攻撃を右肩に受けて負傷してしまう。その時、何処からか放たれたビーム攻撃がアリゲラをとらえた。砲撃の主は、GUYSオーシャンのシーウインガーであった。
GUYSオーシャンの潜航艇ブルーウェイルは、アリゲラの日本海溝潜伏を確認する。その時、ディレクションルームにシーウインガーのパイロット・勇魚(イサナ)が現れた。勇魚の軽いノリに唖然とするマリナ。そこへミライが現れる。勇魚にミライの肩のケガを指摘され、すぐさまリュウはメビウスとしての戦いぶりに苦言を呈すが、ミライの正体に関して無防備なリュウを、周囲は必死で制止しようとする。不穏な空気を敏感に読み取ってニヤリとする勇魚。
トリヤマ補佐官は、日本海溝にメガトン級の魚雷を無数に打ち込んでアリゲラを殲滅しようと提案。その提案に対し、テッペイは地殻変動による災害の方が大きいと指摘する。今回は、GUYSオーシャンとCREW GUYSの共同戦線による、アリゲラおびき出し作戦を実行することとなった。作戦会議を終え、こっそり集まったCREW GUYSのメンバーは、ミライの正体が勇魚にバレないよう最大限の注意を払うことにした。
格納庫では、整備班に対するアライソのゲキが飛ぶ。アライソの元を訪れた勇魚はアライソのことを「とっつぁん」と呼んでいる。勇魚はアライソにGUYSオーシャンへ来るよう働きかけていたが、アライソにその気はない。アライソが声を荒げるのを物陰で聴いたコノミは、過去に2人の間に何かがあったのではと察する。
ブルーウェイルから送られたデータを分析したテッペイは、アリゲラが超音波によって周囲を認識していると報告。ミライはアリゲラの発するパルスが自分を呼んでいると言い、ディレクションルームに向かった。勇魚はそんなミライを見て、自分もアリゲラがメビウスを呼んでいると思っていたと言い、リュウ達を慌てさせる。勇魚は、様々な状況を把握した上で、房総半島の埋立地におびき出して叩く作戦を立案していた。
作戦開始までの暇を利用して、コノミはアライソに勇魚と何があったのかを尋ねた。勇魚はかつて整備班に在籍しており、アライソの期待を受けていた整備士見習いであった。しかし、突如試験を受けてGUYSオーシャンへと移籍。その際、アライソには何の相談もなかった。が、「アライソさん、ホントは勇魚さんのこと、ちっとも怒ってないんだ」とコノミが気付く通り、アライソはGUYSオーシャンでの仕事が勇魚の天職だと感じていたのだ。
作戦開始の時がやってきた。超音波を歪曲するソナーボックスをブルーウェイルより海溝へ投下、シーウインガーからメビウスのフローノイズを出力しつつアリゲラを誘い込む。房総半島の埋立地でガンローダーによる砲撃を受けたアリゲラは地上へ墜落するが、すぐに反撃してきた。勇魚はシーウインガーのマニューバモードを発動して対抗するが、時間切れで危機に。そこにメビウスが出現した。メビウスはアリゲラに善戦、超高速飛行で突進してくるアリゲラにメビュームブレードをかざし、真っ二つに粉砕した。
ディレクションルームで和気あいあいと騒ぐCREW GUYSと勇魚の元へ、GUYSオーシャンの隊員がやって来た。「お迎えにあがりました。勇魚隊長」の言葉に驚く面々。サコミズ隊長は、「CREW GUYSに気を遣わせないよう、黙っていてくれ」と耳打ちされていたのだ。勇魚は「共に戦った記念」をリュウに手渡す。アライソは「しっかりやれよ」と笑顔で勇魚を送り出した。
勇魚の「記念品」には「コックピットの会話に気をつけな 聞こえてるぜ」と書かれていた。ミライの正体は、初めから勇魚にバレていたのだ。
解説
メビウスらしく、またサイドキャラクター主体の太田脚本らしいエピソード。文句無く面白い傑作である。ミライの正体を隠すためのドタバタも、コミカルなスパイスとして効果的に作用しており、殺伐としがちなメカ戦を明るい作風に仕立てた。また、太田氏にありがちな難解SFタームも抑え気味にし、作戦の解説もコミカル仕立てとすることで、極力硬質感を分散させようとしているところに好感が持てる。
メビウスのキャラクター達は、GUYSでそれぞれの天職を全うしている。極限状態でもその先の一歩を踏み出し、常に明るく前向きな理想の職場。様々なクセのある個性派が揃っていつつも、そのベクトルは向かうべき方向へ向かっている…。そんな理想論の極致を体現しているGUYSであるが、今回はそれに職場の人間関係像を与えることで、あながち空論ではないと思わせるところが見事である。
勇魚というキャラクターは、一度はアライソの元にいながら、GUYSオーシャンへと移籍していった人間だ。アライソの言では、勇魚の整備士としての腕は光っていたという。だが、結局は若くしてGUYSオーシャンの隊長にまでなっているのだから、やはりGUYSオーシャンでの仕事が勇魚にとっての天職だったのだろう。しかしながら、整備士の良し悪しによる機体のコンディションの変化に気付いたり、アライソの整備の腕を誰よりも高く評価しているなど、勇魚の整備士としてのアビリティも相当なものには違いなく、どちらが天職だったのかは、結局のところ曖昧になっている。
この曖昧さ加減こそが、勇魚というキャラクターの真骨頂で、勇魚が発した「一期一会」という言葉をより引き立たせる要素だ。かつてはアライソという尊敬する「とっつぁん」に出会い、仲間と共に整備の仕事に懸命になった。そして突如移籍したGUYSオーシャンでも、仲間と共に海原を守っている。勇魚は2つの場所それぞれの「出会い」「仲間」を大切にしてきた人物として、描かれていることに気付く。そして今回の共同作戦でも、CREW GUYSを縁のある仲間として認識しており、最高の関係を実現するために隊長の地位すらも内緒にするという、優れた対人関係の処理能力を持っている。
まさに勇魚は絵に描いたような好漢だが、こんな男を、ウルトラファンは既視感を伴って見たのではないだろうか。ウルトラセブンに登場したクラタや、ウルトラマンティガに登場したハヤテといったゲストキャラクター達だ。この二人は、それぞれクセのある個性派でありつつ、的確な判断力や現場処理能力を以て、事件解決への大きな働きを為した。勇魚は彼らの後継キャラと呼ぶに相応しい。別の部署から殆ど前触れ無く登場し、当初は、何となくレギュラーの防衛チームと相容れない雰囲気を醸し出すが、徐々に互いを認め合うに至る。また、地位は隊長でレギュラーの防衛チームの隊長と知り合いである等々。分析すればかなり近似している(そもそも、ハヤテは平成版クラタとして、演じた京本政樹氏自身がキャラクター造形を要請したと言われている)。
さて、今回はメビウスというシリーズにおいて、若干抑え気味になっていたCGによる描写を多用、見事な空中戦描写が展開された。水と絡めたシーウインガーの各シーンは、質感、スピード感共に最高の仕上がり。シーウインガーの浮上シーンでのフロート感、ワイズ・クルージングの水しぶき、操演との見事な連携、瞬きを許さないアリゲラとの板野サーカス的チェイス。どれも特撮TVドラマを楽しむ者を至福へと導く興奮度であった。シーウインガー関係のシーンにはかなりの尺が割かれており、商品展開の事情を感じさせたとしても、一連のシーンはそれに応える以上の迫力がある。メカ戦というウルトラの別側面を、久々に堪能できたことを喜びたい。
本エピソードの見所は、シーウインガーや勇魚のシーンにあるわけだが、隠れた見所もある。それらは丁寧なシーン作りの賜物と思わせる演出。特に気になったものを挙げると、まずはメビウスの対アリゲラ第二戦。高速飛行して突進してくるアリゲラに対し、メビュームブレードを構えるだけで両断してしまうシーンは、これぞヒーローと言うべきクールなカッコ良さに満ちている。切断に厳しい昨今の特撮シーンにおいて、多少誤魔化しつつもしっかり真っ二つにしたことは拍手に値する。
もう一つの特筆すべきシーンは、勇魚が隊長であることがバレた直後のシーン。勇魚との握手の前に、リュウが襟のジッパーを締めるくだりが素晴らしい。これは隊長だと分かった上での礼儀ととれなくもないが、私としては、抜群の指揮能力や実戦能力を発揮した勇魚に対する、リュウの敬意の表れと解釈したい。このシーンは、メビウスの中でもとりわけ何気なく、素晴らしいシーンとして記録しておきたいところだ。
データ
- 監督
- アベユーイチ
- 特技監督
- アベユーイチ
- 脚本
- 太田愛