第35話 群青の光と影

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ストーリー

 ある夜、空よりハンターナイト・ツルギが出現し、街を無差別に破壊し始めた。出動したCREW GUYSの面々は驚きを禁じえないが、ミライはそれがツルギではないと確信していた。ツルギと話すべくウルトラマンメビウスに変身したミライは、ツルギの左腕にナイトブレスがあることに気付き、すぐに正体を暴くべく戦いを仕掛けた。だが、ツルギは逃亡してしまう。ディレクションルームで、ミライは「ヒカリが人間を裏切る筈がない」と語気を強める。ヒカリだけでなく、ウルトラマン達の信頼を失わせる悪意ある者の仕業なのだ。

 市民は「青い悪魔」と称してツルギを侵略者と見做し始めていた。リュウは、ヒカリがハンターナイト・ツルギだった頃、周囲を省みずにボガールを殲滅しようとしたことが、トラウマになっているのではないかと推論。テッペイは青いウルトラマンが地球に来たのが初めてだからではないかという推測を立てた。

 その夜、ヒカリはババルウ星人を追い詰めていた。ところが、ババルウ星人は「追い詰められたのは貴様の方だ」と嘯き、ツルギの姿に変身する。ババルウ星人の変身したニセツルギに立ち向かうヒカリだが、またもニセツルギは逃亡を果たす。戦いを目撃した市民は、青いウルトラマンであるヒカリを恐れた。ヒカリはセリザワの姿となって身を隠す。そこへリュウとミライが現れた。

 セリザワはフェニックスネストへと招かれた。セリザワはババルウ星人の目的、つまりウルトラマンの信頼失墜について語る。ヒカリは、地球に向かう途中にババルウ星人に深手を負わせた為、ババルウ星人によって目の敵にされているという。そこへトリヤマ補佐官が現れ、セリザワの帰還に驚く。セリザワがヒカリであることを明かすと、すぐに拘束を上層部に進言。その後、ミサキ総監代行がセリザワを総本部の監視下におく決定を伝えた。監禁されたセリザワを嘲笑するババルウ星人。

 ミライはセリザワの監禁を解くべく声を荒げるが、リュウはそれをたしなめた。リュウもミライと同じ悔しさを抱いているが、セリザワを信じる心は宇宙一だという自負がある。それ故に静観しているのだ。ミライはテレパシーでヒカリに語りかけ、自らの無力を悔いた。ヒカリは過去に犯した罪を振り返り「自業自得」だと言った。ミライはナイトブレスを返すが、ヒカリは自力で脱出するつもりはないと言う。ヒカリは、「青いウルトラマン」の同胞が「青さ」故に信頼を得られないとしたら、自分の責任だとし、信頼を取り戻すために耐えていたのだ。ウルトラマンとして。

 翌日、再びニセツルギは街を蹂躙し始めた。リュウはセリザワの監禁を解くよう、警備員に談判するが、そこへミサキ総監代行が現れる。セリザワが監禁されているにも関わらずツルギが現れたことで、セリザワ=ヒカリへの疑いは晴れたのだ。「総監も私も最初から信じてた」とミサキ総監代行は強く言い切った。

 リュウに同乗して現場に飛ぶセリザワは、ウルトラマンであることを証明するため、決意も新たにヒカリへと変身する。ニセツルギとヒカリの戦いが開始された。ニセツルギの光線から、身を挺して人々を守ったヒカリは危機に陥るが、リュウの激励に奮起、激闘を経てニセツルギの正体を暴いた。ヒカリは空より舞い降りる結晶体を自ら身に纏い、新たなツルギとなる。その腕から放たれたナイトシュートは、ババルウ星人を粉砕した。

 再び別れのときが訪れた。地球の危機を察知したヒカリは、その調査に向かうと言う。「君のおかげで俺は、ウルトラマンになれた」とセリザワはリュウに礼を言って飛び去った。空へ消えていくヒカリに、リュウは「絶対帰って来いよ!」と呼びかけるのだった。

解説

 久々登場のウルトラマンヒカリにまつわるエピソード。ヒカリの物語自体は、インターネット配信による動画コンテンツ「ヒカリサーガ」でフォローされていたのだが、テレビシリーズに登場するのは、実に1クール以上振りである。

 このエピソードは、前述の「ヒカリサーガ」を視聴していれば、より深く楽しむことができるのだが、視聴していなくても良いように配慮されている。ただし、ババルウ星人との地球での戦いが、ヒカリにとって「再戦」であることは、本編では、セリザワが一言だけ言及するのみに留まっているため、少々印象が薄い。「再戦」故に生きるセリフ(例えばババルウ星人を「追い詰めた」など)も散見されるので、注意が必要だ。

 他方、最終的に「鎧」を纏う場面は、「ヒカリサーガ」を視聴するか否かでまるで印象が違う。本編だけを見ると、宇宙を旅する間に「復讐の鎧」を光の力で転化することすら可能になったという印象で、ヒカリの神秘性を強く感じることができる。しかし「ヒカリサーガ」では、この鎧は「勇者の鎧」と呼ばれており、出自がかなり明瞭であるため、ヒカリの神秘性というよりはアーブの神秘性を強く感じさせるものとなっている。この違いは意図的ではないと思われるが、実に興味深く面白い違いだ。

 さて本エピソードでは、メビウスが実際に戦闘を繰り広げるのは冒頭のみであり、正にヒカリの主役編であった。ちゃんとセリザワも登場し、CREW GUYSとの接点を大切にしている。ことあるごとに「ウルトラマン」という言葉を口に出してこだわるヒカリ=セリザワ。それは、今回は一旦地球を離れたヒカリが、「ウルトラマン」としてのアイデンティティを確立して帰還してきたものの、真に「ウルトラマン」たるには地球人の信頼を得なければならないという試練の中で、自然に出た言葉として演出されている。

 思うに、これはミライ=メビウスでは成立しないドラマだ。セリザワという「人間の部分」をヒカリが有するからこそ、また、ヒカリが生粋の戦士ではないからこそ、人間を主体にした「信頼」を得ようとする姿が映える。ミライは純粋にM78星雲・ウルトラの国の宇宙人であり、その宇宙人が信頼を得るために奮闘するという構図が描かれた場合、それは単に信用するか否かの尺度を有する人間側のみの問題となり、人間のエゴに帰結してしまうようなドラマになる危険性を孕んでいる。エゴという部分において、テッペイ言うところの「赤いウルトラマンは信用される」という論は、それに近いものがある。こういう皮肉を織り交ぜてもなおドラマが成立するのは、セリザワ、そしてヒカリが苦悩する存在であったからだろう。思い起こせば、セリザワを省いたとしてもヒカリは実に人間くさいキャラクターではないか(これは声をあてた難波圭一氏に拠るところも大きい)。

 要は、ウルトラマンヒカリとは、ウルトラマンアグルやウルトラマンネクサスといった、光の巨人が有するネガティヴな幻想を克服していくキャラクターに類するものだと言える。メビウスを昭和ウルトラシリーズの正統な後継者とするならば、ヒカリは平成ウルトラシリーズの血統を色濃く反映したものではないか。「ウルトラマン」という言葉にこだわる様は、まさに平成ウルトラ的であり、徹底的に「光」の存在意義を問い続けてきた平成ウルトラを鑑みるに、「ヒカリ」という名前は象徴的ですらある。

 さらに、これは穿った見方になるが、「青いウルトラマン」は、M78星雲のマニア的でフィジカルな解釈においては非常に興味をそそるものであるものの、メンタルな面では、やはり異端であるに変わりはなく、本エピソードが「これからはM78星雲のウルトラマンにも、青いヤツがいるということを、今後は認めてください」とマニア向けにメッセージを発しているようにも見える。それはラストシーンでのリュウのセリフが象徴している。以前ヒカリが地球を離れたときは、「お前なんかもう戻って来んな」と悪態をついたが(勿論本心ではないだろうが)、今回は「絶対帰って来いよ」と言っている。当然、その間にミライがメビウスであることを知り、ウルトラマンとリュウの間のギャップが解消されたことも影響しているだろう。が、裏に秘められた精神としては、やはりヒカリをウルトラマンと認めるか否かという部分こそ重要ではないかと思うのだが、いかがなものだろうか。

 最後に、二つの注目シーンに触れてみたい。まずは、等身大ヒカリ。バトルこそなかったものの、やはり等身大になったウルトラマンというものは、いつの時代も新鮮である。ナイトシーン故に、電飾が強調されて美しいのもポイントだ。もう一つは、ニセツルギによる市街地の破壊シーン。セットがかなり贅沢に組まれており、破壊シーンの醍醐味を味わうことができる。ヒカリが光線から人々をかばうカットなどは、ハッとするほどの出来を誇り、巨大感は勿論のこと、ヒカリのポージング演出も秀逸。ババルウ星人とのバトルが終結するまで、画面が高いテンションを保っていた。

データ


監督

村石宏實

特技監督

村石宏實

脚本

小林雄次