ストーリー
30年前。河原で一人の少年が穴を掘っている。その不思議な少年に、ピアノのレッスンを終えて帰路につく少女が話しかける。その少年は宇宙人の円盤を探していると言う。少女の母は、「あの人は宇宙人らしいから、近づいたらダメよ」と言った。少女は「宇宙人だと、どうして怖いの?」と問い返した。
GUYSスペーシーより緊急連絡が入った。40分前に未確認飛行物体が大気圏を突破。コノミの保育園の園児たちが遠足に行っているタクマ山に、到達する確率が高いという。直ちにCREW GUYSが調査に向かった。テッペイは未確認飛行物体に怪獣が搭載されていることを確認する。リュウは侵略目的ではないかと疑い、攻撃しようと逸った。トリヤマ補佐官もリュウと同意見だったが、サコミズ隊長の楽観的とも思える慎重論によって制止される。その時、ミライはメイツ星人ビオのテレパシーを受けた。
着陸したミライはビオと会談、ビオは友好使節として地球に来たと言う。怪獣ゾアムルチはメビウス対策で連れてきたとし、地球人が怪獣を武器だと思っているのと同様、メイツ星人にとってウルトラマンは地球人の武器だという認識があるのだと主張。また、ビオは30数年前に地球で起こった、メイツ星人の悲劇的な事件に関する交渉も目的としていた。ミライは、メイツ星と地球の問題に干渉しないことを約束する。ところが、そこへミライを心配したリュウが現れ、ビオを撃ってしまった。
30年前の事件も同じような事件であったという。テッペイは、目前の異形なる者に対して恐れを抱くのは自然だと言うが、サコミズ隊長は「だから勇気を持って話し合うことが大切なんだ」と諭した。「園長先生がいつも同じことを言っていた」とコノミは言う。
ビオは、話し合いが不可能だと認め、武力による交渉を決意。「殺された同胞の賠償として、地球の大陸の20%を割譲せよ」と迫る。サコミズ隊長は、自らの過ちを知り改めなければならないが、危機に晒されている住民を守ることが最優先だとし、マリナとジョージにメテオールによる武力行使の阻止を命じた。一方、リュウに撃たれた傷が痛むビオは、建物の影に身を隠し、地球人の姿に変身した。そこへコノミの保育園の園児たちが遭遇。緑の血を流すビオを見て、園児の一人が「宇宙人でもケガをしたら痛いよ」とハンカチを差し出す。それに続いて次々とハンカチを渡す園児たち。園長がその行為を立派だと褒め、傷の手当をし始めた。さらにそこへミライとリュウが到着。ミライは断固話し合いを求めるが、ビオは憎しみにかられ、宇宙船とゾアムルチによる住宅地の破壊をはじめた。ミライは第三者として葛藤するが、「街が大変なことになってるんだぞ」と一喝するリュウに答え、ウルトラマンメビウスに変身した。一方のビオは、自分に憎しみがある限り、ゾアムルチは戦いを止めないと嘯く。30数年前に殺されたメイツ星人は、ビオの父だったのだ。
リュウはそれを聞いて銃をおろした。そして、園長がビオに近づく。園長は、30年前に宇宙人の円盤を探して穴を掘っていた少年に話しかけた、あの少女だった。「いつかメイツ星人と地球人が、手を取り合って仲良くできる日が必ず来る」というビオの父の言葉を、あの時少年から伝え聞いた園長は、それに感銘を受けたと言い、ビオにあえた嬉しさを隠せない。
「あなたのお父さんが地球に残した、愛情という遺産は、私の園の子供たちが、しっかり受け継いでいます。」
「この星が、今よりも優しくなる」という園長の言葉と、「もう一度、地球人を信じてくんねぇか」というリュウの言葉に突き動かされるビオだったが、既にゾアムルチに託した憎しみは抑えようもなく肥大化してしまっていた。憎しみの打破をメビウスに託すビオは、豪雨の中メビウスとゾアムルチの戦いを見守る。メビウスはその声に応えたか、メビュームシュートでゾアムルチを粉砕した。
戦いが終わり雨が上がる。「握手は、父の遺産の咲かせた花を見届けてからにしよう。」 ビオは地球の美しさに感銘を受けつつ、地球人とメイツ星人の明るい未来を予感して去って行った。
解説
優しい宇宙人を隠匿しつつ、河原に住み、宇宙人が隠した宇宙船を掘り出そうとする少年。少年の生活を疎ましく思う地域住人。悪ガキ達による執拗なイジメ。やがて宇宙人は宇宙人であるというだけで危険視され、地域の駐在により射殺。事情を知るウルトラマン・郷秀樹はやるせない想いから戦いを拒否する…。
帰ってきたウルトラマン・第33話「怪獣使いと少年」とは、このような物語である。文章だけでも相当なものだが、映像を目の当たりにするともっと凄まじい作品である。脚本は上原正三氏。監督には当時チーフ助監督を務めていた東條昭平氏が抜擢された。既にこの作品に関する論評や議論は各方面で行われており、語りつくされた感もある。とりあえず一言だけ主たる論旨を述べるとすれば、上原氏の抱えるマイノリティ問題を、血気盛んな若き東條監督が拡大解釈した結果、放送禁止一歩手前の問題作が完成した…とすれば良いだろうか。
さて、その問題作の続編を作ろうというのだから、大したものである。最大の難題である脚本に挑戦したのは、「花まんま」で第133回直木賞を受賞した作家・朱川湊人氏。いわゆる小説家である。
では、完成したストーリーは「怪獣使いと少年」の続編たるに相応しいものであったか。この答えは、視聴した方々それぞれが異なった見解をお持ちだろう。しかも、「怪獣使いと少年」自体を見たか否かによっても、答えは随分変わってくるだろう。あえて、ここでは私見に徹して書かせて頂くことにする。なお前提として、オンエア直前、私は「怪獣使いと少年」をDVDで念のために再度視聴したことをお断りしておく。
いきなり結論からで恐縮だが、最大の問題作が鬱積させた怨念や悲哀といった情念を、メビウスらしい爽やかな結末によって晴らしたという部分で、本エピソードは高く評価できる。根底には、35年前とは社会世相や背景も異なる現代において、突き放したような視点で描く問題意識が、当時のような手法で活写されてしまっても、現代人の大多数は実感を伴わないのではないか、ということもある。本エピソードを見て、「怪獣使いと少年」を題材にするには、あまりにメッセージがポジティヴすぎやしないかという意見もあることだろうが、ウルトラマンメビウスという作品に相応しいテーマが何であるかを考えれば、自ずと評価は見えてくるであろう。良少年が穴を掘り続ける姿はとっくに消え(あるいはメイツ星に行ったのではないかと思わせるところが巧み)、雨は晴れ、虹が出、件のメイツ星人に「美しい」と言わせた…。これが何を言わんとするかは、十分情感的に伝わってくる。
一つ指摘しておきたいのは、このエピソードが35年前に提起された問題を隠蔽しているわけでは決してなく、問題を超越する信念が、その先を相互間に見せるということだ。リュウはビオを危険視し、ビオは地球人に猜疑心を持っている。ミライは他の星同士のことに干渉するか否か迷う、いわば傍観者だ(これは、かつて郷秀樹がとった態度と根本的に異なる)。しかし、35年前のメイツ星人と良少年が有していた、問題を超越する信念が「地球人によって」継承され、結果「地球上で」和解を模索できるまでになる。リュウがビオに握手を求めたラストシーンがそれを象徴している。なお、ビオが一時的に拒否したのは、父と子の情念が色濃いからだが、リュウがもしビオと同様の状況だったならば、恐らく同じような反応を示したことだろう。
視点を変え、構成や映像面で「続編」たるかを検証してみることにする。まず目に飛び込んでくるのは、35年前の回想シーンだ。直前に「怪獣使いと少年」を視聴したと先程書いたが、メイツ星人の倒れる方向が異なるなどの、細かい重箱の隅的差異は置いておくとして、再現性は非常に高い。雰囲気の近似したキャスティングや、冬木透氏の悲しげで印象的なメロディを踏襲した新録BGMが完成度を高めている。また「現在」のシーンでは、「街が大変なことになっているんだぞ」というリュウのセリフが、伊吹隊長(?)のセリフそのままだったり、雨の中のメビウス対ゾアムルチの画面作り(特撮シーンにおける雨の粒子が本編に比べて細かい!)や殺陣に至るまでが「怪獣使いと少年」のオマージュである。つまり、映像作品としても「続編」たる要素は十分に備えていると言えよう。
あまり好意的な捉え方ばかりでも不公平なので、あえて些細な不満点を挙げてみる。一つは、リュウの行動が些か短絡的であること。ミライという「宇宙人」に関わっている割には、サコミズ隊長の掲げる信念とあまりにズレ過ぎている。また、ゾアムルチに関する背景が全く描かれないため、まるでゾアムルチがメイツ星産の怪獣であるかのように思える(公式サイトではエクスキューズされている)ことも挙げられよう。さらに、良少年が怨念の体現者から短期間で変質してしまっていることにも違和感がある。ただし、これは「宇宙船を無我に掘り出す作業」を通してポジティヴなベクトルに短期間で変換し得たという、好意的解釈も通用するだろう。
逆に、些細な注目ポイントを挙げるとすると、ディレクションルームのライティングが落とし気味であること。リアルさ云々を吹っ飛ばしてでも、雰囲気重視の気概が感じられる。そして、ミライがテレパシーを受けたことを堂々と言える環境にあるという表現。これはウルトラ史上、かなり新しい表現ではないだろうか。
最後に些細でありながら重要なポイントを。「殺されたメイツ星人が、良少年にビオを投影していたのではないか」という園長の推測は、「怪獣使いと少年」で「良少年が父親のぬくもりをメイツ星人に対して感じていたのかもしれない」という、MATの伊吹隊長の推測とシンクロする。この部分が、実は続編として最も重要な点だと思うのである。
データ
- 監督
- 八木毅
- 特技監督
- 八木毅
- 脚本
- 朱川湊人