第29話 別れの日

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

ストーリー

 光の国でウルトラマンメビウスは、ウルトラの父とウルトラの母より、地球に「途方もない脅威」が近づいていることを告げられる。その為既にウルトラ兄弟の一人が地球に向かっており、メビウスが地球に居れば、命を落とすことになりかねないと言う。だが、メビウスは地球に残って戦うことを決意し、地球へ帰還した。フェニックスネストで、一人沈痛な面持ちで他の仲間のことを想うミライの肩に、サコミズ隊長はそっと黙って手を置いた。

 ミライはまずテッペイの家に現れ、「GUYSと大学の両立の為に体力をつけてもらう」と、急遽作り方を覚えたカレーを振舞った。ミライはテッペイに手作りのお守りを渡し、「立派なお医者さんになってください」と告げる。次に、コノミの勤める保育園に現れたミライは、園児たちと慣れた様子で楽しそうに遊ぶ。コノミにも手作りのお守りを渡すミライは、園児との関わり方を勉強したと言う。

 続いてミライが現れたのは、マリナの所属するカドクラのチームだった。「自分の整備したマシンで世界グランプリに出場して欲しい」という思いを受け止めたマリナは、「GUYSで頑張りきれれば、この先どんなことに対しても頑張れる」と答えた。ミライはマリナにも手作りのお守りを渡す。最後に少年サッカーチームのコーチをするジョージの元へ訪れたミライは、練習に参加。ジョージにも「スペインリーグへの復帰、楽しみにしてます」と告げてお守りを渡した。

 ミライの不審な行動な疑問を抱くCREW GUYSのメンバーたち。翌日が休日のリュウは、「ミライくん、GUYSやめちゃうのかも」というコノミの言に一抹の不安を覚える。次の日、ミライは手作りのサンドイッチをリュウに振舞う。リュウはミライに訊きたいことがあり、それ故に「ミライとのデート」に付き合ったのだが、ミライは「GUYSをやめる気か」というリュウの問いに答えられない。そこへ、突如何の前兆もなくロボット怪獣インペライザーが出現した。サコミズ隊長は「無理はするな」という謎の言葉を添えて出撃を命じた。

 ジョージとマリナが出撃するが、インペライザーには全く歯が立たない。仲間の危機にミライはリュウの元から立ち去ろうとするが、リュウは「俺たちGUYSが背を向けたら、誰が地球を救えるんだ」と引き止める。ミライは「僕が救います! リュウさん、今までありがとうございました」と言い、リュウの目前でメビウスに変身した。驚き呆然となるリュウ。

 メビウスは矢継ぎ早に攻撃を仕掛けるが、メビウスブレイブの能力をもってしても、インペライザーの強力無比な武装と自己修復能力の前に敗北を喫してしまう。絶体絶命のその時、空から強力な光線が放たれ、続いて赤い光球が飛来。現れたのはウルトラマンタロウであった。タロウはメビウスに「何故帰還命令に背いたのか」と問う。メビウスは「地球のために戦いたい」と答えるが、エネルギーが尽きて消滅してしまった。タロウはインペライザーの猛攻を止めるべく様々な攻撃を繰り出す。タロウのストリウム光線によってインペライザーの上半身は破壊されたが、下半身は空間転移によって何処かへ消えてしまった。

 瓦礫の中、ミライを探すリュウ。「メビウスならメビウスだって最初っから言いやがれ!」リュウはミライとメビウスとの軌跡を思い起こしていた。感謝すべきは自分だと気づいたリュウは、昏倒したミライを発見する。そこへ瓦解した建造物の破片が落下してきた…!

解説

 流転するストーリー。静と動が交互に繰り返される圧倒的な構成。ミライとCREW GUYSの動向を追ってきたファンと、ウルトラシリーズを見てきたファンの双方に深い感慨を与えるシーン作り…。それらが渾然一体となって押し寄せるエピソードである。

 クライマックスに突如出現するウルトラマンタロウの存在が、あまりにも強いインパクトを放つため、CREW GUYSの描写が霞みがちなのは否めないものの、非常に的を射たシーンの連続により、視聴者はミライに感情移入していくこととなる。

 冒頭、ウルトラの父とウルトラの母により、メビウスに対する警告が発せられるのだが、この警告の内容は前代未聞であり、極端に言えば「君の命が危険だから優秀な代わりを用意した。速やかに任務を放棄せよ」という内容であった。確かに、「ウルトラセブン」の最終編でも同様の警告があったが、正確にはセブンは地球を守る任務を負っていたわけではない。メビウスはあくまでルーキー戦士であり、CREW GUYSとの共同戦線によって、かろうじて地球防衛を成し遂げてきた。そんなシチュエーションを強調(暴露)した象徴的かつ衝撃的な一幕だ。

 さて、近づいてくる別れの時を覚悟したミライが、メンバーたち一人一人に合わせたシチュエーションを展開していく前半は、静かでありながら感慨深いシーンの連続。それぞれの場面におけるミライの表情も非常に良く、これまでメビウスというシリーズを継続して見て来たファンは、散りばめられた言動一つ一つに、積み重ねられてきたキャラクター性の深さを感じることが出来るという寸法だ。また、それぞれ縁のゲストキャラクターも登場し、改めて個々の生活感(要するにGUYSとは別の面)を確認することとなる。興味深いのは、そういった生活感に乏しいリュウの扱いだ。リュウに生活感を持たせなかったのは、まさに今回の為だと思わせるような展開に感服。リュウに別の側面があった場合、今回のようなミライとの深い関わりは中途半端になってしまったであろう。

 それだけに、リュウの関わるシーンは全て印象的に処理されている。リュウの暑苦しいまでの熱さは、今回全て感動喚起のベクトルへと効果的に向いており、正に「劇的」と言うに相応しい熱さに満ちている。失礼ながら、リュウのキャラクター性が真価を発揮したのは、今回が初めてではないだろうか。逆に言えば、ここまで極限の状態に置かれて、初めて開花するキャラクター性を有していたのだとも解釈できそうだ。

 そして、謎の強敵インペライザーの登場。インペライザー登場時に、不安を感じているのがミライとサコミズ隊長のみというのが、なかなか意味深長ではあるが、そんなことはさておき、インペライザーのシーンでは緻密な市街地セットと合成作業により、劇場版に匹敵する迫力を生み出している。珍しくオープン撮影のシーンが多用されているのも特徴で、ウルトラマンと怪獣の巨大感を強調し、それが悲壮感を生み出しているのも興味深いところだ。

 もう一つのファンにとっての最大のトピックが、ウルトラマンタロウの本格参戦である。

 テレビシリーズに限定すると、意外にもタロウのゲスト出演は皆無であった。メビウスでは第24話「復活のヤプール」にて姿を見ることが出来たが、バトルも含めてとなれば(映画を除いて)今回が実に30数年ぶりの登場である。ストリウム光線のエフェクトや効果音は勿論のこと、登場時の「ビューーィィン」やスワローキックを放つ際の「シュピピッ」という効果音まで旧作の素材が使用されている。そのスワローキックに関しては、宙返りのポーズはおろかライティングまで旧作と近似するよう工夫されており、並々ならぬこだわりを感じさせて感涙必至だ。残念ながら東光太郎の存在については全く不明のままだが、そこは今後に期待したい。今回はとにかくタロウのカッコ良さと、「ウルトラマンT」当時から時を経てもバトルセオリーが不変である感動を味わいたい(思わず私はタロウのシーンだけ10回繰り返して見てしまいました)。

 最後に、重要なトピックである「正体バレ」に触れておく。3クール序盤でウルトラマンの正体がバレるのは異例中の異例。「ウルトラマンガイア」では石室コマンダーに我夢がガイアであるということが早期にバレていたが、実際のストーリーにはあまり影響しないよう配慮されていた。本エピソードではそうもいかないワケで、これが今後のストーリーの肝になっていくであろうと思われる。いずれにせよ、とんでもない挑戦であることは間違いない。

データ


監督

佐野智樹

特技監督

鈴木健二

脚本

赤星政尚