第14話 ひとつの道

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ストーリー

 とある山中に怪獣インセクタスが現れ、CREW GUYSは迎撃戦を展開している。テッペイがウィンダムを向かわせ、インセクタスの胸を狙って見事に撃退した。トリヤマ補佐官はマスコミ向けの現場会見を開いていたが、通りかかったテッペイを捕まえて、ウィンダムによるインセクタス攻略の功労を称えた。テレビに映ってしまったテッペイの姿を見て、驚いたのはテッペイの母ケイコだ。

 現場には、インセクタスの遺物と思われる粘液が残留しており、トリヤマ補佐官はそれを踏んでしまった。トリヤマ補佐官の耳に、小さな虫のようなものが入り込んでいく。

 フェニックスネストにケイコがやって来た。焦るテッペイは、リュウ達に自らの隠匿を依頼する。ケイコに会いに行ったリュウ達が必死に誤魔化す中、ジョージは堂々とテッペイの名を出す。そこへ突如我を失ったトリヤマ補佐官が現れ大暴れしたものの、ケイコが腕を取って落着。虫のようなものは、トリヤマ補佐官の耳から、ケイコの耳の中へ移った。騒動にまぎれてケイコは帰宅したが…。

 テッペイは、断固としてGUYSに居ることを隠すつもりでいた。子供の頃、高い木から飛び降りようとして、それを見たケイコが心臓発作を起こしたことがあり、二度と心配をかけない決心をしていたのだった。ジョージ以外のメンバーはテッペイに賛同したが、ジョージは乗らない。「俺の今回のテーマは、テッペイの自立だ」 追いかけてきたミライにジョージはそう説明した。

 その後、テッペイが調査したところ、トリヤマ補佐官の脳にインセクタスのノープリウス(幼生)が入り込んでいたことが判明。トリヤマ補佐官が踏んだ粘液は、インセクタスの卵の内容物だったのだ。トリヤマ補佐官に接触した人間は、ケイコのみ。テッペイは家へと急ぐ。

 家に帰ると、ケイコは元気そうにテッペイを問い質す。追って来たCREW GUYSの面々は、ケイコの追及を逃れようと戦々恐々。クゼ家の使用人であるモエが語るところによると、ケイコはテツハルの病院に寄っていたことが判明。病院のロッカーには、インセクタスの抜け殻が残されており、マリナが高周波を聞きつける。一方、上空には昆虫の大群が押し寄せていた。インセクタスが呼んでいるのだ。

 テッペイは父・テツハルに避難を要請。インセクタスの高周波と同じ音波をメモリーディスプレイから発し、自ら囮になると言う。ケイコはそれを止めるが、テッペイはそれを振り切った。作戦は順調に進行したものの、罠であることに気付いたインセクタスは直ちに脱皮し、巨大な成体に変態した。散開して攻撃を開始するCREW GUYS。ミライはウルトラマンメビウスに変身する。

 インセクタスの表皮の異常な硬さと、昆虫の群れに苦戦するメビウス。テッペイは動けない患者を救うという信念のもと、メモリーディスプレイで昆虫の大群をおびき寄せる。テッペイが昆虫の大群に襲撃される瞬間、ジョージがキャプチャー・キューブを展開してそれを救った。キャプチャー・キューブ展開中の一分間に、インセクタスの攻略法を考えるよう指示するジョージ。ニューロ・ニュートラライザーでの射撃が有効だと判断したテッペイの指示で、インセクタスを攻撃するCREW GUYS。高周波を出せなくなったインセクタスに、メビウスは必殺の一撃を放つ。

 テッペイはケイコに「医者もGUYSも、どちらも同じ人の命を守る仕事なんだ、僕はいつか必ず医者になる」と告げる。ケイコは「早く行きなさい」と微笑んで、テッペイを送り出した。

解説

 メビウスでは初の、太田愛氏の手によるエピソード。平成ウルトラシリーズで、主に牧歌的な作風での変化球を魅せ、ウルトラマンネクサスでは、後半のメインライターを手がけるなど、現在のウルトラシリーズにおいて、世界の幅を広げるのに欠かせない脚本家である。

 太田脚本ということ、インセクタスという昆虫系の名前から連想される儚いイメージ、テッペイが主役という印象。これらの要因から、「いのちを大切に」的なメッセージ性のあるエピソード(この題材は少々食傷気味という指摘もある)かと思いきや、メビウス世界に完全準拠したストレートなテッペイ編を展開。意外と言えば意外だが、そこは太田流。少しばかりのユーモアを交えて、親子の絆と「子離れ」のプロセスを印象深く描き出す。

 前回のマリナ編にも言えることだが、CREW GUYSのメンバーであることを確立していくというくだりを、初期編に続いてわざわざ描いているのが特徴。今後の展開を度外視して考えれば、マリナ、テッペイ共に、古巣とのしばしの決別という視点だ。同様に両者の共通点は、初期編で特技を徹底的に描写し、1クールの節目にプライベートな面をクローズアップするという手法である。

 テッペイ編ながら、ジョージに活躍の場が与えられているのも面白い。最近、「水が苦手」「リムエレキングに感電」といったコメディアン的描写の多かったジョージが、屈折した優しさといったキャラクター性を発揮しており、「今回の俺のテーマ」という迷言もあって印象的だ。土壇場でキャプチャー・キューブを無許可で展開したり(「以後、事後報告禁止」というサコミズ隊長の素敵な一言にも注目)、ケイコに仁義を切るよう勧めたりと、今回テッペイを最もフォローしていたのはジョージである。

 そのジョージのテーマ「テッペイの自立」であるが、実際にはテッペイの自立というよりは、ケイコの子離れの物語であると言える。というのも、テッペイには母親の呪縛こそあるものの、現在においてはGUYSという職場こそが彼の舞台に他ならないからだ。そういう意味では、前回のマリナとほぼ同様のシチュエーションであると言うことができる。逆に親離れという視点で見たとき、「親に心配をかけないこと」から離脱することが親離れという解釈が、見た目成立してしまい、それはナンセンスだ。一部、母親に対するコンプレックス(一般的なマザコンという意味ではない)から脱するというテーマにおいては、「親離れ」という言葉が適用できるかも知れないが、やはり子離れというテーマこそ本流だろう。

 なお、本エピソードは、病院のシーンにはリアリティが見られるものの、肝心のクゼ家が、あまりにも特徴的でリアリティに欠けてしまっている為、少々説得力が弱い。脱皮して大きくなるインセクタスや、ガジェットをふんだんに利用して攻略していくテイスト、マリナの能力を有効に利用して良いチームワークを発揮する様子。これらの要素が秀逸なだけに、テーマが稚拙に見えてしまうのは否めない。ただ、重いテーマを重厚に描くのではなく、トリヤマ補佐官やモエといったキャラクターを有効に使い、突然マリナが発する「GUYSのお宅訪問~!」に代表される軽いノリを散りばめることで、大真面目に事態を憂慮するテッペイやジョージのセリフを際立たせる手法には、技アリの感も。このテイストは太田愛氏の真骨頂かも知れない。

 さて、今回はウィンダムに活躍の場が与えられた。滑らかかつパワフルなファイティングスタイル、そしてインセクタスの雌を爆発四散させてしまう強さ。「ウルトラセブン」のカプセル怪獣以来、ここまで鮮やかに勝利した「味方怪獣」は珍しい。雄より能力的に劣るとは言え、同種の個体を撃破したのは感動的ですらある。

 また、インセクタスのノープリウスはCGによって描かれ、非常にリアルなビジュアルを作り出していた。ウルトラシリーズ中、人間に寄生するタイプは数あれど、今回のようにただの「運び屋」として利用したものは、恐らく皆無だろう。欲を言えば、ケイコにもトリヤマ補佐官同様に暴れて欲しかったが…。

 最後に、気になるミライのセリフを一つ。それはメビウスとして戦った後に合流した際の、「トイレです」というセリフ。これまでのシリーズでも、度々ウルトラマンであることを誤魔化す主役の言動が描かれたが、ここまで天然ボケキャラにシフトしたものはないだろう。

データ


監督

村石宏實

特技監督

村石宏實

脚本

太田愛