ストーリー
遠ヶ崎の海岸で怪獣を見た勉少年。町を巻き込んでの大騒ぎの中、通報を受けたDASHからカイトとミズキも駆けつけるが、怪獣は姿を消してしまった。次の日、今度は町の駐在がタイニーバルタンを目撃。さらにその様子を目撃していたのは勉だった。再びDASHが調査に動くが、ヨシナガ教授の分析が非常に常識的だったのを受け、駐在はそれらの出来事を忘れようと勉に言う。
憤慨する勉は、海岸でタイニーバルタンに遭遇する。地球の危機を救う為にやってきたという宇宙人の子供は、過激派のダークバルタンが地球侵略を企んでおり、それを知らせるためにやってきた穏健派の使者だと言った。タイニーバルタンは、カイトを引っ張り出したいと提案。少女の姿に変身し、勉に行動を共にするよう頼むのだった。
その後、タイニーはジェットコースターを空中に浮遊させたり、ビルの警備員を勤める老人が飛ばす紙飛行機を、無限運動に誘ったりと、不思議な現象を引き起こしてDASHの興味を引こうとする。タイニーは勉の口を借りて、コバとショーンに紙飛行機が重力の狭間に存在しており、バルタン星の科学は重力を自由に操れると説明。バルタンから攻めて来る者がいると警告した。
トミオカ長官は、勉少年の存在に興味を持った。そしてカイトは、勉の背後に何者かの存在を感じていた。その頃、勉はタイニーバルタンが何故派手に行動できないかを知る。タイニー一人だけでも生き残れば、優れたクローン技術で穏健派の殆どが生き残れる。過激派のダークバルタンは、それを阻止すべくタイニーを狙っているのだ。影で聞いていた駐在は、勇気を持ってDASHに通報しようと提案した。
カイトは遥かに高度な知能を持つ宇宙人が、勉の背後にいると推理。一方、その頃ベース・タイタンでは、司令室が無重力状態となり、パニックに陥っていた。モニターにダークバルタンが映し出され、地球人を全宇宙共通の敵と呼んで挑戦してきたのだ。ダークバルタンは一帯の市街地も無重力状態に陥れており、それに遭遇したカイトはウルトラマンマックスに変身。
ウルトラの科学力ではバルタンの科学力に対抗できないと吐き捨てるダークバルタンを見て、思わず姿を現わすタイニー。ダークバルタンは超巨大化してマックスを容赦なく踏みつける。マックスは同サイズに巨大化して立ち向かうが、あまりの超巨体のためエネルギーを極度に消耗し、敗北を喫してしまうのだった。
崩れ落ちる瓦礫に埋もれた、カイトの運命は…!?
解説
千束北男氏による脚本、飯島敏宏監督による演出というゴールデンコンビによる、バルタン星人登場エピソード。ゴールデンコンビというのは勿論冗談で、「千束北男」は飯島監督のペンネームである。ファンの間ではもはや常識だが、飯島監督はウルトラマン第2話「侵略者を撃て」でバルタン星人を「作った」人物である。つまり飯島監督は、デザイナーである成田亨氏(故人)と共に、バルタンをいじることのできる人物だ。
映画版ウルトラマンコスモスで、リニューアルデザインのバルタン星人と、その子供を登場させてファンを驚かせた飯島監督だが、今回はその映画版コスモスをさらに咀嚼したかのような内容。バルタン星人の能力を超科学の産物と設定し、その科学力をそれぞれの立場で使用する穏健派と過激派に分けるという新解釈を披露した。ジュブナイルの典型としてのファンタジックな作風と、SF感覚に溢れたターム群が見事に両立していて心地良い。
今回登場するバルタン星人は2種であり、それぞれ穏健派のタイニーバルタンと過激派のダークバルタンとなっている。ダークバルタンの造形は初代バルタン星人に忠実で、眼球の回転する電飾などの細部造形が秀逸。一方のタイニーバルタンは、前述の映画版コスモスに登場したチャイルドバルタンからさらに一歩進んで、バルタン星人のアイデンティティを残しつつも、よりファンタジー寄りに持っていったデザインで登場。見事な対比によって、穏健派と過激派という両派の違いを視覚的に認識させている。
タイニーバルタンに関しては、50cm大が通常時の大きさということで、少女形態以外での勉少年との交流は全て合成によって表現されている。しかし、的確な芝居と共に丁寧なシーン作りが違和感を完全に払拭しており、一連のシーンの完成度は非常に高い。少女形態の魅力も大きく、タイニーはトモダチ系宇宙人としては破格のオーラを放っている。
さらに今回のダークバルタンは、数ある歴代バルタンの中でも、最強の能力を有した存在として描かれており、映像表現の進歩も相まって、数々の鮮烈な映像を見せてくれた。丁寧な合成作業によって作り上げられた、司令室や市街地の無重力シーン。オープンセットを多用してその量感を追求した、超巨大化ダークバルタン。タイニーのシーンにおける自然な画面作りとは真逆を行く、挑戦的なシーンが続出。そのコントラストが、バルタン星人の魅力を引き出していることに異論はないだろう。
さて、ウルトラシリーズで最も知名度の高い大スターであるバルタン星人の登場という、特大トピックを抱えるエピソードでありながら、意外な大物ゲストが登場する。それは、駐在役の真夏竜氏と、警備員役の毒蝮三太夫氏だ。真夏氏は、言わずと知れたウルトラマンレオ・おゝとりゲン。毒蝮氏は、これまた言わずと知れた科学特捜隊・アラシ隊員(及びウルトラ警備隊・フルハシ隊員役)である。
真夏氏演じる駐在はコミカルな味わいが格別で、いかにも町の駐在さんという印象が、昭和のウルトラシリーズへの郷愁を煽る。一方、科学特捜隊のメンバーの中では、唯一役名が「(ただの)老人」とされた毒蝮氏が、紙飛行機が無限運動の境地にあるというファンタジー色溢れる画面を、優しさに溢れた笑顔で包括する。何とも贅沢な演出だ。
第5話と第6話、第13話と第14話でも連続エピソードの構成が採られたが、前後編が明示されたエピソードは今回が初。徹底的なマックスの敗北も初で、ウルトラシリーズ伝統の大ピンチで終わる前編が、初めて再現されたことになる。後編にも大きな期待を寄せて良いだろう。
オマケ
ヨシナガ教授の、常識的かつ的外れな見解が笑いを誘う。今回の特徴として、「宇宙人の存在があまり信じられていない」という、1話完結ならではの設定のリセットが行われている。平成のウルトラシリーズに慣れたファンにとっては、かなり違和感があるかも知れないが、作劇的に必要な要素は既成概念を破壊してでも導入するという、マックスの通念には忠実だ。超常現象をも常識の範疇としてきたヨシナガ教授が、今回のような言動を示すのは、そのあたりに理由がある。
今回、ショーンが発した英語によるセリフは、「無限運動」の意である「perpetual motion」と「素晴らしいがそんなはずは」という意の「amazing but impossible」。蛇足ながら聞き取れたので(笑)。