ストーリー
トミオカ長官は「最近よくぼんやりしている」との噂。盆栽に夢中なのだ。ショーンはそれを「Burned out Syndrome・燃え尽き症候群」と分析する。その時、エリーがJT307上空に次元振動を確認。巨大な宇宙人・モエタランガが出現したのだ。DASHは直ちに出動。ダッシュマザーの発進音に驚いたトミオカ長官は、誤って盆栽の枝を切り過ぎてしまった。
ダッシュバード1に乗り込むカイトは、モエタランガに突如テレパシーで語りかけられる。それは「間もなく地球は私のものだ」という挑発であった。攻撃を開始するDASHは、フォーメーションβ9でモエタランガを迎撃する。するとモエタランガは怪光を発し、それを浴びたDASH隊員たち、ひいては周囲の街の人々の心が「燃え」始めた。勢いに任せて無茶な攻撃を乱発するダッシュバードは、モエタランガによって墜落させられ、ヒジカタ隊長の操るダッシュマザーも撃墜される。
これといった武装なくして無謀にも地上からの攻撃に切り替えた隊長に、エリーは警告し続けるが、街の人々も巻き込んだ彼らのテンションは異常に高まって留まるところを知らない。カイトはハイテンションのままウルトラマンマックスに変身し、瞬時にエネルギーを消耗してしまう。体内時計を10倍にしてやったと言うモエタランガ。街の人々もDASH隊員も例外ではなく「燃え尽きて」しまった。
その場から動くことすらできなくなってしまったカイトの前に、等身大のモエタランガが現れ、地球人の生体エネルギーをモエタランガウイルスによって自らの糧としていることを語る。自分に向けられるであろう怒りのエネルギーを全て吸収してしまうつもりなのだ。
モエタランガはベース・タイタンへ向かってきた。ヨシナガ教授は、直ちにモエタランガウイルス撃退のためのワクチン開発に取り掛かる。しかしヨシナガ教授自体も感染していた! ところが教授は、10倍の速度で仕事をすると意気込むのだった。その頃、トミオカ長官もダッシュバード3で飛んでいた。長官も例外なく感染していたのだが、的確な攻撃でモエタランガを足止めする。
一方ヨシナガ教授は、後一歩のところで体力に限界が…。と、そこへダテ博士が現れ、ワクチン開発を受け継いだ。カイトは、「限界の向こうに自分の知らない自分がいる」という長官の言を受け、マックススパークを手にする。トミオカ長官がモエタランガに囚われ、絶体絶命のピンチとなったとき、マックスが出現。しかしマックスの身体は思うように動かない。
そこへダッシュデリンジャーを携えたダテ博士が到着! ダテ博士が放ったワクチンによってウイルスの呪縛より解かれたマックスは、獅子奮迅の如くモエタランガを追い詰め、トミオカ長官とダッシュアルファに乗ったダテ博士の協力も得て、遂にこれを粉砕する。
事件後、盆栽を囲んで談笑するトミオカ長官とダテ博士。それを見て「ああやって何度も何度も限界を超えてきたのよ」と微笑むヨシナガ教授の姿があった。
解説
コメディに終始するかと思いきや、実は…という秀作エピソード。楽しく大げさなマンガ的描写が随所に見られるのは、コメディをも得意とするシリーズならでは。しかし、根底に流れるのは、モエタランガの見た目以上に「熱い」物語である。
冒頭のトミオカ長官のほのぼのとしたシーンの連続は、単にハイテンションとの対比に過ぎないと思わせておいて、実は今回のキーマンはトミオカ長官自身だったという仕掛けが秀逸で、ヨシナガ教授、果ては衝撃の再登場を果たしたダテ博士も交えて、「古株」のカッコ良さここに極まれりといった趣だ。ダッシュバード3に乗ったトミオカ長官が、DASH隊員全員に語りかけるシーンが今回の白眉であり、「限界の向こうに自分の知らない自分がいる」、「年寄は新陳代謝が遅いのでな」など名セリフを連発。
さらに、ダッシュバード1、2が墜落してしまい、3号のみがベース・タイタンに残っていたというエクスキューズこそ成り立つものの、ダッシュバード3はトミオカ長官専用機ではないかと思わせるような、ベストマッチを今回も見せてくれた。ダッシュバード3にまで持ち込んでしまう盆栽へのこだわりようも、コミカルなスパイスとして印象に残る。その上、ワクチン完成間近で、限界に倒れ伏そうとするヨシナガ教授を、突如現れて支えるいう鳥肌モノの再登場を果たしたダテ博士は、ワクチン発射からダッシュアルファでの飛行・攻撃まで、オイシイところを総ざらえ。偶然ベース・タイタンに遊びに来たというきっかけからも、運命的な「古株の絆」が感じられて非常に燃える展開だ。
勿論、コミカルな描写が続出するDASH隊員の、ぶっ飛んだ演技にも大注目。巨人の星ばりの「目が燃える」描写もさることながら、各人のハイテンション演技は爆笑モノのシーンを彩る。やはりこういうシーンでは、ヒジカタ隊長のぶっ飛び方が素晴らしい。握り拳を作る様子の異様な力み方や、生身で落下してしまう衝撃シーンまで、とにかくコメディアンとしてのキャラ資質には事欠かない。ウルトラシリーズでも非常に珍しいタイプの隊長が確立されているようだ。
一方、モエタランガというキャラクターは、見た目とネーミングから受ける印象と大幅に異なり、妙に知的な宇宙人として印象に残る。声質自身も知的な印象を増幅しているが、やはり「光波チャネル」だの「メタ次元ニューロン」だのといった、小難しいタームによって語られる理論的な説明が、その印象を決定付けているようだ。しかし「モエタランガウイルス」というタームが出現した時点で、コミカルな次元へと昇華されてしまう。ここには今回の雰囲気全体に配慮した計算を垣間見ることが出来るだろう。
そのモエタランガ関連の特撮は、対するマックスの異様なハイスピードから、熱球による市街地の破壊シーンまでの、コミカルさと迫力の大きな振幅が魅力。今回はダッシュバード各機の派手な墜落や、空中で木っ端微塵となってしまうダッシュマザーの衝撃シーンなど、コミカルさと迫力が混在したシーンも散見され、完成度の高い見せ場を構築している。
ところで、モエタランガは一つ秀逸なセリフを吐いている。それは「地球人の肉体という牢獄の中で」というものだ。マックスという宇宙人を主体に見たとき、確かに地球人の身体に宿ることによって自由を失うという側面がある。この視点はなかなか衝撃的だった。もっと衝撃だったのは、その牢獄視された地球人が脆弱ではないというところに物語を収束させていったことだ。「先人(古株)の示すもの」、「限界を超えるということ」、「マックスとカイトの関係」これら3要素が、全く別の方向から語られ始めて、一点に収束していく。実に美しく、また熱いエピソードである。
オマケ
トミオカ長官の行動に注目。会議中の居眠りや休憩中の描写が微笑ましく、こういった長官像もまたウルトラシリーズにおいて非常に珍しいパターンである。
また、懐からハサミを取り出すシーンでは、ハヤタ隊員がベータカプセルを掲げるシーンそのものを再現。あの、ベータカプセルにフォーカスされたアングルの中で、ハヤタ自身はカメラとは全く異なる正面に目線を向けているという、あの独特の感覚が忠実に再現されていて嬉しい限りだ。
第19話で、森次晃嗣氏が演じたオザキ博士は、眼鏡をウルトラアイのように取り出して見せた。こういう歴史あるシリーズならではのお遊びは、ファンに対するイキなプレゼントである。