第29話 怪獣は何故現れるのか

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ストーリー

 「これから30分、あなたの目はあなたの身体を離れ、この不思議な時間に入り込むのです。」

 カイトとミズキは5時間の休暇を利用して渋谷界隈でデート。その頃、とあるテレビ局では、怪獣災害についての討論番組をオンエア中であった。出演中のヨシナガ教授は、日本列島の特異なプレート構造を指摘。一方、SF作家の佐橋は、日本人がずっと以前より怪獣を想像してきたことを指摘する。放送中、渋谷の地下工事現場より突如怪獣ゲロンガが出現。その折、カイトとミズキはカフェに立ち寄っており、テレビから怪獣出現の報に触れる。カフェのマスターは何故か「40年以上前に、こいつの牙を一本折ったのは私だ」と言う…。

 1964年、円谷プロでは新企画の特撮テレビドラマ「UNBALANCE」の撮影をしていた。「UNBALANCE」はテレビ局の意向により怪獣路線へと変更され、タイトルも「ウルトラQ」になる予定だ。撮影中、男が通りかかり「牛鬼が出るぞ」と告げる。

 DASHは代々木公園にゲロンガを追い込んで足止めする作戦を展開し始めた。佐橋は、若い頃にゲロンガに遭遇したかもしれないと語る。佐橋は「ウルトラQ」の主演俳優だったのだ…。

 「UNBALANCE」の撮影中、トラブルが発生。トンネルの中にスタッフが怪我をして取り残されており、その奥から「牛鬼」ゲロンガが現れた! 必死に追い払おうとする主演の3人。お調子者の俳優が、ゲロンガの牙を一本折って撃退に成功する。しかし、ゲロンガの吐く炎によって、撮影中のフィルムが焼失してしまった。

 …佐橋は40年前の事実を説明するが、司会の人見アナと解説の上田はあっけに取られる。その時、カイトとミズキの乗るダッシュバード1を、ゲロンガの炎が襲う。不時着を余儀なくされてしまうダッシュバード1。暴れるゲロンガを見据えるカフェのマスター・西郷。テレビ局にも危機が迫る。佐橋は「怪獣が現れるのは、怪獣の出現を人間が望んだからではないか。古来より人間は怪物を創造しないではいられなかった」と自論を展開。「日本ではスクリーンやテレビに数多くの怪獣が現れ、子供達の心にその姿を強く焼き付けてきた。いつしか怪獣は想像の中で現実化していった」と付け加える。

 カイトはミズキに地上攻撃を提案し、直ちにウルトラマンマックスへと変身した。パワーファイトで善戦するマックスだったが、ゲロンガの意外な身のこなしに苦戦を強いられる。西郷の「牙を折った」という言葉を思い出したマックスはマクシウムソードで形勢逆転。牙を折られて弱ったゲロンガは涙を流し始める。それを見たマックスは奥多摩山中の地下深くに怪獣を運んでいった。

 騒動が終わって、佐橋と西郷そしてヨシナガ教授が再会を果たす。「ウルトラQ」の主演俳優だった3人は、空にかかった虹を見上げて微笑むのだった。

解説

 メインタイトルの前に、ウルトラQのものを彷彿させるナレーションをフィーチュアしたアバンタイトルが挿入される。さらにメインタイトルでは、ウルトラQやウルトラマンの音楽を担当した宮内國郎氏の音楽を連想させる、ブラス中心のBGMが…。

 「怪獣は何故現れるのか」という衝撃的なタイトルを冠し、小中氏の脚本&村石氏の監督というお馴染みコンビで描かれるのは、ウルトラQをメタフィクション的視点で捉えた野心的なエピソード。平成ウルトラファンならば、ウルトラマンティガ・第49話「ウルトラの星」の既視感を覚えるはず。しかし、ある種のファンタジーだった同話とは異なり、確固たる現実感を伴った独特の雰囲気が漂う。

 旧来ファンにとって何より嬉しいのは、やはりウルトラQの主演トリオ揃い踏みであろう。佐原健二氏は佐橋健児、西條康彦氏は西郷保彦という、各氏の名前の一部を変更する凝った設定が面白い。さらに40年前の「ウルトラQ」撮影風景は、「UNBALANCE」というファンならばよく知るタイトルも交えてリアルに再現。満田氏や倉持氏といった、内輪で固められたスタッフの面々も微笑ましい秀逸なシーンが連続する。特に主演トリオの衣装は再現度が高く、俳優諸氏というよりはむしろ役どころに近い演出も違和感なし。「健ちゃん」や「ロコ」といった呼称が飛び交うのも高ポイントだ。一方、現代の3人は実に楽しそうな演技を見せてくれる。非常に完成度の高い「同窓会」である。

 さて、そんな華やかなトピックに彩られた今回は、「怪獣は何故現れるのか」という題材に則り、過去のウルトラシリーズを包括して見せた。マックスに登場した劇中人物が、かつて俳優として演じたウルトラシリーズの先鞭。そして佐橋の口から語られる「日本ではスクリーンやテレビに数多くの怪獣が現れ…」の言葉。もしかするとマックスすらも、M78星雲の存在を欲する日本の人々が現実化させた超人かも知れないという、メタフィクションの極地を見せられた思いがする。マックスでは、実相寺監督が半ば戯れとして利用したメタフィクション的視点だが、今回はより真面目に用いた感が強い。この振幅の広さはマックスならではと言えないだろうか。

 テーマ、トピック、ビジュアルともに鮮烈なエピソードとなったが、DASHの描写もなかなか強い。カイトとミズキのプライベートなシーンもさることながら、カイトにウイングブレードでの攻撃を指示するミズキは、前々回で見せたエースパイロットとしての存在感を示す。また、各機の連携や隊員たちの攻撃に関する細かい指示などがリアルな雰囲気を醸し出していた。ゲロンガが活動する市街地のミニチュアも精緻で、村石監督の定評ある手腕がふんだんに見られる。

 また、ゲロンガの牙を折られて悶絶するシーンや涙を流すシーンは、「怪獣モノ」のしてのウルトラシリーズの魅力を最大限に投影する名場面。演技する怪獣は、特に「ウルトラマン」「ウルトラマンT」といったファンタジックな作風を主とするシリーズで散見されたが、近年では意外に少なく、ゲロンガの「芝居」は新鮮であった。それだけに、奥多摩山中にそっと封印するマックスの行動が生きる。

 そのゲロンガの存在感に伴い、マックスもゲロンガの背中で足踏みしたりと、面白い格闘シーンを見せてくれる。ラストシーンも爽やかで、御三方の笑顔が素敵だ。

オマケ

 前々回、前回に続き、東宝の「超星神グランセイザー」関連の俳優さんが登場。セイザーゴルビオン・反町誠を演じた、岡田秀樹氏だ。佐橋の若かりし頃という印象的な役柄で、当時の万城目の雰囲気をうまく捉えている。

 ところで、劇中、佐橋と西郷はウルトラQの俳優だったことが名言されているが、ヨシナガ教授=「ロコ」だったかについては言及されていない。「ご想像にお任せします」というところだと思うが、どう見てもラストシーンの3人はウルトラQのトリオでしかないため、ここでちょっと設定を勝手に補完してしまおうと思う。

 まず、ヨシナガ教授は学生時代(実際、当時の桜井浩子氏も17~18歳くらい)に俳優の仕事あるいはアルバイトをしており、「桜田弘子」(笑)という芸名だった(DVDのブックレットにより「桜木」であったことが判明)。だから現場では「ロコ」と呼ばれていた(これも実際に桜井氏のニックネーム)。「UNBALANCE」の撮影時に佐橋と西郷に出会い、日本が誇る特撮テレビドラマの傑作「ウルトラQ」で人気を得た。

 その後、円谷プロ制作の何作かに出演後、大学で生物学を修了する頃にはUDFの前身である防衛隊へ参加、トミオカ、ダテと出会う…。そう、ヨシナガ教授はスーパーレディだったのだ!!

 …とまぁ、こんな夢想が展開できる程、今回は楽しませて頂いた。