ストーリー
ある夜、アパートで男が暴れているという通報を受けて警察が到着。アパートの一室で倒れていた男の傍らに、エレキングの幼体を発見する。糸井川技官の分析によって、エレキングの幼体は侵略を目的とする何者かが作ったバイオメカニックであることが判明した。また、昏睡状態の男は、アルファ波以外が非常に弱った珍しい状態が続いているという。街からは、以前出現したエレキングと同周波の電磁波が無数に検出された。街に点在するエレキングの幼体を捜索すべく、カイトとミズキが地上より、コバとショーンが上空より捜索を開始した。
車中で、カイトはふとミズキに、「一緒に出動することが多いよね」と話しかける。「私語はしないで」何かを思いつめるように呟くミズキ。進展のない捜査の途中、休憩する二人の会話は、DASH入隊のきっかけに及ぶ。カイトは募集告知を見たときに、自身も根拠もないが天職だと思えたという。ミズキは、UDFでパイロットだったために、DASHに入って当然だと思っていたという。その時、ダッシュパッドに反応があった。
とある建物に潜入する二人。そこでは、エレキングの幼体が飼育されていた。手に取るミズキはエレキングの幼体に心を奪われ、その場で気を失ってしまう。そこへ、ピット星人が現れた。カイトはピット星人を撃つことができず、格闘戦に持ち込まれたことで完全にノックアウトされ、マックススパークを奪われてしまった! カイトの救援に向かうコバは、遮蔽された巨大な宇宙船らしきものに遭遇する。
電気を奪うだけが目的ではないのでは、と救出されたカイトは隊長に疑問を投げかける。糸井川技官の報告によれば、エレキングが吸収する電波の周波数は、人間の脳波と極めて近く、脳の活動に必要な電流が吸収されてしまうという。その時、報告中の技官がモニターの異変と共に倒れた。ミズキが急に暴れだし、ダッシュドゥカでエレキングを連れ出したのだ! 同時期、巨大化したエレキングがエリアJT554に出現し街を破壊し始めた。コバとショーンは直ちに発進、ヒジカタ隊長もダッシュマザーで出動した。コバとショーンは巧みな連携でエレキングの角を破壊していくが、上空からの謎の攻撃によってコバは脱出を余儀なくされてしまった。その時、エリアJT231にもエレキングが出現! 隊長はエリアJT231へと向かう。
エレキングに魅入られるミズキを助けるべく、カイトは強力な電流を浴びながらもエレキングを奪い取る。気が付いたミズキは、逆にカイトを助けようとするが、カイトは、探さなければならないものがあるから、構わずに戦線に復帰しろと言う。ミズキは意を決してバード3の出動要請をする。一方カイトは、その強力な意志で幼体エレキングをオーバーフローさせ、続いて数々の人々の脳波も逆流し始め、遂には侵略者の宇宙船の遮蔽を無効化した。そして、ダッシュバード3に搭乗したミズキは、苦戦するショーンに代わりエレキングを撃破する。ダッシュアルファで上空の宇宙船に向かったカイトは、宇宙船内に侵入、船内でピット星人はその正体を現わした。ピット星人を撃破したカイトは、マックススパークを取り戻してマックスに変身し、宇宙船の攻撃を受けて墜落寸前のミズキを救助した。
もう一体のエレキングを迎撃するマックス。エレキングの猛攻をものともしないマックスは、一気にカタを付けるかのように矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、上空へ放り投げたエレキングを、分裂するマクシウムソードで粉砕した。
壮絶な戦いが終わり、カイトを笑顔で迎えるミズキの姿があった。
解説
小中千昭氏、マックス初登板作品。「奪われたマックススパーク」という、ウルトラセブン第37話「盗まれたウルトラ・アイ」を彷彿させるタイトル、ピット星人とエレキングという、ウルトラセブンに登場した人気コンビの復活をモチーフとしながら、ウルトラマンマックスの最初期2篇のエッセンスを再確認するという、見事な構成に頭が下がる。
最初期2篇とは、勿論カイトのDASH入隊を描いた第1話と、エレキングが何なのか謎のまま登場した第2話である。マックスは当初、何でもアリな世界を構築する為に、あえてこれといった制約を設けずにスタートした経緯がある。それは随所で成功が確認されているが、ここでシリーズの事実上の主役であるカイトとミズキの設定について掘り下げておこうという、シリーズ構成上の狙いがあったと想像される。また、エレキングについても、ピット星人の侵略用怪獣という強いイメージを利用し、第2話に登場したエレキングの裏でもピット星人が暗躍していたという設定を構築することで、シリーズのトータル感を高める意図も含まれているものと思われる。
つまり、パイロット篇としての最初期2篇で金子監督が見せた包容力に、真正面から答えを投げかけた、そんな印象が強い。しかも、作風はどちらかと言えばハードで影の強いものであり、パイロット篇における、正統派怪獣バトル及びコミカルな味わいとは対極にあるものだ。
今回は映像的にもエッジの効いた、ハードなシーンが多い。冒頭シーンの、殆どモノトーンに近いブルーの画面作りは、同じエレキング題材でも違う雰囲気だということを分からせるに充分。ベース・タイタンの司令室も、実相寺作品もかくやと思わせるかのように、照明を大胆に絞って緊迫感を演出する。他にも、意図的に彩度を落としているシーンが沢山あり、後半のDASH各機入り乱れての大バトルの派手さを際立たせている。DASHがエレキングを一体倒す一連のシーンでは、各機の操演とCGが見事にマッチしており、臨場感溢れる画面作りが展開された。このスピード感はシリーズ随一ではないかと思う。
一方、今回のストーリーでは、カイトとミズキのDASHへの入隊に関するトピックが語られる。カイトは直感的に天職だと思い至ったと言うが、これはマックスとの出会いが運命付けられていたような印象を与え、運命のような大きな力の存在が随所に登場する小中脚本ならではの味と言えよう。また、ミズキの方はUDFのエースパイロットとしての揺ぎ無い自信を窺わせる発言により、後半のミズキ大活躍シーンへの説得力を持たせる。シリーズを見返してみると、実はミズキにエースパイロット的な描写が殆ど無かった事に気付く。むしろカイトに対するヒロインとしての役作りが重視されてきたこのシリーズで、ようやく設定に程近い描写が与えられたことになる。しかし、「本当は凄い実力の持ち主だ」的な展開に不思議と違和感がないのは、先のセリフに拠る所が大きい。ミズキがダッシュドゥカでバード3に合流する鳥肌モノにカッコいいシーンは、それに更なる説得力を付加した名シーンだ。
そんな二人は、これまで付かず離れずな関係を続けてきたわけだが、ここに来てかなりの接近度を匂わせる。極限の場面で「隊員」を付けずに呼び合う二人の絆は、既に深いものであり、ある意味、他の介入を許さないまでに完成させてしまった。マックスの眼差しにカイトを見るかのような描写もあり、今後への伏線も考えられているようだ。つまりこの面からも、今回はマックスのシリーズ構成を束縛すべく用意されたエピソードではないか、という憶測が成り立つ。マックスを予定通りの3クール放映で構成するならば、最終クールの初っ端であるこのエピソードに、何かしらの構成上の重要性を持たせようという意図が働いてもおかしくはない。
しかしながら、マックスの美点であるバラエティの豊かさは、最終回まで失われることはないと思う。次回には怪獣デザインコンテストの最優秀賞作品が控えているし、カイトとミズキの立場が完成したからと言って、世界観までを束縛したわけではないからだ。もしかすると、「小中氏ならばこう書く!」というバラエティの中の意思表示だったかも知れないし、次にはこのエピソードを受けた誰かが、別の料理を用意するかも知れない。いずれにせよ、今後も目は離せない。2006年も注目だ。
オマケ
魔デウス、メトロン星人のクレジットと同様に、ピット星人とエレキングのクレジットでも、「ドォーン」というSEが使用された。実相寺作品のみの変化球的措置と思っていたが、ここではエレキングの再登場というイベントを印象付けるに効果的な演出であった。本編のただならぬ雰囲気をも感じさせる秀逸な措置だ。
今回は極限の緊張状態にあるバトルを演出すべく、ショーンが英語を連発している。ショーンはテンションが上がると英語を発するという、何となくお約束になっていた演出上の目配せが存分に生かされており、ダッシュバードの華々しい活躍に華を添えていた。
解説の方に書かなかった、ピット星人について。セブンに登場したときは、二役で双子(?)を表現していたが、今回は変身後にも個性があるという一面を見せてくれた。最初にカイトが不覚をとった格闘戦では、明らかにその容貌に対する油断があったからだと思わせる演出が巧み。ピット星人が「マックスは普段が自由ではない」と発言していることから、カイトが地球人であることに対する弱みにつけ込んだと考えられる。そのリベンジマッチでは、カイトの強い意志もさることながら、ピット星人がその正体を現わしたことで、カイトが容赦なく攻撃できたという見方が成立する。これはカイトのキャラクター性を考える上で、面白いシーンだったと言えよう。