第25話 遥かなる友人

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

ストーリー

 ある夜、正体不明の宇宙船が地球に墜落。途中で燃え尽きた宇宙船から一つの光体が飛び出し、駈の部屋に飛び込んだ。目を覚ました駈に、移動体のままでは大気に溶けてしまうから、本来の姿に戻りたいと言う発光体。駈はその申し出を受け入れるが、異星人の異様な姿にたじろいでしまう。それを察した異星人は、駈の部屋にある雑誌に掲載された、まだ無名のバスケットボール選手の姿に擬態した。駈は破壊したり操ったりしないかと異星人に尋ねる。異星人はキーフと名乗り、そんなことはしないと答えた。

 駈の家付近・エリアJW上空では、カイトとミズキが哨戒にあたっていたが、何も発見できなかった。キーフは惑星ネリル出身で、故郷の寿命が尽きてしまう前に、移住できる星を探し回っていたと言う。しかし、任務交代のために母星へ戻ったとき、ワープ航法との相対時間は予想以上に長く経過し、既に母星は消滅していた。その後、ずっと一人で宇宙を旅していたと言う。地球はキーフにとって初めて出合った生命体の存在する星だった。駈はキーフを喜ばせようと一肌脱ぐことにした。一方その頃、DASHは地上パトロールに方針を切り替えた。

 近郊の公園を案内されるキーフは、無邪気な子供のように、人々との触れ合いを楽しみ駆け回った。キーフは命の溢れる惑星に感激する。そんなキーフに、駈は人間の格好のまま暮らせばいいと提案する。何故、人間の姿でなければならないのかと疑問を呈すキーフ。キーフがふと目にした新聞から、異星人を敵だと思っている地球人の見解を知る。駈もキーフに会うまではそう思っていた。そこへDASHが調査にやって来た。

 逃げるよう促す駈をよそに、キーフはDASHに同行すると言い出す。同行を求めるカイトがキーフに触れた瞬間、キーフは彼がただの人間ではないことに気付く。UDFはキーフの徹底調査を開始した。

 世論は当然、キーフに対して懐疑的であった。ヨシナガ教授は、攻撃能力のないことが判明しているキーフの検査を、中止するよう提言する。キーフは休息の暇も与えられず、過酷な検査に耐えているのだ。調査団長の的河は、わざわざ捕まりに来たことで、キーフが侵略者のスパイである疑いを持たざるを得ないと主張し、DASHの面々から反目される。「弱って死んじまったら、あんたの責任だぞ!」思わず語気を強めるコバ。

 その夜、ショーンはセキュリティを秘密裏に操作し、カイトとキーフを引き合わせる。キーフはカイトが星を守る巨人であることを見抜いていた。何も出来ないと謝るカイトに、キーフは当たり前のことだと言い、信頼を得たいがためにあえて逃げ出すこともしないと答える。何が君をそうさせると問うカイトに、キーフは「サ、ヌーシュ」と答える。キーフは一つだけ頼みがあると言った。

 駈の元に現れるカイトとコバ。キーフは駈に会いたがっていたのだ。「キーフが人間の姿になるのだったら、会う」そう駈は答えた。

 研究施設への輸送の途中、的河に対するヨシナガ教授の一喝によって、少しの暇を得たキーフは、駈に会うことが出来た。キーフは駈に言う。自分の後にも、心から人間と友達になりたいと思う異星人がきっと現れるが、人間への擬態能力を持たないかも知れない。だから、誰か一人でも本当に友達になれた異星人がいたとすれば、その日が来たときにその異星人が侵略者と見做されずに済む。自分は、その最初の一人になりたい…。キーフが思い描く未来を感じ取った駈は、ネリル星人の姿に戻るよう告げ、「キーフはどんな格好をしてても友達だから」と言った。

 その時、突如ゴドレイ星人が飛来し、市街地を破壊しはじめた。DASHの迎撃もものともしないゴドレイ星人に対し、カイトはウルトラマンマックスに変身して立ち向かう。しかし、ゴドレイ星人の強大な戦闘力と強靭な体力によって、マックスは窮地に追い込まれてしまう。キーフは一人決心していた。避難の間に合わない人々を、身を挺して守ろうと。ゴドレイ星人の光線を、移動体を拡散させてバリアのように防いだキーフは、大気中に拡散して消滅してしまった。キーフの犠牲を目の当たりにしたマックスは、マックスギャラクシーを召喚し、ゴドレイ星人を粉砕した。

 次の日、カイトはキーフの遺した言葉「サ、ヌーシュ」を駈に告げた。それはネリル星の言葉で「憧れ」を意味する。「憧れは僕たちの手と足を動かす。あの遥かな地平にたどり着こうと、僕たちは歩き続ける」とキーフはカイトに伝えていた。駈はその言葉を心の中でそっと繰り返すのだった。

解説

 太田愛氏が第20話に続いて登板。コメディ色を前面に押し出し、太田氏の特徴の一つでもある、良き市民の姿が明るく照らし出された前作とは趣が異なり、帰ってきたウルトラマン・第33話「怪獣使いと少年」のような「異邦者への差別」を核とし、太田氏自身の作でもある、ウルトラマンダイナ・第20話「少年宇宙人」で描かれた宇宙人と少年の友情を加味した快作となった。

 太田氏のウルトラにおける大半の作風は、ウルトラをファンタジーと捉える側面が強く、カリカチュアライズされ浮世離れした人物の登場が見られる場合も多い。そこで繰り広げられる会話ないし言動は、えてして現実世界との乖離を感じさせる要因となる。しかし、今回は非常に透明で純粋な心を持つ「異星人」を登場させることにより、元々浮世離れして当然と捉えられる地球外の人物に対する、地球人の反応を描くという構図が光る。例えばキーフに初めて遭遇したときの腰を抜かさんばかりの駈の反応や、地球人の姿でいてくれという駈の態度に、リアリティを感じることが出来る。

 そのためか、駈とキーフの感動的な絆の描写で、本来のテーマをある程度ボカそうとはしているものの、マックスでは珍しく強烈なメッセージ性を感じさせるエピソードとなった。今回のテーマはズバリ「差別」である。ゴドレイ星人の登場やDASHのキーフに対する好意的な態度は、そのテーマを重視すれば効果的だったとは言い難いが、それでもエンターテイメント性との両立を考えれば当然の処置であろう。そこをうまくドラマの流れに取り込んでいる手腕は高く評価できる。

 ところで、実際キーフに対する地球人の態度が、「理不尽な差別」だったかどうかは議論の余地がある。「地球に度々飛来する異星人は侵略者ばかりだった」という理由は添えられているが、本当の理由はそんなところにはない。台詞では名言されないが、ドラマの流れで確実に訴えているのは「外見に対する差別」である。「理不尽な差別」かどうか議論の余地があると言ったのは、そこにある。我々、特に日本人は外見に対する差別感情を根底に内包している。外見が著しく異なれば、身構え、用心してしまうのは当然の反応と思えるからだ。今回はそれを乗り越えて友達になれるかどうか、外見という垣根を飛び越えて友達になれるかどうか(私は分かり合えるかどうかというところまでは要求していないと思う)、それがテーマだ。かつてウルトラマンAが最終話で子供たちに語った、「どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえ、その気持ちが何百回裏切られようと」の言葉が思い出される。

 今回、壁を乗り越えることができたのは誰か。DASHの面々(ヨシナガ教授も含む)はキーフに同情はするが、結局「キーフが異星人」という見解から抜け出せたわけではない。カイトはウルトラマンマックスとしてキーフと交流したが、あくまで外見上はカイトとして行動する。実はマックスも差別の呪縛に捕らわれていることが密かに暴露される。結局、乗り越えたのは駈しかいない。駈とキーフの終盤の交流は、ウルトラセブンの最終話で繰り広げられたダンとアンヌの構図を彷彿させる。かつてアンヌは「ダンはダンに変わりがないじゃない。たとえウルトラセブンでも」と言った。人は中身だけで友達になれるというメッセージが響く。

 さて、本エピソードはそういった重いテーマ性を内包しつつ、ゴドレイ星人の登場によって、一気にアクティヴな画面作りへとシフトしていく。細かく組まれた市街地のセット、バンバン破壊するゴドレイ星人。特撮がこれを機に一気にヒートアップする。DASH各機の連続攻撃なども見ごたえ充分で、マックス登場までハイテンションでつなげていく。一方で、キーフが静かな怒りと共に決意を固めるシーンが挿入され、静と動のシーンがドラマを揺さぶっていく。今回はロケ地における市街地のロングショットと特撮スタジオのリレーションが非常に上手く、キーフが自らを盾とするシーンを大いに盛り上げた。照明の加減、合成の輝度等、すべてがベストに連携されており、感動的なシーンにリアリティを与えている。

 先程も述べたが、このゴドレイ星人のくだりは実際のところ必然性を欠いている。ゴドレイ星人に関しては単なる通り魔的な、要はウルトラマンレオ初期に登場する敵対者としての宇宙人像しか与えられておらず、そこが感情豊かでピュアな精神を有したキーフとの対比になってはいる。が、アイデンティティに乏しく何となく付け焼刃的な印象は否めない。しかし、ではこの話にどういうオチをつけたらいいのか、と問われると、はたと困ってしまう。キーフがUDFのやり方に対し、怒り心頭に達して暴れるというオチにならずに済んだのは、ゴドレイ星人のおかげだ。

オマケ

 実際のところ、DASHがキーフに同情する根拠は、あまり明瞭ではないのだが、それでも各人の演技が熱く、なかなかに感じ入るシーンもあった。

 キーフという名前にこだわるショーン、この場面は○○星人に個人を特定する名前を付けると、感情移入を許すキャラクターと化すという、ウルトラの伝統を受け継いだシーンとして印象深い。また、コバがダッシュライザーでカチャッと音を立てて的河団長を牽制するシーンもなかなかカッコいい。

 ちなみに、ショーンが発したキーフの「フ」はfの発音だった。