第15話 第三番惑星の奇跡

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ストーリー

 ミズキの知り合いの少女アッコは、手術の甲斐なく視力を失ってしまうに至る。絵を描くのが好きだったアッコは絶望せず、ピッコロを猛練習することで音楽に生き甲斐を見出した。その発表会が明日、千代見音楽堂にて行われることになっていた。カイトへ感慨深げに語るミズキ。そこに緊急通信が入る。付近の海岸に正体不明の落下物があり、その調査を指示されたのだ。

 現場に向かったカイトとミズキは、繭状の巨大な物体を調査。生命体の反応もなく、危険はないと判断したヒジカタ隊長は、ダッシュバードで飛んだコバとショーンに、物体を火炎弾にて焼き払うよう指示する。ところが、消火を終えたとき、繭は変化。ダッシュバードを追尾する特殊な火炎で攻撃し始めた。さらにダッシュバードがミサイルを撃ち込んだところ、その物体はミサイルを撃ち返してきた。物体は、醜悪な怪獣イフだった。イフは受けた攻撃をそのまま身に付けてより強力になる怪獣ではないかと推測された。なすすべないDASHは後退を余儀なくされる。しかし、ミズキは音楽堂の破壊だけは何としても阻止したい。イフをおびき寄せるべく無茶な行動に出て危機に陥るが、間一髪カイトがマックスに変身してミズキを救った。

 マックスはイフに立ち向かい、マクシウムカノンで粉砕するものの、全ての破片が再構成を果たし、マクシウムカノン発射能力を身に付けたイフが復活する。その恐るべき能力の前に敗れ去るマックス。音楽堂はイフによって破壊され、周囲の街も瓦礫と化した…。

 孤児院で一人絶望するアッコの下へ向かうミズキ。ミズキが避難を呼びかけるが、アッコは窓から外へ出てしまった。炎の中、イフの元へ向かっていくアッコ。必死になって探すミズキ。なすすべなく苦悩するカイト。

 夜も更け、眠ってしまったイフ。その傍に現れたアッコは、怪獣に呼びかけるようにひたすらピッコロを吹いた。その音色を感知して目を覚ましたイフは、音楽を奏でる器官を生み出し、楽器の塊へと化していく。マックスが出現し、その意図を汲み取ったミズキは、ダッシュアルファにアッコを乗せ、マックスと共に空へと飛んでいく。イフはそれに導かれるように宇宙へと去っていくのだった。一人の少女の奏でる無垢で美しい音楽が奇跡を起こし、地球を救ったのだ。

解説

 今回監督を務めた三池崇史監督。どちらかと言えば、金融や極道モノの監督というイメージが強いが、最近では「妖怪大戦争」の監督も務め、マックス登板の情報に期待したファンは多かったと聞く。その三池監督のウルトラ初参加作品が今回の「第三番惑星の奇跡」だ。

 オープニングから、いつもと雰囲気を異にする感が漂う。ミズキとアッコの表情のアップが交互に使われ、手術室に吸い込まれていくシーンは重々しくも、的確な演技指導が行われており、今回の基礎となるシチュエーションが視覚的に伝わる見事な構成となっている。ここで手術が失敗に終わるが、別のものに興味を抱いて邁進する少女のことを語るミズキのモノローグが、何とも「マックスらしくなくウルトラらしい」。

 この、「マックスらしくなくウルトラらしい」雰囲気が全編に漂う異色作は、「この監督ならばこう撮る」というシリーズのバラエティさを象徴すると共に、「どんな味付けをされても、やはりウルトラ」という強力なブランド力を示す傑作となった。特に、光と影に心情を投影する効果的な演出が印象に残る。

 一貫してアッコに夜または陰といった暗いシチュエーションを与え、その心情を描き出すことに終始。そこにイフに対するDASHの絶望感が映像的にシンクロしてゆき、司令室の照明が落とされたり、闇の中で炎が揺らめくという終末的な映像を重ねる。マックス一度目の登場までは明々と照明が灯った昼間のシーンだったが、マックスが飛び立った直後よりいきなりナイトシーンへと転換されるといった確信犯的なシーン構成も圧巻で、見る者は否応なく絶望的な世界へ引き込まれていく。

 ところで、この絶望感の中でそれぞれが自らの意志を貫こうとするDASHの面々も印象的である。「太陽系第三番惑星。滅びるにはまだ、惜しい者たちが住む星だ。」という名セリフで、諦観しているわけではないところを見せ付けたヒジカタ隊長が特に秀逸。コバとショーンの逸る姿もカッコ良く、「DASHは結局何も出来なかった」という印象は非常に薄い。この点は実に肝心なところであり、努力するほど絶望へと追い込まれていく姿がなければ、クライマックスの感動は薄いものになってしまったに違いない。

 そのクライマックスだが、ファンタジー系でありながらも非常に理に適ったと言うか、この怪獣でなければありえないシチュエーションというのが見事に生かされた好例だと言える。イフ自体の造形も3~4種類に及ぶが、「楽器態イフ」の造形の、あまりに異形でありながら美しさすら感じさせるデザインは感涙モノだ。合成に頼る神々しさに堕さなかった判断は素晴らしいとしか言えない。

 今回、武力を完全に否定されてしまったDASHだが、ショーンの「いつか、DASHが解散できる日が来ると、いいね。」というこれまた感動的な一言に、地球防衛の為の武力に存在理由を見出すことができる。様々な矛盾を孕んでしまうプロットにあらゆる解決を用意した構成にも、素直に拍手を送りたい。

オマケ

 焼け野原となってしまった街のシーンは、近年のウルトラではかなり衝撃度の高いカットだ。前回の予告でこの一端が流されたが、そのタイトルがウルトラセブン「第四惑星の悪夢」に似通っていることから、夢オチやそれに近いものだと想像していただけに、衝撃度はさらに増している。

 今回、エリーの瞳に合成のかかるカットが、瞳のアップ以外のシーンで使われており、あれがディスプレイの反射だと思っていた私は軽い衝撃を受けた。