第14話 恋するキングジョー

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ストーリー

 UDFは破壊された監視衛星に代わる新しい衛星を打ち上げ、地球圏に潜入したと思われる4機の宇宙戦闘機の行方を追った。第7空域に機影を確認したDASHは直ちに発進する。カイトは申し出により休暇中であった。ダッシュバードは戦闘機に攻撃したが、「キングジョー」の煙文字を残し、爆煙の中に姿を消した。ゼットン星人の仕業に違いないと確信するトミオカ長官。何故か休暇中のカイトに期待を寄せるヨシナガ教授だったが…。

 カイトは松本板金にいる夏美を訪ねていた。松本板金では夏美の友人・健が手作りで作り上げた「キングジョー」と呼ばれる2m程度のロボットが子供たちと遊んでいた。その様子を監視していたUDFは「キングジョー」の名に疑念を抱く。そこへミズキたちが帰還。カイトが夏美と会っていることを知ったミズキは密かに落ち込んでしまう。そんなミズキに、ヨシナガ教授は真相を語った。ゼットン星人はカイトの声紋・指紋をスキミングするために夏美の交通事故を仕組み、夏美に憑依、ベース・タイタンへ侵入したことが判明した為、カイトは夏美に接近してくるであろうゼットン星人から彼女を守る特命を受けたのだと。笑顔の戻ったミズキは任務に戻る。

 その頃カイトはキングジョー誕生のいきさつを健に尋ねていた。ロボットの設計に行き詰って居眠りしていた時に設計図と名前が完成したという。カイトは4つのパーツから成立しているという特徴が気になり、隊長に報告する。しかし、その通信を夏美に見られてしまう。

 夏美はカイトが休暇ではなく自分を監視していることに気付き、自分は「ツキなし」で貧乏神にいつも付きまとわれていると言い捨てる。カイトはそんな夏美に貧乏神はゼットン星人だと言い、夏美を守るようDASHに命令されてきたと告げる。カイトのひたむきな気持ちに触れた夏美は嬉しさに涙を見せた。一方、カイトを影ながら支援する任務についたDASHの面々は、変装して周囲に潜入。カイトと夏美のイイ雰囲気を冷やかすコバとショーンに対し、ミズキは突然怒り始める。

 夏美はゼットン・ナノ遺伝子の秘密をカイトに話す。夏美はゼットンの娘ならば、変身したり空を飛んだり自由なことができると言うが、カイトは利用されてしまう前に遺伝子ごと身体から叩き出せと語気を強めた。夏美はそんなカイトに淡い恋心を抱いてしまう。そこへミズキが現れた。カイトとの仲を察したのか夏美はミズキの装いを褒める。

 その夜、「カイトを殺せ」とゼットン星人は再び夏美に憑依。その翌朝、キングジョーは突如高速回転して空へと舞い上がり、巨大な4機の戦闘機へと姿を変えた。迎撃するDASH、しかし戦闘機の前になす術がない。4機の戦闘機は巨大なロボットへと合体、夏美がカイトの前に現れる。消えた戦闘機は健の作ったキングジョーに融合して再び現れたのだ。夏美はキングジョーへと乗り込み、カイトはウルトラマンマックスに変身する。

 キングジョーのパワーと機動性、そして分離・合体攻撃に翻弄されるマックス。夏美に憑依するゼットン星人を追い出そうと、マックスギャラクシーでキングジョーのコントロールを奪ったマックスの前で、夏美はカイトの叫びを聞く。夏美はキングジョーより脱出、制御を失ったキングジョーはマクシウムカノンにより粉砕された。

 ゼットン星人はゼットンゾーンでカイトを葬ろうと画策するが、夏美は戦う強い意志によって背後のゼットン星人を切り捨てる。遂に夏美はゼットン・ナノ遺伝子の呪縛から開放された。

解説

 登場する怪獣は引っ張らず、ゼットン星人と夏美によって前後編を成した上原脚本編の後編。前回と同様、70年代への郷愁に溢れた下町の風景と、超人気怪獣が織り成す、ノスタルジックなウルトラが展開される。

 前回はゼノンやゼットンといったスターたちが目立つエピソードだったが、今回は何と言っても夏美の魅力に尽きる。また、カイトのひたむきさ、ミズキのカイトに対する想いが交錯し、見応えのあるストーリーとなっている。

 「恋するキングジョー」という意表をついたサブタイトルに驚くが、その雰囲気は作風にも現れている。例えばキングジョーを町工場の手作りロボット(!)に落とし込んだり、現在の状況にそぐわないような下町風景をわざと創出してみたり、「ゼットン・ナノ遺伝子」というSF的な設定を精神面の戦いに持って行ったり…。すべてが夏美というキャラクターを生かす為の舞台装置になっている。上原氏の作風の特徴として、女性キャラクターへの愛に溢れた特殊化というものがあるが、今回はその片鱗というかそのものが現れた名編と言えよう。勿論、その女性キャラクターと対比させることで主人公のカッコ良さを引き立てるという、これまた黄金パターンも健在で、今回のカイトは非常に強い意志と熱い行動力で輝いているのにお気づきだろう。

 一方で、カイトと夏美の周囲で展開する他の面々のエピソードにも注目しておきたい。コバとショーンの笑いを伴う無神経さは、このテのラブコメ系ストーリーには不可欠。特にショーンの「True loveだねぇ」は秀逸だ。ヨシナガ教授がそっとミズキに見せる優しさも、DASHの母としての側面を強く感じさせるシーンで好印象。そして、最大の特記事項はやはりミズキである。カイトへの想いがストレートに演出され、明らかにジェラシーを燃やしつつも、任務に徹するカイトを影ながら支えるというスタンスが素晴らしい。この辺りのキャラクター配置は、DASHメンバーの「大人な側面」を強く意識させるものだ。ミズキとカイトのコンビも、いよいよ盛り上がりを見せ始めたようだ。

 そして、ウルトラのスター怪獣・キングジョー。子供に好かれるオブジェ的なものが、悪い宇宙人に利用されるというパターンは、ウルトラマンA・第22話登場のブラックサタンなどに見ることができる(この脚本も上原氏)。まさかキングジョーがこのパターンで現れるなどとは想像もつかない故、旧キングジョーを知る者の意表をつくことに成功している。さらに、初代が持っていた特徴である分離・合体能力は、最新の映像でブラッシュアップされて登場。CGで表現された分離・合体シーンの自然さは驚嘆すべきものだ。合体パターンがちゃんと初代と異なる点も良く、アイデアの使いまわしに堕していない良心を感じさせる。また、着ぐるみ造形技術の進歩により、固さが表現された造形物には好感が持てる上、自在に動く演技が可能になっているのが面白い。夏美が乗り込んで、これまたノスタルジックなコクピットが描写されるのも良い。

 特撮もいいシーンが散見。等身大キングジョーが空中へと上昇するシーンで、カイトが見上げた空がライブ感溢れるアングルで捉えられ、それにあわせてキングジョーが虚空を舞っている。このシーンは例えばUFO特番のドキュメンタリー映像のようなリアルさがあった。その後の竜巻シーンも街のミニチュアがかなり作りこまれており、そのままマックスとのバトルでもこのセットが継続使用されているが、ノスタルジックな電車まで走っている(踏切も点灯!)。一方でキングジョー戦闘機の空中戦はCGで描写され、スピード感溢れるシーンとなっており、このあたりのメリハリが本エピソードの面白さを倍加しているようだ。

 ともあれ、「夏美・ゼットン星人編」前後編は、そのイベント性、娯楽性、ノスタルジックな映像美、特撮の豪華さを持った名編と評価したいところだ。

オマケ

 「ゼットン、記憶に残すもおぞましい敵!」トミオカ長官の弁である。このセリフは前回のうろたえ振りに引き続き、ある種のファンサービスであろう。それでいて、マックスの世界を崩していない絶妙なスタンスを保っているのが上手い。

 ミズキの70年代ファッションは、どことなくウルトラQの江戸川由利子を彷彿させる。アルファロメオに乗って登場するという場面は、UDFと同社の繋がりを裏設定的に認識させるものだ。

 なお、上原正三氏は今回のエピソードを、ウルトラQ~dark fantasy~第17話「小町」をベースにしたものだと語っておられた(この「小町」も長澤奈央氏)。私も含め、未見の方は是非一見を…。