Space.32「オリオン号よ、永遠に!」

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 重要なサブキャラクターがドラマティックに退場するエピソードは数あれど、宇宙船が「退場」するという意表を突いた展開が見事な一編。

 基本的に物言わず、意志もほとんど感じられないオリオン号ですが、その退場は実にドラマティックに演出され、オリオン号がキャラクターとして扱われていることを物語っていました。オリオン号を「おじさま」と呼んでいたラプターがストーリーのメインに据えられており、その健気さが心を打ちます。

ドーギュン

 ネーミングソースは土偶、道具あたりでしょうか。宇宙一の科学者を名乗るものの、実は機械工学ではなく生物学に明るいという、ちょっとフェイクな設定が可笑しいところ。それでも、キュウレンジャー各人の機転がなければ大災害に見舞われる寸前でしたから、その能力のほどは確かなものと言えそうです。主たる能力は、「マトリック」なる液状生命体を機械に付着させると、その機械が凶暴化するという、なんだかよく分からない原理ですが、戦隊のプリミティヴな楽しさを体現していますね。

 冒頭、ドーギュンは壊れた家電製品を凶暴化させつつ登場します。「瞬時に家電を修理して凶暴化させた」ように見えたことから、ラプターがオリオン号修理を依頼するという、ちょっとサスペンスフルな展開が良い感じでした。ただ、ドーギュンのカラクリはすぐにツルギによって見破られることになり、ラプターの立場が弱くなるという流れに繋がっていきます。ちょっと70〜80年代の特撮ドラマのリアリスティックなシナリオを匂わせつつ、すぐにメインキャラクターのポジショニングに利用していく筆致に鋭さが感じられますね。

 ところで、この家電を凶暴化させるというネタは、「サンバルカン」でもキカイモンガーの作戦として披露されています。この時は、家電に付着させた機械生命体の一部が、キカイモンガーの意志を伝達して家電を凶暴化させるという原理でした。今回とよく似てますよね! ちなみに、このキカイモンガーのエピソードは、岸田森さんがロボットに扮する(しかも超楽しそう)という、素晴らしいシーンがあるので是非ともご覧になることをオススメします。

 話を元に戻しますが、ドーギュンは数多くの「工具」を所持しており、しかもそれらがすべて武器であるという、素晴らしいデザインがなされています。こうした秀逸な要素によって、一話限りの怪人ながらも魅力的に仕上げられていました。

 巨大戦では、複数のモライマーズを瞬時に集合させて超巨大なモライマーズを作り出し、チキュウに落とすという大胆極まりない活躍を見せ、今回のクライマックスたるシーンを迫力満点に彩っていました。今回の最優秀助演俳優は間違いなくこのドーギュンです。

ラプター

 オリオン号を単なる船であると捉えるドライなツルギとは対照的に、オリオン号に対するシンパシーが半端ではないラプター。このラプターのオリオン号への想いは、単に船を預かる者としての矜持だけではないことが、今回明らかになるわけです。

 かねてより、オリオン号を「おじさま」と呼んでいたラプター。それはオリオン号を擬人化するラプターの妄想力の発現であると表層的には捉えられ、ツルギもそのように解釈していた節があります。しかし実は、かつてラプターとスパーダ(他にも乗船メンバーが居たかどうかは不明)を乗せたオリオン号が危機に陥った際、自らの意志を発現するかのように奇跡的な推進力でワープに突入して脱出したという経緯があったのでした。この経験によって、ラプターは密かにオリオン号に宿る意志のようなものを感じるようになり、「おじさま」と呼んでその思い入れを深めていたとされています。勿論、ラプターのその妄想力もオリオン号の擬人化の一助になっていた筈ですが、このような回想があると、俄然説得力が増しますね。ちなみに、スパーダもラプターの気持ちに寄り添う人物としてポジショニングされています。このあたり、スパーダ=ヒロイン説を補強している感じがしてちょっとニヤけてしまいました。

 さて、今回のラプターの行動は、徹頭徹尾「オリオン号のため」です。冒頭で前述のとおりドーギュンの力を借りようとしたり、オリオン号を放棄する案に憤慨して戦列を離れたり、オリオン号に救世主たる姿を見せるべく奮起したり...。どれもこれも健気なラプターの姿を魅力的に映しており、好感が持てます。キュウレンジャー加入のきっかけはヒロイン妄想にあったわけですが、実はそのヒロイン妄想の奥にオリオン号への強い思い入れがあったと判明し、彼女の基盤が強化されたように思います。

 しかし、その拠所は、今回残念ながら散華となるのですが...。

 ところでワシピンク自体、あまり登場の機会に恵まれていませんが、アクションに参加した際には空中戦を得意とすることもあり、却って目立つ存在になります。今回も例外ではなく、さらにオリオン号に自分の活躍振りを見せるという意識により、かなりの活躍を披露してくれました。自在に宙を舞いながら銃撃するというのが基本ですが、肉弾戦も見られる充実振り。それにしても、戦闘時のM・A・Oさんのアフレコは、ゴーカイイエローと完全に差別化されていて凄いですね。どちらも力を込めて叫ぶ演技ですが、ラプターの方はより可憐なイメージで仕上げられていて素晴らしいです。

オリオン号よ、永遠に!

 まさかの宇宙船退場となった今回。戦隊では、基地の崩壊というシチュエーションは割と散見されるもので、特にクライマックスにおいて敵の大攻勢を描くのに適したシチュエーションとして好まれます。

 「サンバルカン」では3クール目突入と共に、敵味方のメンバーチェンジに加え、新基地の披露という一大リニューアルが行われて鮮烈な印象を残しました。当時、新基地のバルカンベースのおもちゃを買ってもらった記憶があります(笑)。今回も、32~33話というタイミングでの拠点交替(CMや予告で既に「新拠点」に成り得るものがネタバレしちゃってますので・笑)となり、「サンバルカン」並みのインパクトとなりました。

 ただ、今回の重要なポイントは、オリオン号が特攻をかけるという点です。その点では、敵幹部もろとも散った「ゴレンジャー」のバリブルーンに程近い印象を抱きます。バリブルーンと異なるのは、オリオン号が「自らの意志」で超巨大モライマーズに突入していったように見える点です。ラプターの想いに反応し、「ターミネーター2」さながらの演出でモライマーズもろとも沈み、最後に「GOOD LUCK」というメッセージをキュウレンジャーに送る...。パロディでニヤリとさせつつも、感動的で見事な散り様でした。メンバーたちの絶叫も身に詰まされる感じがして、非常に良かったですね。ラプターがアンドロイドであるという設定により、ある種機械同士の交感といったSFマインドを刺激するトピックになっていたのも面白いところでした。

 オライオンと同名であるとしても良いオリオン号との別離は、いわば旧世代との決別であるかのようにも見えます。欲を言えばオライオンとオリオン号の関係あたりを説明して欲しかったようにも思いますが、もしかすると次回以降にそのあたりが言明されるのかも知れません。

ドン・アルマゲの行方

 ナーガによれば、「ミナミジュウジ座...ら辺」にドン・アルマゲは居るという話(ここが今回のコミカルシーンの頂点)。曖昧模糊としていながらも、ラッキーはその目的エリアがかなり絞られたことに希望を見出します。

 しかし、宇宙を航行できるオリオン号は既になく...。さて、ここからどうするか次回以降のお楽しみ。過去編がまさかの展開を見せ、現代に繋がってくるようなので、期待値はすこぶる高いですね。かなりの部分がネタバレしてますが、それがストーリーの面白さをスポイルするわけではないでしょうから、楽しみですね!

おまけ

 時間帯変更に伴って、少し放送フォーマットに変化がありました。ナレーションに「はるか未来」という文言が追加されていましたが、そういえばそんな設定でしたよね。完全に忘れていました(笑)。