ブレイブ37「リベンジ!ゆうれいデーボスぐん」

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 定番の人格入れ替わりネタが楽しいバラエティ編。定番を用いながらも、工夫(と苦労)を凝らした演出によって、大混乱コメディを高い完成度で成立させています。

 「キョウリュウジャー」に顕著なパターンとして、ナンセンスコメディ寄りであればある程、実は危機的傾向がより強いというものがありますが、今回も正にそのパターン。大混乱の末に戦闘もままならない、正当派パワーアップ編をも超える大危機となっています。

 平成ライダーに散見されるコミカルな描写の大半が本編のドラマから乖離しているのに対し、「キョウリュウジャー」はドラマに密着したコメディを大真面目にやってくれるのでたまりません。

 そもそも、戦隊は元祖「ゴレンジャー」からしてコメディとの親和性が高く、コミカルな描写を挟みながらも、格好良く決める処はビシッと決める制作方針で一貫しているように見えます。

 「バイオマン」からの数作や「タイムレンジャー」、「ゴセイジャー」といった、シリアスを主義とするシリーズもいくつかあるものの、それらの中でも時折光るコメディに鮮烈さを感じる事が出来、「カーレンジャー」や「ゴーオンジャー」といった、コメディを第一とするシリーズでは、存分に笑いを提供しつつ、それが戦隊の枠組みから逸脱しているわけではないという、絶妙なバランス感覚を見る事が出来ます。

 「キョウリュウジャー」に関しては、シリアス戦隊ともコメディ戦隊ともニュアンスの異なる、とにかく賑やかな戦隊というイメージがあり、それ故にドタバタコメディとの親和性がすこぶる高いのも頷けるというものです。

 さて、今回はそんな危機コメディ編のお手本のようなエピソードですが、解決に至る道程を真っ直ぐ歩いてくるキャラクターがソウジとなっています。

 実は、これまでのソウジ編は総じて(ノッさんの駄洒落ではありません)粒揃いのエピソード群となっており、今回も例外ではありません。ソウジの真面目でやや頑固な性格はこれまでにも存分に描写されて来ましたが、今回に至っても、まだ新要素描写の余地が残されていた事には驚きます。その新要素は、剣術に対する純粋さを少年らしさに換言するという形で描出されました。「恋愛に鈍感」という形での純粋さはこれまでに何度も強調されて来たわけですが、少年らしい純粋さを以て剣術に邁進する姿は、実に「部活」的な爽やかさに溢れており、それを見守る周囲の「大人達」の包容力も実に暖かい。

 そして、トリンはキョウリュウジャーの面々から様々な影響を受けてキョウリュウシルバーとなるに至ったわけですが、今回はソウジの純粋さに打たれて、やや語弊があるのを覚悟で言えば、自らの剣術の、種族を超えた後継者にソウジを選んだ事になります。これはつまり、デーボス出身である事を他者との壁にしてしまっていたトリンを、ソウジの純粋さが開放したという事に他なりません。いわば、今回こそがキョウリュウシルバーの完成編であったと言えるのではないでしょうか。

 剣術の使い手という部分で共通項を持つ、空蝉丸とのタッグも重厚そのもの。

 この二人、剣術の他にも、恋愛に疎い面や、純粋な面等、割と共通点が多い事に気付きます。事態を打開するカップリングとして最適であり、実際にその効果を発揮していた事に異論はないでしょう。

 二人の間で決定的に異なるのは、その年齢。空蝉丸は十分に成熟した「大人」であり、ソウジと対等に接する「仲間」でありながらも、ソウジを案ずる年長者としての側面も活写されていました。そして、「大人」であるが故に守りに入ってしまうという面をも露わにし、少年の持つ無鉄砲さの脆さと、それに勝るひたむきな強さ、守りを知らないからこそ達する事の出来る境地、そういった要素を強調していました。

 なお、空蝉丸が、ソウジと人格が入れ替わる事で、腕を痛めるまでに稽古をしていたソウジのひたむきさに気付くくだりは、正にコメディを感動に転化させる手法の真骨頂であり、これ以上を望めない素晴らしい「転回」であった事を特筆しておこうと思います。

 この、ソウジ、空蝉丸、トリンを結ぶ線の強靱さと熱さを隅に置いておくと、後は面白い要素のオンパレード。

 敵側からして、スポコーン、キビシーデスのスパルタコンビに、アックムーンという気弱な「生徒」を配置。手に負えそうにないと判断して陰から見守るだけのラッキューロが実に可笑しく、この時点で既に舞台装置が完備されている印象すらあります。

 メインの人格入れ替わりに関しては、キャスト個々の観察力に大部分を依存したと思しき演出で、その成果はすこぶる良好。イアンとノブハルによる対極キャラの入れ替わりは、衣装面というビジュアルにまで踏み込んだ抱腹絶倒仕様で、凄いの一言に尽きます。ダイゴとアミィの入れ替わりは、両者の「照れ」を完全に排除した演技を見る事が出来、アフレコとのシンクロも完璧。とにかく素面での「入れ替わり」は完成度の高さに終始笑わせてもらいました。

 変身後はさらに混沌となすべく、更なる入れ替わりを敢行。ここまで徹底的に仕掛けられると、視聴者側も大混乱するかと思いきや、素晴らしく笑える名乗りをはじめとする徹底的に整理された画面作りによって、我々は混乱を来す事なく純粋に笑いに集中出来るようになっています。アクション面も、それぞれの「物真似」の巧さがさすがの完成度で、やはりスーツアクターの皆さんも生粋の「役者」なんだなぁ...と感心しきりでした。

 この大混乱による危機により、キョウリュウシルバーが活躍する舞台を違和感なく設える事が出来たという面も、注目しておかなければならないでしょう。ダメ押し的に、トリンとキビシーデスが入れ替えられるという、予想斜め上の展開も用意されており、息をつかせません。しかも、この入れ替わりは、既にコメディには成り得ないシリアスさを湛えていて、絶妙な演出手法を垣間見ることが出来ます。

 次回もバラエティ編の様相を呈していますが、本シリーズはバラエティ編でも少しずつキャラクターに関するドラマが前進している事を実感出来る為、充実感がありますね。鉄砕がメインという変化球的なエピソードのようなので、楽しみです。