ブレイブ33「マキシマム!レディはおれがまもる」

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 イアンと空蝉丸の関係にスポットを当てた一編。

 正直な処、今さら二人の関係を整理するのかと思いましたが、蓋を開けてみると、確かに未整理の部分が残っていて、女性に対する態度としては両極端な二人が、どうやって歩み寄るのかを丁寧に描いていました。

 その「答え」は私としては意外に思えるものでしたが、なるほど、ヒーローらしい部分を多分に含みつつ、多くの女性とお付き合いのあるイアンのキャラクターを補強する内容でした。空蝉丸は決してイアンを「誤解」していたわけではなく、一歩踏み込んでイアンの「誠意」に気付く事が出来なかったという具合に処理されていて、空蝉丸の頑固さと人の良さのバランスが巧く保たれていたと思います。

 これまでは実の処、イアンが女性にモテまくるキャラクターなのか、それとも女性にモテると思い込んでいるキャラクターなのか、判然としない部分がありました。

 いや、イアンは実際にモテるし、自称通りとはいかないまでも、口説きの命中確率はすこぶる高い。しかしながら、「女好き」という印象だけがクローズアップされてすっかり誇張・ギャグ扱いされ、本来のおモテになるイアンの格好良さはすっかり霞んでしまったわけです。

 今回は、そんなイアンの人格的な格好良さを挽回するに充分過ぎる内容で、本当に格好良いイアンを堪能出来ます。ここまで名誉を回復させてもらえるモテキャラも珍しいのではないでしょうか。

 振り返ってみると、戦隊シリーズには明確なモテキャラは意外と少ない事が分かります。それは、イアンのように誇張される事でギャグ化するからでしょう。嚆矢は「バトルフィーバー」のバトルフランス=志田京介。この人物には、捜査をサボってオシャレに夢中になったり、美人に疑惑が向けられるとすぐに否定したりと、「女好き」ギャグの要素全てが詰まっていました。その後、しばらくこのテのキャラは出現せず、次に現れたのは「チェンジマン」。チェンジグリフォン=疾風翔は、志田京介の正当なる後継者で、しかも「自称」の割合が高いという、完全なギャグキャラ。常に櫛を持ち歩いているというステレオタイプな処も秀逸です。

 志田京介のフォロワーとしては、その「美容師」、「優男」という要素だけを継承した「ダイレンジャー」のキリンレンジャー=天時星・知が挙げられますが、彼は暑苦しい周囲の面々やダイムゲン=亀夫に振り回され、設定に関わる話に恵まれないキャラクターだった為、残念ながらモテキャラとしてのアイデンティティを確立出来ませんでした。

 モテキャラが真にストーリーのうねりに作用したキャラクターは、何と言っても「ジェットマン」のブラックコンドル=結城凱でしょう。彼の場合は、アウトローとしての生き様を退廃的な女性関係に求めていたわけですが、そんな彼が、生きる世界の違うホワイトスワン=鹿鳴館香に心を奪われた事で、メインの戦いとは別の軸でストーリーが回転していく構造でした。凱の女好きは、時に(その時期のバブリーな乾いた笑いとしての)ギャグになる場合もありましたが、概ね「本当は孤独な男」という凱の内面を浮き彫りにする為に利用され、それ故に、結城凱という男に深みを与える事になったのです。

 イアンは、やはり志田京介のフォロワーでしょう。しかしながら、結城凱とは正反対の理由で多くの女性と付き合っているという、ある意味、結城凱を参考にした新しい属性を持つキャラクターでもあると言えます。

 その「属性」ですが、私の予想の斜め上でした(笑)。

 何と、イアンは自らの欲のままに口説き落とすのとは真反対の、隣人愛に満ちた人物だったというのです。凄い解決を持ってきたものだと思います。寂しい女性が寂しくならないように、あらゆるサプライズと固い約束を交わす、正に現代のナイト。それがイアンの正体とされました。

 まぁ、これはこれでギャグに近い属性だとは思いますが、それでも、今回登場のゲストであるエリカの様子を見ると、彼が誠意と隣人愛に満ちたナイトである事は間違いないわけで、クライマックスでのガーベラの花束から、バトルへとなだれ込む格好良さ(和解(?)した空蝉丸とのコラボレーションを伴う変身の格好良さよ!)は、筆舌に尽くしがたいヒーロー性を体現していました。

 一方の空蝉丸ですが、こちらは格好良いのに女性が苦手という、典型的なキャラクター。これまでのエピソードでは、アミィに遠慮したり、弥生に触れて大照れしてしまったりといった控え目な描写でしたが、今回は明確に苦手意識を描写しており、特にイアンと付き合う「やや派手目」な女性に対する耐性がほぼ皆無である事が露呈しました。

 空蝉丸が生きてきた時代からのギャップを差し引いたとしても、この耐性のなさは最早ギャグ以外の何物でもなく、イアンと好対照を成していました。この耐性のなさ故に、イアンを誤解してしまうという流れも巧く、耐性のあるダイゴ(無頓着)、ノブハル(非モテ)、ソウジ(超鈍感)といった他のメンバーが見ているイアンの姿と、空蝉丸の見ているイアンの姿との間に微妙なギャップがあるというエクスキューズが見事です。

 そして今回、マキシマム獣電池の発動の為に、全員の心が一つになる必要があるという「命題」が存在していますが、そこに至らない原因として、空蝉丸のイアンに対する誤解が置かれていました。この点については、やや矮小感を感じなくはないですが、既に一枚岩だと思われていたチームワークを更に一歩強固にする為のプロセスだったと解釈すると良いでしょう。まぁ、このテの話には「今更」な感覚はどうしても付きまとうわけで、如何にその感覚を消すかという事に関しては、今回は上出来だったのではないかと思います。

 次回は、秘石収集編のクライマックス...との事。あっという間に集まってしまいましたが(笑)、その後に待っている展開がもっと凄い筈なので、期待したいと思います。