#18 悪意の矛先

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 トリニティは「悪役」だということがはっきりした今回。


 前回は真ん中のミハエルが、いわゆる「ムカツキ対象」だったわけですが、今回は釘宮ボイスということで何かと注目されているネーナが担当。

 しかも「悪行」がルイス関連となったため、ナギお嬢様 VS 夏美殿の様相に...じゃなく、民間人への無差別殺戮という面がクローズアップされて、余計に「ワルいヤツ」を描くことに成功しているわけです。



 そんなわけで、トリニティ、好きに...やっぱりなれませんでした。



 殺戮行為は単なる余興。その奥に何かドス黒く深い精神的な瑕疵を抱えているようにも見えず、何だかキャラが薄っぺら。

 ヨハンが途中で「余計なエネルギーを使うな」とか言ったなら、まだマシだったのですが(スローネのGNドライブが「モドキ」で半永久機関ではないらしいし)、終わるまでただ見ているだけ。


 彼らなりのイデオロギーが前面に出ていないのが、軽薄な印象にいたる最大の問題のようです。


 トリニティは、ヴェーダではない何者か(「ラグナ」とか言ってましたが)の、独自の意志によって動いているのは間違いないのですが、その割には追わなくていいフラッグを追って落としたり(ハワード君に合掌)、民間人を大量殺戮して楽しんだり(ルイスママに合掌)と、行動理念にストイックさがありません。


 私が今一つノれないのは、そのヘンに原因があります。


 勿論、ルイスが被害にあったことは、物語的に大いに意味があるのですが。



 そのルイス、これまでしょうもないワガママお嬢様だったのですが、今回グッと悲劇的なヒロインに化けました。

 沙慈の、これまたしょうもない明るさも、ここでは悲壮感を高めるのに充分な力を放っています。沙慈のすぐにスペインに飛んでいく行動力にもビックリ。


 この2人には、いつか戦争という行為に目を向けさせる契機が来るんだろうなぁ、と予想はしてましたが、結構ヘヴィな展開でしたね。



 病室に駆けつける沙慈。

 窓の外をボーッと見ているルイス。

 沙慈、ペアリングを差し出す。

 ルイス、右手で「綺麗」と言いつつ笑顔を見せる。

 突如顔を曇らせるルイス。

 「もう、はめられないの」

 ルイスは左手を失っていた。

 胸を締め付けられ、呆然とする沙慈。



 このシーンは、これまでのガンダム00の中で白眉でしょう。

 ドォーンと暗い気持ちになることは確かですが、ガンダム的なトラウマシーンとしては充分「アリ」なシーンです。



 その後も、アイリス社の軍事工場を襲撃して民間人800名以上を死亡させるなど、軍を悪と見做すのではなく、軍に触れる者を悪と見做すトリニティのミッションが続きます。


 ここでいう「民間人」というキーワードに注目。


 とかく「民間人」と言えば軍とは乖離した存在として扱われるのがロボットアニメの常ですが、ガンダムのそもそもの出発点は民間人が兵器を操るというコンセプトなわけで、ガンダム的には民間人と軍人の垣根は結構低いわけです。


 この、民間であろうと軍であろうと無差別に攻撃するというトリニティの姿勢には、ガンダム世界の「軍と民間の境界の曖昧さ」への挑戦が見えるのです。

 区別しないことの悪を暴くとでも言いましょうか。


 ただし、この区別しないことを悪と見做すのは、実は非常に危険なことであり、やはり富野御大が描き出した「地続き」の図こそが、戦争否定の姿勢であるわけです。


 となると、刹那たちのように常に民間人を区別して考えるという姿勢は、逆に空論と化してしまいます。


 私の好きな言葉に「ドラマ的にはOK」というものがありますが、刹那たちの姿勢は「ドラマ的にはOK」です。何しろこの番組を見ているのは「民間人」ですから。民間人の味方であるガンダムですからね。


 では思想的にはどうか。


 ソレスタルビーイングは非常にグラグラした土台の上に立って活動しているのです。これに尽きます。そこはそこで魅力的なのです。



 ところで、スローネの印象は結構変わりました。

 破壊兵器としての魔的なカッコ良さ。特にヨハンの乗るアインのシャープな作画に惚れました。

 ついでに、スローネ・アインのHGガンプラを店頭で見たのも好感触に大きな効果。意外にミュータンティックで魅力的なシルエットです。

 やっぱり欲しくなりましたとさ。

 でも、その前にヴァーチェとハムフラッグとタオツー作らないと。



 そのスローネ・アインを追撃するは、我らがグラハム隊長。


 かつてフラッグのテストパイロットで、しかも性能実験中の模擬戦で「不幸な事故」があったことが明かされます。

 「上官を撃ち落した」という不名誉な噂は、この事故が発端なのでしょう。


 そして、フラッグ1機でガンダム追撃に向かうグラハム。


「そんな道理、私の無理でこじ開ける!」

「どれほどの性能差であろうと、今日の私は阿修羅すら凌駕する存在だ!」


と凄まじい気合でとんでもないことを言ってます。

 「阿修羅」って何だよ(笑)。

 インド的あるいはブッディズム的思想の心得があると見えます。さすがは乙女座のセンチメンタリズムなグラハム隊長ですな。


 血反吐を吐くまで闘い、スローネ・アインの腕を切り落とすなど、今回のグラハムはとにかくカッコいいです。

 ビリーとの粋なやり取りも良かったですね。



 さて、今回動いたことのまとめ。



 大国共同のガンダム鹵獲作戦が失敗し、トリニティが派手に活動し始めたことで、大国の足並みがバラバラに。


 ロックオンが「アレルヤじゃないが、世界の悪意が聞こえるようだぜ」という名言を発する。ユーモアのセンスがあるようです。ロックオン兄貴には。


 絹江は、父親もジャーナリストだったらしいことが明かされます。

 しかも真実を突き止める道半ばで何らかの不幸に襲われたようです。


 ガンダムスローネのGNドライブについて、以下の点が判明。

  • 炉心部にTDブランケットが使用されてない。
  • ドライブ自体の活動時間は有限。
  • 擬似太陽炉と言える代物で、本家のデータを元にした贋作。

 また出ましたね...「TDブランケット」なる難解な用語。何なんでしょ?


 ヴェーダは「量子型演算処理システム」とのこと。

 量子コンピュータは、現ノイマン型コンピュータの次の世代と目されるもので、アルゴリズムの時間コストを大幅に短縮する為、思考的処理に大きく近づくことが出来るとされます。

 ヴェーダはまさにソレスタルビーイングの頭脳というわけです。



 最後は、トリニティのやり方に痺れを切らした刹那の出動。


「エクシア、目標を捕捉。3機のガンダムスローネを、紛争幇助対象と断定し、武力介入を開始する。エクシア、目標を駆逐する!」


 おおっ、カッコいい!

 このセリフの凄いところは、いつもと変わらないということです。

 演技とシチュエーションで、まるで違う感情を描き出しているのはさすがでした。



 次回、いよいよアムロ・レイがベールを脱ぐ??