#24 BEYOND その2

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 トランザム・バースト発動により、ソレスタルビーイングの直面するあらゆる戦局や状況が改善されていくという、圧倒的な展開。

 極端なご都合主義と揶揄されても仕方ないと思える面はありますが、この物語の落とし処として、刹那の純粋なイノベイターへの覚醒がある為、純粋イノベイターの力を存分に誇示する描写は、私は「有り」だと思っています。

 刹那・F・セイエイ。ガンダム史上、最も飛び抜けて特殊なキャラクターではないでしょうか。


 では、続けます。

 マリナは、シーリンや子供達と共にGN粒子の光を目撃します。


「刹那...この光はきっと、刹那の戦いの光...命の輝き」

マリナ

 う~む、マリナの存在はすっかり薄くなってしまいました。一応、ファースト・シーズン開始時点ではメインのヒロインとしてプッシュされていた筈ですが...。

 主人公を遠くから見つめることしか出来ないヒロインってのは、どうも。何となく「Ζ」以降のシャアとセイラみたいです。

 と、思っていたら、


「そうだ。未来を作る為に、俺たちは変わるんだぁぁぁっ!」

ダブルオーライザー

 マリナの思いに呼応するかのように雄叫びを上げる刹那。

 決して呼応したわけではないでしょうけど、そう見えるように仕掛けられているのは間違いなさそうです。


 リヴァイヴは、ダブルオーライザーさえあれば自分達にもこの現象が起こせると考えます。

 しかし、それを否定するリジェネの声が響きます。


「純粋なるイノベイターの脳量子波が、ツインドライヴと連動し、純度を増したGN粒子が、人々の意識を拡張させる。完全なる進化を遂げたか、刹那・F・セイエイ。君こそが、真のイノベイターだ」


 これがトランザム・バーストの原理、そして効果です。

 リヴァイヴは、イノベイターであれば、同様のことが可能だと思ったわけです。残念ながら、リヴァイヴはイノベイドなのですが。


 ここで一つ謎が。

 前回、リジェネはリボンズのように、意識をヴェーダと直接リンクさせる術を知らなかったかのように描かれました。

 ところが、今回死んでいるにも関わらず、思いっきりヴェーダの中で喋っています。これは一体どういうことか。


 前回の会話を再度振り返ってみると、


「僕の意識はヴェーダと直接つながっている。肉体はただの器にしか過ぎない」

「そんなことが!?」

「君に出来ないことが、僕にはできる。言ったはずだよ。僕は君たちの上位種だと」


となっています。

 ここで、リジェネの「そんなことが!?」というセリフがキーになるかと思います。

 これ、「自分にないリボンズの能力」に驚いたのではなく、「自分の能力をリボンズも持ち合わせていること」に驚いたのではないでしょうか。

 つまりは、元々イノベイドの中でヴェーダへの意識リンク能力を持っていたのは、ティエリアとリジェネの紫髪タイプであって、リボンズの能力ではなかったにも関わらず、リボンズはそれを身につけていた、という解釈です。

 これで、リボンズの「進化」が示されることになり、リジェネやティエリアの能力も説明がつきます。

 これならば、リジェネが秘密裏に、リボンズの達することが出来ないレベルの情報(トランザム・バースト等)をヴェーダから得ていたとしても、おかしくありません。



 さて、このトランザム・バーストの効果は、色々な場所へ現れます。



 シーサェスはこのGN粒子を「気持ち悪い感じ」と表現。

 リヴァイヴやヒリングを除く他のキャラクターが、一様に「温かい感じ」を得ている(換言すれば、分かり合える感情に浸れる)のに対し、サーシェスだけは受け入れ難い感覚のようです。

 「分かり合うこと」とは真逆にあるキャラクターであることを、端的に表現していますね。


 そして、ライルがニールの弟であると知ったサーシェスは、


「殺し甲斐があるぜ!」


と再度戦意を高揚させていきます。

 サーシェスはクールな戦争屋というイメージで売ってきましたが、ここに来て単なる殺戮者になってしまいました。

 もっと明かされざる内面を見てみたかった気がします。


 ロックオンは、


「ぶっ潰す!」


と叫びつつ、改めてサーシェスへの怒りを爆発させます。

ロックオン


 その間、トランザム・バーストによって脳量子波を乱されたガガ部隊は、次々に自爆していきます。

 このあたり、トレミー勢が一気に優勢になっていく為に必要な措置ですが、ちょっと急ぎすぎかなぁ。



 アレルヤにも変化が。

 それはハレルヤの出現。ハレルヤは、


「余所見すんなアレルヤ!マリーだけ見てりゃいいんだろ!?」


と言います。

 後の「マリー元通り」の方がインパクトが強いので、見過ごしてしまいがちですが、「超兵」を最大限に嫌悪するハレルヤが、マリーという存在を認めたということであり、重要なシーンです。

 アレルヤは意を決したように、トランザムで敵に対抗していきます。



 そして、スメラギとビリーにも変化が。

 ビリーは、ブツブツと恒久和平が云々といった具合に自分を納得させようとするのですが、遂にビリーの脳内に直接スメラギ=クジョウの声が響くのです。

ビリー

「ごめんなさいビリー。あなたの気持ちを知っていながら、それに甘えて」


 スメラギがビリーに近寄り、ビリーにそっと抱きつきます。

 ビリーは、


「ずっと君のことが好きだった...」


とその謝罪に近い思いに答えるのでした。

 このシーン、最も近いようで最も遠かったスメラギとビリーが、トランザム・バーストの光に救われたというシーンなのでしょう。

 しかし、私的にはスメラギの生来的な「小悪魔っぷり」が出てしまったという印象も。いや、口先でない意志によるクジョウの正直な告白を、今度こそビリーはちゃんと受け止めたという、好意的解釈をしといた方がいいですよね。



 そして、マリーとアンドレイにも変化が。

 マリーは、アンドレイを討ってもセルゲイは喜ばないと悟ります。この時点で、口調が完全にマリーのものに戻っていますので、ソーマ・ピーリスは短絡的、マリーは情緒性に富むと捉えれば分かり易いかも知れません。

 アンドレイは、


「あいつは、あの男は、何も言ってくれなかった!言い訳も、謝罪も!僕の気持ちなんて知ろうともしなかった!だから殺したんだ!この手で!」


と、マリーを裏切り者呼ばわりしつつ、セルゲイを非難します。

 以前、ルイスに身内であろうと軍規を乱す者は放置出来ないと説き、敢えて肉親の手で止めを刺したと言ってましたが、その実、ただ単に「分からず屋の父親が疎ましいから」殺したのだと告白してしまったのです。

 こうなると、トランザム・バーストによる「意識の拡張」とは、建前を暴くということも含まれるように思えてきます。


「自分のことを分かって欲しいなら、何故大佐のことを分かってあげようとしなかったの?きっと大佐は、あなたのことを思ってくれてた筈よ」


とマリー。アンドレイは、セルゲイが自機の爆発寸前、アンドレイを安全圏に追いやったのを思い出します。


「言ってくれなきゃ、何も分からないじゃないか!」


と、凄まじい後悔の念に苛まれるアンドレイ。マリーも、


「大佐...」


と呟きつつ、セルゲイのことを噛み締めるように考えるのでした。

マリー


 一方、純度の高いGN粒子は、ラッセの細胞異常をも正常に戻していきます。


 ルイスが目を開け、


「沙慈、私...もう」


と、「あの頃」に戻れなくなった自分を、沙慈から遠ざけようとします。しかし沙慈は、


「何も言わなくていいさ。分かってる」


とルイスを抱きしめるのです。

沙慈とルイス

「ねぇ、この温かな光は...何?心が溶けていきそうな」

「刹那だよ」

「刹那...」

「そうだよ。彼の心の光、未来を照らす光だ」


 ようやく、ルイスはリボンズの呪縛より解放され、沙慈と本当の再会を果たしたのでした。

 ルイスの左手は、細胞異常によって再生医療を施せなかった部位です。ということは、ラッセと同様にその細胞異常も消え、描かれればですが、失った左手を取り戻し、沙慈のくれた指輪をはめるかも知れません。



 ソレスタルビーイングに、勝機と言い換えてもいい希望をもたらした刹那は、ヴェーダ本体のある場所へと潜入していきます。



 その頃、死んだ筈のティエリアも静かに動き始めていました。

 リジェネの、


「リボンズ、君の思い通りにはさせない。そうだろ?ティエリア」


という声が響き、リボンズはヴェーダとのリンクを断たれます。

リボンズ

 同時に、セラフィムガンダムのトライアルフィールドが発生。

セラフィムガンダム

 ヴェーダのバックアップを必要とするシステムは全てダウンし、オートマトンも機能を停止します。

 ナドレのトライアルシステムは、ガンダムを自らの制御下に置くというものでしたが、セラフィムのトライアルシステムは、そのフィールド内に存在する機器がヴェーダの影響下にあった場合、これを無効化するという能力があるようです。

 前者は、ガンダム同士の戦いになった場合の切り札、後者は、ヴェーダが敵になった場合の切り札でしょう。

 劇中の各キャラクターの発言から察するに、セラフィムのトライアルシステムは、ティエリアがヴェーダ奪還を果たした際に、発動させる作戦だったようです。



 ここからは、各ガンダムマイスター達の動向へ。



「大丈夫。もう大丈夫よ。ありがとう、アレルヤ」

マリー

 ソーマ・ピーリスは完全にマリーへ戻り、アレルヤも安堵。

アレルヤ


 一方、サーシェスのアルケーガンダムも、ヴェーダのバックアップを失って停止します。

 ロックオンは呟きます。


「兄さんのことは責められねぇな。こいつだけは、許せねぇ!」


 この時点で復讐という2文字が愚かしいことであると、充分に分かっていながら、サーシェスのような「分かり合えない」人間に対する怒りは消えない。そういうことだと思います。

 ケルディムガンダムは、アルケーガンダムを爆破しますが、サーシェスは脱出。ロックオンはサーシェスを追います。


「こいつが...こいつが、父さんも、母さんも、エイミーも...兄さんも!」


 サーシェスを狙うライルの銃口。そこに、アニューの声が響きます。

ロックオン

「ライル...私達、分かり合えてるよね。分かり合えたよね」


 ライルが一瞬銃を下ろそうとした隙に、サーシェスは、


「馬鹿がぁっ!」


と不意打ち!

 しかし、ライルはその不意打ちを予見して、すぐさまサーシェスの眉間を撃ち抜くのでした。

サーシェス

「アニュー、お前のおかげで、人と人が分かり合える世界も、不可能じゃないと思えたんだ。だから、世界から疎まれても、咎めを受けようと、俺は戦う!ソレスタルビーイングの、ガンダムマイスターとして」


 この決意は、「人と人が分かり合える世界」に害を為す敵を、非難されようとも打ち倒していくという決意でしょう。

 カタロンではなく、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとしての決意ですから、ここに来てようやく、ライル・ディランディはロックオン・ストラトスになったのです。



 刹那がヴェーダの本体へと辿り着くと、そこにはティエリアの亡骸が。


「仇は討つ」

「勝手に殺してもらっては困るな」

「どこだ?どこに居る?ティエリア」

「今僕の意識は、完全にヴェーダとリンクしている」

「ヴェーダ...」

「僕は、イノベイター。いや、イノベイドで良かったと思う。この能力で、君たちを救うことが出来たのだから。ヴェーダとつながったことで、僕は全てを知ることが出来た。今こそ話そう。イオリア計画の全貌を」


 ティエリアとリジェネは、肉体的な死の瞬間にヴェーダとの完全リンクを果たしており、いわばヴェーダと一体になったようです。

ヴェーダ

「我々の武力介入行動は、矛盾をはらみつつも、世界の統合を促し、例え滅びようとも、人類の意志を統一させることにあった。それは、人類が争いの火種を抱えたまま、外宇宙へ進出することを防ぐためだ。人類は、変わらなければ未来を紡ぐことは出来ない。いずれ巡り合う、異種との対話に備える為にも。その為にも、僕達は...」

「分かり合う必要がある」


 この辺りの会話については後ほど。

 にしても、「仇は討つ」「勝手に殺してもらっては困るな」というくだりはちょっと笑えますね。彼等らしさがよく出ています。


 刹那は一旦トレミーへ戻ることに。


 ところが、リボンズは次なる手を打ってきました。

 セラフィムガンダムが、リボンズの砲撃によって大破してしまいます。


スメラギ「トライアルフィールドの中で、動ける敵が居る?」

ビリー「彼だ」

スメラギ「彼?」

ビリー「イノベイターを超えた、イノベイター」

スメラギとビリー

 ビリーはエイフマン教授のように、色々なことを熟知しているらしく、劇中で非常に巧く機能しています。

 ホーマー・カタギリの甥であることや、その卓越した頭脳からして、納得です。


「そこか!リボンズ・アルマーク!」


 刹那がリボンズを感知します。そこには、リボンズのモビルスーツが。

リボンズのモビルスーツ

 ガンダムっぽいディテールが各所に配された、ガンキャノン的な趣。


「感謝して欲しいな。君がその力を手に入れたのは、僕のおかげなんだよ。刹那・F・セイエイ」

リボンズ

刹那

 さて、リボンズが少年時代の刹那を生かし、ガンダムマイスターに仕立て上げた裏には何があるのか。次回、いよいよ最終話です。



 ここで、サブタイトル「BEYOND」の意を再考。


 ティエリアが(リジェネも)語った「イオリア計画の全貌」には、異種との対話というキーワードがあります。

 また、刹那が人間からイノベイターに進化したり、傷ついた人間が一瞬で癒えたり、ティエリア達がコンピュータに意識体を預けたりと、「ガンダム」の枠から大きくはみ出した要素が目立ちます。


 ここから読み取れるのは、「ガンダム」というリアルロボットのシリーズから、SFの世界へ一歩踏み出そうという姿勢です。

 もっと下世話な言い方をすれば、「ガンダム」で「スター・トレック」をやろうというもの。


 外宇宙の異種とか、意志を持つコンピュータとか、人間を進化させる光量子とか、正に「スタトレ」の世界。

 和平を探っていくというテーマも、やっぱり「スタトレ」的です。


 で、「BEYOND」が何を現すかと言うと、「ガンダムを超えること」ではなく、「ガンダムシリーズの持つ境界を越境すること」ではないか。

 それが今回はっきりと見えた気がします。

 私は「スタトレ」大好きなので、この展開は受容できますが、かなり違和感を感じる方も多いのではないでしょうか。ある意味、「Gガンダム」より挑戦的に枠外へと飛び出したシリーズかも知れません。


 あと1話。

 結末は大体見えてきましたが、美しく、そして意外性を伴って終わってくれることを願います。