前半のおよそ半分を刹那 VS グラハム戦、後半の殆どを連邦 VS 反連邦の総力戦とした、一大バトル編でした。
しかしながら、キャラクターがフィーチュアされた部分では、以前にも描かれた「各々の思いを口にするシーン」がまた繰り返され、ちょっと食傷気味なのは否めないところ。
確かに、アロウズが総力戦を仕掛けてきて、トレミーはヴェーダ奪回の為にそれを突破しなければならないという展開なので、各人の動向を描くも何もないわけですが、それにしても、刹那の達観振りに周囲がもっと驚くとか、そういった場面は欲しかった気もします。いつの間にか刹那がメンタルな部分でのリーダーシップを発揮していたので、それに至るプロセスは多少なりとも描いてもらいたかったのが正直なところですね。
尺の問題は如何ともし難いのでしょう。
逆に、刹那の悟りっぷりが、前回と今回を通してあまりにも急激に描写された為、「純粋種への覚醒」というキーワードがセンセーショナルに響くという効果も。
「イノベイターの純粋種」なる存在が、果たして「人類の道標」に成り得る存在なのかも曖昧で、少し危険な匂いをにじませているあたりも良い匙加減(「危険」は展開上ありえないと思いますが)。
それにしても、ガンダムの主人公が特殊な存在ってのは、珍しい趣向なのではないでしょうか。
アムロやカミーユ達は、突出したニュータイプ能力の発現者ではありましたが、マスレベルでの影響者ではなく、あくまで人類の導き手はシャアやハマーンといった敵役でしたし、それ以降のシリーズでも「救世主」的な扱いは皆無だったように思います。
刹那が「人類の導き手」にまで格上げされたのは異例で、その担い手は本来、マリナあたりに当てられるのではなかろうかと。...それだと「Vガンダム」になっちゃうか。
さて、今回の流れをまとめてみると、
- グラハムが刹那の「極み」を目の当たりにし、敗北
- ヴェーダが月の裏側にあり、そこに巨大な光学迷彩を施されている物体がある
- アロウズは総力戦を以ってソレスタルビーイング殲滅作戦を開始(リボンズの真意はヴェーダ防衛)
- リンダがOガンダムをはじめとする、あらゆる戦力を携えてトレミーに合流
- トレミーによるアロウズ艦隊突破作戦開始
- クーデター派に寝返ったカティの戦術で、カタロンの宇宙艦隊がトレミーに加勢
- カティの輸送艦もアロウズ旗艦に攻撃開始
- 刹那、グッドマンを駆逐する
- トレミー、アロウズの防衛線を突破
- リジェネ、リボンズを殺害
となります。
グラハムが切腹未遂とか、フェルトが怪しい動きを見せる(笑)とか、色々細かいことはありますが、大まかな流れはこんなところです。
個人的にはカティ・マネキン万歳だったり。
では、今回も順を追ってみたいと思います。
後半は混迷していくので、若干セリフが分かりにくい箇所がありますが、その辺もちゃんとフォローしてみたいと思います。
冒頭は、前回の続きの裸空間(笑)。
「俺は、変革しようとしている」
「変革?それが君が会得した極みだというのか」
刹那の「覚醒」を「極み」と表現するグラハム。
和風かぶれを表現するにあたり、他にはないと言えそうな程ピッタリ来る言葉です。
で、グラハムが何故武士道を求めるようになったかを、すこしだけ垣間見ることのできる回想シーンが登場。
ファースト・シーズン最終話で、刹那に「歪みがある」と指摘されたグラハムは、「戦う者のみが到達する極み」を求めて刹那に戦いを挑んでいるのですが、その思想の着火点になったのは、何とホーマー・カタギリ。
ソレスタルビーイング再来を予感していたグラハムは、ホーマー・カタギリの元を訪れ、自分の戦う場を所望するのです。
このホーマー・カタギリ、「カタギリ」だけに日本由来の家系であるらしく、この時代にして和装で日本家屋に住まうなど、伝統を重んじる人物(あるいはマニア)だったのです。
そして、グラハムは、ホーマー・カタギリに影響されたのか、滝に打たれたりして武士道が何たるかを、4年の間探求していたようなのです。
私は、ホーマー・カタギリがこのような人物だとは想像しておらず、少し戸惑いを覚えました。
ある意味これは、制作陣が仕込んだ「ネタ」だと思うのですが、敢えてそうではないと解釈すると、「武士道」を旨とするホーマー・カタギリがアロウズを率いているという事実が、興味深いということになります。
武士道の定義に関しては詳しくないので触れませんが、それを日本的価値観や倫理観と交換可能であるとした場合、ホーマー・カタギリがアロウズを通じてやろうとしていることは、一見矛盾しているように見えます。
しかし、彼が「和(融和)」の追及者だとすれば、相容れないものを村八分にする思想はアロウズそのものであり、意外に納得出来るような気がするのです。
何となく、戦時中の日本軍の体制批判を暗に行っている感覚があります。
...はい、これは深読みです。
で、戦いは続き、グラハムと刹那は互いの主張をぶつけ合います。
「その極みにある勝利を!」
「勝利だけが望みか!」
「他に何がある!」
「決まっている!未来へと繋がる、明日だ!」
これはもう通信で会話しているのではなく、ツインドライヴの作用で互いの意思が確認できる状態にあると見ていいでしょう。
この時点で刹那は「未来」とか「明日」とか言い始めているわけで、それを以って「覚醒」に到達したと言えそうです。
ダブルオーライザーは、白刃取りでスサノオの刀を折ります。
白刃取りとか、もうギャグ寸前なのですが、このくらいのテンションはアリでしょう。
「これが俺の戦いだ!」
と叫びつつ、スサノオを戦闘不能に追い込んでいくダブルオーライザー。
兜にあたる装飾が取れ、フラッグの顔になるあたりもいいですね。
これは、戦いにとり憑かれた男、ミスター・ブシドーの鎧が剥ぎ取られ、グラハムに戻ったことを象徴している...のかな。
「私を斬り裂き、その手に勝利を掴んで見せろ!」
と息巻くグラハムを前に、トランザムを解く刹那。
「何故だ!何故とどめを刺さん!」
「俺は、生きる。生きて明日を掴む。それが、俺の戦いだ。生きる為に、戦え!」
刹那の言葉に、歯噛みするグラハム。
いわば、このセカンド・シーズンにおける自分全てが否定されたわけで、その上、体感的にも圧倒的説得力を以って刹那の主張が示されたわけですから、グラハムもグゥの音が出ない状態なのです。
これまでの彼なら、衝撃を受けつつも余裕を装い、妙なセリフで見栄を切りつつ退散していくでしょう。
何も言い返せないということは、アイデンティティを打ち砕かれたということです。
後に出てくる切腹未遂シーンも、ここでまとめておきます。
「武士道とは、死ぬことと見つけたり」
と、懐刀を抜いて切腹を試みるグラハム。脳裏をよぎる刹那の声。
「生きる為に、戦え」
「...武士道とは...」
「武士道とは、死ぬことと見つけたり」とは、ルパン三世で石川五ェ門が口癖のように繰り返したものですが、ここでは勿論ギャグではなく、アイデンティティ(と自分が認識しているもの)を打ち砕かれた末の、失意の死を覚悟しての言葉です。つまりは、本来の意味とはかなり異なるものです。
それ故、刹那の言葉によって思い留まらされてしまうという、二重の屈辱を味わうことになります。
これで、グラハムの志向性としての武士道は、粉砕されたことになります。彼は果たしてどこに向かうのか。
沙慈は、
「ありがとう」
と刹那に礼を言います。
「な、何を?」
と戸惑う刹那がちょっと可愛い。
「そう言いたい気分なんだ」
という沙慈のシンプルな理由もいいですね。
リジェネは、この様子を眺めて、
「純粋種として覚醒したか、刹那・F・セイエイ。それは人類の命運を握る力だ」
と微笑むのですが、その真意は...?
トータルな所感ですが、沙慈はアロウズを断罪する為に戦うことを、許し始めているのではないでしょうか。
逆に、刹那との因縁を持つ者達の生命を、刹那が断ってしまうということに関しては、基本的に嫌悪感を抱いているようなのです。
従って、グラハムに止めを刺さずに言葉を用いて説く刹那に、沙慈は感心したのではないでしょうか。
沙慈の感覚は、結局周囲の人々の命が大事という感覚に言い換えることが出来るのですが、それはそれで自然な感情であり、特段批判には値しないと考えます。
刹那についても、「アロウズもイノベイターも含めて全部が等しく生命を」といった感覚は、扱いにくさも手伝ってか、一切描写されません。
そりゃそうでしょう。そんなのでは話が終わらないし、終わったとしても主人公である刹那がデウス・エクス・マキナとして振舞うという、陳腐極まりないものになります。
ここは、人類全ての生命を尊重する未来を見通しつつも、目前の敵を排除しなければならない刹那自身の矛盾を感じてみる方が、余程面白いだろうと。
終結まで、そういう視点で見てみようと思います。
さて、グラハム関係で随分と長く書いてしまったので、ここからはやや飛ばし気味で。
というか、特筆すべきことはあまりないので...(笑)。
アロウズは21隻の艦隊に108機のモビルスーツで総力戦を敢行。
私は、グッドマン自身はヴェーダのことを知らず、この作戦が実質ヴェーダ防衛だということは認知していないのだと思います。
ソレスタルビーイングを叩くという目的だけが、彼の中ではクローズアップされており、これまで圧倒的な武力を行使してきたグッドマンが、その牙城を次々と崩されて自信を喪失していく様が圧巻です。
リヴァイヴ、ヒリング、ルイスと、ついて来たアンドレイは独立行動をとることに。
それは、リボンズからの帰投命令でした。
リボンズの覚悟か、焦りか、それとも...リボンズの感情を読むことの出来ないリヴァイヴとヒリング。
一方、ルイスは消滅したネーナに「ザマ見ろ」と呟き、冷酷な人格への変化が見え始めています。
リボンズが告げた「人類初のイノベイター」は結局刹那が担うことになったのですが、リボンズの真意は、ルイスのように自由に操れる人間を作り出す実験だったのかも知れません。
さて、その頃トレミーでもヴェーダ奪還作戦に向けて準備を進めていました。
ヴェーダのポイント解析が終了し、それが月の裏側であるということが判明。
開発が殆ど行われておらず、隠れるにはうってつけの場所だとイアンが指摘します。「月」とは地球の月だと思われるので、いわゆる灯台下暗しというやつですね。
なお、直径15kmの光学迷彩が施されていることが分かり、隠蔽されているものが恐ろしく巨大なものであることを匂わせています。
そこに、イアンの奥様・リンダが新装備を携えて合流するとの連絡が。
イアンとミレイナは、リンダが「戦力になりそうな物は全て持って来たわ」という各種装備を見ながら歓喜。
Oガンダムも登場。しかも、粒子貯蔵タンクを付けられ、一定時間の稼働が可能になったらしい。
GNドライヴがなくても活躍できるよう、巧いエクスキューズを考えたものです。が、何となくご都合主義的な匂いも...。
しかしながら、このカラーリング、とんでもないですね。
確か以前は、もっとモノトーンなカラーリングだったような気がします。こんなにはっきりトリコロールに塗っちゃって、サービスしすぎです(笑)。
これでツインアイが黄色だったら、ホントに完璧だったんですけどね。
そして、装備や作戦が固まったところで、ブリーフィング開始。
ヴェーダに到達するには、アロウズの大艦隊を突破しなければならないわけで、激戦が容易に予測されます。
しかし、沙慈は戦闘に参加する覚悟を決めており、
「決めたんです。もう迷いません」
と宣言。
沙慈には戦闘技能こそありませんが、戦場に出られるだけの度胸なんかは、普通に持ち合わせていたんでしょうね。
「私も参加させてもらう」
「ソーマ・ピーリス...」
「私にも、そうするだけの理由がある」
操舵士の話をあっさり断り、マリーはソーマ・ピーリスとして戦場へ出ようとします。
この時点では、未だアンドレイへの復讐を考えているように思われます。
ロックオンはソーマの言葉を聞き、
「そうだな。目的は違っても、俺達はあそこに向かう理由がある」
と、自分の目的もヴェーダ奪還とはやや異なる所にあることを匂わせる発言。
しかしそれらを誰一人否定する者はおらず、刹那の、
「そして、その思いは未来に繋がっている。俺達は、未来の為に戦うんだ」
という言葉でまとめられてしまいます。
ただ、これは私は批判しません。前回まではかなりバラバラだった個々人の思惑が、刹那によって一つのベクトルに集約されたと見ることができるからです。
刹那の覚醒は先に指摘したようにやや唐突ではあるのですが、終盤に向けて話をまとめていくにあたり、多少強引にならざるを得ないのは、この際看過しておきたいと思います。
主人公を中心にまとまっていくのは、ある意味ロボットアニメの王道的展開と言えるのではないでしょうか。
そのあたりは、微笑むスメラギが象徴しています。
基本的にトレミーは、スメラギの意思決定によって動いているものですから、刹那の言葉に黙って微笑むスメラギは、彼を意思決定者として認めたということに他なりません。
「イノベイターの支配から、人類を解放する為に」
「僕や、ソーマ・ピーリスのような存在が、二度と世界に現れないようにする為に」
「連邦政府打倒が俺の任務だ。イノベイターを狙い撃つ。そして」
「俺達は変わる。変わらなければ、未来とは向き合えない。」
「刹那...」
このフェルトの態度も、やや唐突ですが、花を渡さなければならないので、善しとします(笑)。
各々の意志確認が終わったところで、スメラギが、
「補給が済み次第、トレミーを発進させるわ。いいわね」
と一言。ロックオンが了承し、アレルヤが、
「でも、今のトレミーには操舵士が」
と心配したところで、ラッセが登場。
「ここに居るだろ」
と元気な姿を見せてくれます。が、多少無理をしているようにも見えます。
刹那を見つめる、勢揃いした一同。
「行こう。月の向こうへ...」
という、ロマン溢れるセリフでブリーフィングを終えるのですが。
この時、一同が刹那の一言を待つかのように見つめるというシーンが、刹那中心体制を補完していると言えます。
このセリフは...カッコいいんだけど、ちょっとやり過ぎかなぁ。
後半は、月の向こうへ進撃していきます。
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