アグリがメインのエピソード。とりあえずエリもフィーチュアされていますが、アグリの立ち振る舞いを決定付けるような付けないような、微妙な立場で機能しています。
今回のキーになるゲストキャラクターは、丈太郎なる壮年男性(劇中では「おじいさん」扱いですが、やや違和感が)。演ずるは渡辺哲さんで、若い俳優陣に嬉々として絡んでいく様は、ベテランならではの存在感です。
この丈太郎に偶然出会うことで、アグリが自分の護星天使としての使命感に再度気付いていくという展開は、なかなか見事なのですが、折角のランディック族・アグリのお話。ランディックブラザーの初登場が今回だったら、もっと良かったのに…と思ってしまいました。
なお、農業を通じて大地の恵みに触れ、丈太郎の亡き妻(というのは勘違いで、実は存命)である幸子の象徴としてのキャベツ畑を守る事が、そのまま地球を守ることに繋がっていくという、微視的なものから巨視的なものへと飛躍していく様子は、スーパー戦隊シリーズならでは。「ゴセイジャー」が正統派の戦隊を視野に入れていることが分かります。
とはいえ、ちょっとお約束を破って戦隊ファンへ笑いを提供する姿勢も見られ、シンプルでライトなストーリーながら、なかなか奥深いのです。
今回のウォースターの刺客は、ズテラメドロプ星人・研究のアバウタ。アバウタという名前は「アバター」から採っているのでしょうか。「○○について研究する」という意味合いで「about」からも採っている感じがします。
このアバウタ、まず事前に地球人を研究してから出現しており、地球人を一掃するには、植物を根絶やしにすればいいという結論と共に姿を現しました。といっても、このあたりがエコロジー的なエスプリになっているわけではなく、あくまで「ウォースターが地球に優しくない」といった味付け程度。「ゴーオンジャー」における敵組織の成り立ちに類似していますね。
植物の破壊という点で、ランディック族の怒りを喚起するあたり、ストーリー的な仕掛けは充分ですが、結局アバウタの主たる魅力は「研究」にあり、その類稀なる戦力分析によってゴセイジャーを追い詰めるという部分がストーリーの骨子となります。
戦力を分析した上で、それを凌駕する作戦で行くというパターンは、それこそ乱発と形容出来る程、数多見受けられますが、特に印象に残るエピソードとしては、「宇宙刑事シャリバン」の第11話「暗黒星雲から来た 最強の悪役ファイター」を挙げておきたいと思います。まだシリーズがシャリバンそのものの魅力を模索している中、最後の切札が心の力であるという一つの指針を示したエピソードとして、深く記憶されるべきものでした。まだ、特撮ヒーローが異様な熱気を帯びていた時代を象徴する一本です。
さて、この戦力分析に対抗するにはどうすれば良いか…などとは考えず、とにかく目の前の人=丈太郎を放っておけないエリと、それに巻き込まれた形のアグリが、全くアバウタ対策とは関係ない部分で丈太郎の為に動き、それが結果的にアバウタ打倒に繋がっていく。今回は、そんな正に「アバウト」さが功を奏した感があります。
エリの護星天使というキーワードからはかけ離れたキュートなモンペ姿もさることながら、アグリのヤケッパチな一生懸命さもいい感じ。特に、アグリによる農作業の演出は、ある意味実にリアルであり、鍬を振るう姿も様になっていました。
この順調な農作業の場面が出たあたりで、後々の戦闘にこの成果が生かされるのだと直感しました。
そして、実際に体全体で鍬を振るう動きがランディックアックスのパワーにプラスアルファをもたらし、大根を優しく洗う作業が、アバウタの虚を突くことになったわけです。
ところが、「ああ、やっぱりね」と思わせておいて、そこをちょっとだけ裏切ってみせたのが爽快。アグリ曰く、農作業に勤しんだだけで戦力が強化されるなら、農業従事者は皆凄い格闘家になっている筈だとのこと。アグリが強くなったのは、農作業を通じて人間が大切にしているものを感じ取ったからであり、大地の恵みに繋がるランディックパワーの存在を感じ取ったからだということを、セリフの端々から感じさせています。
ただ、これを鵜呑みにしてもいいのですが、私は「農作業が戦力強化に直結した」ことを否定しません。実際にアグリは農作業のエッセンスを戦いに持ち込んで応用しており、それがアバウタの戦力分析の範疇外になったのはご覧の通り。農業従事者が格闘家にならないのは、アグリのように元々戦い方を知っている者ではないからであり、アグリがそこを認知していない筈はないのです。
というわけで、アグリの「否定発言」は、手放しで絶賛するエリの手前での、照れ隠しだったと結論付けていいでしょう。そうすると、アグリの微妙にシャイな性格が浮き彫りになって、いい感じなのです。
巨大戦は、ランディックゴセイグレートに合体する前に、ゴセイスネークとランディックブラザーによる、メカ戦をじっくりと見せてくれます。やっぱりミニチュアを織りまぜた特撮シーンは、味のある迫力を醸し出してくれますね。
アバウタはランディックゴセイグレートの存在を認知しておらず、結局敗退するわけですが、ランディックゴセイグレートは前回で既に登場していた形態なので、ちょっと説得力に欠けるような…。やっぱり、今回を初登場回にした方が、すっきりしたのではないでしょうか。
エピローグでは、亡くなったと思われていた丈太郎の妻・幸子は海外旅行に行っていて不在だっただけであり、丈太郎がエリを無理やり連れてきたのは、単に若い女の子が好きだっただけというオチを展開。結局、エリとアグリは丈太郎の気まぐれに振り回されていただけで、アバウタ打倒に繋がったのは結果オーライだったということにされてしまいました。が、丈太郎の畑に対する愛情は本物であり、アグリにとってプラスになったことは間違いないのです。そういうことをサラッと匂わせるあたりが、「ゴセイジャー」の奥ゆかしい処かな、と感じるのでありました。
この回は、スーパー戦隊シリーズ 天装戦隊ゴセイジャー VOL.2 [DVD]に収録。
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