前回はコミカルで面白かったけれど、今回は割とマジメで面白い。これは良いお話。
メインはアグリ。両極端なハイドとアグリを比べると、ハイドがメインの回は、ハイドがギャグ要員的にいじられるパターンが多いのに対し、アグリは割と正統派の話が多い印象があります。
この両者の違いは、単にキャラクターイメージを壊した処に笑いが生じるかの違いです。アグリは元々猪突猛進気味のキャラクターであり、違ったイメージを作ろうとすれば、やけに臆病で慎重な内面を炙り出すしかない。しかし、アグリにそんな内面はないので、笑いのとりようがないわけです。
そんな中、アグリの奮闘振りを真面目に描きつつ、特訓シーン等で笑いをとったのは偉い!素晴らしいです。
天装術の奇想天外な効果に翻弄されたり、事件終了後に全身筋肉痛にあえいだり。一生懸命に突き進む過程で生じた微笑ましい笑いは、「ゴセイジャー」のムードにピッタリだったのではないでしょうか。こういう、「雰囲気を最大限に活かした」ドラマ作りが連発されていれば、もっと私の中のシリーズへの評価が変わるんですけどねぇ…。
特筆すべきは、遂にゴセイナイトもギャグ要員の一端を担う存在になった事。
要するに、ハイド以上の論理派として行動した結果、笑いに転じたわけですが。この辺りも含めて続きの方をどうぞ。
今回のマトロイドは、スキャンのバザルソLJ(バザルソエルジェー)。マトリンティス編ではネーミングソースに触れない事にしていますが、今回のは分かりやすい。ズバリ、「ユニバーサル・ソルジャー」でしょう。
デザインは、かなりロボット然としていて、機能的。メタリックマゼンタのカラーリングもいい感じで、ちょっと間の抜けたようなシルエットが、そのキャラクター性を高めています。
しかし、そのシルエットとは裏腹に、計算高く残忍で、それでいてかなり無機的という、マトリンティスに相応しい性格付けが為されていて、完成度が高いです。
やはり、敵がしっかりしていると、話も安定してくるという、好例ではないでしょうか。
さて、このバザルソLJですが、その行動も一貫していて、抜群のスペックスキャン能力(これがまたマトリンティスらしい)を使って、身体能力の高い人間を選定・拉致し、マトリンティスの兵士へと改造するというもの。パターンとしては完全に「ありがち」なものなのですが、スキャン描写の丁寧さに加え、改造自体も自ら行ってしまうという強引さで、強く印象に残ります。
高い身体能力の持ち主、つまりアスリート達が狙われるわけですが、アグリの出会った青年・直人もその一人。まだメジャーなチームには所属しておらず、走りも荒削りながら、既に護星天使であるアグリよりも高い走力を見せるという、類稀なポテンシャルを秘めた人物として登場します。
今回のような話のパターンでは、有名な選手が狙われるのが常なのですが、まだ無名の人物を持ってきた処に、今回の巧さがあります。有名な選手だと、大抵はそれに憧れる少年等を登場させざるを得ず、結局主人公との関わりが薄くなってしまうきらいがありますが、今回の措置ならば、主人公としっかり絡ませる事が可能です。
狙い通り、アグリと直人は「走り」というキーワードを通じて交流します。これであっさりとアグリが負けを認め、「明日の記録会、頑張れよ!」で終わっても、アグリの動機付けという点では充分だったのですが、ここからが発想の転換。
バザルソLJが、直人を狙うのではないかという推測の元、アグリが立てた作戦は、何と、自らが直人に勝利し、バザルソLJに拉致されようというもの。これにはちゃんと理由があって、バザルソLJがあまりにも神出鬼没なので、アジトで叩くより他に方法がないからなのです。先回りで理由付けしている辺りは、なかなか巧妙ですね。
そして、今回の白眉とも言うべき特訓シーンの開始。直人に勝つ為、アグリが走力アップを狙って特訓に励むわけです。戦力アップではない特訓シーンとあって、「走り」を縛りに用いた特訓シーンは、説得力抜群。しかも、天装術を駆使してアグリに負荷を与えるという発想がいい。
ここで登場するのが、ゴセイナイト。
以前ならば「バカバカしい」などと、そっけない態度をとっていたであろうゴセイナイトが、今回は深い納得と共に「全面協力」!
ただし、その「全面協力」はかなり凄まじいものになっていて、巨大なグランディオンでアグリを追い立て回すという、もはやイジメに近い構図に。「ウルトラマンレオ」で、ダン隊長(=セブン)がゲン(=レオ)をジープで追い回す地獄の特訓を思い出してしまいました(笑)。シチュエーション的には、今回の方がジープよりも酷なのですが、実際にやっているかどうかの点で、迫力の違いで出てしまっている…かも。ま、笑いをとるシーンなので、現実感は二の次で宜しい。
重要なのは、初めてゴセイナイトが笑いの対象となった事でしょう。勿論、ゴセイナイトがいきなりこんな笑いを提供したわけではなく、ゴセイジャー達がそれぞれの天装術でアグリを酷い目に会わせた一連の流れを汲んでいるからこそ、自然に成立したわけですが、裏を返せば、ゴセイナイトも遂にゴセイジャーの一員になったという事なわけです。
さて、ハチャメチャ特訓も佳境に入り、何とか直人のタイムに肉薄したアグリ。やがて記録会の本番がやって来ます。
記録会では、直人がアグリに対してライバル心を剥き出しに。アグリには、バザルソLJのアジトを突き止めるという最終目的があるものの、既に当面の目標は直人に勝つ事へと変わっており、二人の間に散る火花が、否が応にも感じられる一瞬。この描写のみならず、今回は遠近法を多用した印象的な構図作りが随所に見られ、映像的な完成度も非常に高いです。
記録会の結果は、二人共ベストタイムで同着という事になり、アグリ共々直人も拉致されてしまいます。しかし、これがアグリのさらなる奮起を促し、バトルへとなだれ込んでいくスピード感を強調する事に繋がっていきます。何とも計算高いというか、よく構成されたエピソードでしたね。
人間の、夢をあきらめない力についても確認され、護星天使の使命感も補強されるという、オマケにしては充分なエクスキューズも用意されており、巧く、程良くまとまったエピソードになりました。
ちょろ
こんにちは。
はい、おっしゃる通り今回はなかなか良かったです。
スポ根特訓ドラマなので元々陽性、笑いが取れてスカッとできれば言うことはありません。
笑いのピークはゴセイナイトの協力ですが、台詞と演出の省略とデフォルメが成功していました。
ゴセイナイトとハイドだけの押さえた語りとレーザーに火薬ばんばんの絵がマッチ。
種目を短距離走にしたのも正解のようで、走る度のタイムが見る側の興味をテンポよく緊張させていたかと。
敵組織の影が薄かったので、イメージ図のプレゼンあたりでメタルA様のノリがあればという気はしました。
細かい点で巨大戦のアルティメットロボの動きが、ブラックのリモコンらしいぎくしゃくだったのが○ですか。
ウルトラマンレオ、光線技を切り詰めてドラマに回帰していた前半が渋いですよね(笑)。
わたしはデカレンジャーでバンがひたすら走る20話を思い出して再見してみました。
と、バンの100mのタイムは11秒フラットだそうです。
本作のランナー2人は天使と本職ですから上を行くのはうなずけますが、よく考えたら日本記録まで超えさせてしまったのは・・(笑)。
ちなみに護星メインライターの横手さんの戦隊初仕事がその20話とのこと、5年間なんてあっという間ですね。
SirMiles
>ちょろさん
今回の出来はホントに良かったですね。
こういう、ちょっとほのぼの、ちょっと真剣な感じが丁度いいと思います。
元々「ドラクエ9」を企画基盤に持ってきているので、ゲーム中にあるような「クエスト」の雰囲気を連発すれば、シリーズ的には面白かったのでは。今回はそれを確信させるような内容でした。
昭和ウルトラはどれも一様に好きなのですが、「レオ」の熱く厳しい初期編は、私も大好きですね。近年忘れ去られつつある「根性モノ」のエッセンスが凝縮されていますよね。