epic17 「新たな敵!幽魔獣」

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 戦隊では非常に珍しい敵組織交代というイベントを得て、方向転換した「ゴセイジャー」。ただし、いわゆる「放送延長に伴うテコ入れ」とは異なるニュアンスであることは、周知の通りでしょう。戦隊シリーズはいわば鉄板コンテンツであり、当初から4クールの制作予定であるだろうし、年間の緻密な商品展開プランを元に制作されているのは疑いようがないので、今回の敵組織入れ替えは「テコ入れ」ではないのです。

 しかしながら、幽魔獣の登場がゴセイナイト登場のタイミングに重なったことにより、これまでの追加戦士登場とは趣向が異なり、かなり「テコ入れ」っぽく見えます。

 私が想起したのは「ジャッカー電撃隊」。

 中盤、敵側のクライムが侵略ロボットやエイリアンを擁するようになってから、ガラリと雰囲気が変わります。しかも、同時にビッグワンなる新隊長が登場。ビッグワンは宮内洋さんが演じているのもあってか、非常に強力なキャラクターだったのは有名です。これにより、「ジャッカー」はほぼ別種の番組になりました。

 今回も、このパターンにかなり近いものを感じます。しかも、それまでの展開がグダグダだと評されても仕方ないものだった為に、ここらで刷新という雰囲気も、たった一話ですが、感じられるのです。

 結局、正直なところ、ウォースター編よりも幽魔獣編の方が面白そうだというのが、私の感想。ただ、これがメインターゲットにウケているかどうかは微妙。

 何故なら、前編に亘って昭和テイストを感じさせている為、私のような古参者にはノスタルジーというフィルタがかかるものの、そうでない視聴者には「何だコレ」と映る部分が多いと思うからです。

 その辺りを検証してみましょうか。



 ストーリーは至って単純で、二日間眠り続けたアラタが、目覚めと共に異様な気配を感じ、幽魔獣の存在に辿り着くというものです。

 アラタの、一風変わったリーダーシップの発揮となるシーンでしたが、眠っていた事がセリフでしか示されていない不徹底が、その魅力をややスポイルしている気が。

 新たな敵・幽魔獣は、そのまんま「UMA獣」ですね。幹部や毎回登場の怪人が、全てUMA(Unidentified Mysterious Animal)をモチーフとするようです。

 幹部は、ブロブの膜イン、ビッグフットの筋グゴン、チュパカブラの武レドラン。何と、「何だかなぁ」な退場だったブレドランは、続投でした。正直、再登場も「何だかなぁ」なのですが(笑)。しかも、チュパカブラだと。ただ、飛田さんの声がシャープなリデザイン(Re-Design)に合致しているので、実にカッコいいのがニクいところ。

 UMAの出展はWikipediaなりググるなりして頂くとして、それぞれのネーミングに探りを入れてみましょう。

 膜インは、多分スティーヴ・マックイーン主演の「マックイーンの絶対の危機」が元ネタ。原題が「The Blob」なので、UMAのモチーフとも合致してます。茶風林さんの声が、得体の知れない雰囲気を助長していて、いい感じです。ブロブらしく、気持ち悪すぎるデザインは、「超神ビビューン」のガルバーなんかを思わせますが、この辺が昭和テイスト。現在の嗜好に合致しているかどうかは微妙です。私はいいと思いますけど。

 筋グゴンは、もう「キングコング」以外ないでしょう。ビッグフットの類人猿的なイメージに合わせているように思います。この筋グゴン、同じ言葉を三回連呼するという癖を持っていますが、アニマル浜口さんの「気合だ、気合だ、気合だ!」を真似たものであることは明白。キャラ付けとしては、なかなかいい方向ではないでしょうか。

 今回の一発キャラであるツチノコのト稀ヅは、「トレマーズ」が元ネタ。この映画に登場する怪物は、まぁツチノコに似ていないこともない。

 さて、このト稀ヅの吐く毒液は、人間を溶かしてヘドロに変え、地球に染み込ませることで地球の汚染源となるという設定。何とも醜怪極まる悪趣味な設定ですが、こんなの昭和では普通でした。

 人間が溶解する描写は、旧1号ライダーの時代なんかと比べると、ややライトになってはいるものの、地面に人型のシミが残るなど、なかなかグロテスクな雰囲気。次々と時事的な有名人のパロディを襲っていく辺りは、人間の心理を突いた作戦でもあるのですが、これも昭和テイスト全開な感じです。

 ただ、ト稀ヅが倒れると同時に溶解した人間が完全復活したり、人間の心理に訴える部分がアイドルグループのファンの一幕でしか表現されていなかったりと、本当にイヤ~な気分にさせられた昭和の特撮とはかなり異なるのも事実。これにより、古参者の拍手喝采は望めず、また古参者でない視聴者には気味悪がられるという、二重苦がもたらされてしまうわけです。荒川脚本は色々な要求を巧くクリアしているものの、如何せん、尺の不足と昭和と現代の放送におけるボーダーラインの違いに悩まされている気がしてなりません。

 さて、今回の真打であるゴセイナイトに触れる前に、ゴセイジャーの5人にスポットを当ててみましょう。

 まずはアラタですが、前述のとおり、幽魔獣との出会いのきっかけとなります。ただし、結局は街に被害が及んでしまってからの戦闘となるので、あまり役に立っていないのが残念。事前に食い止めるという描写が一度でもあれば良かったのですが。一応、ゴセイジャーの中でも、悪しき存在への感知力に優れた者というアピールはなされましたが、それってレッドの役目とはちと違うような気もします。いずれにせよ、アラタは演ずる千葉さんの雰囲気に、かなり影響されているキャラクターであることは間違いないでしょう。

 他の4人は、いつもと殆ど変わらず。ただし、女性陣はイメージを一新。最も見た目の変化が分かりやすいのは髪型で、エリはより可愛らしさを、モネはよりアクティヴな感じを前面に出しているようです。これで、見る楽しみが増えたというものです(笑)。

 今回の5人は、モンス・ドレイクを撃退した際の強さが、そしてアラタには、デレプタを一人で粉砕した強さが、あんまり感じられません。それ程幽魔獣が強力だというロジックは理解出来るのですが、危機の描き方が雑なので、ヒーローが弱体化している印象があるのです。

 敵の強化という面では、「仮面ライダー」のゲルショッカー登場編や、「ストロンガー」のデルザー軍団に敗北を喫する描写等が、パイオニアにして頂点という感がありますが、正義側の知力体力を尽くした努力の様子がじっくりと描かれていた為、ヒーロー自体が弱いという印象を与えませんでした。

 今回はゴセイナイトが強すぎる為、余計にゴセイジャーが弱く見えてしまう。途中でト稀ヅの毒液を弾き返すくだりはカッコ良かったのですが、結局のところ、気合と奇跡に支えられているという面を図らずも露呈してしまったわけです。

 さて、ゴセイナイトと参りましょう。

 追加戦士のポジションにありますが、戦隊メンバーではないキャラクターなので、「カクレンジャー」のニンジャマンや、「ギンガマン」の黒騎士的な印象を与えます。ところが、ニンジャマンのポジションは既にデータスがかなり近い印象があるので、もっとイレギュラーな存在感を光らせているように見えます。

 最も印象が近いのは、「シンケンジャー」に登場した仮面ライダーディケイドでしょうか。

 完全に単体ヒーローが戦隊に顔を出した。そんな印象です。

 演出も、かなりそういった面を強調しています。

 自らヘッダーに変形したり、宮内タカユキさんの歌が流れたり、ビデオビームガン(「シャイダー」)だったり、人間態がなかったり。そう、これはメタルヒーローの再来なのです。しかも、「地球汚染源発見」と言って銃をぶっ放す(正に「バイオマン」のシルバだ!「バイオ粒子反応アリ!」)。

 シルバがハカイダーへのオマージュだというのは有名な話ですが、そこまで加味すると、ややアウトローなメタルヒーローのイメージを投影していると言えるでしょう。小西さんの声も抑え気味でイイ感じです。

 今回の怪奇色が「デンジマン」的だなぁと思っていたのですが、「ゴセイジャー」は戦隊シリーズのパターンを貪欲に集大成化すると共に、メタルヒーローさえも飲み込もうとしている。「こいつはスゴイぜ!」と言いたい処ですが、残念ながらまだ物語にドライヴがかかったような印象はなく、今一歩という感じです。これからに期待。

 あ、ゴセイナイト自体は、すこぶるカッコ良かったですな。しかし、これもやっぱりメタルヒーローというカテゴリーからして、昭和ヒーローの匂い。果たして、チビっ子にはウケているのだろうか?ちなみに、私の子の反応は薄かったです。「宇宙刑事」とかを見せると夢中になって見るので、決して昭和テイストは嫌いじゃないはずなんですが…。

 この回は、スーパー戦隊シリーズ 天装戦隊ゴセイジャー VOL.5【DVD】に収録。