GP-43「年末オソウジ」

 ヘルガイユ宮殿に、3つのブレーンワールドを滅ぼしたガイアークの実力者・掃治大臣キレイズキーがやって来た。エンジンオーG12に謎の赤い閃光を浴びせ、合体解除に追い込んだ人物こそ、このキレイズキーなのだ。ヒューマンワールド攻略に手間取るケガレシアとキタネイダスに見かねてやって来たようだが...。

 その頃、ゴーオンジャーの面々はクリスマスを迎える準備に勤しんでいた。ギンジロー号はすっかりクリスマスモードに。それぞれのクリスマスの思い出を語り合おうとする面々だったが、ガイアーク出現の報に出撃していく。ゴーオンジャーは現場に到着するが、そこにガイアークの姿はない。しかし、キレイズキーはゴーオンジャーの死角から狙撃を開始したのだ。範人が直撃を受けて倒れ、戦慄するゴーオンジャー達の前に、キレイズキーが降り立つ。キレイズキーはゾウキングレネードを使って炎神ソウルの力を奪った。例の赤い閃光だ。炎神達が意識を失ってしまい、彼らの力を使えないゴーオンジャー。手始めに走輔がキレイズキーに「掃除」され、遥か彼方に飛ばされる。大翔と美羽が合流し、範人の治療の為に連達に退却を促すが、キレイズキーのゾウキングレネードはやはりトリプターとジェットラスのパワーを奪い、今度は大翔と美羽を「掃除」されてしまった。

 一方、飛ばされたが無事だった走輔は森の中でサンタクロースに遭う。サンタクロースはソリに乗って空を飛んでいたが、ゴーオンジャーに対するキレイズキーの攻撃の余波を受けて墜落してしまったのだ。サンタクロースは足を痛めていたが、世界中の子供が楽しみにしていると言って立ち上がる。彼がサンタクロースの姿をしたアルバイトだと思っていた走輔は、何も入っていない袋からサンタクロースの取り出したプレゼントを見て驚く。それは、幼い頃クリスマスに走輔がもらったレーシングカーのおもちゃだった。走輔はそのおもちゃをプレゼントされたことで、レーサーになる夢を諦めずに頑張って来たのだ。走輔は目を覚ましたスピードルから、サンタクロースがクリスマスワールドから来た本物のサンタクロースだと教わる。走輔はケガを押して頑張ろうとするサンタクロースの熱い思いに共感し、その手伝いをしようと言い出した。クリスマスに無事プレゼントを届ける為にはまず、キレイズキーを倒さなければならない。

 その頃、連達は何とか体制を立て直そうとしていたが、キレイズキーによるギンジロー号急襲に遭う。なす術もなく一掃されてしまう連達4人。その危機の報は走輔にも届く。走輔がギンジロー号に帰ってくると、クリスマスの飾り付けをメチャクチャにされ、連達6人が茫然と立ち尽くしていた。走輔はそんな連達を前に、「平和なクリスマスにして、サンタクロースに安心してプレゼントを届けてもらいたいんだ」と熱く語る。それを聞いたサンタクロースは6人それぞれにプレゼントを手渡した。その中身は、6人それぞれが幼い頃に受け取り、夢を育んだプレゼントだった。元来の勢いを取り戻したゴーオンジャーは再び結束を固める。そしてふと、連はクリスマスワールドに繋がっているというサンタクロースの「異次元プレゼント袋」に気付き、ある奇策を思いつくのだった。

 自信を深めるキレイズキーは、今年の地球にはクリスマスは来ないと嘯き、ヒューマンワールドから綺麗な飾り付けを「おぞましく掃除してやる」と宣言する。そこにサンタクロースの扮装をしたゴーオンレッドが登場し、正義の鉄拳をプレゼントすると息巻いた。スピードルソウルのセットされたゴローダーGTに対してゾウキングレネードを投げつけようとするキレイズキー。しかし、一瞬隙を見せたところで連達6人が「異次元プレゼント袋」から飛び出してキレイズキーにしがみつき、その動きを制する。走輔はゾウキングレネードを破壊して戦況を打開、勢い付いたゴーオンジャーは次々とキレイズキーの武器を破壊、遂には走輔の必殺剣とカンカンカンエクスプレスが決まった。

 爆発四散するキレイズキー。ゴーオンジャーは勝利に喜び、サンタクロースも無事プレゼントが配れそうだと喜ぶ。ところが、キレイズキーは頑丈な箱に入って攻撃をやり過ごしていたのだ!

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
武上純希
解説

 掃治大臣キレイズキー登場。そしてスーパー戦隊シリーズ恒例のクリスマス編である。さらに、何となく走輔メイン編でもある今回。桜金造氏のサンタクロースというインパクトが絶大で、2話連続展開なのも異例な、気合の入った名編だ。

 それにしても、ここぞという時にゴーオンジャーのスピリットを代表する走輔というパターンが、この土壇場(もう4クールなのだ)にまた登場するとは思わなかった。これまでも、どんな危機を迎えたとしても、常に走輔が全員の精神を高揚させ、勝利に導いてきた。しかもそれは、チーム全体の結束力の向上や成長振りを描くことも兼ねていた。ある時点からゴーオンジャーとゴーオンウイングスが完全に1つのチームとして描かれるようになり、さすがにもうこのパターンは登場しないだろうと思っていたのだが、また登場したことで些か驚きを覚えた。確かにキレイズキーは炎神を無力化するという切り札的能力を有しており、強い。しかし、「異次元プレゼント袋」があったとは言え、後半の波状攻撃は通常攻撃の積み重ねであることに違いなく、キレイズキーを前にそこまで自信喪失する程ではないのではという印象を抱いた。要するにこの時点で、走輔以外の者が一様に自信喪失状態となり、そこに走輔の熱い説得が入って立ち直るというパターンを持ち出すのは、いささかやり過ぎではないかと思ったのだ。

 ところが困ったことに、このシチュエーションがあるからこそ、サンタクロースが幼い頃のゴーオンジャー達に贈ったプレゼントが生きてくる。そしてそこに例えようもない感動が湧き上がってくるのだ。ストーリー構成としては実に手堅く、またメリハリも効いていて完成度が非常に高い。しかし、「ゴーオンジャー」というシリーズの中のエピソードとして見た場合、やや成長譚を裏切られた感じもして寂しいのである。

 シリーズの一貫性という面での疑問は、この他にも少しばかり存在する。

 最も目立つのは、大翔と美羽の使う「ロケットダガー」である。ロケットダガーは不幸な事件によって「ダガー」という名称を自主規制的に封印した。商品名は「ロケットブースター」に変更され、劇中では一切名称が呼称されないという事態になったのだ。ゴーオンウイングスがスピーディなアクションを展開しながら、どことなくケレン味に欠けていたのは、この事柄と無縁ではあるまい。ところが、今回「ロケットダガー」の名称が突如復活。ほとぼりが冷めたということなのか、詳しい理由こそ不明だが、既に商品名として定着している「ロケットブースター」ではなく、「ロケットダガー」とはっきり言っているのには正直度肝を抜かれた。「度肝を抜かれた」とは大袈裟に聞こえるかも知れないが、本当に度肝を抜かれたのだ。この年末商戦時期に、商品名とは異なる名称を叫ばせるという演出に疑問を持つと同時に、制作側がスポンサーの意向とは離れた部分で、元々の武器名称に一本筋を通そうとしている姿勢も窺え(そういう意味ではシリーズの一貫性が保たれている)、このロケットダガーという武器の抱えてしまった大きな矛盾に、改めて戦慄に似た感情を覚えるのである。なお、名称復活に伴い、このロケットダガーを使った数々の技にも「~ダガー」の名称が復活し、それまで無機的な「ミッション1!」というロケットダガーの電子音声のみだったシーンにも、やっと本来のケレン味が蘇った。これでもかと矢継ぎ早に繰り出される大翔と美羽の技には、これまでのフラストレーション解消ではないかと思わせる凄味があった。

 続いて挙げられるのは、ブレーンワールドの「浪費」だろう。キレイズキーはサウンドワールド、マジックワールド、プリズムワールドを滅ぼしたという。このうち、サウンドワールドとマジックワールドは既に登場済であるが、詳細の描かれていないシチュエーションのみの存在。プリズムワールドに至っては、今回名前が登場したのみにとどまるという、何とも寂しい扱いになっている。これは意地悪な推測だが、このプレーンワールドという設定は話の膨らませ方に窮した際の逃げ道的なものだったのではなかろうか。幸いシリーズはそれに頼ることなく順調にエピソードを紡いできたわけだが、逆に言えばブレーンワールドの11次元という設定はある種のお荷物になってくる。ジャンクワールドやサムライワールドのように詳細な描写に恵まれたものは別として、サウンドワールドやストーミーワールド、マジックワールドの場当たり的なタームの登場や、言い方は悪いが安直な設定にそれは見て取れる。プリズムワールドなど滅ぼされた後に名前が出てきたという体たらくだ。クリスマスワールドも例外ではない。サンタクロースの住む世界というファンタスティックで夢のある世界観は、個人的に大歓迎だが、それをブレーンワールドの中の1次元に位置付けてしまうのは、非常に巧いとは思いつつも、何となくブレーンワールドり矮小化を推進しているようで寂しいのである。

 もう一つの疑問は、ゴーオンジャーとゴーオンウイングスが別々に見栄を切る名乗りだ。今回は名乗りシーンが新撮になっており、ポーズは従来通りだが細部のキメ具合が異なっていたり、背後のナパームをとらえるカットが微妙に異なっていたりする。だが、わざわざ新撮シーンを用意したにも関わらず、そして一度はゴーオンジャーとして7人で名乗りを上げたにも関わらず、今回はまた別チーム扱いとなっている。ゴーオンウイングスの特殊性について特段異を唱える理由はないが、以前のエピソードにて7人揃っての名乗りに大きなカタルシスを持たせて効果を上げた後としては、些か配慮に欠ける演出に思える。ファンの総意は7人態勢のゴーオンジャーを見たがっているような気がするのだが、いかがだろうか。

 さてさて、それらが些細な欠点に思えてくるほど、今回は面白い。それは何故か。それは、サンタクロースとキレイズキーの存在、そしてクリスマスという雰囲気故であろう。

 まずはサンタクロースにスポットを当ててみる。本エピソードにおける最大のアイデアは、サンタクロースを「異次元人」に設定したことだ。サンタクロースからファンタジー臭を奪うことにより、桜金造氏の扮するサンタクロースが本当にハマる。だからといってサンタクロース自体の「夢」が失われたかと言えば、そうではない。非常に良質なバランスの上に、このサンタクロースが造形されている。クリスマスワールドという、プレゼントを無尽蔵に取り出せるかに思える次元の夢のような存在感、そして桜金造氏の人情味溢れる雰囲気が、「夢」を失わせることなくサンタクロースという存在を成立させているのだろう。また、出自こそSF的だが、空飛ぶトナカイ付ソリや扮装などはサンタクロース以外の何者でもない。数ある特撮TVドラマにおけるサンタクロースの中でも、抜群のキャラクター造形だと言っても過言ではなかろう。

 サンタクロースの持つ「異次元プレゼント袋」もいい。非常に沢山のプレゼントを配る必要のあるサンタクロースの袋は、一体どうなっているのだろうというささやかな疑問に対する返答が、ここにある。「ドラえもん」の四次元ポケットのように、袋の中に広い空間が広がっているという設定でもいいが、クリスマスワールドに繋がっているというのが、実に夢ありげでいいではないか。後に連の考案した戦術に利用されることになるが、SF的バックボーンがある為に、夢を壊さない。勿論サンタクロースの袋を戦闘に、それも奇襲作戦に使うとはどういうことかという意見もあるかも知れないが、クリスマスワールドの代表としてのサンタクロースと、ヒューマンワールドとマシンワールドの代表としてのゴーオンジャーが、共通の敵であるガイアークに立ち向かうべく利害一致の元に行動したという解釈は自然に成り立つだろう。このサンタクロース、何と次回にも引き続き登場する。クリスマス編が2話連続なのは、異例中の異例だ。

 そして、掃治大臣キレイズキーである。「大臣」なる名が付くからには、新たな悪のレギュラー幹部だと考えるのが自然だろう。しかし、「ゴーオンジャー」ではガイアークの重要人物が現れてはすぐに消えるというパターンも確立している。ヒラメキメデスは例外として、ニゴール王子やホロンデルタールといった、そのまま居座れば十分にレギュラー幹部級になれるキャラクターが、いわゆる蛮機獣扱い。今回のキレイズキーももしや、と思わせる。しかし...。

 黒地に赤と銀のアクセントがカッコいいデザインを始め、そのクールな口調と突如「ルルルのル」等と言ってのけるギャグが見せるギャップや、スナイパーとしての実力がありつつも一様に全員を生かしているという妙な詰めの甘さ、オソウジ七つ道具という異様な生活感を漂わせつつも強力な武器という楽しさ。これら全部がヒラメキメデスに匹敵する魅力を発揮している。また、ケガレシア、キタネイダスと早くもグラスで乾杯している様子が描かれている。これらがキレイズキーのレギュラー化を保証するわけではないが、かなりレギュラー化の確率は高いような気にさせてくれる。 

 一方、後半戦では、数々の激闘を勝ち抜いて戦力と戦略のレベルを上げてきたゴーオンジャーが本来の実力を発揮し、オソウジ七つ道具を次々と破壊されて追い詰められていくキレイズキーが描かれる。最終的には謎の箱に入って無傷のまま生き延び、余裕で笑うという場面に辿り着くのたが、追い詰められっぷりが蛮機獣並であり、その実力が疑われる程の狼狽振りを見せる。年末商戦対策っぽさ炸裂の必殺技オンパレードの前で、平気な顔をしているわけにもいかないという事情もあろう。だが、そんなキレイズキーの姿には「1エピソード限りのやられ役」の影がちらつく。

 というわけで、キレイズキーがレギュラー化するかどうかという判断は、現時点ではかなり難しいということになる。ただし、次回で生き延びればヒラメキメデス並のレギュラー化はほぼ確実だと言って良いだろう。

 最後に、事実上今回の主役である走輔について触れておきたい。

 まず、幼少時の走輔に関する描写が、今回初めて登場する。興味深いのは、子供の頃の走輔は学校の成績が悪く、皆に馬鹿にされているということである。確かにいつも直情的で直観的にしか動かない走輔に、失礼ながら成績の良い子供時代は合致しない。しかし、そこをお茶を濁すことなく明言しているのは、かなりの英断だと評価できよう。何しろ、彼はレッドなのだから。ただし、今回はサンタクロースのプレゼントに関連させて、子供の頃からレーサーになるという夢を抱いていたという描写がある為、このプレゼントの一件以来、ずっと強い意志でレーサーになる夢を持ち続けていたという、プラス面の方がより強調されていることに留意する必要がある。これが走輔の強い意志の力を示す上での大きな要素となっていることに、異論はないだろう。ちなみに、古原氏の顔にあるほくろを、子役の照井氏の顔にもつけるという面白い趣向も見られる。

 それから、単純で直感に優れた走輔が、サンタクロースをスピードルが「本物だ」と言うまで疑っていたのも面白い点だ。普通ならばすぐに信じてしまいそうな走輔がなかなか信じなかったのは、彼が「大人」であるという暗喩であろう。その代わり、子供の頃にそのサンタクロースから受け取ったプレゼントが、現在の自分にまで影響している(というより、プレゼントが現在の自分の礎になっていると言った方が適当か)ことを知るや、俄然マッハで突き進み始める。大人が子供に「なる」ことを歓迎しているわけではなく、ふと忘れかけていたものを思い出すことが必要なのだということを巧く示しているくだりだ。それは、皆がキレイズキーに圧倒されたことで陥っていた茫然自失の状態から、走輔の熱い呼びかけとプレゼントの「再贈呈」によって、再び充分なヤル気を取り戻すというシーンにしっかりとつながる。

 それはある種、クリスマスの裏表、即ち商売と夢の二面性をどう止揚するかという命題に対する答えの一つを示しているようにも思えてくる。商売を成立させる為の仕掛けは至る処に散りばめなければならない。しかしそれをプレゼントという「ファンタジー」に重ねる一方で、クリスマスで与えられた夢を大事に持ち続け、「大人」になった時にふと思い出せば、きっと何らかの強さを手に入れられる...そんなメッセージを、子供だけでなく、大人にも発信している、そんな気がするのだ。