GP-42「学園ノヒミツ」

 街にビンバンキが出現。分別していたゴミを混ぜるというセコい作戦を展開している。反応を追って現れたゴーオンジャーに、ビンバンキは攻撃を繰り出すも全く効果がなく、早々に退散してしまった。

 ビンバンキが消えた地域には、私立轟ヶ丘高校があった。大翔と美羽はその高校にケガレシアの化けた汚石冷奈が入っていくのを目撃する。大翔と美羽は直ちに追いかけようとするが、高校の生徒ではないとして立哨の先生に門前払いを食らってしまった。

 ボンパーがその高校を調査してみたところ、ケガレシアが入って行ったにも関わらず、まるでガイアーク反応を感知できないという。バリアのようなものが張られているようだが、それはガイアークの力とは違う雰囲気だと、ボンパーは感じていた。さらなる調査で轟ヶ丘高校の女子生徒に1名欠員が出ていることが分かり、ゴーオンジャーは潜入捜査を画策。すぐに美羽が女子高生に変装しての潜入捜査に立候補。まんまと転校生として潜入に成功した。そのクラスには「ニュートン」と呼ばれる偏屈な男子生徒・湯島学がいた。

 美羽はジェットラスと共に、職員室を始め、あらゆる場所を捜索する。部活の顧問の中にケガレシアがいるのではないかと推測し、休み時間に部活巡りをしはじめる美羽だが、その先々でチアリーディング部にスカウトされたり、「とど高映研」の女優としてキスシーンに出演させられそうになったりと大変な目に遭う。

 ケガレシアは保健の先生としてビンバンキと共に保健室に居た。ある準備が整うまで、ビンバンキに大人しくしているよう命じるケガレシア。その保健室に湯島が現れる。ケガレシアは湯島の研究の結果を待っており、その研究はもうすぐ完成するという。ヘルガイユ宮殿にて一人寂しく地味にトランプに興じるキタネイダスは、人間の高校生頼みの地味な作戦に少々の不安を覚えていた。

 「とど高映研」から逃走してきた美羽は、湯島にぶつかる。湯島は優しく心配してくれた美羽の、キラキラした眩しさに目を見張るが、「たまには非論理的行為も面白い」とクールを装う。湯島は美羽に一目惚れし、美羽を使って自分の仮説を証明しようと呟くのだった。

 その後、美羽はジェットラスに「今日はノリ過ぎだ」と窘められる。美羽は勉学に関してはずっと家庭教師に教わって来ており、ごく一般の学校生活のことをよく知らず、たくさんの友達と一緒の学校生活にずっと憧れてきた為、戸惑いと共に少々興奮を覚えていたのだ。少し落ち着こうとしたのも束の間、そこに飛んできたサッカーボールを華麗に蹴り返してしまい、今度はサッカー部、テニス部、水泳部、空手部等のスカウト攻めに遭う羽目となる。変身して逃げるわけにもいかない美羽は、大翔のくれた「秘密兵器」のことを思い出し、取り出してみたところ、それはただのヨーヨーだった。美羽は困惑しつつ足早に退散した。

 逃げ出して来た美羽の前に湯島が現れる。湯島は呪文を唱えて魔法の杖を美羽に向けると、キューピッドの矢を放った。キューピッドの矢は美羽の胸を射抜く。しかしそれは例のヨーヨーに阻まれていた。湯島は動揺して魔法の杖を落とし、逃げて行った。ジェットラスはその魔法の杖をマジックワールドで見たことがあるという。

 湯島は魔法の発動を報告しに保健室を訪れ、外出したがるビンバンキを制止しているケガレシアを目撃。ケガレシアは仕方なしに正体を現した。湯島が美羽に惚れていることを知ったケガレシアは、美羽をモノにしてやる代わりに魔法の力を貸すよう取引を持ちかける。

 ボンパーによる轟ヶ丘高校の分析が終わった。それによると、学校は魔法の力に包まれており、それが一種の結界となってガイアーク反応を消していたのだという。ジャン・ボエールはひと月ほど前にマジックワールドからの飛来物、つまり魔法の杖の存在を感知していた。魔法の杖を使うにはマジックワールドの難解な呪文を解読する必要があり、ケガレシアはそれを狙っていたのだ。ケガレシアは美羽の隙を突いてまんまと魔法の杖を手に入れる。美羽はビンバンキとケガレシアの襲撃を受けて卒倒してしまった。

 その間、湯島は黒いシートに魔方陣を描き、その中心にビンバンキを立たせると、魔法の杖を手に呪文を唱える。魔法は見事発動し、ビンバンキはマホービンバンキにパワーアップした。マホービンバンキは魔法の力を用いてゴーオンジャーを同士討ちさせ始めた。

 湯島に拘束された美羽が目を覚ますと、湯島は魔法の杖の入手と呪文の解読に関して自慢げに話し始めた。湯島は魔法で自分のガールフレンドにしてやるとうそぶき、再びキューピッドの魔法を美羽に放つ。が、美羽は落ちなかった。「もっとハートをぶつけなきゃ」と湯島を諭す美羽。

 危機に陥るゴーオンジャーの元に、大翔からもらったヨーヨーを構えて現れた美羽は、「何不自由なく暮らした私が、何の因果か炎神の相棒。ゴーオンシルバー・須塔美羽。おまんら、許さんぜよ!」と啖呵を切ってマホービンバンキに立ち向かう。「唯一つ、女の子のハートを動かせるのは、男の子の真心だけよ!」と言う美羽の横に立ったのは、湯島だった。湯島はマホービンバンキの魔法を真心の魔法で跳ね返し、ゴーオンシルバーに変身した美羽と共にマホービンバンキを撃退する。

 しかし、マホービンバンキは魔法の力を奪われつつも巨大化。ゴーオンジャーはエンジンオーG9で立ち向かう。ヘルガイユ宮殿から様子をうかがっていたキタネイダスは、「作戦が甘い」という謎の声を聞く。すると、降り注ぐ謎の赤い光がエンジンオーG9の合体を解除させてしまった。不敵に笑う謎の声。走輔は代わりにキョウレツオーを合体させ、マホービンバンキを倒した。

 スピードルは激痛と共に意識が遠のいたと回想する。マホービンバンキでもケガレシアでもない、別の何者かによる攻撃であった。

 湯島は美羽に「僕も君と一緒に戦えないか」と言うが、解読した呪文を記録したノートパソコンを落としてしまい、データは消えてしまった...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
加藤弘之
脚本
武上純希
解説

 パロディ満載・暴走の美羽編。美羽ファン必見のセーラー服姿がメインで、眼鏡っ子の要素も取り入れるなど、徹底的に美羽を萌えキャラ仕立てにしている節がうかがえる。高校生という意味では、実際には美羽よりも早輝が適任(逢沢氏は現役だ)ということになるのだが、「ゴーオンジャー」ではそこのところは敢えて考えないこととして処理されており、早輝が自動車の運転免許を持っていたり、美羽自身のキャラクターが大人の女性から少女的なものにシフトしてきたりと、ヒロインが同年代であることを強調するようになった。美羽が今回高校生に変装することで、両ヒロインの対等性が完全に保証されたと見る事もできるだろう。

 さて、今回はあらゆるパロディが渦巻いている特異なエピソードとして記憶に残る。いわずもがなの「スケバン刑事」、湯島の元ネタである「ガリレオ」、美羽の転校早々の挨拶は「涼宮ハルヒ」、その他にも韓流ドラマ等々。スーパー戦隊シリーズのメインターゲットである子供よりも、むしろ一緒に見ている親に楽しんでもらおうと画策しているのが分かる。私の癖として、これらのパロディ要素が理解できない状態を仮想してみるというものがあるが、今回もとりあえず一旦はその視点で見てみようと思う。

 結論から言うと、パロディが理解できない状態で見ると結構辛いものがある。美羽のあらゆる魅力は存分に引き出せているが、シーンそれぞれが断片的で、パロディ以外の部分ではシチュエーションで笑うというシーンもあまりない。美羽が初めての学校生活に興奮して我を忘れている状態は理解できるものの、のっけの転校の挨拶からして何となく不自然な感じだし、大翔が何の為にヨーヨーを手渡したのかは一切説明されない(実際何の役にも立っていない)。また、湯島のキャラクターとしても、「ガリレオ」のパロディという要素を考慮して見ない限り、厳しいようだが実は特に面白みがないようにも思う。印象論でいけば、湯島は単に恋愛下手なのを「論理的/非論理的」という態度でごまかしている少年に過ぎない。また、今回は魔法という突拍子もないものがテーマになっている為、彼本来の優秀な頭脳の持ち主という設定も到底生かされているとは言えない雰囲気だ。湯島のキャラクターはパロディであることを勘案して初めて完成するのである。

 パロディ抜きで最も不自然なのは、残念極まりない事にクライマックスのシーンである。美羽が大翔にもらったヨーヨーを構え、「スケバン刑事」のキメ台詞そのものを披露する。何故ヨーヨーなのかは前述のとおり意味不明。「何の因果か炎神の相棒」はまだいいだろう。「おまんら、許さんぜよ!」に至っては、「何故土佐弁!?」と頭をひねること確実。しかも、そのままアクションになだれ込むのかと思いきや、それは単なる「リップサービス」に過ぎず、結局は湯島が現れて魔法を使い、ゴーオンシルバーのアクションすら殆どなく、魔法との連携でとどめを刺すという、ちぐはぐでなんともはやな珍シーンになってしまっている。ここはパロディの要素を理解した上だとしても、とても褒められたものではない。「スケバン刑事」ばりに、ヨーヨーを駆使したセーラー服の美羽によるアクションが見たかったのは、私だけではないはずだ。サッカーボールを本人自ら華麗に蹴り返しているシーンがあるだけに、尚更である。

 ここで逆にパロディを理解した上で見てみよう。

 「普通の人間には興味ありません」のくだり。美羽に言わせることで何だか可愛さが際立ってくるぞ(笑)。眼鏡の似合う不思議ちゃんな雰囲気が、何故か美羽に良く似合っている。大体、あんな丸眼鏡をかけても普通に可愛いのは奇跡的だろう。セーラー服のスカートが長い(「スケバン刑事」を意識?)からか、長身が余計に長身に見え、異様に目立つ存在になっているのも面白い。その後、ケガレシア捜索と称して部活巡りを開始するのだが、チアリーディング部での可愛さは筆舌に尽くしがたく、「とど高映研」のキス未遂シーンでは思わず息をのむ色香を発散。また、芝生で小さい弁当を食べているシーンも萌えポイントで、普段大翔と共に豪華な食事を摂っているような雰囲気のある美羽だけに、意外性と食事量を気にするキュートさが相俟って魅力を発揮している。自ら進言して挑んだという、サッカーボールの蹴り返しは、その美脚こそ長いスカートに隠されてはいるが、なかなか美しい空中キックである。その後、ふっと一息ついてスカートを直して座ろうとする様子がこれまたフェミニンな魅力を放つ。加藤監督の「分かっている」感じがいちいち嬉しいのだ。

 大翔にもらったヨーヨーは、「スケバン刑事」に登場した麻宮サキが使用しているものに酷似。というより、酷似しているからこそパロディが成立している。何故大翔がこんなものをわざわざ美羽に与えたのかは、本当にまるで分からないのだが、大翔がTVドラマの「スケバン刑事」を見た事があるという可能性は大いに考えられる(笑)。わざわざヨーヨーに開閉ギミックが仕込まれ、元ネタの桜の代紋の代わりにゴーオンウイングスのエンブレムがあるなど、妙なこだわりが感じられ、これを大翔が製作したと考えるならば、その製作に勤しむ大翔のニヤけ顔が想像されて実に可笑しいではないか。しかし、ここまでこだわりを見せるのならば、やっぱり麻宮サキ的アクションを見たかったのは正直なところだ。まぁ、それをやってしまうと、もはや「ゴーオンジャー」ではなくなってしまうわけだが。

 エピローグでは、世話焼きな美羽を再確認するくだりが描かれる。ここで注目なのは「ダメンズを見ると放っておけない」という指摘の後、皆が一斉に走輔を意識することだ。ダメンズ=走輔ということはこの際どうでも良く、重要なのは「美羽は走輔が気になっている」ということが、他の面々にとって周知の事実であることだ。いつの間に露呈したのだろうか? 雰囲気こそあれど、少なくとも具体的な描写はなかった為、いささか唐突な面は否めない。

 ところで、今回はガイアーク側にパロディの要素が殆どない。マホービンバンキが「~タイガー」というギャグ(魔法瓶の代表メーカーがタイガーであることから)を発することくらいだ。しかし、ケガレシアを中心に見所は多数ある。

 いきなりビンバンキが登場するものの、分別されたゴミを混ぜるというおかしな行動が凄すぎる冒頭に始まり、熱湯がすぐに冷めてぬるま湯になるというギャグも秀逸。巧いことに、ぬるま湯に関してはパワーアップ後に解消されるという複合的なギャグになっているのだ。ビンバンキに関しては高木渉氏の情けない感じの演技も秀逸で、マホービンバンキへのパワーアップ後に披露されるテンション高めの演技とのコントラストが抜群だ。そのマホービンバンキは蛮機獣としては異色中の異色である「魔法攻撃」を披露。ビンバンキとの相違の大部分が「布製」という見た目の異色さも印象に残る。

 ケガレシアは久々に汚石冷奈のクレジットと共に登場。何の違和感もなく保健の先生として轟ヶ丘高校に潜入しており、しかも一部教師からかなりの人気を獲得しているというのが可笑しい。保健室に堂々とビンバンキを匿っていたり、湯島に頼りきっていたりと、その行動のズレっぷりが微笑ましく、湯島にビンバンキを見られたからといってすぐに正体を現すところでその傾向にトドメを刺す。そのズレっぷりを一応心配しているキタネイダスの「一人トランプ」も空しさ爆発で、その寂寥感は新幹部登場への布石だったのだろう。

 最後に、湯島の使う魔法について触れておきたい。湯島の使う魔法は実にオーソドックスなもので、恋の魔法や物理的効果を発揮する魔法もある。中でも白眉はマホービンバンキを誕生せしめた魔法であろう。魔法陣は本格的な雰囲気が十分出ており、その魔法陣を湯島が描く過程ではあらゆる物理学の方程式等が登場。「ガリレオ」の雰囲気を巧く取り込んでパロディ化している。このシーンは実に美しく仕上げられており、完成度がすこぶる高い。

 呪文の数々は基本的に日本語の文章を逆さから読んだもの。ただし、変則的に最後の2文字を入れ替えたりしてある。物凄く難解な呪文を解読したにしては、随分と簡単な呪文ではあるが、基本的にパロディという大命題がある為、ここに凝っても逆に珍妙になってしまうということだろう。

 今回には該当しないが、この「逆読み」を安易に使うと、雰囲気をぶち壊すという失態を演じかねない危険性もある。私が超リスペクトする曽我町子御大ご本人に直接お話を伺った折には、「恐竜戦隊ジュウレンジャー」にて曽我御大演ずる魔女バンドーラの唱える呪文に、当初この「逆読み」が予定されていたというエピソードを聞く事ができた。曽我御大はその呪文が世界観や雰囲気、シーンの重厚さ全てをスポイルする危険性を悟り、制作側に直訴してアラビア語風の呪文 (曽我御大は中近東を頻繁に旅している)に差し替えた。その結果、そのシーンの重厚さが存分に表現され、シリーズを大いに盛り上げたのである。

 湯島の呪文を聞きながら、ふと、このエピソードを思い出した。思えば、曽我御大がマジックワールドへ還られてから、もう1年半が過ぎ去ろうとしている。