GP-41「育児ノススメ」

 トリプターは何かの卵を温めていた。トリプターの飛行訓練中に、突如ぶつかって来た卵。卵が孵らない内から、トリプターは弟分が出来たと興奮気味だ。大翔は資料を調査して卵の素性を知ろうとするが、どこにも情報がなかった。やがて、卵は孵り、中から高周波の鳴き声を発する生物が誕生。その生物は「ヒロト」と発した。そこに美羽が帰宅すると、大翔は慌てて逃げるように外出する。

 食糧の買い出し中、走輔と連はウガッツ達が川をさらっているところを目撃する。ケガレシアとキタネイダスに命じられ、何かを探しているのだ。

 どこか人目の付かない場所に生物を隠そうする大翔だが、その生物は高周波の鳴き声を発し始める。たまらず大翔は生物をあやして泣きやませようとした。泣き止んだ生物は、どうやら生まれて初めて目にした大翔を親だと認識しているらしい。大翔はあらゆる食べ物を与えてみるが、なかなか気に入った物がない。そこに走輔と連がやって来る。走輔が抱えていたネギに食いつく生物。生物は野菜が大好物なのだ。大翔は詳細が判明するまでギンジロー号で面倒を見ることにした。トリプターは生物を笑顔で可愛がる大翔を見て機嫌を悪くする。そこに突如ジャン・ボエールが登場した。ジャン・ボエールが調査したところによると、生物はストーミーワールドの住人で、名前はワメイクル。成長した暁には非常に危険な力を発揮すると言うが、その「危険な力」が何なのかはまだよく分からないという。

 連と走輔は、ウガッツ達が探していたのはワメイクルではないかと推測する。その推測通り、ワメイクルの卵はキタネイダスが呼び寄せたものだった。ケガレシアは大翔がワメイクルを確保しているのを知り、至急取り戻すようウガッツ達に指示した。ワメイクルの危険性を訴える走輔達の大声を振り切るように逃げ出すワメイクル。大翔は逃げだしたワメイクルを一人追う。ウガッツを蹴散らし、ワメイクルを助けようとする大翔だったが、メットオンするとワメイクルが大翔の顔を認識できなくなり、大翔は困惑。その隙にワメイクルはウガッツ達に連れ去られてしまった。

 大翔は何とかワメイクルを助ける手段を考えようとするが、妙案がない。そこにガイアーク襲来を告げるボンパーの報が。駆け付けた大翔達の前で、ウガッツ達はワメイクルを成長させ、凶暴化した。パワーを増した鳴き声で攻撃するワメイクルだったが、大翔はその鳴き声の中に潜む何かに気付く。大翔は美羽、連、早輝にある作戦を指示した。

 ところが、ガイアークの企図したワメイクルの真価はこれからであった。次元の裂け目から、ストーミーワールド由来の竜巻の群れが次々と飛来したのだ。竜巻は街を次々と破壊していく。

 大翔はキョウレツオーとガンバルオーで次元の裂け目を閉じるよう指示し、変身せず一人でウガッツ達をなぎ倒していく。キョウレツオーとガンバルオーが次元の裂け目をふさいでいる間、美羽、連、早輝は急ピッチで大翔発案の作業を継続している。ウガッツ達を全て倒し、ワメイクルに迫る大翔は懸命に説得を試みるが、ワメイクルは正気を取り戻さなかった。大翔は涙を飲んで変身し、ワメイクルに突進していく。しかし、大翔にはワメイクルを攻撃できない。そこに美羽達が駆け付けた。「ご注文の品」を受け取った大翔は、その銃口をワメイクルの口に突っ込んだ!

 大翔が発射したのはワメイクルの大好物である野菜ジュースだった。大翔の手にした「銃」は哺乳瓶だったのだ。さらに、腹を満たしたものの今にも鳴きそうなワメイクルに、大翔はヘン顔を見せる。驚愕する一同だったが、ワメイクルは正気に戻った。大翔は嬉しそうにワメイクルを抱擁する。一方、キョウレツオーとガンバルオーは何とか次元の裂け目を塞ぐことが出来た。

 残念ながらヒューマンワールドはワメイクルにとって生きられない世界だ。大翔とワメイクルは互いに精一杯の「笑顔」を見せて別れた。涙を堪える大翔の姿は、さながら我が子の旅立ちを見送る「おとん」のようだった。遂にゴーオンジャーにおかんとおとんが揃ったのだ!?

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 バルカ!

監督・脚本
監督
加藤弘之
脚本
宮下隼一
解説

 大翔メインの番外編的雰囲気を湛えたエピソード。新たな次元であるストーミーワールドを登場させることで、バラエティ感覚を強くしている。

 今回クローズアップされるのは、大翔の父性愛的一面。というより、それをある意味わざとらしいまでのレベルで描くことによって、大翔をコメディの主人公に仕立て上げる手法を用いている。つまり、ギャップを用いたコメディの構築だ。ただし、大翔のそれは徹底されているわけではなく、大翔自体が既にコミカルな面を何度か披露しており、完全なるギャップコメディには至らない。

 しかしながら、大翔ファンにとっては嬉しいシーンがてんこ盛りの豪華な一本であることは間違いなく、勿論大翔贔屓でないファンにとっても充分楽しめる。叙情性あり、激しいアクションあり、コミカルなやり取りありで飽きさせない。

 ストーミーワールドという別次元を用いて、ワメイクルを珍妙なキャラクターから飛躍させることにも成功。幼生を表現したプロップは操演も非常に良好で、サイケデリックなカラーリングのワメイクルを生物として強く印象付けている。成体を表現するスーツは2種を用意。1つは凶暴な顔つきが怪物然とした、いかにも敵役らしい風貌で、もう1つはそれに幼体の雰囲気をミックスしたものである。声に坂本千夏氏を迎えることで、凶暴な成体ですらも可愛げを持たせているのも凄い。このキャスティングは正にベストであろう。

 さて、大翔に触れる前に、周囲のキャラクターについて言及しておこう。

 まずは走輔達5人。初めに走輔と連による珍しい食料買出しシーンが登場する。ここはなかなか洒落が効いていて、大翔が「おとん」と称されることの対比として、連の「おかん」振りを描写しているのだ。それは野菜料理中心の献立を考慮することで、ゴーオンジャーの健康管理を担うという流れなのだが、肉を欲しがる走輔が対照的に描写され、その可笑しさを増している。しかも、その途中でウガッツ達を目撃、さらに、その「野菜」がワメイクルの生態にも関わるというストーリー上の重要な役割も担っているのだ。このオープニングはなかなか見事だと言えよう。ただし、ウガッツ達を目撃したにも関わらず、それを放っておくという走輔と連の不徹底はいささか気にかかる。

 走輔はその後、大翔の言動に対して大袈裟に驚いたりといったコミカルな演技を見せる。既に走輔のコミカルな面は完成の域に達しており、スーパー戦隊シリーズ史上でもかなり突出してコミカルなレッドということになろう。しかし、キョウレツオーを操っての活躍も重要かつヒロイックであると付記しておかねばなるまい。連は大翔の行動をやや控えめに見守っているが、クライマックスでは大翔の所望する「哺乳瓶」を急遽作成して見せるという重要な役割を担当。新ガジェット登場の折に、必ずと言っていいほど連が関わっていることからも、発明家としての連は強く印象付けられたものだが、ここに美羽と早輝のサポートを加えることで、ややリアル度を上げた形で提示している。奇跡的な発明スピードを誇る天才肌という設定もいいが、連のような努力家としてのイメージには、今回のような措置がベストだろう。

 早輝はあまりストーリーに関わって来ないが、前述のように連のサポートを担当。だが、早輝の最も重要な役割は、ワメイクルを見て「可愛い」ということにあったと見る。ワメイクルはストーリー上、ある種の「怪物」でなければならない。プロップ操演による可愛らしさの演出や、坂本千夏氏の演技により、ある程度の可愛らしさは達成できているが、その上で早輝が「可愛い」と言ってみせることで、それは決定的となり、大翔がワメイクルを可愛がる意味に説得力がもたらされたのだ。

 範人と軍平は、ガンバルオーでの活躍以外あまり見せ場がない。とは言え、ギンジロー号に閉じこもってワメイクルを可愛がる大翔の様子を覗こうとするコミカルな演技も印象に残る。その意味では、今回の走輔と同列であり、巨大戦を担った面でも同じ扱いだ。

 大翔の妹である美羽は、ワメイクルの鳴き声によってメチャクチャになってしまった部屋をやっとのことで片付け、憤慨しているという形で登場。その前に食事の買い出しに行った様子が描かれ、走輔と連の買い出しシーンとうまく対比させているところが巧い。憤慨して登場した美羽は怪獣のような迫力で描かれ、非常に可笑しい。先のエピソードでは大翔がいないと悲観的になるという美羽像が描かれたが、今回は怖い妹という印象を持たされている。かといってキャラクターがブレているわけでもなく、美羽の存在がより魅力的に映るのだから不思議なものだ。またこれは本編と関係ないが、ゴーオンゼミナールでは大翔に「お姫様だっこ」されて笑顔を見せる美羽と、下ろされた後に大翔をパンチでノックアウトする様子が映っており(ここでの大翔の大袈裟なノックアウトがたまらなく可笑しい)、前述した美羽の(いい意味での)二面性が繰り返し描写されている。

 意外な魅力を発揮していたキャラクターがもう一人。それはトリプターだ。いきなり卵を温める鶏を地で行く展開に唖然とさせられつつ、それがまた可愛らしい。トリプターはいわゆる「雄鶏」であるが、女性である石川静氏が声を担当している為に少年っぽさが強調されており(大翔を「アニキ」と呼ぶことで更に強調)、「可愛らしい」という言葉は違和感なく当てはまる。また、ワメイクルに少しばかり嫉妬するというシーンもあり、それがまた可愛らしさを増幅している。実はメインキャラクターであるワメイクルより可愛いのが、このトリプターなのだ。このトリプターの嫉妬という要素が、ちゃんとワメイクルと大翔の別れのシーンに繋がっていくところも巧い。大翔はトリプターというパートナーを「友」や「仲間」といった意味合いで説明し、ワメイクルにストーミーワールドにおける仲間の存在を理解させて送り出す。嫉妬を覚えつつも一歩引いて大翔を見守っていたトリプターと、そんなトリプターのことをちゃんと分かっていた大翔という構図が爽やかだ。

 いよいよメインの大翔であるが、「ゴーオンジャー」の顔出し役者陣の中で最もキャリアが長い徳山氏だけに、安定した演技とトリッキーな魅せ方を織り交ぜた心情描写が光る。

 順を追っていくと、まずはクールにワメイクルの卵を分析。この時点ではトリプターが弟分を欲しているという状況をかなり冷静に見ていた節がある。続いて、ワメイクルの卵が孵って高周波の鳴き声の対処に困る様子が描かれる。ここでもまだ、慌てつつも非常事態を何とかしようと冷静な視点を持っている印象がある。そして、ラストシーンからは想像もつかないことだが、ワメイクルを置き去りにしようとするシーンが登場。ただし、これはとりあえず人目の付かない場所に置いて何かをしようとしていた可能性もある。しかしながら、この頃は大翔がワメイクルを厄介者と見做しているのはほぼ間違いないだろう。

 ここまでは、まあ普段通りの大翔だが、ここからが本領発揮というか、大翔の隠された「おとん」の面が次々と現出する。泣き止まないワメイクルに対して、大翔は顔で笑わせようとする。このシーンは何故か顔を映さずに背中からのショットとなっているが、実はこれがクライマックスにおけるサプライズ(?)への伏線となっている。その後、ワメイクルが腹を空かしているという状態を鳴き声(泣き声)から見抜き、食べ物をイソイソと買いこんでくるマメな大翔が見られる。一応、ちょっと視点を変えれば、この一連のシーンは単に鳴き声を抑制する為の行動と見ることもできる。だがここは、鳴き声から腹を空かしていることを察したことが重要であり、これもクライマックスにしっかりと継承される要素。この辺りでワメイクルのことをかなり理解しはじめており、情が移って来たようだ。

 野菜がワメイクルの好物だと判明してからは、演出自体にもドライヴがかかってくる。ワメイクルにしきりに話しかけ、常に笑顔の大翔。この「常時笑顔」モードの大翔は、美羽とのシーンですらあまり見せなかったものだ。それだけに、メットオン後の無機質なゴーオンゴールドが対照的に見えてくる。そしてその効果は、メットオンとメットオフを慌ただしく繰り返して戦う個性的な大翔のアクションシーンに繋がってくるのだ。メットのオン/オフによって、ワメイクルの反応がコロコロと変わる様子がコミカルで、カット割も抜群に巧い。周知の通り、メットオンとメットオフは実際に着脱しているわけではない為、必然的に細かいカット繋ぎが必要となる。なお、大翔のアクションシーンは2回ほど披露されるが、ブレイクダンスを特技の一つとする徳山氏の身体能力を生かした素顔のアクションが盛り込まれ、存在感を遺憾なく発揮していた。ウガッツ相手だけにカット数も多く、充実の度合いは高い。ちなみに、ワメイクルの、ストーミーワールドから竜巻を呼び込むという危険な性質が判明してからは、倒したくても倒せないというお決まりのパターンが登場。ただし、これは少々わざとらしい感が否めない。何故ならば、既に大翔は打開策を連、早輝、美羽に指示しており、倒すべきか倒さざるべきかと悩む必然性はないからだ。視聴者をハラハラさせるという意図は分かるのだが、パターンに固執したような印象はちょっとマイナスだ。

 連特製の哺乳瓶&野菜ジュースでワメイクルを大人しくした後は、先のシーンで隠されていた大翔の「ヘン顔」が披露され、「ゴーオンジャー」において最もギャップによる笑いが生じるシーンとなる。ラストの別れのシーンでは、大翔が涙を堪えるという、およそこれまでからは考えられなかったカットも登場。実に今回は、大翔のあらゆる表情を追うドキュメントだったと言っても過言ではない。そして、大翔という崩し甲斐のあるキャラクターをいじり倒すことにより、逆に大翔というキャラクターの感情の豊かさといった要素をクローズアップして見せた、バラエティ編の一つの完成形でもある。